戻ってきたスバルがクリプターになる話。   作:アステカのキャスター

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 第二話です。
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リスタートの決意

 

 

 その夜、スバルは元の世界に戻っていた。

 みっともなく泣き叫び、あてもなく走り出した。

 

 知っている。

 知っている。知っている。

 知っている。知っている!知っている!!

 

 知っているからこそ絶望する。

 あの異世界の悲劇は終わり、全てをやり直したスバルは全てを見て全てを乗り越えたつもりだった。

 

 夜の道路

 辺りを照らす電灯と電柱

 通り過ぎる車、光を反射するカーブミラー。

 整備されてなかった道は舗装され、家が並んだ住宅街が広がる。

 

 

「俺が居た……世界……なんで、なんで……!!」

 

 

 何処にもないのだ。

 ナツキ・スバルが英雄だったあの場所は消えていた。否、戻ってきたのだ。()()()()()()()()()()()

 

 

「……しに…もどれば……死に戻りすれば……」

 

 

 またスタート地点からやり直す。

 途方もない事だ。嫉妬の魔女からサテラを解放した。否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()以上、死に戻りをした後、サテラを解放するのはナツキスバル以外には不可能。

 

 そして、何より現代に戻った今、()()()()()()()()()()()()()()()()。あの世界が夢だった筈が無い。何度だって死んで何度だってやり直した。そして最善の結末にたどり着いた。

 

 だが、今回は?

 サテラから嫉妬の魔女を救い出した。

 嫉妬の魔女がもう存在しないなら死に戻りが出来る確証は何処にも無い。

 

 アレが全部、夢?

 あの場所も、あの現実も、あの自分が恋した少女も、全てが泡沫の夢だった?

 

 だとしたら……

 

 だとするなら……

 

 

「俺は……俺は……!!」

 

 

 諦めるのが似合わないスバルの人生最大の挫折だった。死ぬより辛い絶望だった。

 膝立ちで絶望感に駆られ、ただ呆然とするスバルの横を通り過ぎた影を見る。

 

 

「あのー?大丈夫かい?君、こんな夜道で何してるのかい?」

 

 

 お巡りさんだった。衛兵はこの世界には居ない。

 当たり前だ。日本は安全な国だ。当たり前過ぎる事すら今のスバルは認識出来ていない。恐らく、周囲の徘徊か何かだろう。こんな時間に子供顔の少年が居たら、職務質問されるのは常識だ。

 

 

「……本当に大丈夫かい?おーい、まさかお酒でも飲んで––––」

「……は…つだ?」

「はい?」

「今、今日!今日は何年の何月何日だ!!答えてくれ!!」

 

 

 縋り付くように、お巡りさんに必死の形相で問い叫ぶ。お巡りさんは困惑しながら答える。もしこれが……異世界転移した同じ日なら……

 

 

「は、はあ……2014年の4月20日だよ?」

「2014年……!?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()2()0()1()2()()()4()()2()0()()

 つまりは、二年。()()()()()()()()()()()()()()()。そして二年は異世界に居た自分の時間と重なる。あの世界では時計は無かったが、時間のズレはこの世界と変わらない。

 

 つまりはスバルに空白の時間がある事は異世界そのものが夢という訳ではない。その確信に至れただけ、収穫はデカかった。

 

 

「……はっ、はは……なら、まだ可能性はあるって訳か」

「大丈夫かい?お酒でも飲んだかい?」

「飲んでませんから!?俺まだ19です!人相がガキに見えるとかよく言われるけど俺19ですから!ちょっと果てしなく遠い世界に昇天しかかってただけの一般ピーポーです!」

「それはそれでどうかと思うんだけど……」

 

 

 お巡りさんは困った顔をした。

 

 

 ★★★

 

 

 お巡りさんに職質された後、早く家に帰る事と注意喚起を促されながらも、ナツキスバル……いや、菜月昴は自分の家の前で立ち止まる。

 

 怖がっているのは分かっている。

 もう戻れるかわからないと思っていた世界に戻ったのだ。

 

 

「いや、大丈夫だ。俺は異世界に居たのは間違いない。分かってる、分かってるから……」

 

 

 玄関のドアに手を掛ける。

 普通に玄関には灯りがついていて、こんな時間だと二人とも寝てると思って、靴を脱いでリビングに向かう。リビングの扉から洩れる光にまだ誰か起きてるのか気になったスバルは恐る恐る開ける。

 

 

「ただい––––」

「グッッッッッナーーーーーーイト、息子ォ!!」

「ほぶらはっ!!」

 

 

 リビングを開けると昴の父である賢一が昴に見事なダイビングタックルを決め込み、昴はその場に腹を抱えて膝立ちになる。だが、賢一は容赦なく膝立ちのスバルに仁王立ちで笑っていた。

 

 

「家出してから約2年、持ち物ケータイと財布の五千円程度といつもながらのジャージで何処かのたれ死んでるか心配したがやっぱり帰ってきたな!サバイバル生活から帰ってきた感想は?」

 

「異世界レベルの遠い国から帰ってきた息子にアメフト並みのパワータックルしてくる父ちゃんを見て変わってなくて安心したぜ……!だが甘い甘い甘い!!経験値豊富な俺にタックル決めただけ褒めてやるが老いたな父ちゃん!あっ、待ってひっくり返しは無しだろ!?いだだだだ!?」

 

「よーし、今日はじっくりお前と語り明かすことに決めた。後一分で今日は明日になるけど、今夜は寝かさないぜ?という事で先ずは肉体言語だ! 四の字四の字! おら、反抗期終わった息子に対する父ちゃんの愛の関節技は効くぞ!」

 

「愛を関節技で表現すんな!こちとら愛に苦しんだ女の子を何人も救ってきたんだ!!息子の成長をその身で刻みつけろやコラァァァア!!」

 

 

 ひっくり返してはひっくり返し、プロレス技の応酬がリビングで巻き起こる。既に23:59と後一分で明日に変わるというのにこの元気は一体何処から来るのか知りたかったが、これ以上は近所迷惑なので引き分け(ドロー)となった。

 

 

「ハァ…ハァ…強くなったな昴」

「なんっで、いい歳してプロレス全技持ってんだよ……と言うか足の裏くさいな」

「ひっでえな!?父ちゃんが身体に鞭打って会社から帰ってきた努力の結晶を!」

「鞭打ってる人間は帰ってきた息子にあれだけ強いプロレス技決めるわけねぇだろ!」

 

 

 賢一は昴の顔付きが変わった事に気付いた。

 以前、引き籠もっていた時の昴はどうしようもなく、自分を諦めたような顔をしていた。それが今はないが、それでも目元には涙の跡があった。

 

 

「––––ただいま、父ちゃん」

「––––おう、お帰り昴」

 

 

 けど、それでも今は聞かなかった。

 どうして昴が2年も居なくなっていたのか、どこで何やっていたのか。深く追求はしなかった。

 

 ただ、一つ聞くとするなら……

 

 

「……昴、好きな子出来たか?」

 

 

 この歳にもなって恋話なんて、笑えない話だ。

 恥ずかしがって何も言わないだろうなと賢一は思っていた。

 

 でも、昴の表情は変わった。

 試練の時にも聞かされた。好きな子がいるかと、聞かされていた。昴には分かっていた。自分がどうしようもなく嫌いで、自分が菜月賢一の息子でないと否定してくれたらよかった。

 

 異世界に入る前にどうしようもない人間だった。

 バカで空気読めなくて、気が短くて、身の程は弁えない。度量狭けりゃ、諦めが悪いし、ふざけた態度で人の神経を逆撫でする。機嫌が悪いとすぐに八つ当たりするして、仲間を見捨てる事も辞さない、それでいて自尊心やプライドだけは一人前に高く、カッコつけたがり、でしゃばりなダメな奴だった。

 

 けど……

 

 

『ありがとう、スバル。––––私を助けてくれて』

 

 

 銀色の髪が風に踊るのが瞼の裏に焼きついていた。アメジストの輝きが真っ直ぐにスバルの顔を見つめていて、唇から紡がれる響きの全てに愛おしさがこみ上げる。

 

 

『レムは、スバルくんを愛しています』

 

 

 青色の髪が泣いているのが頭から離れなかった。嫌になる程、日差しが彼女を照らして、諦めようとしたスバルをまた立ち上がらせてくれた。

 

 

『ベティーは、スバルをベティーの一番にしたい。だからベティーはスバルの隣に居るかしら』

 

 

 本当は誰よりも寂しがりな精霊が手を握った温かさを覚えてる。寂しくて生きていけない自分の手を取って、いつか居なくなる苦悩を抱えてそれでもスバルの手を取った自分の相棒がいた。

 

 

『私は、あなたを愛しています。――あなたが、私に光をくれたからです』

 

『__もっと自分を愛して』

 

 

 最初は、自分を死なせない文字通りの魔女だと思った。

 銀髪のハーフエルフで、自分が愛する少女と瓜二つだった。だからかもしれない。どうしようもなく救いが無い自分を死なせる事が出来なかった魔女を憎んでた。

 

 

『そしていつか――必ず、私を殺しにきてね』

 

 

 でも、ただ泣き虫だった。

 本当は誰よりも弱くて、泣いていて、手を差し伸べてくれる人すら居ない。そんな寂しがりな女の子だったのだ。

 

 

『––––ありがとう』

 

 

 そんな女の子をダメな自分でも救い出す事が出来たのだ。ゼロから始めた異世界生活は終わってしまったのかもしれない。

 

 スバルは賢一に振り返る。

 それは少年のように、青春しているようなガキの笑みで誇らしく。

 

 

「――できたよ、好きな子。だから俺はもう、大丈夫だ」

 

 

 けど、まだ終わりたくないから。

 色をくれた、スバルの手を取ってくれた、諦めたくないと誓ったあの世界で、今の瞼の裏にさえ焼きついたあの世界での出会いを誇らしく賢一に告げていた。

 

 諦めるなんて性に合わない。

 ここから、菜月(ナツキ) (スバル)のリスタートが始まったのだ。

 

 

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