【完結】ナギサシティ。絆のお話。   作:rairaibou(風)

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第十三話

 競技場の中央からそれぞれの立ち位置に向かう二人をロバートとチマリは二階観客席から眺めていた。

 ジム戦のときは記者やトレーナーで一杯になることもある二階席だが今は数えるほどの人数しか居ない。

 その中からポケモン協会員らしき人間とジムトレーナーの数を引けば純粋な意味での観客はロバート一人となる。この試合が決定したのがつい先ほどなのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

 勿体無いとロバートは呟いた、ジムトレーナーを目指すものに限らず、トレーナーであるならば垂涎もののマッチメイクだ。

 横に居るチマリは座席から身を乗り出しまさに食い入るように競技場を見つめていた。もし前の座席に人が居たらトラブルになっていただろう。

 

「どちらが勝つと思うかね?」

 

 何気ない問いかけのつもりだったが、そう言った後にロバートは後悔した。この少女にその質問を投げかけるのはふさわしくないと知っていた。

 

「デンジさんに決まってます」

 

 予想通りの答え。

 会話はそれ以上続かない、競技場に居る審判員が二階席にも聞こえる大声でルールを説明していた。

 試合は三対三、道具を持たせる、使用することは禁止されている、ポケモンの入れ替えは不可の勝ち抜き戦で使用ポケモンの公開義務も無い。

 

「デンジ君が真っ先にセットしたボール、私にはマスターボールのように見えたが、どうかね?」

「間違いない、と思います、だけどデンジさんがマスターボールを持ってるなんて始めて知りました」

 

 ふうん、と興味ありげにロバートが漏らす。

 

「ジムトレーナーの君も知らなかったのか」

「たぶん私だけじゃない、この町の誰でもいい、そのことを知ればその噂はあっという間に広がります、あなたにもあのボールの価値はわかるでしょう」

 

 競技場の二人はベルトからボールを利き手で掴み前へと差し出す、それぞれの先頭のポケモンだ、上級者同士の対戦だと先頭ポケモンの選択で勝負の流れが決まってしまうことも多い。

 デンジが持っているボールはマスターボールではなかった。

 審判員の開始の合図と共にお互いがボールを投げる。

 ボールの中から飛び出してきたお互いのポケモンは素早く自分たちが好む間合いを取る。

 デンジ側のポケモンはレントラー、バランスの取れた電気タイプで相手の出方を見るにはうってつけのポケモンである。仮に相手の先手のポケモンが苦手とする地面タイプだったとしても氷のキバなどで弱点をつくことができる。

 対するキリトのポケモンに、ロバートは思わず疑問の声を漏らしてしまった。

 

「イーブイ?」

 

 キリトが繰り出したポケモンは愛くるしい容姿で戦いとは別の方向で人気の小型ポケモン、イーブイだった。

 サンダースやグレイシアなどの進化先には優秀なポケモンが多いがイーブイ単体にはそれほどの力は無い。

 

「そういうことか」

 

 一人で納得したようにチマリが声を上げる。

 

「どういうことかね?」

「三ヶ月もの間、キリトがナギサに居た理由、それはイーブイをこの環境に適応させるため」

「適応?」

「特性、適応力。イーブイというポケモンは確かにそれほど強くないけど、環境に適応することでそれなりの力を付けることが出来る、キリトはこの舞台でイーブイの最高の状態を作り出すために、三ヶ月もの間ナギサの空気に、水に、適応させたんだと思います」

 

 チマリの説明にロバートは一瞬だけ沈黙したが、直ぐに納得行かないような顔で質問を投げかけた。

 

「それでも、イーブイを使う理由にはならないと思うが、ノーマルタイプで優秀なポケモンは他にも居る」

 

 競技場ではレントラーの噛み付き攻撃からイーブイが電光石火で必死に逃げ回っていた。

 

「分からない事もないけれどね」

 

 

 

 

 

 

「噛みつく」

 

 デンジの指示とほぼ同時にレントラーがイーブイとの間合いをつめる。

 

「左、電光石火」

 

 迫り来るレントラーを間一髪でかわす。そして再び間合いを作るといったんレントラーの噛み付き攻撃がやむ。

 イーブイは小型のポケモンだが、特別にスピードがあるわけではない、俺の指示があってもかわすのがやっと、近距離戦に利があるレントラーに迎撃することはリスクがありすぎる。

 レントラーというポケモンは扱いが難しい、最終進化系ゆえの扱い辛さもあるがそれよりも近距離攻撃力以外の能力値の半端さが大きい、特に素早さに関してはトレーナーの技量が大きく関係してくるだろう。

 デンジは先ほどから噛み砕く以外の攻撃の指示をしていない、このイーブイの戦いの型がまだ判っていないため様子見に回っているのだろう、特性である適応力を考慮し隙を見せないようにしている。先行イーブイが俺なりの立派な戦術であることは当然としてだ。

 長引かされると困るのはこっちだ、このイーブイの『異常なまでの手数の少なさ』に気づかれると戦術そのものを見透かされてしまう。

 ここは一気に行こう。

 

「正面、電光石火」

 

 こちらから動くのはこれが始めて、電光石火ならばイーブイの素早さをカバーすることが出来る。

 だがデンジは特に慌てる様子無く、逆に攻撃を待っていたかのように指示を出した。

 

「カウンター、体当たり」

 

 一気に間合いをつめたイーブイに対してレントラーは迎撃の姿勢。

 静寂からの電光石火、並みのトレーナーとポケモンならせいぜい出来てもかわす程度、迎撃にまでもっていくあたり流石はデンジとその主力言った所だろうか。

 お互いの体が正面からぶつかり合う、適応力でイーブイの攻撃力は上がっているはずだが跳ね飛ばされたのはイーブイのほうだ、地面をこする音が聞こえ、レントラーとの間に距離が出来る。隙も少ないが同時に威力も少ない体当たりのおかげで大きなダメージは無い、だが地面に叩きつけられ体勢が良くない。

 デンジは素早くそして的確にそこを突いてくる。

 

「噛み付く」

 

 レントラーが脚力でイーブイとの距離を一気につめる、イーブイが体勢を立て直した時、レントラーがすぐそこにまで迫っていた。

 

「イーブイ!」

 

 表情を変えないように出来る限り勤める、だがついつい口元が緩んでしまう。

 ここまでは怖いくらい思い通り。

 十分にひきつける、そしてレントラーがイーブイのスペースに踏み込んだ。

 

「迎撃だ」

 

 イーブイがレントラーに対し体当たりで迎撃する。

 ここでデンジが表情を変える、だがそれは焦りではない、何かを確信したような、自信に満ち溢れる顔。

 

「中止だ! かわせ!」

 

 この試合で初めてデンジが声を荒げた。

 レントラーは前足で急ブレーキをかけ、身を翻そうとする。

 

「とっておき」

 

 もう遅い、今からレントラーがどのような行動をとろうともうすでにイーブイのスペースに入っている。

 イーブイの小さな体がレントラーにぶつかる、次の瞬間、レントラーの体が競技場の端から中央にまで吹き飛んだ。

 とっておき、そのポケモンが覚えている全ての技を使った後にのみ繰り出すことが出来る高威力の超大技。

 すぐにイーブイは攻撃の姿勢をとり俺の指示を待つ、だがレントラーは倒れたまま起き上がらない。

 審判員が戦闘不能と判断し、赤い旗を揚げた。




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