ベルゲ士魂号をそのままには出来ないので一応の錬成を終える。
中隊配置として完了する者と他の隊へ身受けされていく者。そして再履修へ回す者に新しい候補生を加えて新しいベルゲ士魂号組を編成した。
それから一週間かけてフォーメーションの練習を兼ねた出撃。
帰還後に練習成果を踏まえた再調整をして、西住姉妹には新しい編成での戦闘案を考案させておいた。今頃はエリカも加えてああでもない、こうでもないと悩んでいるところだろう。
「ただのテストパイロット役だから安心しておけ。目の前の敵を倒すだけの簡単な任務だ」
「了解です!」
「……はい、委員長。了解しました」
火力小隊運用試験の前にまずは借り組みをしてみた。
軽度のPTSDで戻された滝川に軽装甲を用意し、壬生屋を前線に配置しておく流れだ。さしもの馬鹿も一週間の無任所配置で堪えたらしく、今のところは随分と大人しい。まあ無任所からの復帰と言ってもテストパイロットで純粋な戦闘要員ではない。首の皮一枚繋がっただけなので仕方あるまい。
とはいえ独断専行どころか裁量権も無いのに突撃した馬鹿を信じるわけにもいかない。用意するのは運動量に劣る重装甲で、手持ちに加えて両肩に展開式装甲を装着させた。
「西住千翼長。戦闘団を率いて敵右翼から順に襲撃せよ。私はテストチームを率いて左翼から牽制と蓋をやっておく」
「了解しました。ご健闘を」
久しぶりに馬鹿を編成に入れたこともあり、まほもこちらを心配している。
本来であれば熊本市に置き去りにするはずなので『何をさせるか』という事を心配しているのだろう。もちろん私は部下を実験動物にはしないし、手綱を離す気もない。
まほたちは距離があることもあり、これから最終確認を行うこちらを置いて先行し始めた。
「今回は新戦術のテストになる。壬生屋は盾四枚を持ったままビル陰を移動しろ。許可が無い限り決して動きを止めるな。例え一撃で倒せるキメラでもだ」
「へっ? 盾はともかく武装も無しにキメラは……痛っ!?」
「なっ!? 殴らなくても!」
話に割り込んできた滝川を黙って殴らせる。
これが戦闘中の軽口なら緊張を解す為に許しても良いが、ブリーフィング中ではそうもいかない。
「今は作戦の説明中だぞ? 滝川のせいで壬生屋が死に、壬生屋のせいで滝川が死ぬ。そんなことはさせられん。そして今回の作戦はちゃんと機能すればまず勝てる戦いを行う。判ったな?」
「はい……了解しました。申し訳ありません」
「りょっ了解しました!」
抗議していた壬生屋が渋々引き下がると、混乱していた滝川も頷く。
厳しい士官ならば腕立て伏せやランニングをさせているかもしれないが、今はそんな時間はない。作戦前なので体力は温存しておきたいしな。
「他の者ならジャイアントアサルトくらいは持たせておくさ。蹴りだけで倒せるから壬生屋には何も持たせてない。良くも悪くも実力の問題だな」
「……」
「理解いたしました! 申し訳ありませんでした」
薬が効きすぎたのか滝川は条件反射で詫びを入れる。
訂正するのも面倒なので壬生屋の白兵能力を見込んでの事としつつ、テストの一環であると意義付けた。
話を元に戻して手元の地図に目を向けさせる。
「空中騎兵は私がやる。滝川は遠間で援護しながら私の動きを見ておけ。お前がするべき行動をやっておく」
「了解いたしました! 参考にさせていただきます!」
滝川機には92mmライフルと弾丸を山ほど持たせている。
一応はジャアイントアサルトも用意しているが、今回は見るだけで良いだろう。できれば狙撃能力も見ておきたいところだが、二兎は追わないでおく。
そしてジャイアントアサルトで突入支援する役目は私がやる。
壬生屋の行動をサポートし、後ろや脇に付くが決して前には出ない。また、距離感や地形情報を記録しておき、シミュレーター用の資料にしておく。それというのも、火力小隊を作る時に使うからだ。
●
後が無いと思わせるのも重要だが、ガチガチに固まられてもしょうがない。
この戦いで何も得ずに終わったら壬生屋を連れて来た意味がないからだ。それだけならば他の人間を重装甲に乗せてしまえばいい。それだったら拘束具代わりに盾を四枚なんて馬鹿な事をする必要もなかったろう。
「壬生屋。お前がすべきことはただ一つ、それが何か判るか?」
「囮ですよね? 後は滝川君が狙撃に専念できる為の盾代わり」
以前に話したことを覚えているのは良い事だ。
だがそれでは目的の半分でしかない。そんなものはこの配置をした時点で実行できている。重装甲に乗せた段階で質問を投げかけておいた。
命を的にした囮などというくだらない任務ならば私が一々着いている必要はないではないか。そこから先があるに決まっているだろう。
「そんな物はついでにこなして当たり前だ。回避機動を覚えて前線に出る癖を付けろ。それだけでお前は強く成れる。逆に言えば真っ直ぐ突っ込まれても迷惑なだけだ」
「なっ……。それならどうしてこんなに重い装備を。半分でいいはずです!」
壬生屋は地頭まで悪いわけではない。
感情に支配されて突っ込むという馬鹿な真似をするし、その意味では頭が悪い。だが、目的を理解できないほどに愚鈍ではないのだ。
とはいえ懇切丁寧に説明しても、感情に支配されている間は駄目だろう。だからこそ、こうやって盾四枚というアホな装備で調教してやらなければならない。
「動けたらお前は勝手に攻撃するだろう? だからソレは拘束具だ。動く以外の事をできなくする為のな! 目隠しが無いだけマシだと思え」
「やり過ぎだと言ってるんです! 私はそんなに馬鹿じゃありません!」
自覚が無かったのか?
そんな事はないと思うのだが私の買いかぶりだったのだろうか?
とはいえ今はそんなことを言っている暇はない。
やるべき事をやって見せ、すべき事をやらせるだけだ。
「まずは最初のビルまで走れ! 辿り着いたら次のビルまでジャンプ! この位は出来るな?」
「判ってます! でも、装備が重過ぎて……」
走り込んで射撃しジャンプして射撃。
何もない場所でやっているが、本来はそれだけで相手の射線を躱せるものだ。ビル陰に隠れるのは効果を倍増させる要素に過ぎない。意味はあるが固執する程ではないのだ。
きたかぜゾンビとヒトウバンを叩き落としつつ壬生屋に声をかけて行く。
途中で滝川からの援護が入り始める事もあり、指示しながら様子を確認する余裕があった。……本来なら戦いながらでもできる筈なんだがな。
「次は半歩姿を出したら、一気に突っ走れ! 他は何もいらん! それだけで視線を置き去りに出来る。常に相手の視線を理解しろ! できなければせめて盾を利用することを覚えろ!」
「はあ、はあ! 当たる? 当たらないの!?」
ビル陰から僅かに姿を現し、そのまま走り抜けていく。
私にもできない器用な動きなのだが、その事を理解しているのだろうか?
……以前の記憶が蘇って熱くなりそうだったが、その時の特攻まで思い出して肝が冷える。
今は敵が少ないから良いが、今やったら確実に滝川の事を忘れて目の前の相手に夢中になってしまうだろう。自分たち一機だけならばそれで良いのだが、味方や戦略を忘れて戦う狂戦士に意味などないのだ。
「気が付いているか壬生屋? 今日のお前は被弾していない。ベルゲ配置でないにも関わらずだ。仮に被弾したとしてもゴブリンの軽い一撃だろうよ」
「当たってない? 私……やれてるの?」
あの半歩の移動を私も覚えてやろうと参考にしつつ、壬生屋を叱咤して鼓舞していく。
たかがこの程度の指導のためにワザワザ付きっ切りなどと泣きたくなってくるが、このままではこいつは使えないままだ。単純な装甲とジャンプの繰り返しでも意味があるのに、やらないコイツが悪い。白兵戦の異常な才能が無ければ、とっくに放置している。
滝川に距離を詰めるように指示を入れつつ全体を俯瞰する。
やはり指揮官とはこういう物だろう。全体像から最適な行動を判断して、攻勢面・防御面の両方で活かせる行動を適宜に選択すべきだ。決して戦いに夢中になってはならない。
「暫く行った先に丘陵があるのが見えるか? あそこまで行けば敵の死角に入り込める。突撃仕様ならばミサイルで一網打尽だ。壬生屋は途中まで全力疾走、指示があり次第に盾をオートからマニュアルで操作しろ。展開式装甲の名前を活かせ!」
「は、はい! ぼ、防御起動は……確か……」
こうしてみると武器を持たせないのは有効だった。
ここまでする必要も無いと思わなくも無かったが、一回の行動で一つしかできないからこそ壬生屋は回避や防御に専念できている。今までだったら間違いなく、攻撃するために突入するか、どちらを選ぼうか悩んでいたはずだ。
「今だ装甲展開! その後は半歩を二度、次の合図で全力疾走! 滝川はキメラを選んで潰せ!」
「はい!」
「了解しました!」
三面鏡のように展開する装甲が重装甲を箱のように見せる。
ジュっとレーザーが装甲を焼くがまだ内部まで届きはしない。その間も半歩の移動を繰り返し、壬生屋機は敵を引きつけながら多くの攻撃を置き去りにしていた。
「滝川! 実戦でもこうやって中衛から後衛を維持しろ。それだけで周囲は戦いを優位に戦える! 安全だと卑下するな、サッカーなら花形だ!」
「はい、委員長! オレ、オレ。やれてます!」
その間も私と滝川は次々に敵を撃破し、壬生屋機を狙う幻獣を葬っていった。
囮役・盾役を見事にこなしているのだが、壬生屋は気が付いてすらいまい。行動を制限する為に盾だけだが、ジャイアントアサルトを持たせていれば削るペースが速かっただろう。もし大太刀ならばミノタウルスすら任せられたと思われる。
丘陵に辿り着けばシチュエーションを記録して一応は終わりだ。
ここからはオマケ作業というか、ボーナストラックである。
「よくぞ我慢した。壬生屋、手持ちの盾は棄てて良し! 肩のはオートにして戦っても良いぞ。プレゼントを置いていくが回避機動を忘れるなよ!」
「……あれは超硬度大太刀? はい! 私……戦います!」
丘陵に至る道の途中に、超硬度大太刀を置いておく。
そのまま合流して丘陵の陰に隠れて反対向きに展開。援護体勢を取って滝川機と挟み撃ちの構図を作った。
「聞こえていたな滝川? 壬生屋が太刀を回収する。ミノタウルス以外を順次落せ。お前は遠間、私は近距離を狙う!」
「はい!」
「指示があり次第に行きます! 何時でも行けます!」
ありがたいことに壬生屋は指示が必要だと覚えていたようだ。
滝川に指示を与えるのを待って、準備Okだと伝えて来る。本来であればここまで入念な指示も要らないし、待機と攻撃の切り替えなどできて当然なのだ。
「よし、行動開始! 壬生屋は小刻みに動いて太刀を回収! その後も移動し続けてミノタウルスへ向かえ! 滝川は援護を止めるなよ!」
「「はい!」」
とはいえようやく形になって来た。
盾を減らしても我慢できるかを試し、熊本市に戻って突撃仕様のテストだ。
●
西住姉妹の方も順調に行ったようで、後は熊本市で突撃仕様に改修してテスト予定。
それで火力小隊用のデータを集められると思ったところで、芝村から会いたいという旨の通信が入った。
以前から聞いてみたいこともあっての願っても無い機会だったが、唐突な事態なので手近な場所で落ち合う事にした。町で話そうとすると自称を含めた共生派のスパイに情報を抜かれかねない。
「要望のあったパイロットの仕上がりには今少し掛かるが?」
「追加で有望な新人を何人か回しますので、機動小隊をいただきたい」
ひとまず出しておくリストは二つ。
そこそこ動けるパイロットと、まだ仕上がっていないが軽量級二体による移動力重視の小隊だ。前者はそれなりに判断できる優秀な奴で、後者は空中騎兵の迎撃と攪乱が基本任務だが追撃作戦なら攻勢も掛けられる
ただ要望というには小隊丸ごとは過大だし、有望な人材を送り込むくらいなら手元で育てた方が良いだろう。何しろ以前と違い、私はパイロットの育て方込みでデータを残しているのだ。
「それで何の用事だ? あるいは何が起きた?」
「私の従姉妹がやんちゃをしでかしましてね。一族の者が手を出せない所に放り込んでおきたいのです。まあ戦力が欲しいのも嘘ではないのですが」
一見筋が通っているようだが、少々おかしい。
確かに反逆者とあれば芝村閥も放置はすまい。だが大事であれば絶対に許さないだろうし、気に障った程度であれば九州に連れて来れば何とでもなるだろう。そもそも南高はこいつの牙城なのだ。
「それでは二重の貸しになるぞ? 土産込みでもらうとして何があった?」
「ちゃっかりしてますな。原因は引退なすった背州公のせいですよ。佐世保で何かやろうとしたところで共生派に暗殺されました。おかげで調査に手を取られて動けません」
また面倒な事態になっていた。
隠居させられた背州公は勢力奪回のために、何か戦力を用意していたのだろう。息の掛かった部隊でも錬成していたのか、それとも新型武装か。
いずれにせよ計画途中で暗殺され、事後処理や共生派対策に芝村の手が割かれているようだ。これが熊本なら手早く処理できるだろうが、佐世保とあっては少々遠過ぎる。
「せっかくのコネが消えたか。まあ老害化していたならそれも止む無しだな」
「否定はしませんが私ではないですよ? この件ではこちらも苦労しています。ひとまず出せる手持ちはこの程度ですな」
お前の所がやったのではないかと苦笑したら、少なくとも自分の手の者ではないと返された。
本当に共生派だったのか、芝村だとしてもこいつとは別口の芝村らしい。まったく暗闘などとは無縁でいたいモノである。
それはそれとして、色々と魅力的な提案が並んでいた。
物資としては新型の士魂号、あるいは背州公が用意していたと思わしき装備を接収する権限。人材が欲しい場合は、芝村閥の人間からパイロットや指揮官候補が居る。それだけこいつも本気らしい。
「そっちの要望も通してやるから鬼善行を寄こせ。芝村閥なのだろう?」
「それは構いませんが決戦に備えてですか? 戦闘団隷下には過剰だと思いますが」
鬼善行……善行という男は、新城少佐と同じように大陸引き上げで名前を上げた将校だ。
二人とも時間稼ぎを命じられたという意味でも似ていた。期限付きの死守命令を喰らって籠城をさせられた少佐と、機動戦を命じられた善行。どっちが幸せだったか不明なのだが。
「その先だよ。熊本決戦など前提条件に過ぎない。私は自然休戦など信じてなどいない。というか……私だったら兵を酷使して勝てるなら一回だけならやるだろうな」
「まさか……。いえ、確かに一回だけなら」
来るべき熊本決戦があるというのは既定路線だ。
そこでどうやって勝つのか、そこまで誘導するのかはまだ決まってなどいないが。
……ここで重要なのはこいつの判断だ。
私は幻獣に知性がある事を前提として、一回限りの無茶という強硬策を予想した。
理解を示したという事は……こいつも幻獣に知性がある事を知っているのだろう。
「ですがどうやって勝つ気ですか?」
「なに、私も今回の騒動と同じ事をしたいと思ってな。安心しろ、独立小隊扱いにして
ここで私は少しだけ本心を漏らした。
幻獣に王と呼べるべき相手がいると予想している事。そいつを倒す為の火力小隊を準備する構想があることを、だ。
指揮官は鬼善行、現場を管理するのは芝村の異端児か。面白いことになりそうだ。
という訳で原作の5121を別ルートで用意しました。
●壬生屋調教編
展開式装甲付ければええやろとか思いましたが、それでも不安なので
まさかの武装無し盾四枚! 行動力を半減させて移動の練習ですね。
ここまでやれば壬生屋も回避機動の重要さを思い知るはず。
なお、みおたんと士魂号を心の眼で入れ替えてはいけません。
身動きできないようにロープでふん縛って睨まれるとか不健全ですからね。
滝川君も目の前でカンカン弾いている姿と、ターニャが落とすから出番がない!
という状況に追い込んでようやくPTSDから逃れられます。
●善行忠考
海軍なのに大陸からの引き上げて機動戦をやらされ、物量の前に散った可哀そうな人。
運よくというか運悪く「お前はもう少しあがいて死ね」みたいな事を言われて復帰。
ヘルシングで言えば傭兵隊が壊滅したのに、隊長がギリギリ間に合った感じ。
その後は陸軍でも地位をもらい、改めてそっち向きの知識を学ぶために学校へ。
そっこから学兵だという理由を付けて、この後に一気に昇進することになっている。
芝村勝吏が珍しく渋っているのは、善行とも取引して身内に抱えており
取引の一環で与えた研究員・整備員込みで考えると、手放す惜しさもある。
要するにこの芝村もまた、逆転に備えて部隊を作る準備をしていた。
(5121の事ですね)