佐賀の救援自体はそれほど心配していない。
最初は密集した三十万ほどの先遣隊が熊本県に向かい、あぶれた遊兵が迂回していく。十万ほど熊本市に向かってまた立ち往生。その中の数万がゾロゾロと、佐賀の県境全体に散らばっているのだから、個別に叩いて各個撃破するだけなのだ。
もっとも、その小集団に勝てないから塹壕が必要なのだ。
佐賀市に近い二線目・三線目ならともく、県境の塹壕は建設途中な上に一度放棄している。元のラインを取り戻して掘り下げる為には、相手の方から引かせるくらいの勢いが必要だろう。
「だからこそミサイルで敵の後衛を吹き飛ばせ……か。やれなくはないが、普通に潰したのでは駄目だろうな。狙うならゴルゴーンの砲列か」
突撃仕様の特殊性を活かせば、数を倒すのは難しくはない。
だが、仮に百・二百のゴブリンを消しても幻獣にとって痛手ではないのだ。少なくともゴルゴーンの砲列を消し去り、そのまま周囲に居るキメラを全て狩って歩くくらいの勢いが必要だろう。
ちなみに砲列というがこれは半ば習性の話であり、半ば移動力の問題である。
単純に移動力が高い代わりに高低差が苦手なのだ。車両みたいな特性があると言っても良い。結果的に同じような道を通り同じような地形に引っ掛かり、移動力が同じなので同じような位置に居るという訳だ。
「攻撃も正面のみだし、まるでファランクスだな。数世紀前のパラダイムに生きているとは……。いやはや、この言葉も懐かしい」
微妙に違う言い回しだが、以前の生でも似た言葉を使った覚えがある。
あの時は方陣だったかテルシオだったかをダキア公国の部隊が造りかけていたはずだ。幻獣が元人間であったとするならば、ゴルゴーンは銃兵なりドラグーン辺りなのだろうか?
しかし依然と似たような光景を、遥かに勝る戦力で直面させられるとは。
つくづく存在Xは私が憎いらしい。それとも延々と敵とアップデートすることで、私の心を折って下僕にでもしたいのだろうか。
「まあ良い。ゴルゴーンなら動きを予想し易い。多過ぎれば分散後を、少なすぎれば合流後を狙うまでだ」
地形で移動ルートを制限され易いという事は、地形に沿うという事。
逆に平原では分散し、また別の地形で合流する可能性がある。そして戦車と違って正面にしか撃てないという事は、ジャンプを繰り返して接近すれば良いという事だ。
やっかいなのは周囲にキメラのような射程の長い敵が居て、移動経路を制限されるかどうかだ。また、一局面で言うと最悪なのはスキュラが居る場合だが、これは全体で見れば早めに倒せるというという意味でラッキーだと思っておこう。
「後はなるたけ一撃で葬りたいものだが……」
残っている記録と画像を参考に、どうやれば可能なのかを判断していく。
普通の銃器であるならば、皮の薄い部分を狙って狙撃すれば良い。だがミサイルで確実に倒すのはどうするべきなのだろう? ここで参考になるのが、一撃で倒せたゴルゴーンと倒せなかったゴルゴーンが居る事だ。
画像を参考に見てみるが、パっと見で特別な個体であるようには見えない。
耐久力が同じであるならば、別の要因があると見るべきだろうか。一つはライフルと同じ様に皮の薄い場所に爆風が当たったという物。もう一つは単純に二本以上から爆風を受けただけ。
「確実な成果を上げるにはどのみち連戦せねばならん。ならば試しておくか」
前回使ったダミーコードと類似の機能を用意しておく。
あの時は倒さない為のマーカーだったが、今度は逆に優先撃破用のマーカーだ。二十本のジャベリンミサイルの内、このマーカーを幾つか割り振って確実に二発以上が当たるようにしておく。
向いている方向が同じに成り易いので、爆風を受ける位置も似たような状況になるはずだ。
ゴルゴーンの砲列周囲で複数を爆破させて、殲滅できれば複数爆破によって周囲から揺さぶる意味が大きいという事。それで殲滅できないのであれば、皮の薄い部分ではダメだから運しだいということになってしまう。
「連戦になるがこの先で一度戦うぞ。その後は移動と休憩を挟んで翌日になるだろう。少佐との合流はその時だ」
「はっ! 弾薬の量が微妙なのでそうしたいとこでした」
「自分はあまり変わりませんけどね」
思考がまとまったので部下たちに声をかけると予想通りの流れだった。
先ほどの戦いも実験的要素が強かったので、弾薬の消費度合いは微妙なところだ。露払いの兵藤はそこそこに消費しているし、後方警戒の妹尾はそれほど消費していない。
ならばあとは全体の疲労と、人型戦車の足回り問題だ。
やはり一番のネックはここになる。迂闊な判断ミスをしたり、脚部損傷からの擱座など願い下げである。危険地帯を通るためにトレーラーで移動できなかったのは残念だ。不良共に佐賀・熊本便の塹壕通路を掘らせるのも良いかもしれない。
●
被弾して居ないにも変わらず、足にダメージが累積する長距離行軍。
どうにか佐賀との県境に辿り着くと、二回目のテスト用である幻獣の集団を見渡した。
ミサイルの斉射で巻き込める数はそう多くないが、ここでゴルゴーンの砲列を殲滅できるかを実験する。
火力の向上が見込めるならば、本命の戦いでもなんとかなるだろう。その為にも確実な勝利と兵に損耗を与えないことが優先された。
「これからクエスチョンマークを逆に描くような軌道を掛ける。兵藤少尉はゴブリン共を蹴散らしておいてくれ。妹尾少尉はカーブの開始時点に隠れ潜んでヒトウバンを潰しておけ」
「「はっ!」」
敵の眼前を横切りながら、来襲するゾンビヘリ群を移動力の差で片付ける。
そのまま移動すると追いついてきたゴルゴーンの射界に入ってしまうので、緩やかなカーブを描いて旋回しながら位置を変え続けるルートを設定した。
きたかぜゾンビをジャイアントアサルトで落としていく中、視界の端にゴルゴーンたちが現れる。
敵の動向が余計なことになって居ないかを確認し、部下が狙われていないかどうか、移動先は本当に適切なのかを頭の隅に入れておく。そして騎魂号の上半身を傾け戦場を闊歩してはトリガーを弾いていった。
「空中騎兵クリア!」
「よし、作戦の最終段階に移行する! 成功・失敗いずれにも関わらず残敵の掃討よりも各自の安全を配慮せよ!」
「はっ!」
今回は敵集団の中で、狙い易い相手を選んだだけの戦いだ。
よって外延部からはこの場所目掛けて殺到している可能性がある。実験結果を出したら後は一目散に脱出である。この戦い自体が敵の流れを修正するための予備作戦とも言えるだろう。
私は優先マーカーを四つほどコピー。
残り十六本は敵集団へ平均的に射出。選んだ四つはゴルゴーンの砲列を囲むように設定した。
「ターゲット、ロック。撃て!!」
「ん。どどーん!!」
前屈みになった姿勢から放たれるジャベリンミサイル。
狙うは十匹前後のゴルゴーンが築く砲列だ。一応は範囲の中にゴブリンや他の中型幻獣も居るが、そんなものはオマケに過ぎない。
画面の中を吹き荒れる爆風と、僅かなタイムラグと共に流れる無数の
それらが過ぎ去った後には、ゴルゴ-ンという敵軍識別マーカーは何処にもなかった。どうやら範囲内に居たらしいミノタウルスの反応を見た時、私は頭に血が上って夢中になり過ぎていたことをようやく悟る。
「大戦果だ! 僅か十匹の群れと言えど狙って確実に落とせることが判明した。素晴らしい! この大戦果を胸に次なる勝利に向けて撤退せよ! これは逃走に非ず! 明日の為に終わる今日である!」
「「おお!!」」
生き残ったミノタウルスだけでも倒したい……。
そんな思いを押さえつけて逃走を開始する。ここでレーダーに映る敵を殲滅するのは容易い。だが僅かな出遅れが、包囲網の完成に繋がってしまうかもしれないのだ。
それを考えれば次々に移動し、有利な場所を抑えてから確実に勝てるようにするべきだろう。
よく考えれば中途半端に消費した弾倉を使っていることもあり、ここでの戦いは早めに切り上げて正解だろう。一目散に逃げだした部下を守りつつ、私は戦場を後にする。
「これからどう動きますか?」
「敵集団の連続性を絶つ。そうすれば本隊は目の前だけを片付ければ済むようになる。この周囲の敵は集まって来たとして、同じようにもう一か所くらい風穴を空ければ良いだろう。それで駄目なら迂回している補給物資を待つしかないな」
果たしてそれで何とかなるかと言えば密集度合いと、敵群の構成というしかない。
仮に三万ほどの幻獣がこの周囲に散らばっているとして、百ほどが消失。後に数百が仇を取ろうとやって来る訳だ。そうして生じた空白を使って防御陣地を築き、合計で千ほど消えたとする。
続けざまにもう数百が消えて、空白地がドンドンできる。
それを脅威と思うか思わないかは分からない。だが、ここにもう一つの過程が生じる。戦闘において中核である中型幻獣の、そのまた中心である『ゴルゴーンの砲列が幾つも消えたらどう思うか?』である。
人間で言うと本格的な侵攻を掛ける前なのに、いきなり戦車中隊が幾つも消えるようなものだ。
(もっとも、それは敵に知性があればの話だ。存在しないか脳筋全開だったら戦闘を継続するだろう。だからこそ、その場合には補給が重要になって来る)
何もしない内から中核部隊が消失したら、仕切り直しを考えて当然ではある。
しかし総数で言えば所詮は数百、その中の数十に過ぎない。中型幻獣の数を少なく見積もった一割でも三千、多ければ三割で九千には達するだろう。その内の数十など誤差だと考える者も居ておかしくはない。
だからこその第一塹壕線の奪回なのだ。
空白地帯を作り上げて、その間に奪還と工事を再開する。相手が訳も判らぬうちにそこへ呼び集め、こちらは火力を結集して次々に各個撃破する。そうすれば佐賀市から援軍が来るだろうし、戦線が県境で固定される。
一朝一夕に戦闘が完結するとも思えないが、佐賀全域に広がりかねない戦いが県境で留まるなら十分な成果と言えるだろう。後は佐賀兵に任せて熊本市まで撤退すれば良い。
●
ここからの作戦工程は一本きりだ。
新城少佐に合流しつつ、彼らが目指している塹壕線奪還の邪魔になる敵集団を粉砕する。その事で奪還を楽にするという当初の予定を確実にしつつ、全軍の士気を高めるのだ。
それが上手く行くにせよ、上手く行かないにせよ合流予定には変わりない。
こちらは手持ちの弾薬で済ませているし、補給は九州山地沿いに迂回しながら進んでいるからだ。合流せねば
「味方は敵集団の出口を抑えているようです。火砲で叩きながら様子見しているのかと」
「相手は大規模な集団だからな。そのまま叩けば損害が大きいと判断したのだろう」
大まかな地形に沿って敵集団が流れている。
これを横合いから叩くのは簡単だが、敵も地形に沿う必要が無いので四方八方から浸透してしまう。
そこで一歩引いて他の地形込みで、流れが一定になる位置で戦っているわけだ。
移動を妨げている丘陵なり河川が敵の攻撃を緩和してくれるし、双方の地形を回り込んで来る敵もグッと減る。なにより一か所から延々と流れて来るので、火砲や戦車で集中攻撃すればそれだけで敵を倒せてしまう。
「もっともそのせいで流れを止めてしまったな。佐賀兵は借り物だし、無理して殺すくらいなら当初の塹壕まで戻った方が良い。さて……」
まずY字状に二つの集団が一つに集まる、この流れを変えるべきではない。
その上で一度だけ後続を消失させ、その間に塹壕を取り戻して待ち構えるべきなのだ。そうすれば一部が塹壕を広げながら、元の流れで押さえて置ける。
であれば河川側と丘陵側、どちらから行くべきか?
片方を掃除して敵集団の数が減れば、集結点を一気に叩きつつ前に出て塹壕を取り戻せるだろう。
「河川を通り道にして合流する! 射線は通っているから決して顔を出すな!」
「「はっ!」」
安全に行けるのは丘陵側の方だ。
これまでの戦いで丘陵越しにミサイルを放てることは判っている。キメラやゴルゴーンの攻撃をかわしつつ、敵の多い場所で撃てばよい。
だが、それでは敵が集まらないので集団を途切れさせられないのだ。
良くも悪くも視線を集めることで、敵を集め、同時に味方に戦果を見せつけねばならない。加えて河川の窪地へゴブリンが入り込んでいたら判り難いので早めに倒したいのもあるか。
「さすがに球磨川水溪ほど深くはないな。ビクトリア、暫く伏せるからいつもと態勢が違う。気を付けろ」
「ん」
人型戦車の利点として、しゃがんだり俯せになることができる。
手持ち兵器を入れ替える事も含めて、多彩な動きを活かしてこその兵器だろう。
河川を利用するには俯せにならざるを得ず、暫く待ってゾンビヘリ群を叩き落とすまでは歪な格好のままだ。
「……まさかこんな格好の方が安定するとはな。考えてみればスナイパーも伏射するか」
思ったよりも命中精度が高いのが意外だった。
ジャイアントアサルトは連射しているし、ゾンビヘリは耐久性が無いから戦果は変わらない。だが複数の機体を運用するのであれば、援護機はこうやって使うのが良いのかもしれない。何より、足に負担が掛からないのが幸いだ。
そこから先はいつもの通り。
しゃがみながら移動し、相手の視線を引付けながら移動する。
「飛ぶぞ。連続で三度! 二度目の時にミサイルを使用する!」
「ん。しがみついてる」
少しずつスピードを速めて走りながら、西回りの延長上にジャンプ。
そこから南西に飛んで、敵中の中で跳ねまわった。目指すは安全な場所だが、当然そんなものはない。ではどうするのか?
ミサイルを発射したら、結果的に安全となる様にするまでだ!
優先目標のコードを使って、ゴルゴーンの砲列とミノタウルスをできる限り多重爆破の中に巻き込むようにした。残りは中型でなくとも、見栄えの都合でゴブリンでも構うまい。
「今だ。ターゲット、ロック!! 発射!」
「どーん!」
重要なのは砲列が消える事、そして自分を狙える相手が確実に消え去ることだ。
私が最初に居た方向を向いているミノタウルスなど無視して構わない。近い位置に居る連中が確実に消えて行くことに私は安堵した。
一面の幻獣は消え去り、敵中にポッカリと穴が開く。
丘陵や河川の影響でまとまっていたこともあり、実に多くの敵が消え去った。少なくとも中型は十四・十五は入っているだろうし、ゴブリンに至っては数えきれないほどだ。
「残敵を掃討しつつ塹壕線に向かえ!」
「「はっ!」」
次の位置にジャンプして、残敵の視線を一度切る。
そこから超硬度大太刀でレンジの外に居たゴルゴーンをぶった切る。連続でもう一度攻撃すれば、奴が旋回するまでに倒すことができる。歩きながら慌てて向かって来る手負いのミノタウルスのレンジから外れ、すれ違いざまに一撃浴びせて倒しておいた。
どうやら少佐もこの動きを予想していたらしく、佐賀兵の大半を引き連れて塹壕線を目指しているようだ。戦車は移動しながら砲撃しているが、火砲は相変わらず幻獣の道を叩いている。おそらくこのまま勝利できるだろう。
「何ともド派手にやったな」
「必要に駆られてです。次からはここまでの作戦は立てたくありませんね。安全性から言うと電子戦仕様で延々と戦う方が好みです」
少佐はサッパリした顔で戦いの終わりを迎えていた。
しかし騎魂号を寄せると、肩の辺りを見てニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべた。
「ともあれ二つ目の銀剣突撃賞おめでとう」
「はっ……?」
肩の辺りには確かに銀剣突撃章所持を示すマークが描いてある。
味方の士気を鼓舞するためだが、おかしなことになって居ないか?
「ですがレコードが考慮されないのは最初の一つ目だけだと聞きましたが? 私は二十など……」
「知らなかったのか? エース認定と違って連戦では考慮されるんだ。複数持ちで生きてる奴は中々見ないからな。さぞやパーティでもてはやされることだろう」
少佐は私が
なのに言いの悪い笑顔を浮かべたまま笑っている。どうやらまた何か思いついたのかもしれない。
しかし……。
「どうして……こうなった……」
という訳で佐賀の県境を奪還。
徐々に塹壕を掘りながら要塞化を目指していくはずです。
(良い地形が無いので当社比)
●ミサイルの使い方
要するにゲームにあった『狙い』コマンドCA。
あれをニュアンス的に導入した感じです。
滝川君の「あの辺が柔らかそうだった」に近い感じですね。
他に覚えているコマンドは移動射撃・旋回・上半身傾け。
白兵戦は専門外だけど知ってたら欲しいのは、すり足でしょうか。
ターニャ専用のコマンドはジャンプ射撃を覚えれば、航空魔導師ポイですかね。
進撃の巨人勢が居たら、ジャンプ斬りの絢爛舞踏でも居るかもしれませんね。
まあ兵長の出現フラグは「掃除しない」「お掃除警察を呼ぶ」だと思うので
デスクワークは綺麗にするターニャが隊長だと、来そうにありませんが。
●与えてるダメージ低くない? 逆に被弾してなくない?
ターニャは基本、移動射撃で射線外しています。
なので相手の攻撃は当たりませんし、逆にこちらの命中も下がってます。
士魂号が後期型になれば変わってくるのかもですが、暫くはこんな感じです。
●次回予告
熊本県に颯爽と現われた英雄、十一文字の女神。
ターニャ・フォン・デグレチャフ女史に、安藤流が迫ってみたいと思います。
女史は友邦であったドイツの中でも、古き独逸帝国に連なる騎士の家系で……。
とかやるかもしれません。
その場合はいつもの一人称ではなく、アンドリューさんがレポートしたり
代行殿がハッスルしたり、幼女がお腹空いたと喚いたりするかもしれません。
ゲームで言う所のマスターシーンという奴ですね。