ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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戦闘団進撃編
戦闘団の構築


 年を明けて新年に入り、色々な事が変わった。

予定通り塹壕線構築の功績で上級万翼長に昇進し、軍籍の大尉よりも学兵としての地位が上回った格好だ。戦闘団編成の功績で少佐に昇進するのはまだ先だろうし、暫くは学兵としての身分が優先することになる。

 

とはいえ同じ階級でも徴兵による『相当』では幾らか発言力が落ちる。私の二重階級はパイロットに与えられる発言力を伴わない階級や、陸軍と海軍を同時に兼ねる場合のモノに近かった。そういえば新城少佐は大陸における功績で海軍士官でもあるらしい。

 

「デグレチャフ上級万翼長。これより会議を始めたいと思いますが」

「よろしい。林上級万翼長殿。生徒会連合からの報告を頼む」

「はい。まずは学兵第一陣である熊本各高の配分ですが、この様になっておりますわ。問題は編成中に付き滞っている場所がありまして……」

 副官として任じた黒い制服の女子を始めとして、片側へ傘下に入れた部隊の黒服。

反対側には生徒会連合のトップを務める林凛子と、その傘下である南高の白服が並ぶ。何故か同階級なので地位は同じだが、私の方に軍籍があるので一応はこちらが上という事になっている。しかしこの白黒で対立した構図はいかがな物か……。

 

察し良い方にはご理解いただけると思うが、絶賛対立構造による冷戦中である。

日本政府を構成する各派閥の勢力争いの結果、その皺寄せがこちらにも来てしまった形だ。連中、本当にこの戦いに勝つ気があるのが不思議でたまらなかった。

 

「その件に関しては南高の快速部隊に任せる」

「上級万翼長! それでは……」

「承りましたわ。幾島千翼長に任せておけば速やかな解決が為されると思いますの」

 かろうじてバランスの取れている状態で、相手の派閥に功績を立てさせる。

その事に言及しようとした副官を目で制していると、林はコロコロと笑いながら請け負った。ちなみに生徒会連合を造った段階で生徒会長の地位と指揮権を部下の幾島に委ねており、実質上、この女は二票の発言権を所持している。

 

とはいえこれは仕方のない処置だ。

権力闘争を無視して上手く行かせるために、先日この女とは取引をした。実際、南高は熊本南高校というのが正しいのだが、本校を無視して南高で通じる辺り、どれほどの実力か伺えよう。

 

「南高のウォードレスは装甲無しの軽量級ばかりで揃えられている。その度胸を評価しろとは言わん、最低移動力の違いは理解しろ」

「……はい。了解しました。口を挟んで申し訳ありません上級万翼長」

 林とその直属の部下である幾島は独断行動のケがあるが、それだけ優秀だった。

仕事を任せられる実力はあるし、自由に動かすにはこういう人物が向いている。

 

対して副官を提供した黒服の方は、実力だけならそれ以上なのだが……。

典型的な上意下達の集団で指示待ち人間が多かった。こういう人間は手元で判断余地の少ない仕事を与えるのが、最も理想的な環境になる。あえて言うならば、この二グループの使い道は適材適所なのだ。そもそも傘下の戦闘団も未完成だしな。

 

「それではターニャ『お姉さま』、失礼させていただきますわ。ごきげんよう」

「……っ!」

「必要な事項があれば追って連絡する。双方ともに下がれ」

 何というかこの煽り立てる姿勢だけは何とかしていただきたい。

林は普通の筈なのだが、部下の幾島が異様に黒服連中へ対抗意識を持っている。逆に黒服の方は性格的に上位者に従う傾向にあり、女子高でもあるので高い実績を持った私に心服している。その結果、独断専行の強い白服組に対立意識を持つ傾向にあった。林は双方のガス抜きの為あえて煽っているのだ。

 

思い出せないが何処かで見たような白服と、ドイツ兵を思わせる黒服の連中。

華やかなのは良い事なのだが、胃が痛い上に執務が滞るので何とかならない物か。

 

「あの馬鹿ども何とかならんのか」

 連中にあえて見せなかった配備資料には、更に頭の痛いことが書いてある。

人型戦車のパイロット候補は貴重なのに、生徒会連合の傘下でも成り立つように強力な『要請』が回ってきているのだ。これを無視するわけにもいかないし、新城少佐へ協力を求めようにも、彼の元へも似たような命令が来ているらしい。やはり上の連中は勝つ気が無いのではないだろうか。それとも新城少佐が駒城閥であるというのも問題なのかもしれない。

 

「……どうしてこうなった」

 

 初めて林凛子に出逢ったのは年賀の祝賀会もあって県庁に呼ばれた時だ。

生徒会連合を編成して彼女がそのトップに就任する前の事だが、挨拶自体にそれほど違和感はなかった。私はあくまで自衛軍に奉職する軍人であり、学兵としてはあくまで将校課程とプロパガンダの為でしかなかったからだ。

 

「林凛子と申します。こちらは私の家令を務めます幾島佳苗」

「幾島であります」

 林は和服を着ており、いかにも大和撫子と言った風情だった。

可憐な彼女の脇に控えるのは眼鏡でスレンダーな……偏見かもしれないが宝塚にでも出そうなクールビューティである。

 

ちなみに家令というのは執事みたいなものだと思えばよい。

詳細には違うのだがここで語る意味はない。林家付きなのか林凛子個人に付いているのかは判らないが。私には関係ないとそう思っていた……この時までは。

 

「わたくし熊本南高校で生徒会長をやっておりましたが、この度、生徒会連合の総長を任せられることになりました。つきましてはこの幾島に職責を譲ることになりましたの」

「はあ……?」

 この発言自体は特に問題が無いように聞こえる。

学兵の総長に任じられた以上は、生徒会長として実行部隊を率いるわけにはいかないだろう。職を譲る相手も『普通』であれば前任者と後任者の間柄に過ぎず、仲が良ければ尊重する程度でしかない。

 

しかし問題なのは、家令であると説明を受けたことだ。

非常に近しい間柄で、直属の部下という事は総長としての意見と、南高生徒会長としての意見を同時に使えることを意味していた。もちろん表面上は対立して見せることもできるだろう。

 

重要なのは問題だけの事ではない。

どうして『この場で言う必要があったのか?』という事である。

 

「時にお尋ねするが、最古の同人誌をご存じかな? 例えば源氏物語というのだが」

「あらあら。独逸騎士は博識でいらっしゃるのね。わたくしは彰子さま役で、デグレチャフ女史は定子さま役という事になるのかしら。さしずめこの幾島は紫式部ですわね」

「光栄です」

 くすくすと笑う林だが、頭の回転は相当に速い。

何かを伝えに来たのだろうと尋ねたら、政治問題で余計な役目を押し付けられたと告白してきた。

 

さて、私はどう答えるべきだろう?

幾つか回答するパターンはあるが、そもそも私が手元に権力を残したいと思っているかどうかだ。安全な後方に居たいとは思うのだが。

 

「それはそれは。私の清少納言はどちらにいらっしゃるのか、教えていただけると幸いなのだが」

「そうですわね。『定子さまのサロン』を考えると、黒森峰の西住ちゃんなんかどうでしょう」

「っ……」

 紫式部と対立する清少納言というのは後日の創作だ。

しかし判り易い例であり、幾島の反応を見るとまさしく『適当』な間柄なのだろう。

 

黒森峰女学院の話は優秀な兵に成り得ると聞いているリストにあった。

南高の様に兵器開発力などの話は聞かないが、一糸乱れぬ統率力が有名。そしてこの地方では名門であり御留流の一つ、西住流の子女であるとも聞く。

 

「それでは学兵に関しては全て『彰子さまのサロン』にお任せしましょう」

「よろしいのですか?」

「私の必要とするモノが供給される限り」

「それは何に用いられますの?」

「人類が求める勝利を適切に配給する為に。必要なモノを必要なだけ。それさえあれば」

 私と彼女は短い間で短い談合を交わした。

それ以上は必要ないし、そもそも権力など面倒でしかない。何よりこれが重要なのだが、熊本県そのものが囮でしかないのだ。何処にも安全な後方が無いのであれば、自由に行動する権利の方こそ重要だろう。

 

「それでは全霊で承りましょう。時にお尋ねするのですがデグレチャフ女史、いえターニャお姉さまならばどのようにお導きされる予定でした? 随分と絶望的な環境ですけれど」

「凛子さま。まるで黒森峰の様な事をおしゃらずとも……」

「まさに必要な事を。絶望的な環境の例えですが、タイガースを例にとりましょう」

 こちらの使った言葉を再利用して、さらりと尋ねて来る。

お互いの合意が整ったが、何処までやるのか、渡さなかったらどうするのか尋ねているのだろう。面倒なので新聞を手に取り連敗中のタイガースを例にとる。

 

「そうですね。タイガースに十連覇を約束すると仮定しましょう」

「万年最下位をカープと争っている野球球団ですか?」

「……っ!?」

 何故か幾島に反応があった。

心の機微などよく判らないので、無視して続きを話すことにする。赤Hell軍団の事は良く知らないので、野球事情には詳しくないのもある。

 

「文部省に働きかけて有望な学生を送り込みます。同じように外務省に働きかけて、流れ込む者の中から大明神の後継者と呼べるような有望な選手を見つけ出しましょう」

「そ、そこまでしますか……?」

「必要ならば。絶望から抜け出すのに必要なのは希望ではありません。確実な力、適正な運用です」

「そこまでおっしゃっていただけるならば。この幾島もターニャお姉さまの力になりましょう」

 よくわからないが彼女の琴線に触れたようだ。

クールな瞳に力が宿っていたのが見える。

 

ちなみに『お姉さま』というのは黒森峰が女学院で、仲の良い先輩後輩を姉妹のように例え揶揄するネタ発言らしい。要するに林は黒森峰を揶揄して見せることで、対抗意識を持つ幾島を煽ったのだろう。

 

 

「ふうん。君の所は随分と仲が良好で良かったじゃないか」

「という事は少佐のところでも?」

 その後に新城少佐の所に顔を出すと、随分とふてくされていた。

それで怒鳴ることはせず、全てのカロリーを陰謀と殺害手段の考察に当てているかのようだ。

 

「ああ。佐脇少佐という駒城閥でも優秀な男だが不運だった男をね、僕への当て馬にされた」

「あー。随分と面倒なことで。世間体的には申し分ないのがこれまた」

 人間関係というのは非常に判り難い。

新城少佐も佐脇という男も同じ駒城閥ではあるのだろう。しかし野戦任官で功績をもぎ取った男と、内地で優秀だった男では差がどうしても生じる。身内ならばライバルではないというのは幻想だ。むしろ身内だからこそ許せない関係もありえるだろう。

 

「事もあろうに正規の竜騎兵を持って行きやがった。おかげでこちらの手持ちも回ってくるのは学兵ばかりだよ」

「そちらも……とはまた。というか竜騎兵にも学兵が居たんですね」

「一応な。学兵の親玉である文部省を統括する芸州公は君に好意的だし、隣の備州に居る西原は駒城の殿様とは同期だ。なんとか話は付けられる」

 という感じでお互いに無い無い尽くしの身の上を、肩をすくめて苦笑し合った。

 

 その後に戦闘団編成に向けて本格的に動き出した。

とはいえ自衛軍の人員や装備を回してはもらえず、学兵で使えそうな者を組み入れる他なかった。

 

歩兵は減耗した兵をリクルートすることもできたが、戦車兵と戦車そのものはそうもいかない。

学兵に支給される士魂号L型(普通の戦車)やモコスを、生徒会ごと傘下に組み入れる事にした。

 

「かのデグレチャフ女史にお呼びいただけるとは光栄の限りであります。この西住まほ、上級万翼長殿に全力を捧げさせていただきます」

「うむ。ところで西住千翼長。そこの二人を紹介してもらえるかな?」

 紹介もあって早速に黒森峰を呼び出してみた。

実際には動かしてみないと信用が置けるかは分からない。だがキビキビとした動きはどことなく武門の血を感じさせる。

 

しかしここで気になるのは、連れている二人だ。

共に黒森峰の制服を着ているが、一人は真新しい百翼長の徽章を付けもう一人は何の徽章も付けていない。仮に平だとしても、戦士の徽章を付けているはずなのに。

 

「こちらは逸見エリカ、私の片腕です。必要な事を命じてください。もう一人は妹の西住みほ。……人型戦車の適性を見ていただければ幸いなのですが」

「逸見です。双方の副官役を務めさせていただきます。よろしくおねがいします」

「西住みほです。よ、よろしくお願いします!」

「ふむ……?」

 なんというか微妙に意味が分からない。

優秀な戦車長であり校内での副官扱い(取次ぎ役)の車長を紹介するのは判る。しかし妹を人型戦車のパイロットとして推薦する理由が判らない。

 

適正が優れているから自信があるとか、私を尊敬していて近づきたいわけでもなさそうだ。

 

「その、先に行われました合同作戦に置いて、みほは南高の幾島に目を付けられまして。……できれば上級万翼長の下で使ってやっていただければ、と」

「ああ、そういう事か」

 先行して集った熊本組で合同の戦闘を行った。

全国からやって来る学兵に、熊本兵の練度を試すために行われた物だ。どうやらそこで揉め事を起こしたらしい。

 

そこで私に預けて妹を守りたいと言うことか。部隊から外したが、貴重な人型戦車の適性があったという理由ならば言い訳になる。

 

加えて特務部隊である戦闘団は学兵としての制服が無いので、何処かの学校から服を借りる事になる。他の特務部隊も同様の処理の筈だが、私が黒森峰を傘下に入れれば、同じ制服で戦えるという事なのだろう。

 

「不要な救助というのは言いがかりですが、戦果を上げられなかったのは確かです」

「エリカちゃん……ありがと」

「命令の『枠』であったならば問題ない」

 士官の行動には裁量権がある。

与えられた命令に対し、どう行動するか、どこまでやるかを決めるのは担当士官の仕事だ。ゆえに細かい指示を与えるかどうかは上司の判断である。

 

そもそも救助に目を付けたというが幾島にも咎める権限などありはしない。

生徒会連合の決定として全面攻勢をかけたが、十分な功績を挙げているから問題はないのだろう。自分が担当して居れば与えられた打撃を元に、十二分な成果を期待して怒っているだけなのだ。

 

「私は良くも悪くも人の命は人的資源だと考える。戦果を挙げた上で資源を貴重と考え救助するならば妥当であると考える。それで良いか?」

「……っ! ありがとうございます」

「良かったわね」

「うん……」

 この辺は人間性というよりは、受けとった感性の問題だろう。

私は別に人命救助を褒めたつもりはない。無駄使いをしていれば幾島を咎めたかもしれないが、それも裁量権の範疇ならば問題ないのだ。

 

人的資源をどう有効に使うかの価値観と感性の差でしかない。

幻獣がこの世から消えてなくなる為に、人類の殆どが死ぬのであればこれを許容するだろう。

 

「私が重視するのは別の事だ。必要である時に前に出て、必要であれば下がる事。逆に有能であっても『敵は一匹残らず駆逐してやる』と戦車が壊れるまで戦い続ける馬鹿は要らん」

「「肝に銘じます!」」

「はいっ!」

 誰にとっても幸いなことに、みほには人型戦車の適性があり命令には従った。

まほは優秀な士官であり逸見もまあ戦闘面では優秀だった。問題があるとすれば、副官として取り次ぎを担当することになった逸見が、妙に私を慕う事だ。おかげで幾島たちが何か言うたびに、キーキー言ってうるさい事この上ない。

 

ともあれようやく戦闘団も形になり、人型戦車の要員も集まってきた。

本格的な戦いに向けて、態勢が整い始めたのである。




 という訳で戦闘団編に突入です。
この話が終わると春の新学期になるので、いよいよ5121が編成されます。
その前に潰れたトカゲみたいな顔の芝村が出てきますが。

●南高
 芝村マフィアとかギャングとか言われるメンツが学兵を牛耳ってるらしい。
現在は対立演出の為、芝村であることを名乗って居ない。表向きのよそよそしさと妙な協力体制はそのせい。
林と幾島に関しては詳細なデータがないので、林の方はリタガンから撫子系のお嬢様
幾島の方は眼鏡でキリっとした女傑という文言から、宝塚系にしてある。
なお幾島はトラキチらしいので、ガンダム物でも使った太閤さまの十連覇ネタを天丼した。
この二人が主人と家令であるという記述はないがリタガンぽいのと、
権力構造を判り易くするために、あえてそう名乗っている。真実は不明。

ちなみに5121の白服はこの南高の礼装を貸し出されているらしい。

●黒森峰
 なんと黒森峰は熊本の学校で女子高なのだ(女子高は戦車兵確定)。
本来はガルパンだからといって安易に登場させる気はなかったのだが……。
南高が自由自在な芝村主義で速攻型なのに対し、黒森峰は上意下達の火力重視型。
まるで今回の話の為に誂えたような対立構図の完成度なので、つい出してしまった。
あとターニャは黒服が似合うよね? 制服を貸し出されてどうぞ。

ただガルパンとは流れとライバル関係が違うため、みほは推薦で戦闘団直下に。
エリカとも仲は良いままで、幸せな女子高生活を送っている。
おそらく暫くはターニャの下で鍛えられ、小隊を任せられることになるかと。

●対立構造
 末期物なのにグダグダやってるのは皇国の守護者も幼女も同じ。
むしろ幼女の方が作戦局と戦務局が仲良いのが羨ましいレベル。
そういえばヘルシングも新教旧教えで無駄に争ってるのを見るに、人類はどこも末期。

それはそれとして、ガンオケ緑で出て来る広島には竜騎兵がいて文部省のTOP勢力。
西原町とか西城町というのも広島~東広島にあるので、皇国の西原家を絡め易い。
九州に背州があり、芝村と対立する会津閥の居る東北に安東が居るので、実に皇国ッポイ。

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