軽装甲の起動試験を終えた所で、今回の方針を示すために兵たちを呼び集める。
地図を複数枚用意して、必要な分だけ渡しておいた。大尉も参加してくれるとのことで今回は順調に行くと信じたい。
さて、建設中の五稜郭について説明しよう。
北海道にある要塞を参考にして作られているが、星型陣地の角一つ一つが砲門を設置した特火点だ。何処を攻めても二つ以上から火砲で攻撃できるクロスファイア・ポイントになる事を理想として作られている。
問題は球磨川水溪の天然の自然を利用した急造だという事だ。
正確な星型ではないし、工事の遅れで四稜郭になっているのはいただけない。
「今回試す戦術は、おそらく今後の人型戦車の戦術を決定づける物と確信する。概要は次の通り」
私は地図の端に大きな黒駒を幾つかと、小さな黒駒を幾つか置いた。
反対側の端は当然ながら五稜郭陣地だ。だが我々を表す白駒は、まだ置きはしない。
そして定規を使って小さな駒を一気に動かし、一つ目の大きな駒を動かしたところで一度止めた。
「まず人型戦車その物の役目とは中型幻獣を潰すことだ。戦車では不可能な場所に歩兵の様に潜んで敵を打ち砕く。突出するゾンビヘリを打ち落とし、後方から様子を伺うキメラに横槍を食らわす。できればゴルゴーンの砲列は戦車に任せたいがね」
突出する大駒の前に白い大駒を置く。
そして敵後方に置いたままの大駒の脇へ、やはり白の大駒を配置した。いずれも谷や山であり戦車では侵入不可能な場所である。
これは言うまでもないが基本形だ。
今まで何度も行ってきた行動を改めて基本コンセプトだと周知する。一区切りして周囲を見渡し、全員が理解していることを確認してから続きを話し始めた。
「だが本当にそう上手く行くのか? 絶対多数相手へ確実に実行し続けられるのか? その答えが人型戦車を中心に据えた特務戦車小隊という括りだ」
ここで白く小さな駒を二つ置いた。
一つは人型戦車である白の大駒の先に、一つを後ろに配置する。これが小隊としての新しい単位だと示したのだ。
もちろん馬鹿正直に同じ配置をする必要は無い。
キメラに横槍を入れているとした方はソレで良いが、ゾンビヘリを迎撃しているとした方は素直に脇で良いだろう。
「先行する
ここで再び一度話を切る。
全員の理解が追い付いたところで、全体を見渡すのではなくその役割を担うであろう兵を順に注視した。
「大尉には
「……」
「はっ! 誓って何者も足元へは近づけません!」
芝村の所から借りてきた大尉は口を開かずに首肯した。
小隊のうち戦闘面でまともな兵を預けた兵藤少尉には、分隊単位で同じことを任せる。最精鋭である戦車随伴歩兵と同じことを、鋭兵部隊で実行できるかのテストだ。
「小隊の残り半数は当然ながらトドメ役を任せる事になる。妹尾少尉の分隊が確実に葬ることで、私は安心して次に取り掛かれる。活躍するよりも味方の後方を守る事こそを旨とせよ」
「はっ! 幻獣だろうが共生派だろうが何者も見落としません」
こちらは気配りができる方を任せた分隊だ。
分隊長の妹尾少尉はまめでよく気が付く男で、感受性が強く多少臆病なところがあるが偵察部隊はそのくらいで良い。
「以上の如く人型戦車に追随する兵の役目とは、人型戦車に中型幻獣撃破を専念させる為にある」
これで人型戦車小隊の役割は簡単に説明し終えたことになる。
後はそのことを確認して終わりだ。全員が理解したことが判っているので、私は三つの駒をまとめて握り締めた。
そして黒の大駒を次々に殴りつけ、地図の上から全滅させる。
「私は諸君らに約束しよう。人型戦車も兵も功績を求めて戦闘などしない。奴らはゴミだ! 我々掃除夫は命など懸けない。ただ戦場を箒星の如くに駆け抜けて、黙々と掃いて捨てるだけの仕事だと心得よ!」
「……」
「「はっ!」」
自分自身の命が惜しいのだが、兵の命を無駄に散らさないと宣言しておく。
大尉はその辺りをどう思っているのか静観しているので判らないが、兵藤と妹尾の両少尉は熱く頷いていた。
●
役目の確認が終わった所で早速移動を始める。
九州山地の途中まではトレーラーで移動し、途中から球磨川水溪の船を使える場所に進路を変更。
そこで船にスナイパーライフルなどを積み替えて一路、五稜郭建設予定地に向かった。
「本当ならば三機で試したいところだが生憎と一機だけだ。そこで武装を幾つかの場所に置いて拾う事にする」
五稜郭陣地の地図を出し、予め候補にしておいた場所を丸で括った。
基本的に丘陵や谷の陰であり、地滑りしても川にドボンとは落ちない場所である。もちろん建設途中の角を中心にしているが、念のためにその外延部も選んでおく。
何も無い丸が三つ。大きな起伏の陰に。
それとは別に緩やかな傾斜がある場所が二つだ。こちらは滑らせて下で拾う事も考慮している
「幻獣が鹿児島からやってくるまでもう少し時間があるだろう。現地の状況を確認しつつ移動経路や隠れる場所を探しておけ。私も武器を設置しておく」
「「はっ!」」
位置によって置いておく武装を変えていく。
どれもスナイパーライフルの仲間や、ロケット弾を使ったバズーカもどきだ。ライフルも戦車砲を流用した120mmとスケールダウンした92mmなど幾つか種類がある。
威力重視に射程重視、あるいは弾数を確保したものと一発切りの使い切りなどなど。
今の内にこれらを試し、どれが一番良い武器なのかを実験しておきたい。レポートをあげた後にメーカーの方でバランスの良い物を生産するだろう。
「まったくこういった作業の時だけは人型はありがたい。これでまともに動けばな」
今の時期に雨は少ないが、念のために考慮した配置をしておく。
どうしても濡れてしまう位置はそもそも目立つ場所だ。シート代わりの天幕を調達してカモフラージュしておいた。
そうして幾つか目の設置をしたところで、妹尾少尉の隊が周囲を確認しながらやって来る。
「万翼長殿はよく一発で見抜かれますね」
「まあな。……大陸を逃げ回っている時はいつも不安で空を見上げていたよ」
どうして絶好の位置を理解できるか?
それはかつての世界で空を飛び回っていたからだろう。
賢い敵の動きに馬鹿な敵の動き。
それらを勘案していくと、空から見た地上の光景を考慮するのは難しくない。一度隠れ潜んでからの伏撃も随分とやった。だから隠れるべき位置も何となく判る。おそらくは幻獣どもよりも私の方が空戦経験は長いだろう。
「も、申し訳ありません!」
「いや、良い。それが今の私を造っている経験なのだからな」
前世の経験など素直には話せないので誤魔化しただけなのだが……。
感受性の高い少尉は、どうやら私のでっちあげたストーリーに嵌り込んでしまったらしい。そういえば新城少佐が灰燼と帰したマンチュリアの出だと聞いて、同じような反応をしていたのを思い出した。
今更訂正するのも馬鹿馬鹿しいので作業を終えると次の位置に飛ぶ。
設置だけなら兵に押し付けても良かったが、実際の動きを確認するのはこうやって動かした方が良い。その快速ぶりは大きな利点だし、レーダーが騎魂号よりも劣るのは大きな欠点だろう。もっともこれは共同作戦で補えるのだが。
「やはり騎魂号一機を入れての戦術リンクが理想的だな。後は突撃仕様にしてミサイルというのも試験しておくべきか……」
掃討戦ができる火力は悪くはない。
しかし電子戦仕様の防御力も悪くない。今後にゴルゴーン部隊やレーザーを使う敵が増えてくれば、その効果は如実に表れてくるのだから。やはり共同作戦時か中隊規模まで順調に拡充できた時に、改めて騎魂号二機目・三機目を考慮すべきだろう。
レーザーを使うに考えを巡らせたことで少し疑問が生じてきた。
どうして熊本でまだ見ていないのか? どうして鹿児島に集中投入したのか? そこに作為性を感じたのである。
「まさか……幻獣にも知性を持つ奴が存在するのか? 将軍タイプもだがクソ袋みたな奴が出てくるなど悪夢でしかないぞ」
もしかしたら価値観の問題で話が通じないだけで、敵にも知性があるのかもしれない。
ならば数のゴリ押し以外にも戦術があるのかもしれないし、それが非常に脅威だ。同時にソレは戦闘力特化の個体が居る可能性を示唆していた。
非常に強力かつそれなり以上の知性を持つ相手。
そんな敵を現状の武器で倒し得るだろうか? 最も火力の高いバズーカもどきでも通じるか怪しい程だ。最悪の場合、超硬度大太刀での斬り合いに活路を見出すしかないだろう。
「マズイ。マズイぞ。敵に知性体が居ることを前提に戦略を組み直さないと。クソ! こんな所に押し込められたことでようやく気が付けるなどとは……なんたる迂闊!」
相手に知性があるならば幾つかの問題が生じる。
坑道戦術対策はモグラのような幻獣の可能性を考えただけだ。同時進行で高度な作戦も併用するとか考慮すらしていない!
どんな奴だ? その知性は、その戦闘力は?
スキュラの親玉みたいな空中要塞や海洋空母の方があり得るような気がする。最悪でも新種を一回り大きくして、クソ袋と同じ戦闘力を持っていると想像するべきだろう。
●
とはいえ今直ぐどうにかできるわけではない。
私には任務もあるし、ここでどう捻ったところで名案が浮かぶわけでもないのだから。
同時に考え方次第で今回の事はチャンスだと言えた。
スキュラとの戦闘を経験し、どう戦えば良いかを理解できる。単独はありえないにしろ投入されるとしても少数だろう。様子見をしつつこちらの警戒心を解き、油断した所に集中投入という方があり得る。
そしてスナイパーライフルのテストを終えれば正式採用した品を取り寄せれば良い。
通じるならば集中投入するまでだし、本格的な戦いになった時にはこちらも対レーザー装備を用意できるのだから。そういう意味では、敵味方共に真打を隠していると言えるだろう。
「万翼長! とうとう幻獣が来襲しました! スキュラが、スキュラが!」
「そうか。所定の作戦に従え」
コーヒーを飲みながらチョコの欠片を口の中に放り込む。
今回は2ndビクトリアがいなくてよかった。あれが居ると私の補給が半分になるからな。性能的には僚機に騎魂号が欲しかったところだが。
代用コーヒーを胃の中に流し込み立ち上がる。
いつも思うのだが、技術が進歩してもこればかりはあまり変わらないな。もう少し進歩したものが作られると思うのだが。
「安心するが良い。私はお前たちを確実に連れて帰り、当然のように凱旋してやる。連中との戦いは掃除に過ぎないのだからな。死の恐怖はここぞという時のためにとっておけ」
「はっ! それが本当ですとありがたいのですが」
「はっ! 我ら一同期待しております!」
まったくしょうのない奴らだ。
これは所詮、前哨戦に過ぎない。偵察を終えてもないのに、いきなり主力を根こそぎ投入するなどどう考えてもあり得ない。ならば恐怖する必要などないだろう。
予定のままに勝利する。
重要なのは次の戦いの為に有望なデータが集められるかどうかだ。そしてその次の戦いの為に最適なデータを積み上げて、戦術的にも戦略的にも勝利しよう。
「士魂号を起動し次第に行く。兵藤隊は先行して隠れていろ。妹尾隊は後方から追随」
「「はっ!」」
大尉は野外で野営しているそうなので既に向かっている頃だろう。
そして相手に知性体がいるということは逆算がやり易い。五稜郭の完成していない部分へ回り込んで来るはずだ。
流石に八代側と鹿児島側は真っ先に完成させてあるので、大分側が最も完成していない。
そちらは球磨川水溪に頼っており、まだ特火点が完成しきってないのだ(歪な☆型なので、九州山地方面にはそもそも存在しない)。歩兵であるゴブリン程度ならまだしも、空飛ぶスキュラには何の障害にもならない。
「中型幻獣だけで二十を超えています! 総数、百や二百どころではありません!」
「説明を繰り返させるな! 目の前の千は無視しろ! その程度の数は想定の内だ! こちらの予想を超えて来る奴らこそを叩く!」
まったくこの数で偵察隊とは恐れ入る。
だが塹壕陣地は数を鉄量で打ち砕くための物だ。ルートを制限して敵を密集させ、火力で粉砕するのだから雑魚など問題にはならない。
ゆえに我々が叩くべきは最初から決まっている!
「兵藤! 大尉と共に先行してヒトウバンを集中的に潰せ! 中型幻獣は無視して良い!」
「はっ! つっても余裕ありゃあヘリを落としても問題ないですよね!」
判って来たじゃないか。
片手を挙げて兵藤の軽口に応じてやり、自身の目標としてゾンビヘリ群を標的に定めた。空中騎兵を全て叩き落とせば、川そのものが天然の塹壕になる。
戦いの序盤はどうしても足の速さと地形対応が如実に表れる。
敵の先槍はヒトウバンの他、きたかぜゾンビの空戦騎兵。六機がまばらにこちらを目指してきた。
「ちっ。一か所では防げんな。移動しながら叩くか」
鹿児島側にはスキュラが来るとはあまり想定してない。
スナイパーライフルの中でも射程の長い物を構え、ターゲットレンジに入る度に次々落とす。
とはいえ繰り返せば居場所がバレる。いつまでも留まり続けるのは愚か者のすることだ。
連続して二匹落としたところで、少し歩いて今まで居た位置を狙えるように旋回。
「馬鹿が。想像力の欠片もないのか。所詮はゾンビだな」
位置と移動力の差で二匹が遅れてやって来る。
待ち構えて一匹を撃墜。続いて進路方向に旋回しながらもう一匹!
私は一息ついたところで戦場を見渡した。
見ればこちらの方は射程の長いキメラを中心としたエリアに集中している。その内に余裕がなくなって、比較的に浅瀬のエリアに集中するだろう。
「いかんな。思ったよりも時間が経過している。普段は二人操縦だからな。もう少し頻繁に確認するか」
適当な場所にライフルを置いて疾走。
起伏が激しくなっている場所でジャンプ。次のライフルを置いている場所付近に着地する。
そのまま起伏に隠れてライフルを拾い上げ、再び周囲を確認。
やはり騎魂号とはレーダー性能が違い過ぎるのが気に掛かる。とはいえ今はそんな事を言っている余裕はないので、改めて戦況を確認した。
「もう二機居たはずだが……。兵藤と大尉か」
こちらが目の前に夢中に成っている間に、兵藤は言葉通りにヘリを落としたようだ。
ヒトウバンの数が居らずに余裕があったのか、それとも大尉が蹴散らして余裕ができたのか? いずれにせよ彼らには酒の一杯でも奢らねばならないだろう。
しかし、戦いに夢中で周囲の状況把握ができなくなっているな。
どうしてだ? いつも私は周囲の状況にこそ気を配っていた。
何時から私は弱くなっていた? ビクトリアが2ndになった時からか? それとも人型戦車の強さに煽られて?
「そうだ。人型戦車は目の前の敵には強い。集中すればする程に強くなるからこそ、つい、集中してしまう。……なんということだ」
軽装甲は実に快速だ。
移動力の差は比べ物にならないが、機敏性も捨てがたい。
騎魂号が鈍重だからそう思うのだろうが、マニュアル操縦を覚えてからは特にだ。
仮に騎魂号の動きを10とすれば、11程度の動きに過ぎない。だがマニュアル操作ならば細々と動かせる。10が20に、やがて30と経過すればその差は歴然と明らかになるだろう。
「これではダメだな。周囲を確認する癖を付けないと。強くなったからと言って増長しては意味がない。それでは奴らと同類になってしまう」
幻獣達やかつて出逢ったクソ袋。
奴らは実に強い。だが、実に周囲が見えていない。
その戦いが何のためか、自分の戦いは戦場をどう動かすためのモノなのかを直ぐに忘れてしまう。それでは獣と変わらないではないか。
「妹尾、ヒトウバンの残りは!?」
「全機クリア! ですが万翼長……河が、河が溢れます!!」
目の前の飛行物は消えたような気がする。
だが念のために確認にすると、追随して来ている妹尾少尉からも見えないようだ。
しかし無数の幻獣達は遂に河を渡り始めた。
流されていく中で浅瀬の多い場所を見つけ、あるいは流された先で引っ掛かって渡河を敢行したのだ。
「あの光線!? ナーガです。ナーガがゴブリンの上を渡って……」
「好都合だ。お前たちは伏せて移動しろ。暫くは榴弾が片付けてくれる。生き残った奴を叩くぞ」
ナーガはキメラを一回り小型にしたような奴だ。
一応は中型幻獣に類するサイズと、キメラよりも強靭な脚力を持っている。人間でいわば小隊火器というべきか。だが自走砲という程には火力が高くなく、その分だけ機敏なので歩兵から見れば厄介なのだろう。
そしてゴブリンの後ろから追いかけて時々支援射撃を行っていた。
だからこそゴブリンに出遅れ、その上を渡る様にしてこちらに向かっている。もしかしたら何匹か流されているかもしれないが、そんなものはこの数からいえば誤差でしかない。
「大分側を叩け! そうすれば特化点は反対側を叩く! 狙うのは火線の先だ!」
「「はっ!」」
渡河点となりやすいのは、河がU字状にカーブしている所だ。
そこはどうしても流れが緩やかに成るし土砂が堆積していく。古くは急流をカーブにしたり分散させて沈めた名残りがあるくらいだ。
●
予め判っていることから、ポイントそのものは判り易かった。
狙うのはゴブリンを踏みつけて渡って来るナーガ共。私はナーガを一定数仕留めるごとに周囲の確認を繰り返していく。それこそキメラやスキュラが来れば、そちらの方が優先だからだ。
「スキュラはまだか!? 来なければ効率的に叩ける位置に……」
「こちらからは見えません!」
「こちらも……? 通信に感アリ! スキュラが大分側から大きく回り込んで来るようです! 数は少なくとも三、多ければ五を超えるとの事です!」
予想していたからこそ冷静さを保てたが、本部の慌てようが目に浮かぶほどだ。
大急ぎでこちらに救援を求めたのだろうが、私たちはそもそも大分側に駆け付けている。
予想との誤差は更に回り込んで陣地を目指すと思ったのに、こちらに向かっているということだ。
幻獣にも感情があって流されているのだろうか? それともこのままでは、渡河に成功しないと思ったのだろうか? しかし最大で五匹も捨てる余裕があるとは、流石は百万単位の幻獣サマだ。
「こちらは下がって伏撃態勢を取る! 大尉と兵藤少尉はヘリが居たら頼む。私はスキュラに専念したい。ただしランダム回避は忘れるな!」
「はっ! 命あっての博打ですからね」
この期に及んでも私は方針を変えたりはしない。
ちょっとした理由で変更するような作戦は立ててないし、そもそも負ける気などない。できれば人間の軍隊の様に20%の損害を出したら撤退に移ってくれれば楽だとは思うが。
そして『適当』な位置に持っているライフルを置くと、妹尾少尉の方に向いた。
「誠に相済まないが、ライフルを置いていく。射程に入り次第に一発だけ人力で撃ってくれ。当てる必要は無い。私の機体が此処にあると証明するためだ。その後は速やかに移動せよ。危険を押し付ける代わりに、本日はもう交戦せずとも良い」
「はっ……はい! とはいえ幻獣の方から迫って来れば、戦わせていただきますけどね」
「そりゃ違いねえ」
これで最低でも二発、移動しながらやれば三発ほどは一方的に撃てるだろう。
後は回避しながら撃つとして、ライフルでスムーズに倒せるかどうかだ。一応はジャイアントアサルトも用意しているが、あまり効果は望めそうにない。となるとライフルで仕留めきれない場合は当たるかどうかも怪しいバズーカもどきに頼る必要があるだろう。
「奴らはバケモノ共だが決して冷静ではない事が判った! 騙せもするし挑発にも乗って来る! ここで討ち取って幸先を付けるぞ!」
「「おお!!」」
奴らも恐ろしかろうに声を上げて気炎を高めている。
これだけ予定通りに勝っているのだ。スケジュール通りに勝って凱旋したいものである。
……予定通りにいかないと、私が刀を持って突撃する羽目になるしな。
「外しました! 後退します!」
「行くぞ! 二射したら移動する! そちらも動け!」
「はっ!」
さすがに運よく当たるなどと言う事はなく、ダミーの一発は見事に外れた。
私はそちらに向かって移動するスキュラの横から射撃し、二発とも腹に食らわせてやった。
血を拭き出しながら苦しんでいるが、まだまだ倒せそうにはない。
移動しながら同じ個体を狙い、三発目が何とかヒット! フラフラになって居るがまだ倒せそうにない。……そう思った時、大尉の銃が撃墜したのが見える。
「助かりました大尉! 兵藤、無事か!?」
「……」
「何とか! ヘリでも難しいのに、大尉は良く当てますね! まったく歩兵の鑑だ憧れますよ!」
同性愛は非生産的だぞ~というツッコミは置いておこう。
兵藤としてもそんなつもりはないだろうし、そもそもこの世界はクローン以外で子供が増えるのだろうか?
そんなつまらない事を考えつつ、先ほどの光景を考慮しながら移動を繰り返す。
直撃を繰り返して三発、皮が厚かったり固い部分に当ててしまうと四発という所だろうか? 運や外れることも計算に入れると、四発であると判断した方がよさそうだ。最精鋭である戦車随伴兵を複数つけられるならば三発で良いのだろうが。
「少なくとも二体目は射撃戦で確実に潰す! その後は私が斬り込みながら特火点まで引き込む! お前たちはヘリを散らせ! 倒さずとも良い!」
「はい、いいえ。そこまでやるなら落としちまった方が速いっすよ」
口の減らない奴だとは思うが元気があるのは良い事だ。
手塩にかけて育てていくつもりの兵なので、死んでしまっては元も子もないが、この位の戦場では生き残ってもらわないと困る。
そして通信を本部に入れながら移動を続けた。
「5011、デグレチャフ万翼長より黒熊へ。スキュラをインターセプト。三体目からは足止めに徹する。構わないから頭上に榴弾が欲しい」
『こちら熊本の星。今は手が離せないが、片づけ次第に準備する! 頼んだぞ5011』
やはり渡河点を片付けるのに手一杯なようだ。
だからこそスキュラもその応援に駆け付けたのだろうが……。中途半端な知恵がこちらにも援護砲撃の準備をさせてしまった。バズーカもどきのロケット弾は一発しか弾が無い。倒すというよりは驚かす程度だろう。
移動しながらの砲撃で何とか四発を当てて撃破。
一機でやるのは難しいが、二機以上いればどちらかが腹か尻を突けるだろう。
その後はライフルを捨てながらバズーカもどきを拾い、今までとは違った機動を掛けながらスキュラに対し逆行していく。これまで通り移動射撃を繰り返すと思っていたのか、面白い程に懐へ飛び込むことに成功した。
「もう少し細かい移動の練習をしないとな。……さあ、近距離から食らわせてやる!」
斜め横という感じだが、この距離ならば外すこともないだろう。
肩に当たる部分を吹き飛ばしたように見えたが、そこから先は弾が無いので攻撃というより挑発の為に飛び跳ねて行く。逃げているのは間違いないが、特火点で狙える場所までの誘引である。
ジャイアントアサルトを置いた場所に行くか、それとも道中で捨てて行ったライフルを拾いに行くか?
そう思った頃にようやく砲撃が開始された。榴弾をたった数体の為に惜しげもなく使う雨霰の惨劇。欲を書いて斬り込めば巻き込まれていたのかもしれないが、空を飛ぶスキュラに太刀が当たるとも思えない。冷静に成って下がっていたことで、上手く誘導しはめることができたのだろう。
「三発から四発。榴弾を放ってくれれば安定して三発でいけるか? あのバズーカもどきなら二発なんだろうが、いかんせん重過ぎる」
個人的にはバズーカもどきはいまいちだった。
一撃で決めれないし、当たるとも限らない。かといってライフルとバズーカの中間みたいな折衷案は他に使えなくなってしまうだろう。
やはり二機か戦車随伴兵を連れて一組で当たるのが良いかもしれない。
そんなレポートを頭に入れながら、この日の戦いを終えた。
という訳でスキュラと戦い、その過程で知性体が居る事に気が付きました。
士魂号一機では役に立たないことが判ったのが最大の利益。
二機から三機と戦車随伴歩兵で戦う原作の戦い方が良いのだと、この段階で発見。
5121が戦場に立つ頃には、人型戦車小隊が戦うべき戦術がある程度確立します。
なお、この戦いで自覚するのですがターニャの強みは過去の戦訓。
塹壕戦を戦い抜き、空中戦・対地砲撃・伏撃などを何度もやってること。
多分、神々を除いたら飛行戦闘経験は随一なんじゃないですかね?
なので、相手の空中騎兵がどう動くか、どこで待ち構えたら良いかは直ぐに判ります。
●兵装
92mmライフルとバズーカがこの後に正式決定。
ターニャは武装一つがデフォルトなので渋い評価でしたが、
バズーカ二本持ち滝川君がスキュラ落としのエースになります。
●人物紹介
『兵藤少尉』『妹尾少尉』
皇国の守護者に登場する新城さんの部下だった人たち。
兵藤は鋭兵を率いたライフルマン、妹尾は頼りないけどよく気が付く人です。
ターニャは索敵小隊を鍛えているので、分隊長だけど少尉が率いています。