戻ってきたスバルがクリプターになる話。 作:アステカのキャスター
失った言葉が出てこない。
動揺と、それに食いつきたい本能を抑えて深呼吸する。
「……先ず、何でその発想に至った?」
「少なからず、君は異世界に行き、異世界で力を得たならば君はまだ執着していると思ってね。それに、私の娘が何を探しているのか調べていてね」
「……成る程。ロード・エルメロイから聞いたのか」
エルメロイは少なからず予想していた。
架空元素・虚数は未だ判明されていない属性だ。それを何処で手に入れたのか、どの家系で生まれたのかを調べた人間は少なくない。
だが、魔術知識の疎さとその規格外の力は
「……カルデアスだったか。本当にそれが可能なのか?」
「不可能ではない。並行世界の運営は世界に少なからず影響を与える。それを見つけ出す事が出来るのがカルデアと言う機関だ」
第二魔法、並行世界の運営は微弱ながら現世に影響を与える。カルデアならその微弱な反応からゼルレッチが何処にいるか調べ、割り出す事ができる。
「……カルデアに所属する期間はいつまで?」
「人類史を救うに当たって優秀な人材を揃えている。恐らく2年以下だと予想している」
二年。長い年月だ。
だが、闇雲に探して見つからないよりは手掛かりがある方がいい。第二魔法使いのゼルレッチの情報も、御三家の情報を漁っても手掛かりと言えるものは掴めなかった。聖杯戦争も、次の開催が六十年後と知り、諦めていた。
「……俺も要求を追加していいか?」
「何かな?」
「先ず、俺の名前をカルデア以外で一切漏らさない事」
「ああ、徹底しよう」
「二つ、俺の家族は紛れもなく一般人だ。権力や実力行使で二人を害する魔術師が居たら俺はカルデアほっぽり出してでも行かなきゃならねぇし、その時はアンタの家の庇護下に入れる事」
「ああ構わない。約束しよう」
最低限、これだけは守って貰わないといけない。
菜月昴の家族はそれこそエミリア達と同じくらい大切な人達だからこそ、そこは蔑ろにしてはいけない。
「三つ、この資料を見るにサーヴァントを呼び出せるんだろ? 呼び出すサーヴァントに文句をつけない事」
「なっ……!?」
「……それは英雄ではなく、異世界の住人を呼び出すと?」
「安心してくれ。俺の相棒は強いぜ。少なからず俺より知識と経験がある」
何せ、スバルが召喚する
「いいだろう。他に要求はあるかね?」
「いいや、無い。契約はこれで終わりだ」
スバルはため息をついて安堵した。
エキドナといい、ロズワールといい、
捨て駒だって存在する。
だがスバルは捨て駒になるつもりはない。
「んじゃ、改めまして。俺の名前はナツキ・スバル。『傲慢』の大罪を持つ魔術師、お互い運命に踊らされるピエロ同士、短い間だが仲良くやろうぜ」
「ああ、此方こそ宜しく。菜月昴くん」
互いに握手を交わすが孕んだ感情は互いに別。
油断ならない相手である事に変わりはない。マリスビリーもスバルも友好的に接しているように見えて––––
「あっ、そういや聞いてなかったけど、ゲームとか娯楽品は持ってっていいか?」
「いいよ。別に」
どうせ二年間切羽詰まる訳じゃないし、少しの寄り道だ。
半年娯楽が無かったスバルも流石に休みが欲しいという当たり前の願望はあった。結構切実に。あとは単純に相棒を召喚出来たらうんと可愛がって遊びたいというのもあった。
★★★
──塩基配列 ヒトゲノムと確認
──霊器属性 混沌・善と確認。
『ようこそ、人類の未来を語る資料館へ……
ここは人理継続保障機関 『カルデア』
指紋認証 声紋認証 遺伝子認証 クリア
魔術回路の測定…………完了しました。
登録名と一致します。
あなたを霊長類の一員であることを認めます。
はじめまして。
あなたが本日、最後の来館者です。
どうぞ、善き時間をお過ごしください』
そのアナウンスと共にカルデアに入る為の扉が開かれた。
意外と審査が厳しいのかと思ったが、機械が勝手にデータをダウンロードするようだ。スバルの持つ魔女因子は
「……うおお」
そこはとても広い廊下だった。
馬も通れるんじゃないかと思う程に広く、何より窓の外に広がるのはとても先が見えない吹雪と雪原。部屋割りはかなりあって、広過ぎて自分の部屋を探すのに苦労しそうだ。
荷物は後日届くらしい。
有るのは変わらないジャージ。そして……ナツキ・スバルという人間がこの場所に居る。それだけで本当はいい。何せ異世界にスナック菓子とジャージと古い機種の携帯しかなかったのだから。
「ここが……カルデアか」
地図を見ると部屋だけじゃない。
図書館に体育館のようなトレーニングルーム、食堂に娯楽部屋もある。流石に圧巻の文字しか浮かばない。
地図を見ていると、肩を軽く触れられ振り返ると桃色の髪で眼鏡をかけたパーカー姿の女の子がスバルに話しかける。
「貴方が菜月昴さんですか?」
「ん? ……ああそうだけど?」
「初めまして、私はマシュ・キリエライト。Aチームのメンバーとして貴方の案内をマリスビリー所長に任されています」
「気持ちは嬉しいが、案内って言っても大した案内は要らないんだけど……」
とりあえず、記憶力にはちょっと自信があるスバルに案内は要らないと思っていたのだが、マシュの顔が「いえ、そうではなく」と言っているように見えた。
「ちょっと待って、案内ってまさか今から一軍と合流みたいな?」
「はい。一軍……Aチームの皆さんとの交流の為、時間を取らせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……因みに聞くAチームのメンバーはどれくらい居るの?」
「私を含め全員ですが」
「それ断れないやつじゃん!? ……質問の意味ねぇじゃねえか」
肩を落とし、案内を頼むとマシュは機械のような受け答えでスバルの案内を始める。スバルは逆にマシュの背中を追いながら、ため息をつく。一瞬、昔のレムに似ていると思った。機械的な存在と言うか、心を理解出来ていない子供。
スバルにはマシュがそう見えていた。
「Aチーム、マシュ・キリエライト。新たなメンバーである菜月昴さんを連れてきました。入室の許可を」
Aチームが集合している部屋の扉が開いた。
目に映った人物達にスバルは少し固まった。目に入った人物達を見ていく。
寝不足で目つきが悪そうな銀髪の青年。
夕焼け色の髪、右眼に眼帯をつけた女性。
本を読みながら我関せずなツインテの女の子。
身長がかなり高く、オカマに見える男。
黒髪で、灰色が似合いそうな兄貴肌の男。
独特の雰囲気で、油断が出来なさそうな青年。
透き通る金髪で、如何にも風格がある青年。
駄目だ、クセが強過ぎる。
思わず両手で顔を押さえて天井を仰いでいた。ロズワール邸でもクセの強い人間だらけだったが、これはこれで酷過ぎる。普通じゃないのは知ってたが、少しは普通の人間がいると思った矢先、フラグがへし折られた。
けど、逆にスバルは笑った。
ナツキ・スバルの日常は毎日が特別だ。あの世界でもそうだったように、普通じゃない人達が笑い合って、協力して、あの場所に居たのだ。
いつもとやる事は変わらない。
「──初めまして! 俺の名前はナツキ・スバル! 無知蒙昧な上に図太さ超一流の不束者ですが、どうぞよろしく!」
ナツキ・スバルは変わらない。
何せ帰りたい場所があるから。
スバルは世界を救い、元の世界に帰るためにカルデアでの第一歩を踏み出したのだ。
『菜月 昴
魔術回路:EX 質:B 魔力量:A+++
起源:不明 レイシフト適正率:100%
以下の事を踏まえ、Aチームに所属する』
スバルが半年で奪った魔術師達の刻印と回路。
実際にスバルは魔術師としての才能は無い。刻印も魔術も奪えど宝の持ち腐れ。使える魔術は触れた相手の感覚を一部麻痺させる程度のデバフ特化とそこそこの道具生成。ぶっちゃけ魔術の干渉より権能でゴリ押しの方が早いらしい。
と言う訳で一部終了です。
次回から半年飛ばしてクリプターになる話をします。クリプターのキャラ達の絡みは別で書きます。良かったら感想・評価お願いします。