ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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新城大尉とのガンパレード

 目を覚ますと毛布で造った簡素な寝台の上に、裸で他の将兵たちと一緒に寝かせられていた。

貞操の危険よりも先に、身に着けていた装備の有無と傷の具合を確かめる。

 

ウォードレスは近くに捨て置かれ、ありがたいことに挫傷の傷は簡単に治療してあった。

意識を失う前の記憶がだいぶ曖昧だが、私を回収してくれた御仁は適度に親切であるらしい。

 

「気が付かれましたか中尉殿? 意識がハッキリしておられるならば新城大尉をお呼びしますが」

「そうしていただけるとありがたいな。曹長」

 歩哨に立っていた厳つい曹長が私の目覚めに気が付いた。

天幕を張る余裕が無いからこそだが、よくもまあこの中に居た私の変化に気が付いたものだ。まあ年端もいかぬ少女など私くらいなので、注目さえしていれば判らないでもないか。

 

やがて新城大尉という人物が目の前に現れた。

本来であれば階級が上のこいつが私を呼びつけるべきだが、怪我していることを慮ったのだろう。あるいは単純に、時間を無駄にしたくなかっただけかもしれない。

 

「新城だ。早速だが助けた恩とひんむいた非礼を相殺してくれるとありがたい。さっさと本題に入りたいからね」

「はい。大尉殿。自分としては生きているだけで儲けものと心得ております」

 どうやら時間を無駄にしたくなかった方らしい。

金壺眼のくぼんだ瞳で、私というよりは周囲の様子を探っている。今にもゴブリンが顔を出しそうだとでも言わんばかりの警戒心だ。

 

「それは重畳。君の生体結晶は随分と具合の良い物であるようだが、ソレで連絡を取ったりは?」

「……はい、いいえ。担当将校殿の作戦にもよります。許可なく連絡を取る者は不心得でありましょう」

 生体結晶は色々とプログラムをインストールできる。

通信端末の一種としても使えるが、生憎ながら私は長距離通信ソフトなど入れていない。

 

それに時として、通信が問題になることがあるのだ。

特に味方が危機的状況にある時、迂闊な通信が問題を呼び込むことになる。

 

「ふむ。君とは上手くやっていけそうだ。体調が戻るまで待つ余裕はないので、考えがまとまり次第に出頭せよ」

「はっ!」

 味方が危険な時、兵の一部はその場で死守を命じられることがある。

何があっても撤退するなと墨守を求められ、それを破ると例え助かっても抗命罪で処断されてしまう。

 

だからその命令を聞かないために、あえて通信を入れない。という手法もあるのだ。

元の任務の延長線で行こう。そういう意味を含ませて返答すると、新城大尉はニヤリと笑って行ってしまった。

 

(危ないな。もし援軍を求めて通信しましょうなんて言ったら、次に起きた時に無事だったか)

 最悪の場合、殺されるか荷物だけ奪われて放置されかねない。

ここが何処か判らないが、八代平原を抜けたくらいの場所だろう。こんな場所で装備抜きで置いていかれたら、少なくともそれで終わりである。

 

そしてここで私が考えねばならないのは、今後にどうするかだ。

もちろん私自身の事もだが、回収されたこの隊に関しても同様の事がいえる。

 

あの新城大尉が去り際に言った『考え』とは、私が落ち着くのを待っているという事ではない。

最悪な現状をどうやって抜け出すか、その事を共有して共に生き残ろうという提案なのだ。もし無策で顔を出したら、呆れられて歩兵として最前線で戦わされかねない。

 

(やはり運動戦しかあるまい。数に勝る敵相手にまともにやりあうのは論外だ)

 というか幻獣と正面からやり合うなど御免こうむる。

塹壕戦も悪くはないが、あれは一定時間に区切るか、潤沢な支援が無ければ不可能な戦いだ。深く長く掘り下げ、幾つもの支援要員を用意したライヒとは違う。

 

その点、運動戦では肉迫するのは有利な状況でのみ殲滅の為に切り込むだけだ。

基本的には牽制しつつ相手の攻撃を、先ほどまでの場所に誘引。これを放置して次の場所に移動し続ける。これならば何処かで勝つことができるし、見い出せない場合でも囮として動いたという実績が残る。

 

「我々の目的に重要なのは秩序です。基幹部隊は整然とした動きで敵を翻弄しつつ、その他の部隊にこれを支援させます」

「うん、意図は判る。馬鹿どもに楽しい戦いを邪魔されたくないものな」

 ある程度練り上げたところで新城大尉に具申すると、驚くほどあっけなく採用された。

というよりもこれ以外に確実に勝ち抜く方法はない。足手まといを率いて運動戦など馬鹿げているし、より先鋭化した機動戦など不可能だ。

 

とはいえ数が居なければ戦えないのも事実だし、放置すれば捨てたと罵られる。

追随しえない連中はこれをまとめて比較的安全な場所に移動させてそこから支援させるのが妥当だろう。これならば援護射撃を期待できるし、そこを補給地点にすれば肉壁にしたと言われずに後方に壁を築ける。奇襲で後ろから攻撃されたとしても、そいつらがやられている間に補給できる。人的資源は有効に使わねばな。

 

新城大尉がこれを受け入れたのも、最初からその答えがあったからだろう。

ならばあとは答え合わせ。知的な会話を愉しみながら、お互いの長所短所をすり合わせるべきだ。

 

「で、具体的にはどうする? 君が構築したような塹壕を兵たちにでも掘らせておくか?」

「はい、いいえ。塹壕は弱兵を強兵に変えますが最初からソレをやるには平原は不向きです。むしろ救出した兵士たちに出入り口での作業をさせるべきかと」

 来た! 前回の戦いで私が半ば成功したが、途中から失敗してしまった作戦だ。

アレはあくまで一時的な方便、本来は限定的な状況でこそ役に立つのだと回答しておく。

 

そして兵の質で三段階に分けることを提案しておく。

救出した兵士をそのまま回収するのではなく、まとめて狭隘な場所に放り込んで塹壕戦の準備をさせておく。そのくらいならば雑兵と化した有象無象でも作業できるし、足手まといな連中を連れて行かない理由にもなる。

 

「すると何か? 君はただでさえ少ない手持ちを更に分けると?」

「はい。統一意思の図れない集団化はむしろ有害です。秩序だった動きのできない兵は、塹壕を構築させることで秩序を取り戻させ、我々の帰還地点を守らせます」

 何もできない雑兵でも、穴を掘って立て籠るくらいはできる。

前回は二重塹壕だったが、谷の様な場所があるなら何重でも良いくらいだ。穴を掘ってただ正面を撃つという戦術は、何もできない兵士を強兵に変えることができる。救出した兵士をドンドン送り込めば我々の足手まといもなくなるのでwin-winの関係といえるだろう。

 

そしてある程度の連携と移動速度を保てる連中だけを従え先ほど言った後衛として利用する。

完全に統制のとれた集団だけを率いることが、上層部に『捨てるには惜しい』と思わせるコツだ。敗残兵を幾ら連れたところで時間稼ぎの肉壁にしか思ってもらえない。

 

「帰るべき場所があることで初めて従う兵士たちも秩序を守れます。必要ならば他の地点から抜けるにしても、心の拠り所は必要でありましょう」

「なるほど。ポイントを指定はするが、そこに固執するわけではないと」

 うまいこと言いたいことを拾ってもらえた。

帰還地点として定め、救出した兵士はそこに向かわせはする。だが、決してそこにこだわってはならない。撤退地点を一か所に定めてしまうと戦術に偏りができるし、なによりも敵が集中してしまう事もある。

 

これが何より重要だが『塹壕を拠点に死守せよ』と命令を受けてしまうこともあり得る。

その命令が下った瞬間にそこは死地だ。友軍基地として利用することはあっても、決して立ち寄ってはならぬ場所に成り下がるだろう。その時は別の道を切り開かねばならない。

 

「良いじゃないか。一緒に戦争するとしよう。猪口から適当に武器を見繕ってもらえ」

「はっ! 部隊先任殿に我が兵をお預けいたします!」

 部隊先任というのは、下士官の中で一番偉いというか詳しい存在だ。

下手をすると将校よりもよほど有能で、同時に部隊の誰よりも頼りになる存在である。部隊の要であり彼の見立てと要望は、そのまま部隊の行動方針になりえる。

 

そして先任に部下を預けて再教育させるという事は、手持ちの兵を私物化しないというアピールだ。先任を通してこの部隊の指揮官である新城大尉に、完全に従うという意思表示を行うのである。まあ、どのみち参謀枠だった私に付き従う精鋭ではないしな。ここで惜しんで疎まれても困るというものだ。

 

 翌朝までに最低限の区分を終えた。

見ただけで判るどうにもならない連中は、何人かの下士官を付けて平原の出入り口に向かわせた。

 

塹壕を掘らせる予定なので、砲や戦車を接収して行けば陣地化できるだろう。

信頼できる下士官たちには通信の内容を『適当』に判断させ、マズイ命令はそこで留めさせる。幻獣はともかく、上からの命令がいよいよヤバクなったら『戻るな』と合図を出すことになっていた。

 

「したくはないが敵を足止めせねばな。それと今日明日の戦闘で救えるだけ救って撤退する。デグレチャフ中尉、詳細を」

「はっ! 詳細を説明させていただきます」

 新城大尉は大人しく寝転がっているサーベルタイガーを撫でながら私を見る。

それは私を幕下に加えたことを端的に示す儀式だ。兵たちから見ればウォードレスでは判断できないので、説明される内容から判断するしかない。

 

「平原を斜めに横切り続け、三角形に運動戦を行います。その間は正面戦闘を避け、機動戦闘によって牽制を行うことになります。各位には、任務はあくまで敵軍遅延と、友軍の救出にあると覚えられたい」

 今回の作戦の肝は二つ。

二日間移動し続ける事で遅滞戦闘を行う事。そして可能ならばという前提で、自分たちに被害が出ない程度に救出をするという段取りだ。

 

予め時間を区切ることで精神的な消耗を避ける。

また移動し続ける事で、幻獣の火力を置き去りにすることを念頭に入れさせた。決して足を止めての全力戦闘などありえないのだと周知しておく。

 

「聞いての通りだ。歩兵の本分は歩くことだと思い出してもらおう。君たちは命の心配よりも、歩き疲れて落伍することを恐れてくれ」

 締まらない訓示だが新城大尉はそれ以上、口にする必要を覚えないようだった。

それにつれて行く兵の大半も、支援任務や動かせそうな砲を動かすための要員だ。戦闘をさせる為ではないので、この程度で構わないのだろう。

 

それに歩き詰めとはいえ、二時間ごとに小休止、四時間ごとに大休止を採る。

幻獣に見つかったまま延々と移動しないかぎりは、それなりの速度で移動を続けられるだろう。

 

「では諸君。楽しい戦争の続きと行こう」

 新城大尉は不景気な顔に狂相ともいえる笑みを浮かべた。

基幹要員たちは私の様に別の隊から拾われた者も散見されたが、それなりに心得た者たちでそれぞれに油断なく移動を開始した。

 

ありがたいことに先頭は指揮官率先で新城大尉殿。

もちろん頼りになるのは大尉ではなく、連れている龍騎兵だ。千早という立派な名前付きのサーベルタイガー。単独で一個小隊以上の戦闘力を持ち、何よりも鼻が利くというのが素晴らしい。

 

「中尉殿は行軍もお得意の様ですね」

「先任殿ほどではありません。なに、先ほどの訓示でもあったように歩兵は歩くことが本分であると士官学校で習いました。何より、鍛えるだけなら歩くのが一番ですから」

 負傷していたことに気を使ったのか、先任曹長の猪口が話しかけて来る。

その上で自分が適度に力を抜いて、御立派な歩き方ではなく長距離行軍するためのモノだと気が付いたようだ。まあ魔導大隊創設の時は散々部下もしごいたしな。同じことした上でなら案外無茶にも不満が覚えられない物だ。

 

「それで中尉殿。遺棄された装備の中で何を優先して回収しましょう」

「……兵員輸送車両と指揮車両を一台ずつ最優先で。火砲と戦車に関しては万全ならば。二台目以降の輸送車両はそれなりに」

 これには明確な理由がある。

指揮車両は簡易的ながらも色々な機能があるので当然だが、兵員輸送車両が一台あれば休憩用に使い回して行軍できる。

 

それに比べたら火砲や戦車はどうしても一ランク下がってしまう。

移動し続ける運動戦では目立たない方が重要になる。もちろん完調で運用するための戦車兵も全て揃っているなら話は別だが、現時点で戦場に留まっている以上は、損傷して遺棄された物ばかりだろう。戦車は鈍重そうにみえて高速で移動できるのだが、動かなければ無用の長物なので仕方がない。

 

「了解であります。他に何か?」

「先任殿にはすまないが足の速い者を数名付けてくれ。厄介連中が馬鹿なことをしているようだ」

 遠雷の音が聞こえる。

ラインの空で何度も聞いた懐かしきあの音だ。武器の奏でる戦場音楽の中で、砲門が奏でる怒声について私は誰よりもこれに周知していた。

 

「馬鹿のせいで間もなく戦闘になる。敵の数を把握するにも位置を確認するにも必要だ。新城大尉にも伝達を! 急げ!」

「はっ!」

 ああ、まったくもどかしい。

かつての空でこの音を聞いたら、魔力を練り上げながら戦友たちと共に飛び込んだものを。

 

ただ……、私の顔は。

 

ウォードレスの仮面の下は、あの新城大尉の様に下卑た顔で笑っているような気がした。




 という訳で第二話、僅かばかりの味方が増えました。
クロス二作品目というか、男性になったターニャともいうべき人です。
次回は真面目に戦闘する話になると思われます。

●人物紹介
『新城直衛』
 自衛軍大尉。この間までは中尉だったがターニャ同様に野戦任官で出世した。
臆病なくせに敵対する者は叩き潰さざるを得ない攻撃的な衝動を持つ。
兵に関しては『自らの許容する範囲』で誰よりも優しい。
人間を数字としてみなすターニャとは普段は反りが合わないタイプだが、最終的に合致するタイプ。

『千早』
 新城が連れている龍騎兵。外見はサーベルタイガー。ラボでの通称は『ねこ』
新城とは兄妹の様に育ち誰よりも心を交わしている。
もちろん喋ったりなんかしない。

『猪口曹長』
 年齢固定タイプのクローンで、いかにも兵隊として生まれてきた量産品。
過不足ない体格と軍隊知識を持った彼は、戦場の勇者というよりは古参兵である。

新城隊の戦力:
・歩兵一個中隊(精鋭が一個小隊、統制のとれた者が三個小隊)
・龍騎兵x1

・混成一個大隊(実体的には一個中隊強~二個中隊弱。塹壕を用意中)
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