佐賀の不良共に関しては適当に片付けておいた。
もちろん適切に当たるという意味でだ。バイクを中心とした偵察車両に、トラックそして粗末ながらブルトーザーが来るようにしてやった。
どうやったかなどは簡単だ。
偵察用の詰め所を佐賀と熊本の県境に幾つか用意し、その間を塹壕でつなぐという役目を進言しておいたのだ。バイクは伝令用でトラックはブルトーザーや残土を載せて移動するための物だ。前線配備で使い倒せるので、佐賀の将校にも理由が付けられる。
「普段はトラックに残土を載せて壁用に移動させろ。適度に汚れていれば、住民を載せて逃げるためのアシだとは気づかれまい」
「あ、ありがとうございます。万翼長殿!」
「「ありがとうございます!!」」
不良共はあれで身内に優しい物だ。
だから家族を守れる手段を調達し、自分たちが得意とするバイクを調達してくれる恩は忘れまい。
そんな事で私たちの為に死んでくれるならありがたい限りである。
「万が一の時は熊本にも一報告をくれるそうです。上手くやりましたね」
「まあな。連中にとっては援軍をくれるか怪しい背州公よりも、私たちの方が頼れる相手だと思えるはずだ」
それは単純な事実だ。
そしてバイクは偵察と確実な伝令の為に複数台用意されている。その内の一台を熊本に派遣してくれるならば、後方を警戒する時に少しは余裕が持てるだろう。
もちろんそれで援軍を送るかは別の話だ。
普段ならば数が少ない内に倒すために快速部隊を送りもするが、こちらに本命が十万単位で攻めて来たら流石にそんな余裕が無い。その時は大人しく死んでもらうか、佐賀市に逃げ帰ってもらおう。いや、佐賀市まで塹壕を築いておけと命じておけば、私たちの脱出ルートにすらなるかもしれない。
表向きの礼法すら身に付けられない馬鹿どもの使い道としてはこれ以上ない。
どうせ背州公の懐だからだし、ご機嫌取りにもなるからwin-winだ。費用対効果としてはベストな内容なので、笑いが止まらない。
そう、ベスト。最上級。最善。
私はいつも確実にベストな回答をしたつもりだった。現に背州公だってニッコニッコなのだ。
だが熊本に戻った私に青天の霹靂、驚天動地の事態が私を待っていた。
●
熊本市に戻り出頭した私を待っていたのは、あんまりな仕打ちだった。
ソレそのものは大変な名誉なのだが、その後の行動を大幅に制限する物だった。正確には危険と隣り合わせな状況が続くというべきだろうか。
「勲章授与……ですって?」
「その通り。それも軍内部ですら滅多にお目に掛かれない銀剣突撃章だ。司令官代行から提案を受けてね。私も今回の事態を喜んでいる」
私を待ち受けていたのは笑顔の熊本市長だ。
佐賀市長と面談を繰り返した後なので新鮮味は薄いが、お偉いさんとのパイプというだけならこれ以上はない。
だがしかし! もらえる勲章がかつての銀翼突撃章に良く似ているのが気に喰わなかった。
銀剣突撃章とは軍内において多大な功績を上げるか、同ランクの相手二十以上を倒したスーパーエースに与えられるものである。二十もの中型を潰した覚えはないぞ!
「お待ちください! 確か同ランク二十以上というのは戦車を基準に、中級幻獣以上で……」
「それは累積取得する場合の目安だよ。普通は現場の下士官から指揮する将校までの称賛と推薦を得なければならない。素早い人命救助によって、軍の名誉を高めた君の功績は称えられてしかるべきだろうねぇ」
マズイ! マズイぞ!
称賛されるのは良い。昇進や昇給だって望ましい! だが、この場合のスーパーエース扱いとは、死地に向かって突撃して行く即応部隊入りの運命を約束することだ。それは安全確実に行動する遊撃隊とは別物で、どう考えても危険極まりないではないか!?
しかも低下し続ける軍の士気を高め、国民の戦意を維持するのに持ってこいだ。
何しろ編成されたばかりの学徒兵がソレを成し遂げたというのは、戦地に若者を送る連中には心強いばかりだろう。何かあれば英雄が救援に駆け付けるとなれば、現場の兵士だって勇気を持てる。勲章一つでの効果は最大級に違いない。だが、それは私が危険だということ!
(馬鹿な! どこで間違った? 私は常に最善を尽くしたはずだ。いつだってベストの結果を為し得たはず!!)
何時からだ? 学徒兵扱いを受けた時か?
それとも芝村に関わってしまった時? いや、人命救助というならこの間の……。あれはドク、ひいては実験がしたいロボットを動かしたいという芝村の興味本位じゃないか。まさか芝村はこの結果を最初から予想していたというのか?
「どうして……、どうしてこうなった!!」
だがそれは覆しようのない事実。
私に銀剣突撃章が授与され、今後も同様の成果を得られるように求められるのは既に決まったことなのだ。
おのれ芝村! おのれ存在X!
●
みなさま、いかがお過ごしでしょうか? ターニャ・フォン・デグレチャフです。
私は勲章授与のセレモニーを終え、広報用に着せ替え人形になっている所です。市松人形もかくやという和装に、どこで見つけて来たのか判りませんがゴスロリチックな洋装まで。一番安心できたのは軍の礼装だったというのが微笑ましい所でしょうか。
その上で、私は非常に悩んでおります。
「くそっ! 何とかしてこの状況を打開しないと。このままでは死んでしまう!」
問題なのは前線送りになる事だけではない!
士魂号M型の宣伝も兼ねて騎魂号と共にポーズを決めてしまった。このままでは欠陥だらけの頼りない兵器と心中することになる。一刻も早く人型戦車を使った戦術を考えねば!
そう、必要なのは起きた事実に悩むことではない。
人型戦車に乗るのが既定路線であるならば、事故を起こすことなくこれを運用し、死地に向かって突撃しないようにせねばならないのだ。前線で何百何千では効かない圧倒的多数を一人で仕留めろと言われても絶対に無理だ。
「
絢爛舞踏章、通称ゴージャスタンゴ。
それは生きる伝説であり、戦場で出会う事は死を意味する。ネームド魔導師以上の存在であり、この世界における究極の称号だろう。世界で四人ほどしか授与されていないとか。
そのレベルの戦闘力を期待されても困る。
ならば確実に運営し、確実に勝利を重ね続けるには、本格的に投入される前に戦闘方法を確立する必要があるだろう。こうなったら人型戦車運用の先駆者として、私の意見を採用させねばなるまい。その上で、確実に生き延びる方法を見つけなければならないのだ。
「やはり戦車の一小隊四両に準じた四機体制は過剰過ぎる。火力的にはもっと欲しい所だが、まるで動かせない」
試験運用の為に二機目を組み上げたのだが……。
そこで整備上の限界が来てしまった。三機目を万全の態勢で動かすには本格導入レベルの整備員が必要だし、四機目用に更に増やすと言ったら文句どころでは無いだろう。
「中隊・大隊レベルで揃えてローテーションさせるのは人型戦車の無駄使いだ。第一……パイロット適性と運用思想のレベルで論外になる」
十二機~三十六機で構成し、使った端から集中的に整備する?
それだけの数を揃えるのは難しいし、できたとしても今度はどうして全機を出さないのかという話になってしまう。そもそもパイロットに適性問題がある上、突撃する馬鹿が壊したら全てが台無しになる。仮にその全てをクリアしたとしても、火力を考えれば戦車で良いのではないかという事になるだろう。
やはり目の届く数だけを運用するのが正解だ。
少数ならば不良共に対処したように、少しずつ誘導することができる。突撃馬鹿が居たとしても、候補中の一人・二人ならば外すことも矯正する事も可能なのだから。
それとこれが非常に重要なのだが……。
ウォードレスの人工筋肉と制御プログラムと同じで、個人用のカスタマイズや修錬適応が人型戦車でも高いと言われている。つまり鍛えれば鍛え上げる程に強くなる可能性があるのだ。特にオートマとマニュアルでは随分な動きの差が出たからな。
「ここまでは良い。新城少佐に提案した内容のままだ。ではどう活躍させる? あの時は歩兵補助の支援火力、対空砲といったマルチ運用を考案したが。実際には……?」
歩兵ではキメラやゾンビヘリですら倒すのが怪しいが、人型戦車ならば簡単だ。
だが正面火力としても射程としても装甲面でも、戦車には到底及ばない。戦車としてよりも、歩兵の支援火器以上の火力であり、対空砲台を兼ねられる兵器としてみるべきなのだ。
その上で有効な戦い方が求められている。それが私の生存に繋がれば理想的だろう。
「やはり機動戦だな。歩兵と同じ動きがそれ以上の速度と火力で可能ならば、それを活かさない手はない」
その意味で役に立ったのは先日の戦闘、そして要人救援作戦の時だ。
地形を以て敵を分断し、時間差をつけて敵を撃破する。そうすれば必要以上の危険とはオサラバできるし、各個撃破の理念にもかなっているから戦術要綱に入れ易い。うむ、やはりコレだろう。
一端、方針が固まれば後は早かった。
何しろやるべきことは、歩兵のやる事を拡大しただけの事だ。私が八代でやったように、少数精鋭でかき回したことを人型戦車でド派手にやってしまうだけの事である。
「全力運転で二機。一機以外は支援のみにするなら三機として……できれば
戦車随伴歩兵というのはデサントよりもより先鋭なモノである。
彼らが居ればゴブリン如きで悩む必要が無くなる。
そして倒し損ねてもう一撃するには惜しいレベルの相手を任せて、人型戦車そのものは次の移動に向かえるのが大きい。
「戦車随伴歩兵が必須となれば、やはり戦力適正の意味でも人型戦車は少ない方がいいな」
戦車は四両で一小隊。
戦車随伴歩兵を何名か伴うとすれば、その数は過剰と言われかねない。実際、数機が支援に回るのだからソレで我慢しろと言われかねなかった。
一番良いのは移動を邪魔する排除役が最低でも一人。
人型戦車が中型幻獣に確実に攻撃を続け、討ち漏らした敵を仕留める役が居るというのが最適だろうか。これならば移動した先でウッカリやられることもない。
●
こうなると早速の実験がしたくなってきた。
投入までの時間は刻一刻と迫っているし、考案したことが確実であるか調べないと不安でならない。
二番機以降のテストも兼ねるとやるべきことが見えて来る。
「ドク。新戦術を思いついたのでお願いが二つあります。組み上げている二番機は軽装甲仕様に変更を。それと八代で見た大尉殿をお借りしたい」
「ほう……。それは興味深い。改装には早速掛かるとして、大尉の件は代行殿にお願いして置こうじゃないか」
やはりこの手の人物は扱い易い。
自分の興味のある事ならば乗って来るのでその分野で刺激して見せれば良いのだ。ただかつてのマッドの如く、暴走しかねない欠陥試作品を扱わせてはならない。ドクが考案した最強装備とか言われたらそこは注意が必要だ。
しかしあの芝村が九州総司令官代行だったんだな。やはりマッチポンプじゃないか!
「二番機が私だけで動かなければ諦めます。どちらにせよ、三番機を重装甲にするつもりはありませんので、まだそちらの組み上げは不要です」
「今のところシールド持たせるくらいだからねえ」
不評なのは重装甲仕様の方だった。
何しろ動きが騎魂号並みで別に火力が増えたりはしない。それでいて多少装甲が厚い程度で特殊能力が無いのだ。展開式装甲を盾として足止め役をするしかないのである。ただ一撃浴びれば壊れかねないので、その使い道はしたくないのだ。
あの新種が出揃って平原に集中したら、重装甲が犠牲になって食い止めるしかない。
そんな状況は来るのも嫌なので、考慮からは外しておこう。これから新城少佐の御所に出撃許可を取りに行くとしよう。
「少佐。組みあがった機体の改装テストと戦術ドクトリンを確かめるために九州山地から球磨川水溪に行ってみたいのですが」
「以前に話していた対レーザー装備ではなく? ……少し待て」
新城少佐に上申に行くと少し難しい顔をされた。
これは士魂号の運用という意味でも必須な事だし、少佐の作戦を考慮するならば移動も試しておきたい。何処かの戦況に深入りする気はないのだが、そこまで悩むことだろうか?
トントンと何事かを考え、やがて意地悪そうな笑みを浮かべる。
絶対に面倒を思いついた顔だな……。
「先日、遂に桜島要塞が陥落した。少し早過ぎると思わないか?」
「おそらくはスキュラを集中投入したのではありませんか? 私は未だにあの悪魔をこちらで見た覚えがありません」
いわずもがなの事を口にされた。
色々と考えているのだろうが、まずは一般回答をしておく。中型幻獣の中でも最も危険な種類を見てないのだ。当然と言えば当然の回答である。
しかし、思えば中途半端なのがいけなかったのだろう。
新城少佐は自分にも他人にも厳しい男だ。いつもはのんびりと怠けていそうな顔だが、これでここぞという時には狂相を浮かべて転戦する。果敢な偵察作戦とは言わずとも、何かしらの提案で向こうの案と角突き合わせたかったに違いない。
「ソレを確認して来てもらおう。球磨川水溪の鹿児島側に建設予定の陣地である五稜郭が、工事の遅れで四稜郭になっている。僕は縁起深くてね。君が埋めてこい。おそらく顔を出すはずだ」
「はっ! 改装が終わり次第に出撃します!」
しまった! スキュラが来るかどうかの偵察を進言しておけばよかった!
半端な様子見をしたばかりに、援軍に回されてしまった! く~。自分から言い出しておけば、居るかどうかの確認だけで良かったものを……。
だが、ここで発想の転換を行ってみる。
いずれは何処かであの空中要塞と戦わなければならないのだ。その頃には対レーザー装備も完成しているだろうし、ズっとやり易くなるはず。今の内に学習しておくにこしたことはない。
(……ならここからどう巻き返すべきだ? 迂闊に出て行けば死守命令と変わりない。上手く対処して、イニシアティブを取り戻さないと)
困るのは陣地に籠ってひたすら迎撃しろと言われることだ。
何かの戦術テストを組み合わせて、もっともらしい理屈でフリーハンドを手に入れなければならない。そうすれば目的達成と共に自分の意志で撤退が可能だ。
「デグレチャフ? 不満か?」
「はい、いいえ。ちょうど新しい戦術を試したかったところです。スナイパーライフル評価試験の続きも並行したいと思います」
人型戦車の能力を活かすためには、多様な地形と装備に適応するべきだろう。
戦車は山や谷には向かないし、歩兵だってウォードレスを使って隠れるくらいだ。しかし人型戦車ならば谷陰に隠れ、山の上から高台の上のスナイパーを気取ることができる。
そして設置型の兵器と違って手持ち武器を変更できるのがとても大きい。
今から行くのは五稜郭を目指したと言っても、複雑な河川の地形を利用した陣地に過ぎない。あちこちの傾斜を利用して敵の攻撃から隠れ、逆に待ち受けて攻撃ができるだろう。何より、今回行うはずだったテストと大して違いが無いのが素晴らしい。
「なんだ。最初から案があるなら素直に言え。僕は様子見とかおためごかしは好かない。人類全体なんかどうでも良いが、身内の生死が掛かっている場合は特に」
「自分も同様であります。しかし好き勝手をするわけにはいきませんでしたので」
いろいろなテストの為に戦場を利用したかった。
これだ、これこそが誤魔化すための理由に成り得る。積極的姿勢のみが良いわけではないとかつてのライヒで学んだが、ここでは有用な戦術模索の為と言い張っておこう。
「少なくとも今回は問題ない。好き勝手にやれ」
「はっ! 好き勝手にやらせていただきます!」
ようし、言質は取った!
乗り切った~! これで適当にテストを繰り返したらさっさと逃げるに限る!
急いで元居た場所にトンボ返り。改装のために色々やってる所へ怒鳴り込んだ。
「ドク! ライフルの試作品が幾つかありましたね? 問題ない物を全て積んでください。余裕がある間に全部試しておこうと思います」
「これは思い切ったことを……。でも良いのかね? せっかくの快速が台無しだが」
ドクの疑問は当然のことだ。
軽装甲は騎魂号よりも速度が速いが、それは重量問題も大きい。展開式装甲を積まないのも、積んだが最後、重すぎて移動力が下がってしまいますから。
「それは移動時に持ち続けているからですよ。剣豪将軍のやり方を利用させていただきます。知的特許の払い込み先が無いのが残念ですが」
そう、人型戦車は手の武器を持ち直せるのだ。
ならば別に懸架しておく必要などない。移動予定地に予め置いておき、それを回収してぶっ放せばよい。いつも持ち歩くのは超硬度大太刀だけでも良いくらいだ。いや、元ネタ的にはそれも突き立てておくとするか。
足利義輝は畳で押し込まれたというが、崩れる土砂に埋もれないように気を付けさせてもらうとしよう。
という訳で、どうしてこうなった!?
この世界のベスト連続行動って、絢爛舞踏の第一歩だからしょうがないね。
だって高機動幻想って言うじゃない。
熊本よ、ターニャは帰って来た!
銀剣突撃章を胸にターニャは行く。
これから戦術教本には、銀色の女侍ターニャ・フォン・デグレチャフの名前が
燦然と輝くことでしょう。
●オマケ
「ヤンでーす!」
「ルークでーす!」
「にーたん。武尊ってウォードレスの強いの?」
「そうだなあ。二分の一大尉くらいかな」
「それって強いの? かえって弱いんじゃあ」
「馬鹿野郎! 二分の一だぞ二分の一! 元ネタ的にはきっと水を被れば! トランスホーム!」
「そっか。じゃあカレンってウォードレスはブリテンが弾けんのかなあ。おっぱいぶるーんって」
「かもしれないなー。たーまーやー」
「かーぎやー! びっち!」