戦闘団に戻ると急いで作戦の概要をまとめた。
西住姉妹が出撃の準備をやってくれているので、私は作戦の立案に専念できるのがありがたい。可能であれば戦略を担当してくれる上司か参謀が欲しい所だ。
そうしたら責任と権限を丸投げするのに……と思いつつ、圧倒的な数であるという報告を見て勝利そのものを投げ捨てる。
「竜師ならお勝ちになりますよね?」
「竜師ならばできますよね? 必ず勝てるとおっしゃってください!」
「あなた達! 閣下は作戦の立案中よ! いかなる犠牲を払ってでも必ず勝利するから、あっち行ってなさい!」
寄って来る戦車兵や人型戦車の乗員たち。
その不安顔を蹴散らすエリカはありがたいような気もするが、同時にキーキーと煩くて思わず苦笑が漏れる。いつもの光景だとも言えるし、非常時だから余計な事を口にしているのだろう。
まあ、是正するとしたらその辺りからか。
「エリカ、お前まで浮足立つな。次の戦いは最初から勝利を目指さない。その必要もない」
「え? ええ?」
「失礼しました、竜師」
乗員たちとちがってエリカは取り繕うのが速い。
この辺は普段からの付き合いの差だろう。続いて人型戦車のパイロットがこちらに耳を傾け始めている。
そうだ、先鋒だけで十二万、総勢で四十万とも五十万とも言える連中を一々相手にしていられるか。そいつらを片付けてもまだ百万か二百万そこらが残っているのだから笑うしかない。
「と、言うと遅延作戦……いえ、分断作戦でしょうか?」
「目標以外は八代に受け流す。せっかく綺麗にした所だから不本意だが、本命の作戦の為に余裕が無いからな。ゆえに最初から目標だけを狙い撃ちにする」
そもそも第一戦闘団は熊本決戦の為に戻さねばならない。
今回の不慮の事態を収める為に動員したが、人手が足りてないのである。何十万もの大群に突っ込んで勝てるはずもなし、ならば目的そのものを入れ替えてしまおう。
では、この状態ですべきは何か?
本命の作戦を邪魔しかねないモノだけを倒して、可能な限り無事な状態で戦闘団を引き返えさせることを目的としよう。幸いにも八代平原は、強敵を倒して空いているからな。
「第一目標は残存している空中騎兵。第二目標は多脚型の塹壕を容易に越えて来るユニットだ。そいつらさえ潰せば陣地で何とかなる。そして熊本市に辿り着き得る戦力さえ潰せば、補給して後からでも攻略できる!」
「た、確かに!」
テーブル上に三つの駒を配置する。
今回は鋭兵小隊は連れず、戦車隊と人型戦車だけで片付ける。兵藤たちは補給車両を守ってもらい、妹尾たちの尻を叩いて戦場を監視させておくべきだろう。
「人型戦車は八代平原に向けて後退しながら先行する空中騎兵を落とす。戦車隊は二手に分かれて砲撃を繰り返し、片方が下がったらもう片方が砲撃を行え」
「双頭の蛇が交代するような連動ですね? 了解しました。西住万翼長にもお伝えします」
「えーと、いつもの移動力の差ですね……了解ですっ!」
作戦を説明しているとエリカが頷き、いつの間にか
大仰な作戦ではなく、いつも通りだと聞いてパイロットたちも安心している。その様子を
それはそれとして、以上の動きを確実に行える場所を選定する。
五稜郭陣地と八代の中間であることは当然として、戦車隊を安全に下げねばならないのだ。
「となると此処だな。本当を言えばもう少し良い場所もあるが、流石に間に合わん」
「高台と放棄した塹壕で分断するのですね? 迂闊に撃つなと徹底させます」
人型戦車は最悪、地形を無視して八代前から囮に成れる。
だが戦車の方はそうもいかないので出遅れる。また塹壕や地形の高低差を抜けて来る敵を潰すのが役目なので、無理に前へ出る必要はないのだ。
それらを越えて快速で抜けて来るタランチュラや、遅れて登って来るミノタウルスやキメラたち。それらを徐々に始末する為にこそ戦車隊を利用すべきだろう。戦車を移動させながら撃っても当たらないので、安全性を確保せねばならんしな。
「万が一を考えて私は先行する。西住家のツエッペリンを借りれるように頼めるか?」
「う、うちのですか? 借りるのは大丈夫だと思いますけど……士魂号載せられるかなあ」
その辺は不安だが連絡を入れて損はない。
軍学に関する御留流の家系で家元を務めているらしいので、今のご時世で娘が人型戦車乗りをやってるなら改装している可能性はある。無理だとしても、私が念の為に先行する必要はないというだけだと割り切ろう。
●
結局、係留でなら何とか可能だという事で運んでもらう事にした。
問題があるとすれば私は航空魔導士だから構わないが、ビクトリアの方は大丈夫だろうか? 下手に空を飛ばして恐怖を覚え、ジャンプ恐怖症というのは避けたいのだが。
何が一番困るかって、そうなったらドクが勝手に記憶洗浄をしそうなことだ。そういえば……この子は二人目のビクトリアなのだろうか? それとも記憶を消した同じ個体なのだろうか?
「ビクトリアに何かない限り私は先行する。母君には礼を」
「お母さんも竜師に使ってもらえれば喜ぶと思いますよ。それではまた後ほど」
僅か一機だが、この件で大きいのは最悪の場合の想定を無視できることだ。
どうしても囮が間に合わない場合、人型戦車中隊を徒歩でショートカットさせねばならなかった。そんな事をすれば戦わずとも足回りにダメージが来るので、行きは良くともUターン後が怪しくなるからだ。
その辺は安心できたのでビクトリアに目を向ける余裕ができた。
「問題ないか?」
「んー~。楽しぃ? フワフワしてるの、面白い~」
声を掛けるとシートで固定されているのに腕をプランプランさせていた。
おそらくは見えないだけで足も浮かせているのだろう。他愛ない光景でホッコリしそうになるが、これでジャンプがトラウマにならないのであれば一安心だ。
「飽きたら今のうちに眠っておけ。戦場で寝るなよ」
「あーきーなーいー」
どこで覚えたのかキャッキャと歌を唄っていた。
この間までただの人造人間というか、この世界の人間は全員が人造人間なのだが……。工場製品から感情の通う人間のようになっていた。きっと部隊の連中が寄ってたかって教えたのかもしれない。
そういえば5121にも同じ年頃の子が居たな……とか思っていると、いつの間にかビクトリアは寝ていた。何もすることが無いのでウトウトと眠ったのだろう。
「ン……ー! ターニャ、始まった?」
「まだだが、丁度良いタイミングだ。眼をこすって向こうを見ろ。幻獣がアリの様だぞ」
アリはアリでも軍隊アリだが。
八代平原を越えた頃にビクトリアは目を覚ましたようだが、恐ろしい数の敵が居た。アカの連中よりも屈強で、これを倒せとか言われたら正直閉口してしまう。
もっとも今回は時間稼ぎどころかただの誘導だ。そう困ることでも無いがな。
「適当な所で切り離してくれ。そうだ。後はこっちで勝手に脱出する。ご協力に感謝を」
『健闘を祈る』
完全な民間人かどうかはともかく、善意の協力者を戦場には連れていけない。
天敵のゾンビヘリは随分と減ったが、それでもゼロにはなっていない。そして何よりその原因であるヒトウバンはまだまだ存在しているのだ。これでゾンビ・ツエッペリンになってもらってはこちらが困ろうという物だ。
降下と同時に腰の超硬度大太刀を地面に突き刺し、余分な加重を減らしつつ、限界線の目印にしておく。ここまで戻って来たら後は一目散だ。
「ビクトリア。今回は踏み込まない。空中騎兵を叩き落としながらひたすら下がる」
「ん。鬼ごっこ? それともケードロ? 隠れ鬼も良いよね」
……誰だ! こんなに余計な知識を与えた馬鹿は!?
遊びも多少なら情操教育に良さそうだが、どうしてここまで教え込む必要があるのか。まあ薄暗い場所に連れ込んで怪しい事をしてないだけマシか。
ともあれジャイアントアサルトを構え、各所に仕込んだ弾薬を確認していく。どう考えても戦い切るには足りはしないが、空中騎兵くらいは大丈夫だろう。
「みほ。そちらの状況は?」
『竜師には遅れますが予定時間内にはなんとか。イザとなったら駆けつけます。お姉ちゃんとエリカちゃんも同様だとか』
良くも悪くも予定通りだ。
この近辺の戦力は事前に整理して、それなりに戦える場所やゲリラ戦で隠れられる場所以外は下げてある。もし玉突き事故でも起きていたらこのペースでは辿り着けないだろう。
「いや、お前たちは予定通り来い。私の方が合わせて撤退する。……どうやらこっちに喰い付いたようだからな」
『了解です。ご無事で』
相手のペースは判らないが、一機だけでも先行できたことが大きい。
相手の中で知覚半径の大きい個体が気が付き、その報告でも受けたのか足の速い空中騎兵がこちらにやって来る。
「私の目標はお前たちだけだ! 他の相手などしていられん! さっさとやってこい!」
程よい位置までジグザグに走りながら、適当な場所でジャンプ。
一度視線を切ってから、敵集団の中にジャイアントアサルトを撃ち込んだ。
敵がこちらに喰い付いたところでジャンプ・ジャンプ。連続して二度移動し、こちらの移動速度と攻撃パターンに緩急をつけておく。
「いかんな。敵が弱いのは良いが、ちっとも減った気がしない。戦っていることに意味があるのかすら疑問を覚える」
「ターニャ、敵、倒してる……よ?」
次々にヒトウバンを撃ち落とし、偶にゾンビヘリを撃ち落とす。
いつもなら安全と効率を考えて弾丸を早めに交換するが、今回は戦果を挙げることを目的としないので、限界まで使い切った後に移動を繰り返してから弾倉を交換した。
ビクトリアの弁護は嬉しいのだが、問題は幻獣を八代まで連れて行くことこそ本道だ。多少の敵を倒しても意味はないし、大多数に熊本市へ直進されてはたまらない。
「楽なのは良いが、どうしてここにスキュラが居ない? やはり……そういう事か」
同じ長射程のレーザーでもスキュラとキメラでは射角と威力がまるで違う。
上からの撃ち降ろしは気が付き難いし、威力に天地ほどの差がある。ここで見受けられないという事は、スキュラボーンをするかは別にして、本命の為に残しているのだろうことが伺えた。
空の敵はことごとく撃ち落とし、目の前の敵は誘導しているはずだ。
そう思いながらも五稜郭を抜いた敵を全て誘導出来ているか、不安なままに時間が過ぎていく……。
●
どれだけ戦ったか判らないが、ジャイアントアサルトで楽に倒せる個体は粗方潰した。
残弾は厳しいが、この銃がどこまで役に立つか分からない。そんな時にようやく、状況の変化が訪れたのだ。
それは良い意味でもあり、悪い意味でもある。
「デグレチャフ竜師、遅れました」
「予定通りだ。できれば……もう少し遅れて欲しかったがな」
予備弾倉を使い切り、最初に突き刺した超硬度大太刀を拾った頃。
人型戦車中隊が到着した。全てが軽装甲でまとめられ、基本的には92mmライフルで遠距離からの攻撃を想定させてある。例外なのは攪乱と迎撃担当の二機だけだ。
そして味方が揃った頃になって、見せたくないモノが出てきてしまった。
クソ! あんなモノが居ると知って居たら、とっくに潰しに行っていたぞ!!
「ウソ……でしょ……」
「何……で」
「敵側に……士魂号?」
見せたくなかったのはアレだ。
鉄火場に成れば人の感情が溢れ出ると言うが……まったく持って想定外も良い所だ。
何が困るかと言って、ヤワな小娘たちには友軍相撃には耐えられないだろう。
人が人を裏切るという事もだが、かつての大戦以前の人間同士の殺し合いなど知らない世代なのだから。
「そうだ。あれはゾンビ士魂号だ。私が討つ。私が終わらせる」
「危険です! それに……まだ生きているかもしれませんし……」
最上位機のコードによって、無理やり
他の連中の通信も同様に一時落とし、私からの一方的な通話のみを送る。
精神汚染だとは思うが本当に裏切られていても困る。
そして生きているかもしれない、救出しようなどという事を、この土壇場で言われても困るのだ。
「生きているならとっくに幻獣に襲われているだろう。そして奴の苦しみを終わらせるのは教官だった私の仕事だ。私に嘘を吐かせるのか? 最初に言ったはずだ。私が傷つけ私が癒し、私が殺す。我が手を逃れ得るモノは一人もいないとな」
危険な敵陣地へ飛び込むなど誰かに任せたい。
しかし、他の連中ではモラル崩壊の危険があり得る。ならば私がするしかないし、なに、ライヒ時代を思えば手慣れたものだ。
「総員。予定通り八代に敵を誘導しろ。反論は聞かん。私の事を思うのであれば、八代方面から隊伍を組んで一斉発射でもしておけ」
通信遮断しているので伺い知れないが……。
私が超硬度大太刀で先を示すと、
そして騎魂号を前に出し、地面に超硬度大太刀を突き立てて外部スピーカーを唸らせる。
『我はターニャ・フォン・デグレチャフ!』
『ただの人より現れて、貴様ら
『死を恐れぬのであれば掛かって来い! 秋津洲であろうとライヒであろうと、我が地を侵しむる事は敵わず!』
そう言いながら私は前に進み出た。
敵集団がこちらに向いたように思えたが重要なのは敵の士魂号だ。奴がこちらに向いたことで、挑発に意味があったのだと安堵した。
『我は号する! 我こそが悲しみを終わらせる銀の剣!』
『希望であるかはともかく、絶望は終わらせてみせよう!』
『人の世の為、国の為、そして何より自分の為に! この白銀を恐れぬのであれば……掛かって来い!』
相対位置が離れている間に方を付けたい。
対レーザー装備を稼働させながら、敵士魂号に向けて走り始める。奴のほうでも勝負しようとしたのか、こちらに向けて走って来た!
その間にも迫りくる敵集団。
幸いなことに、熊本市に直進する奴以外にもタランチュラやキメラが居るようだ。
そいつらを引き付けるためにも加速して、敵士魂号を間に入れた。
「勇敢なる戦士よ! 我は愛する。その志!」
弔辞を読み上げながら、騎魂号の動きを走行から摺り足に。
壬生屋のやっていた動きを画像から逆算し、覚えておいたのだ。これで敵の弾から身を躱しつつ太刀の範囲内に入れる。
「我は惜しむ。その勇姿!」
士魂号の腕を切り裂き、そのまま太刀を押し込んだ。
汚染だけなら人型戦車なので楽勝だが、やはりベースにしてゾンビ化させているらしい。明らかに人工神経以外のナニカが腕を繋げて旋回。鉄拳を向ける頃には、ソレは銃と融合して拳の様なナニカになっていた。
「そなたに代わり我らは戦う。そう誓おう! この国を守り夢を守ると!」
汚染だったら元に戻せるかと思っていたことだろう。
むしろ安心したというか、そうであって欲しかったのでこの動きは予想していた。ジャンプして鉄拳だかジャイアントアサルトなのだかわからないナニカを躱す。
「我は闇追い払う
着地しながら超硬度大太刀を振り下ろし、真向唐竹割りでゾンビ士魂号を両断する。
「放て! 我らが逆転の一撃! それこそがこの戦士に送る弔いの鐘である!」
『撃て!!』
生き残って迫る個体に直衛の二機がジャイアントアサルトで始末していった。
「弔辞は述べた。予定通りに誘導、戦車隊と合流し次第に撤退する!」
「はいっ……」
私に迫るレーザーもあるので、無力化できるがここまでにしよう。
もし集中砲火でダメージを受けては問題だし、万が一、精神汚染する個体が隠れていたら大変だからだ。
弾幕を弔砲に変えて、その場での戦いを終えた。
幻獣たちの足音に呑まれてゾンビ士魂号は消えて行く。許しは請わない。
「戦闘団総員諸君。明日を作るぞ」
「「「はっ!!」」」
という訳で五稜郭陣地失陥のフォロー終了。
何十万もまともに戦えないので、八代に放流します。
次回から熊本城決戦という感じですね。もしかしたら、最初は5121かもしれません。
(以前に書いてるメモが5121視点なので、今のターニャ視点オンリーとは合わないので)
●敵の新種
旧型になったはずのタランチュラが復帰。
今回はそいつらと空中騎兵を倒し、熊本城決戦に敵増援が現れないようにしただけ。
あとはゾンビ士魂号が登場し、士気崩壊しない内に倒しました。
戦闘団出撃にしては驚くほど戦績が低いですが、誘導が目的だったので仕方なし。
無事に帰還し整備を受ける暇が合ったことが重要なのです。