一足早くやって来た芝村の姫は騒動の種だった。
四方へ喧嘩を売ってるが本人にその自覚はないらしい。表面的だけでも仲良くする気もない様で、実績で相手を黙らせる男らしいスタイルだ。能力さえあれば私は気にしないのだが、実に周りがうるさい。
面倒なので一番衝突するエリカに丸投げし、お互いが納得させるまで仕事をさせておいた。すると静かになったので仲良くなったのだろうか?
「善行千翼長、着任いたします。鉄道デポの件で準竜師のお人柄は存じ上げておりました」
「あれか。塹壕戦よりそちらに興味があるとは君も判り易い男だな」
芝村に約束させた善行がようやく戦闘団にやって来た。
話の為に振ったのは挙げていたレポートの中でも割りと珍しい部類だ。前世でいの一番に書きあげ、今世ではこちらの世界に合わせて暇な時に出した物で戦闘オンリーになった今では中々話題にも登らない。
おそらくは商船学校出身であり私のメイン分野が本来そちらだと気が付いて、話を膨らませるならそちらの方が得意だと判断したようだ。
「君には火力小隊をくれてやる。使いこなせ」
「ありがたくあります。どのような仕上がりかを聞いても?」
お互いに用意した書類を交換。
その中に小隊編成も書いてあるのだが、記述よりも体感の方が確実だ。私が自分で仕上げたこと知っているのであれば、特にそうだろう。
「君は百年戦争を知って居るかな?」
「通り一辺倒でしたら。あの辺りの変遷や法律などは非常に面白い所ですので」
日本ではジャンヌダルクで有名な百年戦争は、話をどう聞くかで面白さが変わって来る。此処で言う法律とか重臣たちの判断で面白いのは、『第三者から見ると』イギリスの方に正当性がある事だ。
王家が絶えた時に、直系最後の血を引きフランスの公爵でもあるエドワード三世はフランス王位を要求した。しかし何故か古い慣習を引っ張り出して遠縁の者が選ばれたのだ。財産の継承とか血縁的にはおかしいのが、今でいう会社のように乗っ取られると判断したのだろう。もっとも後のフランス史では王家が完全に入れ替わる事もあったので、微妙な決断な気もする。
「一番機の壬生屋は悍馬に乗った下馬騎兵。二番機の滝川はポニーを利用する長弓兵。三番機の芝村は何でもこなせる
「それは面白そうですね。使い方を考えてみます」
百年戦争の当初、イギリスは圧倒的な勝利をあげまくった。
それは長弓での射撃とその機動的な配置、射撃速度の差を上手く使いこなしたからだ。ポニーで長弓兵を移動させて射撃用の陣形を組み、それを守るために下馬騎兵を配置。黒太子は優秀な前線指揮官であり軍団一つを任せられる将軍でもあったので、イギリスは二面作戦を実行できたのは大きかったという。
これは百年戦争の話だが、移動して射撃を行う事が人型戦車の効率的な使い方だ。その辺りは事前に調べていると思うので気にはしてない。あくまでパイロットたちの性質を語ったまでである。
「君が連れてきている整備班込みで四月中に仕上げろ。それまでは戦闘団の火力小隊のまま面倒を見るが、その後は独立小隊として好きに動いて良し」
「はい。了解しました。間に合わせてみせます」
とまあ事務的な話はこれで終了。
運用に関しては私がデータを出しているし、壬生屋の矯正なども苦労したが既にやってあった。ここで仕上げろと言うのは善行好みの作戦を実行できるように整えろと言う事だ。壬生屋も芝村もまとめて押し付けてしまおう。
「戦闘団での連携は後で西住姉妹とでも話しておけば良いだろう。まずは君の部下を紹介しよう。……あー、エリカたちと討論させて居たのだったか」
「討論会なら興味はありますね。お供します」
よせば良いのに善行は女同士の争いの中に首を突っ込みたいらしい。
用事を作って後回しにしようとしたのだが、紹介する本人にこう言われたら仕方あるまい。頭痛の種の代わりに、こいつの奢りでコーヒーでも飲むとしよう。
しばらくして善行の方から声をかけてきた。
「申し訳ありません。あれは一体……」
「あれが壬生屋だ。このあいだ功績をあげたので昇進の代わりに服装規定を少しな。芝村の提案で従軍巫女という資格を付与しておいた。気にするな」
功績を上げ始めたら調子に乗って色々言ってきたのだが、道着を着たいと言い出した。
本人は心を引き締め強く成る為と言っていたが、どう見ても趣味だろう。
しかし……善行がもう少し早く来て居れば、全てコイツにやらせたのにな。どうして早く来なかった! 作戦成功の功績など幾らでもくれてやるのに!
「あ……ああ。芝村さんの提案ですか。彼女の性格が判るようですね」
「実利主義だからな。それでいて他人の望みを自分の都合のついでに片付けようとするのだから面倒でたまらん」
あの頭脳でどうして言葉使いと対人スキルが身に付けられないのか不思議だ。
それとも人間性の全てを能力に全振りしないと芝村になれないのだろうか? だとしたら私には到底無理だな。模範的な社会人として受け入れられん。
「壬生屋。芝村たちは?」
「はい、中で討論の続きをしています。デグレチャフ準竜師。芝村さんは全く訳の分からないことを……。失礼しました。千翼長殿」
「いえ、構いません。面白そうな事をしていますね」
中からキーキー言う抗議と我関せずと言った態で持論を述べる声がする。
今は止めておいた方が良いという言葉を期待したが、馴れてしまったようで壬生屋の援護は期待できなかった。
「この男がお前たちの新しい委員長だ。挨拶は後で一度に済ませろ」
「はい。では後ほど。みんなに伝えてきます」
「……良い子の様ですね。悍馬と聞いていましたが」
「そう思うならもう一週間早く来てくれ。私と整備班の貴重な体重が2kgほど減ったぞ。躾けるのに苦労した」
中での怒号を避けるべく壬生屋が去っていく。
その外見だけを見たのか善行が楽観視するが、数日もしないうちに判ると思うので苦笑しておいた。
「だから目の前の戦場を放置して移動する理由は何よ!」
「先ほどから言っている様に戦況の変化は確実だ。一刻も早く移動せねばならん」
「ああ、もうそんな時期か」
エリカが吠えて芝村が一目瞭然だろうと取り合っていない。
どうもこいつは弱者の事を理解できていない典型的な天才だな。誰もがデータの読み方を知っているわけでもないし、知っている者が高所の見地を持っているわけでもないのだが。
「来たか準竜師。理解しているならば一刻も早く戦闘団を動かせ。時間が足りぬ」
「準備は整っているとも。最後の一人を待っていただけだ」
「ではその男が?」
「ああ。お前たちの委員長の善行だ。聞いたこともあるだろう」
「「……」」
私は慣れたがタメ口を利く芝村にエリカと善行が押し黙る。
部屋を見ればもう何人かいたが、話に付いていけなくてグロッキーだった。見知った顔も居れば善行に先んじてやって来た整備兵も居るようだが、付いていけないのは同じなのだろう。
「千翼長殿には後ほどご挨拶を。あの……準竜師。本当に移動の必要が?」
「そうだ。眼に見えぬところで戦況が推移する。正確にはこれ以上身動きの取れなくなった幻獣別動隊が、雪崩を打って熊本に戻ってくるという事だがな」
「……なるほど。宮崎が予定通り堕ちましたか」
「そういう事だ。要塞化も終わったが遅延戦闘も限界に達している。早晩、再び軍が溢れるであろう。その前に我らは動かねばならん」
言葉で説明するのは面倒なので地図に鉛筆で線を入れた。
熊本の右側に位置する宮崎県を使って遅延戦闘を行い、その間になんとか大分県を取り返して要塞化していたのだ。もっとも塹壕陣地を手早く作れる九州山地沿いだけなので、全てを守れたともいえないのだが。
「せっかくです。どうせならば何処が狙われるか同時に公表してみませんか?」
「何故そんなことを? 自明の理であろう」
「外連味の強い男だな。まあ良いだろう。エリカ、鉄筆を持ってこい」
「はっ、はい!」
善行の提案で大き目のメモ用紙に三人で予想地点を書き込んでいく。
誰にも見せないようにして、同時に公開するという……まあ三国志的なアレだ。
「エリカ、お前が合図を出せ」
「判りました。……五・四・三……二……」
カウントダウンと共に周囲の目線が三人の中心に集まっていく。
そう、この馬鹿馬鹿しい行事は、善行の状況予想力を全員に見せるための物だ。
芝村にとって善行ほどの男の才能は理解しているだろう。だからどうしてこんな事をするのか理解できまい。だが奴の事を隊員の全てが知っているわけではない。この馬鹿馬鹿しいやり取りは、理解できてない一般隊員に判り易く知らしめるためなのだ。
「……一。ではお願いします!」
「「「五稜郭陣地!?」」」
「そうだ。当然であろう。他にありえぬ」
「まあそういう事ですね」
宮崎からあふれ出す戦力は、大分で止められる。
そのまま進み続けることができずに幻獣は固定され、何十万もの内、前線に居ない後方に居る戦力が横滑りで流れていくのだ。普通の軍隊ならば遊兵は戒めるべきだが、幻獣の大群であればむしろ移動するだけで奇襲作戦になり得る。
多くは球磨川水溪や九州山地の陣地で止められるが、鹿児島経由で玉突きが起き、ビリヤードの様に敵が戻って来るという塩梅だ。
「そんな……直ぐに行かなくても良いのですか?」
「準備は整っていると言っただろう? 今、あそこは頭の良い馬鹿が陣取っていてな。理由なしには縄張りに入れんのだ。馬鹿馬鹿しいことにな」
「なるほど。私が到着すれば戦闘団が充足したという理由になるわけですか」
「勢力争いで兵を殺すのか。馬鹿馬鹿しいな。善行、早々に作戦案を出せ。こちらも別の見地から用意しよう」
もはや誰も芝村の能力を疑っていない。
コミュニケーション能力は大いに疑問が残るところだが、まあ実績を上げて黙らせるというのはこいつなりのドクトリンなのだろう。頼むからまともに育ってくれと言いたい。
私はもう知らんから頑張れよ善行。
●
私と善行と芝村で作戦案を詰めて行く。
まったくもって面倒な戦いだが仕方がない。まあメンツの為に死ぬ兵は哀れだが、私としては失点を自分で引き受け、救援の功績をくれる馬鹿には憐れみしかないのだが。
ああ、そうそう。この流れのついでに芝村を戦闘団付き参謀扱いにしておいた。五月からは独立小隊だが軋轢が無くなるなら問題ないだろう。
「よろこべ戦闘団諸君。我らは嵐となる。人の形をした嵐は幻獣などよりもよほど強い。無慈悲な鉄槌を連中の上に落としてやれ!」
「「はっ!」」
出撃前の訓示を簡単に終わらせ、傍らに居る善行を呼び寄せた。
これから何をするかを説明させておこう。
「善行千翼長。説明を」
「はっ! 宮崎から鹿児島から敵がやって来るので倒します。みなさんの中には心配する人もいるでしょう。しかし問題ありません。敵の多くは勇敢なる五稜郭陣地が喰い止めてくれます」
どう考えても絶望的な数のはずだが、不思議なことに正面に立たないというだけで安心できる。
人の心理とはそういう風にできているものだし、考えたら発狂しかねないことは可能な限り無視しようとするものだ。まあ兵はそれで良いだろう。勝てる算段を付けるために胃が痛いのは私たちなのだが。
とはいえ士官の役目、上司の役目とはえてしてそう言う物だ。給料分の働きくらいはせねばならん。
「予想される敵増援の総数は二十万。中型幻獣は六万以上と推測されます。しかし、これを馬鹿正直に相手はしません」
途中途中で息を呑むような声がするが、相手しないと聞いて安心している。
本当にそう上手くいくかは不明なのだが、よくもまあ安心できるモノである。もっとも勝てなければ撤退できる分、五稜郭陣地の連中よりは恵まれているけどな。
「我々はいつものように戦い、いつものように勝利するだけです。作戦は我々が考えているから安心せよとは言いません。どうせやらなければならないなら、できるだけ楽に勝ちましょう」
五稜郭陣地で拘束され、身動きとれないところを横合いから撃つ。
基本的にソレしかないのだが、真面目にやると効率的であっても大損害だ。キル・レシオが五十対一でも軽く全滅してしまうので、真面目に戦う事だけはしない。
「みなさんの中にはこう思っている人もいるでしょう。二十万の中の千や二千を落として意味があるのかと。問題ありません。我々は敵主力を選んで粉砕します」
以前に佐賀救援に行った時に考えたのと、おおよそ同じ考えだ。
あの時はゴルゴーンの砲列を壊滅させて、戦力比を大きく傾けようとした。序盤でいきなり主力部隊が幾つか消えたら、慌てるだろうという淡い予想だ。
今回はそれを焼き直し、よりダイナミックに、より劇的に逆転する。そんなことができるのか? 違うとも。敵の方からやって来るから、これを殲滅するのだ。
「苦労して戦っている間に突如、中核となる主力部隊が消えるのです。そこで……」
「あの。可能なのでしょうか?」
「それには私が答えよう。ご苦労だった善行」
不安を押し流すように説明中だったのに、そこを切った者が居る。
誰が言ったのかと目を向ける者がいるが、圧力に負けたのか押し黙ってしまう。仕方ないので私が代わりに説明するという形を取った。
「これまで熊本で二十万ほどと戦い、中型を七千くらいは倒したはずだが……。明日だけで七千は居る。そう言いたいのだろう? 今まで倒したのと同じ数の敵がいるとは盛大な事だ」
私はニヤリと笑って兵たちの方を向いた。
このやり取りは事前に決めたサクラを使った士気高揚案である。芝村は難色を示していたが、善行たちと共に兵の不安を取り除くために行うのだ。
そしてもちろん勝利する為の方策は用意している。幻獣に知性体が居るという前提に立っているが……連中が青ざめる程の戦果を狙えるのだ。愚か過ぎて散発的な攻撃を行うならば無理かもしれないが。
「私はむしろ自衛軍本部に戦果を認めさせられるかを心配している。あまりにも過大過ぎて本当なのかと疑われそうだからな」
火力小隊を善行と芝村に任せられるのは大きい。
西住姉妹に戦闘団そのものを任せられるので、三つの頭脳が有機的に連動できるのだ。戦車隊が介入できる場所は限られているが、以前と違って塹壕を通って五稜郭付近まで移動できるようになっているからな。
つまり戦闘団が介入する部分と、火力小隊のミサイルで介入する部分。
同時並行で敵主力の内、
「私たちには狙いの相手がどこから来るのかを既に推測すらしていた。そして連中が予定のコースを通っていると先行して派遣した偵察隊が掴んでいる。この戦いもはや我々が勝っているのだ!」
これもまた嘘ではない。
予定通りにやってきている連中が、五稜郭陣地の裏口から食いつくのを待つ。そこを叩くだけだから、相手が油断して居ようと油断して居まいと勝つことはできるのだ。
問題は集中的に狙われる五稜郭陣地の兵が哀れなことだな。対立構造の為に素直に援軍も頼めぬとは……新城少佐から聞いていたが、佐脇少佐というのはよくよく不運な男らしい。
「さあ。スキュラ狩りと行こうじゃないか! 百匹以上いるからな。狩り放題だ」
狙うは宮崎を壊滅させて迫りくるスキュラ軍団。
これまで不思議と数を見なかったが、もし出て来ていたら百は倒していたはずだ。
ということは逆も考え得られるだろう。普通に使えば精鋭が百匹くらいは倒される。
だがそれでは塹壕を突破させられない。部下を大事にすると同時に、確実に五稜郭陣地を潰すために温存しておいたのだ……のだと。
だからこそ陣地に攻撃するスキュラを壊滅させてやる!
という訳で本当の意味で完成された戦闘団が出撃します。
次回のタイトルは 戦闘団の快進撃ですかね?
善行・芝村組のお陰でターニャが居なくとも二方面で攻撃が可能になったので、
同時並行で一気に壊滅させる事ができます。まあ相手の数が多いので、それでも不安ですが。
●代わりにやっておいた
よくあるオリ主が原作キャラの功績を奪う行為ですが……。
此処では善行の苦労をターニャが全部やっておきました。
壬生屋の調教に滝川に勇気を持ったせたり、舞と周囲の軋轢を何とかしたり。
一番良い所で善行に預けた感じになります。なので四月末だけど戦えます。
●芝村舞
オリジナルヒューマンで体力的な能力は低いが、万能の天才。
自らの信ずる正義の為に行動し、為すべきことを為す。
ちなみに幾ら何でも歯に衣を着せなさ過ぎであるが、これでも相手を選んでいる。
もっとも意味なく目くじら立てる相手には、弱みを握ったりコネを使う事を辞さない。
そういった行動を恥ずかしい事だとも思わないが、やるべきことは正義のヒーロー。
なお、五稜郭戦で兵を見捨てる気はないが、早期にスキュラを壊滅させる方が確実。
だから異議は唱えず、無意味に突出するのではなく、速やかに倒せる方法を探っているだけ。
(この辺は壬生屋と違うので)
ちなみに周囲はその無礼さに馴れてしまったので、ターニャとの会話を唖然と見ているは別の理由。
よく判らないデータを見ただけで判断し、その答えを当然として受け止め、その対策を求める。
そしたらすでに用意がしてあって、今尋ねたこの瞬間に解決した。
お前らの頭はどうなってるんだレベルにぶっ飛んでるので、付いていけないのは思考回路の方。
ターニャ:外交もできるパタリロ六世
舞 :人間コンピューターだが回りから理解されないパタリロ八世
ぽややん:未来の魔王
ぽややん? 既に居ますがターニャ視点では気にしてません。
女子高の雰囲気に浸っているわけではなく、この時期の彼は舞の為に動くヒロインだからです。