戻ってきたスバルがクリプターになる話。   作:アステカのキャスター

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 ベアトリスがいい。
 推しキャラです。実に実に実に実に脳が震えるぅぅぅ!!

 良かったら感想評価お願いします。では行こう!




傲慢の魔術師

 起きたのは昼を過ぎる少し前だった。

 異世界に居たナツキスバルは、もう居ない。

 

 今は菜月昴だ。

 改めて帰ってきたんだなと痛感する。

 

 けど、また会えた。

 また、ただいまと言えた。

 もう一度だけ、話す事が出来た。

 

 

 これからはまた会う事も難しくなってくるだろう。

 英雄ナツキスバルに戻る為に、多分また嘘をついてしまうだろう。嘘をついて、偽って、菜月昴としての人生はもう戻らないかもしれない。

 

 

「よう、夜更かししたのに随分早い朝だな。昴」

「お母さん、まだご飯作ってる途中なんだけどー」

「……おはよう」

 

 

 昴は体を伸ばすとバキバキといい音が鳴る。

 異世界前から着ていたジャージはまた懐かしい匂いに馴染んだ。帰ってきて、泣いて、またこの家に戻る事が出来た。

 

 

「……相変わらずの和洋折衷だな」

「腕によりをかけたのよ?」

「嘘つけぇ!トーストと味噌汁!しかもチョイスがいちごジャムじゃん!」

「昴、残すなよ?残したら父ちゃんがお前の嫌いな緑の森ピラフを食べさせるぞー!」

「地味な嫌がらせだなオイ!てか、家族全員グリンピース苦手なのによくあるよな緑の森!?」

 

 

 結局、緑の森は出されずにトーストと味噌汁を平らげた。懐かしい感じだった。このまま、ここに居てもいいって、そう思えてしまう。

 

 ––––俺達は今時珍しい仲良し家族だ。 

 ––––昴は昴らしく居た方がいいなと思うの。

 

 

「………お母さん、父さん」

「ん?どうした昴」

「味噌汁の具、不味かったかしら?」

「……いや、相変わらずで安心したよ」

 

 

 ただ、そう思えた。

 それだけで、昴の心は決まったのだ。

 

 

「父さん、お母さん、……その、俺これから行かなきゃいけない所があるんだ。遠くて、戻れるかわからなくて……」

 

 

 絞り出した答えは心細く頼りない。 

 理由すら曖昧で、言い訳にしては酷過ぎる。

 

 

「でも……父さん達と同じくらい大切な人達で、俺が好きになった子もいるんだ……またこれから迷惑をかけるかもしんねぇ、また、二人に会えなくなるかもしれない」

 

 

 悲しくて、また会えたのに。

 次会えるかなんてわからない。もしかしたら帰れないかもしれない。だが、だがそれでも昴は決意したのだ。

 

「それでも––––俺はあの場所に戻りたい」

 

 

 それが昴の答えだった。

 

 

「だから、俺は行くよ。菜月賢一と菜月菜穂子の子供として、菜月昴として、俺は行く。だから……その」

 

 

 心配しなくていい。もう大丈夫だと告げようとした口から声が出ない。涙が落ちている事さえ気づけない。

 賢一はゆっくりとため息をついて笑った。

 

 

「色々と、お前にもあるんだろうよ。だから、俺達から言うことは一つだけだ」

「――――」

「頑張れよ。期待してるぜ、息子」

「お母さん、応援してるから」

 

 

 2人は何も聞かなかった。

 それだけで、昴は救われた。滂沱と溢れ出した涙がスバルの視界を塞ぎ、世界の形を曖昧にしてしまっていた。顔を掌で覆い、流れ出す涙を必死で拭う。しかし、拭っても拭っても、涙があとからあとから溢れてきて止まらない。止まらない。止まってくれない。

 

 あの時みたいに何も返せるものがなくとも、それでも昴を産んで、愛してくれた事実は消えない。子供のように泣き噦り、昴は2人の元で暫く泣き続けていた。

 

 

 

 ★★★

 

 

「……それじゃあ、行ってくる」

「おう、気をつけてな」

「荷物、それだけでいいの?」

「まあ、貯金箱叩き割って、ある程度のものはあるし大丈夫」

 

 

 バックの中には最低限生活出来るものが入っている。

 ガラケーが今の世界ではスマホに変わってるのに驚きだったが……時代の流れを理解して途方に暮れるお爺さんのような感覚だった。

 

 

「いってらっしゃい昴」

「また、ちゃんと帰ってこいよ」

「––––ああ、行ってきます!」

 

 

 昴はただ元気いっぱいにそう答えた。

 

 

 ★★★

 

 

「『傲慢』だと?」

「ええ、私はその人物を探しているわ」

 

 

 ロード・エルメロイ二世に対して依頼をしているのは、次期当主アニムスフィアの娘、オルガマリー・アニムスフィアだ。

 人理継続保障機関フィニス・カルデアに必要な人材として彼をスカウトしに行くためにわざわざロード・エルメロイ二世の所に訪れたのだ。

 

 

「……何故『傲慢』を探すか理由を聞いても?」

 

「お父様の資料に書かれていたのよ。カルデアに必要な人材の目星をつけていた資料の中に、ただ『傲慢』と書かれた魔術使いを」

 

「……『傲慢』か。噂は予々聞いている。曰く、この世界にはない未知の属性を使う事から架空元素・虚数である事。曰く、捕らえようとした人間全てが魔術回路を失い、記憶も無ければ刻印すら消され魔術師として二度再起出来ない。曰く、男だか女だか分からない。ただ、『傲慢』と名乗り、魔術使いとして世界を回っていると」

 

 

 聖堂教会の執行官ですら歯が立たず、死因は様々なものだ。心臓を潰された。眠り姫のように起きない脳死、空間を接続したような鮮やかな切り口と、狙ってきた相手には容赦をしない時計塔でも噂の怪物。

 

 それが『傲慢』。

 大罪の中にもある一つの罪の形。

 

 

「……『傲慢』については私にもコネがある」

「貴方が?」

「以前、出会った事があったからな。魔術師として知識は未熟、だが奴はこの時計塔を敵に回してもやり遂げる悲願があるらしい」

「その悲願は?」

「詳しくは語らなかった。だが、魔法、根源については興味を強く示していた」

 

 

 特に、第二魔法について深く追求していた。

 だが、ロードが知る中には一つだけ『傲慢』の有力な情報があった。『傲慢』の本名は()()()()である事だ。恐らく本名を明かさないのは、本名を知られたら人質に取られてしまう人間が居るからだ。

 

 

「『傲慢』と会わせる事は可能かしら?」

「……可能だ。だが、お薦めはしない」

「アニムスフィア家の正式な依頼として要求するわ」

「……了承した」

 

 

 なにせ『傲慢』は魔術師の誇りなど存在しない。

 誇りを語ろうが、上から捻じ伏せる力を持つ化け物。故に『傲慢』と皮肉めいた異名が響き渡っているのだ。

 

 

「……何ごとも無ければいいのだが」

 

 

 嫌な予感がするが、今は自分の事に手一杯だ。アニムスフィアの娘である以上、『傲慢』とは相性が悪いと思うが、会わなきゃわからないし、ロードも『傲慢』を完全に知っている訳ではない。

 

 葉巻を蒸し、吐いた煙は空に消えていった。

 

 

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