戻ってきたスバルがクリプターになる話。 作:アステカのキャスター
地獄界曼荼羅が出て平安がピックアップされました。
………おおおおおおいっ!?この作品どうしよう!!と必死に悩んでいるアステカさんです。
とりあえず、番外編書きました。
良かったら感想評価お願いします。では行こう。
「──初めまして! 俺の名前はナツキ・スバル! 無知蒙昧な上に図太さ超一流の不束者ですが、どうぞよろしく!」
最初見た彼の感想はふざけた人間だと思った。
服装はジャージで目つきが悪く、おちゃらけたような性格でとてもAチームに相応しくない。
ハッキリ言うなら目障りだった。
やる気があるわけでもなければ、真面目という訳ではない。完全に自分と対極の人間だった。レイシフト適性率100%というのには多少驚いた。だが、それだけだ。魔術的技能は誰よりも低かった。
正直、マリスビリーの正気を疑うほど人間らしい一般人。
そう、私は当時この男が大嫌いだった。機械的、決められた道にしか進めない自分とは対極でその存在を嫌悪した。
★★★
魔術戦のシュミレートで彼と戦う事になった。
彼の魔術は触れなければ使えないもの、遠距離からガンドを撃ち、躱す余裕をなくしていく。
彼は鞭でガンドを落としていく。
本来なら不可能だが、カドックに少しだけ物質を強化する魔術を教わったようだ。だが、物体の強化や修復はあくまで基礎。そんなものが通用するほど甘くはない。
鞭が弾かれた。
ガンドが無防備な彼を捉えたと思った矢先、
「ミーニャ」
彼の右手は私と同じ銃の形をしていた。
ガンドに対してぶつかったのは紫紺の杭のようなもの。架空元素・虚数と言われていたのは知っていたが、どんな魔術か判別出来ない。
ガンドが相殺されたと同時に彼が動き出した。
接近されて触れられたら負ける。まだガンドを撃つ余裕はある。咄嗟に魔眼を開いた。ここで負けたくないと私は大嫌いなその瞳に彼を移した。
遷延の魔眼
それは見たものの『可能性』を移し、一度見た『可能性』を魔力を消費することでピンで留める。自分が望む可能性に到達する魔眼。
この目が有るから日曜日を嫌った。
自分が押し潰されてしまいそうだから。自分とは全く逆の存在であるナツキ・スバルに負けたくない。負けてしまったら全てが否定される気がした。彼に干渉し、ガンドが当たる可能性にピンを留める。
……はずだった。
「…………はっ?」
可能性が
私の未来視は到達する全ての可能性を移し出す。そこから都合のいい未来へピンを止める。それがこの魔眼の真髄だ。
私がその眼で見えたのは、二秒後に自分が撃つガンドを躱し、自分に触れられてしまう可能性だけだったのだ。
その可能性通り、自分が放ったガンドを躱して自分の肩に触れられる。右手に浮かび上がった魔術回路で、既に魔術は構築されていた。
「っ!?しまっ––––」
「––––
ブツン、と視界が真っ暗になった。
この程度の魔術なら数秒で解除出来る。魔眼で失敗した瞬間をピンで留めようとした次の瞬間、自分の額が彼の指で弾かれた。
「チェックメイト」
よろめいて腰が地面につく自分に彼の右手は銃の形をして見下ろされていた。魔眼を使おうにも使えなかった。ナツキ・スバルから見えた可能性はたった一つ。自分が勝つというその一点で彼に敗北した。
「なん…で……未来が見えないの?」
「あー、オフェリアの魔眼はちょっとキリシュタリアから聞いたんだけど、可能性にピンを留めるんだろ?なら他の可能性が無いように未来を自分で決めれば難しくないぞ?」
唖然。
それがどれだけ無茶な事を言っているか理解出来ない。
無数ある可能性を固定するかのように、ただ一つの未来を限定して信じて疑わないその行動はもはや狂気だった。
ただ、ナツキスバルは普通じゃない。
死に戻りが失われた今、自分の未来は一回のみしかない。自分の命を代償に出来ない以上、全てを
故に生きている人間は普通とも言えるが、スバルに関しては命や運命を誰よりも理解している。普通は死ぬ事もやり直す事も出来ない。だが運命のやり直しなら何度も行った。自分が貫き通す未来を突き進むからこそ出来た芸当だ。
「そんな事…出来るはずが……」
「もう一度俺を見てみろよ。俺は次にお前に手を出してる。違うか?」
「……貴方、正気?変なクスリやってるんじゃ……」
「あれぇ!?唐突に罵倒された!?」
確かに手を差し伸べる未来しか見えない。
一つの未来すら見えない彼の意思で変えられる。決められた道を歩かせずに彼は自由に歩く事が出来る。
そんな彼に私は奇しくも嫉妬したのだ。
★★★
眠れない。
負けた事が悔しい。自分より強くないと思っていた人間に負けた。自分が積み上げて来たものが崩れ去って身体が重く感じた。
少し施設を散歩し始めた。
寒いので膝掛けの毛布を羽織りながら、夜のカルデアを探索していく。こんな時間だ。誰かがいるわけでもな……
「……マシュ?」
マシュが居た。
寝巻き姿で白い毛布を羽織り、コソコソと人目を気にしながら警戒しているマシュが居た。声をかけようとしたが、何か秘密があるのか隠蔽の魔術をかけて角に隠れる。
そのままマシュの後ろを追いかけた。
向かった先は、何故か食堂。マシュは薄暗い食堂に入っていく。
「よー、来たなマシュ」
「はい、言われた通り人目に警戒しながら来ました」
「(ナツキ・スバルとマシュ?……なんで人目を警戒して……まさか!?)」
食堂でマシュを毒牙にかけようと考えているのか。
オフェリアは眼帯を外し、魔眼をセットする。いつでもナツキ・スバルの強行に対抗する為に。彼に魔眼が通じなくても咄嗟なら流石に効くと信じて。
「スバルさんが言っていた悪い事と言うのを教えてくれるんですよね?」
「ああ、とびきりの悪い事をな。とりあえずコレ着てくれ」
何か服を渡したのか。
マシュはスタイルがいい分、何を着ても似合うだろう。ナツキスバルが用意した服を着せて毒牙にかけるつもりだと思い切ったオフェリアは食堂の扉を開けてガンドを構えた。
「マシュに何をするつもりよナツキ・スバル!」
「はっ?」
「えっ?」
「………んっ?」
食堂を開けるとそこに居たのは紫色のエプロンをつけて野菜を切ろうとするマシュと、鍋に何かを入れて味を調整しようとしているナツキ・スバルがいた。
★★★
「ははは……!マシュを襲うって考えてたのかよオフェリア!ちょっと想定外すぎて笑いが止まらないんだが……!」
「スバルさん、しー、です。スバルさんが言っていた事ですよね」
「ああ悪い悪い。いやー、オフェリアがマシュを思っているのが分かったからいいよ。俺も悪かったから体育座りで顔を隠すなよオフェリア」
「………死にたい」
どうやら盛大な勘違いだったようだ。
マシュとスバルは食堂で、夜食を作るというだけだった。誰もいないこの時間で食糧を漁る事は本来なら駄目だ。だが、ナツキスバルは敢えて食糧チェックを僅かに改変したらしい。
「そもそもなんでこんな事をしてるの?」
「俺からしちゃ二週間にいっぺんの楽しみだぞ。誰もいない深夜の食堂で食べる飯の背徳感がいいんだよ」
確かに悪い事をしている。
だが、それでも疑問に思ったのは何故マシュまで居るのか。
「マシュを誘ったのは?」
「一種の社会勉強といいつつバレた時の共犯者が欲しかった」
「死ねばいいと思う」
「辛辣ぅ!」
呆れてものも言えない。
何故こんな男にマシュは付いて行ったのか分からない。
「まあ、俺がマシュに社会勉強してるのは本当だ」
「社会勉強?これが?」
「俺は今、マシュに悪いことを教えてる」
「模範どころか反面教師じゃない……」
これの何処が社会勉強なのか理解出来ない。
だが、ナツキ・スバルはそんな事を気にせずに野菜を切り、肉と一緒に炒めている。包丁の扱いも手慣れているのが意外だ。
「オフェリアはさ、悪い事をしてどう思う?」
「はっ?……普通にいけない事だとは思うけど」
「じゃあそのいけない事を無くす為にガッチガチな規則で縛ったら、それは正しい事なのか?」
「……いやそれとこれとは…これ何の質問なの?」
袋麺を開けて鍋に投入する。
隠し味を少しだけ入れて鼻歌混じりで彼は答えた。
「要するにだ。ルールとか規則とかを守るのはいい事だ。けど、そんなんじゃ肩凝るし? マシュの感情は言っちゃ悪いが機械的で、ルールを破るって事を絶対しないからな。こうやって、規則から外れた悪い事を教えてんだ」
「規則を破る事を教えるのは普通にダメだと思うけど」
「だから俺は毎日はやらない。二週間か三週間に一回って決めてる。規則の中に生きていても、
オフェリアはその言葉に少しだけ納得した。
いや、納得してしまえる自分がいる事に驚きを隠せなかった。誰かのレールに縛られていても自分はどう生きていたいか、まるで自分に問答されているようだった。
私は、どう生きていたい?
日曜日に縛られて、魔術師としてしか生きていけない自分はどう生きていきたいのか?
それと同時に納得した。
ナツキ・スバルの未来が見えない事に。彼は可能性を自分で選んで決めてしまう。決めてしまう故に変えられない。そんな強い心を持っているのだ。
わたしと違って、彼は
自分の未来を信じられる。信じて突き進む事を恐れていても全力で抗う。それが彼の本質なのだ。
「ほらよ。オフェリアの分もあるから食べてけよ」
「えっ?いや私は……」
「ちゃんと
「最低ね。……ん?四人分?」
「食品管理の改竄なんて俺が出来るわけねぇじゃん。だから、共犯者を作って頼ったんだ。なっ、ロマニ」
再び食堂の扉が開く。
にへらと笑いながら現れたのはロマニだ。当然ながらスバルはレイシフト適性者、現地に赴く要員な為そういった仕事は一切無い。まあそれは負担をかけない為という事だからだろう。
「はは、まさかオフェリアまで居るから少し戸惑ったけど」
「盗み聞きはダメだぜ。『死なばバジュラと共に』って俺の親友が言ってた」
「ごめん、何言ってるのか分からない」
「すまん。俺にも分からん」
「何で言ったの!?」
思わずガーフィールの厨二が飛び出した。
まあ多分道連れって意味だと思う。ロマニとスバルはサボり仲間。たまにケーキを作って内緒でサボり部屋で食べてたり、ゲームしたり忙し過ぎない時は仲良くしてる。
「ほらよ!ナツキ流、深夜の背徳ラーメン!三週間前につけた味付け卵も持ってけドロボー!」
「うわあ!深夜にやってはいけないシリーズの一番か!いただきます!」
「いただきます、スバルさん」
「い、いただきます」
麺をスープにからめて啜るロマニを見る。
ドイツではラーメンを食べた事がなかったオフェリアにとって、啜るという食べ方が少し苦手だった。
「うん!美味しい!本当はやっちゃいけないけどやる背徳感がまた!」
「美味しいです。スバルさん」
「どーよ、オフェリアも食べな」
「え、ええ」
出された箸を持ってゆっくり食べ始める。
箸を使う事が少ない為、器用に持ちながら食べようとしたその時。
「ほら」
「えっ?」
「箸普段から使わないんだろ?フォーク持ってきた」
「あ、ありがとう」
「オフェリアはもうちょい他人を頼る事を覚えようぜ?魔術はスゲー優秀なのに、まあ俺も人の事はあんま言えないけど」
フォークで麺を絡めて食べ始める。
深夜だと言うのに食べ物を食べる事なんて生きていた人生の中では無かっただろう。ナツキスバルの言葉に私は少し反応した。
「頼る……?」
「魔術師はあんま徒党を組まないって言うけど、カルデアでは別だろ?因みにこのラーメンが食えるのは俺がロマニを頼ったから」
食べながらロマニがピースをしている。
我ながらいい仕事をしたとドヤ顔をしているが、褒められた事ではない。
「そしてこのラーメンを作ったのはこの俺だ。頼ったおかげで得をしたろ?頼る事は悪い事じゃないし、嫌な事があるなら頼って考えるのも一つの手だろ?」
ロマニと肩を組んでスバルもピースする。
ウザったいコンビがさらにウザくなるが、その言葉だけは何故か胸に響いた。
頼る……そんな当たり前な言葉が何故か響いた。
「貴方は、頼るの?」
「もう超頼るね。情けない話、何にも出来なかった事が多かったからな。今も魔術は感覚封印しか出来ない!基礎でいいからおせーてくださいオフェリアさん!」
「宝の持ち腐れにも程があるわよ!」
この男、回路の質や量の多さは異常なくらいよかったのにとんだ宝の持ち腐れだ。ため息を吐きながらフォークで絡めた麺を食べる。本来は良くないが、今日は特別だ。
「でも……ありがとう」
「ん?」
「少しだけ気が楽になったわ」
「どーいたしまして」
ただ、仲間と和気藹々としながら食べる事は何年振りだったか、いつもの食事より美味しく感じた。その次の日にスバルとロマニはオルガマリーにこっぴどく怒られたと言う。
★★★
楽しかった。
仲間と一緒に考えて笑っている事が。
楽しかった。
巻き込まれて、鬱陶しく思いながらも友達としていられる時間が。
全部ナツキスバルのせいだ。
けれど、彼を嫌いにはなれなかった。
彼はまるで星みたいに輝いて周りを照らしてくれているようだったから。気が付けば目つきの悪いカドックや、人間嫌いのヒナコ、他人を気遣ってくれるペペ、軽薄そうなベリル、何を考えているか分からないデイビッド、リーダーのキリシュタリアもスバルをいつしか認めて、競い合って、教え合って、たまに遊んで、Aチームとして人理修復が出来る事を少しだけ誇らしく思ってしまった。
日曜日の呪いを打ち消してしまうように図々しさこの上無いけれども、私は少しだけ彼を羨み、彼に感謝していた。
いつしか灰色だった毎日が鮮明に見える。
今だけは囚われなくていいと、心の何処かで嬉しく思っていた。
それが唐突に終わる事を知らず……
★★★
痛い。痛くて身体が動かない。
自分は死ぬ。魔眼でさえピンが遠すぎて回避が出来ない。身体の上に瓦礫がのしかかり、流れていく血に、死んでいく事が理解出来た。
もっとAチームのみんなと話していたかった。
もっとマシュ達と友達で居たかった。
もっと……ずっと、みんなと、彼と一緒に居たかった。
やっと居場所を見つけたのに、終わってしまう。
瞳が閉じかける。身体から血が流れて、冷たくなっていく。後悔しかない中で自分は何も出来ないまま死んでいく。
何という滑稽な話だ。
生きる事に諦めた私は瞳を閉じようとする。
そうやって最後に瞳に映したのは……
「………クソッ……!死なせる…かよ!」
自分の身体を抱えていた血だらけの彼だった。
瓦礫の重さが消えて、妙な浮遊感と共に抱えられた温もりだけが、伝わっていた。ゆっくり、優しく地面に下ろされたまま、軽く頬を撫でる。
「悪い……治す事も…出来なくて……でも、死なせねぇから……」
ただ、そう言って彼はまた誰かを救っていた。
貴方が悪いんじゃない、そう告げたかったが口は動かない。ただ、もしも私がまだ生きていられたのなら、生きられるのなら、その時はありがとうって伝えたかった。
死に体なのは彼も同じだ。
けれども、彼はみんなを救っていく。
自分にはできない事を平然とやってのける。
Aチームとして支えなければいけないのに、今の自分は身体すら動かせない。
ただ、何も出来ないまま死んでいく自分を呪った。
瞳が閉じて、真っ暗になった自分の瞳からは一筋の涙が流れ落ちていた。
★★★
そこは地獄のように燃え盛っていた。
自分はそんな場所に居ない、自分はその存在を知らない。
だが、
抑え込まなければ全てが燃える。
そういった暴力的なまでの絶望の具現に恐怖した。
瞳を閉じても焼き付くように消えないその存在の声が酷く耳に残った。
––––オレを視たのは、お前か?
違う。違うと口にした所で視えてしまう。
あれは、あの炎は絶対に表に出てはいけない。出てしまえば最期、世界を焼き尽くす劫火として全てを灰燼に帰すだろう。
––––ならば来い。星の終末を、共に、見よう
そんなもの見たくない。
もう喪いたくないと嘆く自分の手を差し伸べてくれた仲間は居ない。いつからこうなってしまったのだろう。仲間だった彼らと生存を賭けて競い合うなんて、どうしてこうなったのだろう。
オフェリア・ファムルソローネはただ泣いた。
一人ぼっちになった。
見つけた自分の居場所は、もうどこにもない。
もう嫌だと叫んでも止められない。
ただ、人類の敵として、仲間の敵として在り続けなければいけない自分をただ呪った。
彼にまだ、何も伝えられない自分を呪った。
原作以上にオフェリアのSAN値が削られてます。
誰のせいだって?そりゃあスバルくんのせいですまる