ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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外伝:5121の最も長い日:後編

 熊本城は内側で実体化する敵と、外から攻め寄せる敵によって連戦を余儀なくされていた。

 

「第十四波以来、市街の友軍は沈黙。このままでは危険です。撤退できないのですか?」

「城の防御を捨てて何処で戦えってんだ? 第一、人型戦車が立派に中型を駆逐してくれてるじゃねえか。アレを保たせるのが俺らの役目だよ」

 次から次へと現れる敵によって市街とは既に分断された。

数えるのも馬鹿馬鹿しく成って来る敵の攻勢により、援軍がやって来なくなって久しい。既に予備戦力であるはずの第二戦闘団ですら戦闘中だというから笑うしかない。

 

そんな中で第三戦闘団を構成する人型戦車中隊は奮戦していた。

特に滝川以下、軽装甲の活躍は凄まじい。ライフルやバズーカを持って移動し、スキュラを中心に厄介なミノタウルスを狩っている。突撃仕様に至ってはそういうモノだと思うしかないスコアであった。

 

「それとも何か? ここで逃げ出して大佐や竜師に一生蔑まれるか? あの獄卒共に嫌われたら、あの世でも追い回されるぞ」

「兵藤中尉。勘弁してください」

「こちとら第一戦闘団の兵卒でさあ。地獄でもコキ使われるでしょうよ」

 補充組はともかく歩兵の基幹となるのは八代以来の叩きあげた。

用意されたこの環境以上の好待遇はない。死ぬしかない状況で拾われ、地獄の極卒とも称される新城大佐やデグレチャフ竜師とは馴染みであった。生き汚いとか兵卒根性が骨の髄まで染みついていると言っても良い。

 

「それよりもですがね。ライラックとディラックの連中から応答がないんですが」

「……花の校章は囮組だったよな? てーことは……。お前ら喜べ。幻獣の相手をしなくていいぞ。まとまって共生派を探してこい!」

 このよく似た名前の小隊は事前に付けられた符丁だった。

花をイメージする校章を付けた歩兵組は囮の巡回班。その裏で秘かに周囲を監視するのが共生派対策班だ。よく似た名前で呼称されており、サクラ班の裏にサラダ班などと冗談交じりに付けられている。

 

「ダメです兵藤中尉! 敵の攻勢がまた激しくなって……ここを離れたら持ちませんよ?」

「てめえらさっきまで逃げたいとか言ってたじゃねえか。虎の子のミサイルぶっ放してやるから、さっさと行ってこいつーんだ!」

「……ジャベリンを用意しろ!」

 再び現れた幻獣達によって人型戦車中隊は何処も大忙しだ。

歩兵たちは群がるゴブリンから士魂号を守り、あるいは時折オマケの様に現れるナーガやキメラと戦っている。既に士魂号は大物を狩る為に専念してもらわねばならないほど、事態は逼迫していた。

 

「こいつも芝村千翼長ならミノ吉だって潰せるでしょうにね」

「言うな。俺らの腕でキメラを潰せるなら御の字だよ。慣れりゃ行けるって言われてるけどな」

 ジャベリン・ミサイルは共通性の高い装備として再注目されていた。

突撃仕様の主兵装として今もゴルゴーンの砲列やスキュラ退治のメイン火力だ。それとは別に歩兵仕様も存在している。普通は数人掛かりで中型幻獣を狩らねばならないのだが、上手く使えば歩兵でも一撃で倒せるのだ。

 

もちろん火砲としてレールガンやレーザーライフルも存在するが、そんな最新式の装備を全部隊が装備できるはずもない。機動戦主体で人型戦車を援護するのが主任務の彼らは、むしろ扱い易くて故障の少ない従来兵器を使っている。

 

「兵藤より妹尾へ。共生派が動いているらしい動きがあった。何人か出せるか? うちは出せても少数だ」

「妹尾より兵藤へ。そっちでも把握しましたか? 一応は分隊を向かわせましたが……」

 戦闘メインの兵藤隊は練度も高いがそれだけに動かし難い。

ゆえに偵察メインの妹尾隊に声をかける。すると向こうでは既に動いているらしく、何とかなりそうだ。このまま自分の所の兵をエースに攻勢を掛けさせ、妹尾隊にバックアップを任せれば……。

 

「アマリリスとアマゾネスと通信が途切れて即座に出したんですが、自分の所だけでは不安だったので助かりました」

「ちょっと待て! こっちはライラックとディラックだぞ? まさか同じ隊じゃねえよな?」

 これで一安心かと思った空気が一瞬で吹っ飛んだ。

まさか幻獣が強襲を行うこんな時に、共生派まで決死の突撃をしてくるとは!?

 

いや……熊本城などという意味の薄い場所に敵がやって来るのだ。想像くらいはしておくべきだったのかもしれない。

 

 人知れぬその戦場は既に煮詰まっていた。

お互いの兵士たちは殆どが倒れ、ゴブリンリーダーに化けた共生派もアーリィフォックスをまとった憲兵も物わぬ骸になっている。

 

「次で終わりにすっ。覚悟せんか!」

「来いよビッチ! 尻振りやがって! 次こそヒーヒー言わしてやるぜ!」

 そんな中で少女は二つの事を諦めた。

一つは諦めることを諦め、もう一つは自分が無傷で帰還するという都合の良い目標を諦めた。

 

少女は軽快に走りながら巧みに弾丸を避け、避けれぬものは我慢した。

代わりに持って行くべきモノを持って行く。マシンガンにハイキックを決めて軌道を逸らし、そのままカカト落とし!

 

「馬鹿が動きを止めや……」

「馬鹿はわい(お前)だ!」

 共生派を率いていた男は左手の銃を落とし、ナイフを握り締める。

跳ね上げられた右手の銃はそのまま打撃を狙い、ドラゴンスクリュー気味にナイフを突き立てた。

 

しかしその動きは少女も狙ったモノ。

既に華奢な体は宙を浮き、ナイフを腹で固定すると飛びつき腕十字で左手を極める!

 

「っは? 嘘だろ。銃撃戦中に関節技とか? 馬鹿じゃねえの?」

「終わりにすってゆうたろが!」

 ここに来て少女は渾身の力を振り絞った。

今までは軽快に動き、次々に機先を動く為の筋肉だった。このテロリストを仕留めるためには動きを止めるのも仕方ないと腕関節を決めたのだ。

 

極めたら折る、という表現は一般人の肉体だから言える事である。

体がゾンビ化してリミッターの無い彼女であり、しかも元の体は第六世代のクローン体。もはや折るというよりネジ切るという方が速かった。

 

代償としてフリーになった男の右手より放たれる弾丸と引き替えに!

 

「ぎっ。ああああ! 獲ったどー!」

「うごごごっっ。クソが! 片手、オレの片手! 勝手に折って持って行きやがった!?」

 下半身を穴だらけにされながらも、サキはヤンの左手を喰った!

ネジ切った腕を棍棒代わりに振り回し、なおも射撃しようとするヤンの頭を強打する!

 

「割に合わねえぞクソビッチ! フ●ックして、殺して、もっかいフ●ックしてる!」」

「やるっもんならやってみぃ。わいを始末しきんないば(できるならば)何だってやってやる!」

 トリガーを引き続けて乱射するヤンに対し、サキは容赦なく鉄槌を食らわせていく。

フラ付く足でなんとか回避を兼ねて銃弾をジャンプしながら、後頭部へ浴びせるのは膝打ち、これはまさにディステニーハンマーだああ!

 

やったか!?

これで腐れ縁も終わらせられる。そう思ったのは……サキだけであった。

 

「ん? 今……なんでもするって言ったよね? 良かったなあ。ヤン。今からこいつはお前専用のスレイブだ」

「兄ちゃん!」

「くっ……まだ居たんか!」

 今にもトドメを刺そうというサキに対して横合いから放たれる銃弾。

何とか致命傷を避けたものの、全てを躱せず何発か喰らってしまった。正確には動く為の足と急所である頭を庇うために、受けざるを得なかったというべきか。

 

「わいから倒して……」

「ダメだろ? スレイブは這い蹲ってマスターに許しを請わなくちゃあねぇ」

 疾走するがトップスピードには程遠い。

しかも銃弾を回避する機動の為に速度が犠牲になるのだ。敵の増援……ルーク・バレンタインに通じるはずもなかった。

 

ライフルを持たない方の手から、ニョキっと伸びる折り畳みの拳銃。

バンバンと撃たれる弾丸が持つ貫通性は低いが、その衝撃力はストッピング・パワーと呼ぶに相応しい。それだけでサキの突進は止められてしまう。

 

「なあヤン。持ち運びに不便だから手とか足とか要らないよなあ? お前の腕のお返しもしてやらないといけないし」

「いいじゃんいいじゃん! それならオレにやらせてくれよ!」

「……」

 この期に及んでゆっくりとバレンタイン兄弟が近づくのは、サキの自爆を警戒してだった。

下衆野郎と叫ぶとか唾を吐くとか、そんなみっともない真似ではなく、ギリギリまで兄弟を倒す術を探っている。そう判断して間合いを取っているのだ。それに倒すだけならば、ナイフの一つも心臓に突き立てればいい。銃ならもっと簡単だろう。

 

だが、それはあくまでバレンタイン兄弟の常識だった。

気の強い少女が『くっ殺せ』などと常に叫んでいる訳でもないし、覚悟決めた少女が味方の兵器ごと自爆する訳はないのだ。

 

何しろここには……戦況をひっくり返すための『列車砲』があるのだから。

 

世界の未来の為にサキは諦めるのを止めた。そして『無傷』で生還する未来も諦めたのだ。たから自爆は自爆でもサキが選んだ方法は種類が違う!

 

『……敵の狙いは列車砲たい。共生派は守備隊を突破し……』

「通報した!? 貴様! 余計な事をするんじゃあない!」

「てめえ! 判ってんのか!? 今のてめえが兵士に見つかって、共生派扱いされねえとでも思ってんのかよ!」

 二階堂サキは幻獣化技術を使って改造された兵士である。

既に軍籍はなく死者として扱われている。正規ルートで照合され顔を首実検で確かめられたら、間違いなく怪しまれて捉まるだろう。

 

いや、それだけならば良い。

軍の研究室で拘束され、切り刻まれる可能性の方が高いのだ! そこには尊厳も何もありなどしない。

 

「だけんどがんした! わいらに捕まるんも味方に消さるっんも変わりゃせんじゃろうが! それならうちは未来に賭く!」

「狂ってやがる!」

「貴様には裏稼業の誇りってものがないのか!」

 何が誇りだ!

それよりも重視するモノがある。サキという女には己の存在全てを賭して守るべきモノがあった。

 

この国の未来の為に、この世界の明日の為に!

 

たかが自分の矜持、たかが自分の尊厳である!

 

ならばそんなモノに意味はない。腹立ちまぎれに浴びせられる銃弾を受けながら、聞こえ始める警報をBGMにサキは唄い始めた。

 

 状況はハッキリいって絶望的だった。

既にギリギリの状態で戦況を維持しており、それも列車砲の調整が終わり次第に放たれるという前提の上だ。

 

ここで列車砲が破壊されれば全ては終わるし、それを守り動かす為に派遣する戦力など何処にもなかった。戦力が無限に湧いて出る壺など、誰も持っていなかったのだ。

 

「暫し時間を稼げ! 私が何とかする! そのための方法は竜師から既に聞いている!」

 瞬間的に動き出したのはやはり舞だった。

突撃仕様は電子戦仕様ほどではないが、それでも複座型の処理能力は並の士魂号の十倍はある。何より舞は電子の巫女王と呼ばれるほどのプログラマーである、ハッキングなどお手の物だ。

 

だがしかし、戦況の方が舞の手を必要としていた。

 

「場外から新手! ……しかも新型だ! タランチュラが大型化した上にバージョンアップしているじゃないか!」

「該当個体をG・タランテラと呼称。……独立型から共棲型に変化しているようですね」

 瀬戸口の言葉を岩田が引き継いだ。

彼は戦況予報の功績で昇進しており、戦闘団参謀の地位を仮にであるが与えられている。今は過去の資料を洗い出し、該当個体の能力を弾き出していた。

 

「G・タランテラの能力そのものはナッシング。しかし背中にゴブリンの新種であるコボルト……ですかねえ? レーザーを吐くこれまた新種を大量に載せてますよ。嫌になるほど強敵そうです」

「滝川君。スナイプは可能ですか?」

「ちょっと難しいっすね。暇を何とかするにしても、アレは無理」

 ソレは大陸で多脚戦車だった旧型のタランチュラではなかった。

背中に持っていた砲塔はなくなり、まるで人間たちの様に共同作業を行っている。しかもコボルトはゴブリンなどよりも強力で、レーザーの嵐は厄介極まりない。

 

「仕方ない。私が片付けるとして……壬生屋、なんとかなるか?」

「問題ありません。こんな時の為に竜師が幾つか装備を陳情してくださったそうです」

 舞が苦渋を呑みながら確認すると、未央から返事が返って来る。

片手の太刀を腰に戻し、代わりに持たされていた対レーザー装備を取り出した。それは籠手に設置されたグレネーダーへ搭載すると、スモーク弾を放てるようになっているそうだ。実験中なので投射距離も長くないのが欠点だが。

 

「しかし……あの様子では一射では済むまいな」

「なら何度でもやろうよ。ボクならば舞を何度でも届けて見せる。もちろん無傷でね」

 倒せるのは良いがこの時間が惜しい。

そう苦渋の呑む舞に対し、厚志はこともなさげに微笑んだ。それがどれだけ無茶かを知っているだろうに。

 

だがしかし、この男はぽややんだ。

事もなげに、もっと無茶なことを言い出した。

 

「だから並行作業……できないかな? それが無理ならばせめてさっさと戦況をひっくり返そう。ミサイルならまだあるからね」

「……。そうであったな。私が誤っていた。目の前を即座に終わらせればよい」

 あまりにも無茶を言うものだ。

そう言おうとして舞は苦笑した。無茶ならばいつも自分こそ言っているではないか。ならばこの程度のことは児戯の様にこなして見せるべきだろう。

 

「そなたに感謝を。やはりそなたは私のカダヤだ」

「うん。……でもそのカダヤって何なのさ? いつも……あ痛た」

 舞の告白に首を傾げる厚志だがまあ仕方あるまい。

芝村式の言葉など知らないのである。知らずが仏というが、人生の墓場だぞ。まあ彼にとって素敵な墓場ではあると思うが。

 

そして一同は絶望的な戦況と向かい合う。

敵はこの機に打てるだけの手を打って来た。知性を隠すことを止めスキュラボーンに転送攻撃、今また新型幻獣まで投入して来た。幻獣が自然現象などではなく、盤面の向こうに居る敵なのだから何でもやって来るのは当然だ。

 

しかるに自分たちは予備戦力が払底し、戻るはずの第一戦闘団は未だ戻らず。仕方なく追撃戦用の第二戦闘団が戦っている始末だった。

 

控えめに言って地獄、もはや敗北の坂を転がり落ちるしかないのだろうか?

 

突撃仕様から放たれるミサイルでG・タランチュラが砕け散っても、それは人類の未来がすり減っている様にしか感じられなかった。

 

だがしかし!

 

『ここを乗り切れば我らの勝利だ! 恐れるな!』

 そこに……居るはずの無い戦力が居た。

後にデグレチャフ・カラーと呼ばれる色で彩られた白銀に青や赤をあしらった騎魂号である。

 

 白銀が宙を掛ける。

そのジャンプは今までの飛翔距離を軽く上回り、走れば地を舐めるかのように疾走している。

 

肩と足にある噴射口を駆使してホバーかと思う程の機動性を見せていた。

肩には翼を思わせるようなマークと少女らしき姿……それは聖女なのかそれとも天使なのか? 銀の剣もデザインされていることでどちらの意匠か判らなかった。だがハッキリしているのはその戦闘力だ。

 

『残りの始末は私が付ける。芝村は列車砲を動かせ! 壬生屋は前衛に専念して良し!』

 伝わる通信からはどこか硬い声。

聞き慣れているはずのターニャの声に微妙な違和感を感じた。それはマシンヴォイスだからか? 肉声ならばハッキリするのだろうか?

 

「デグレチャフ竜師!? 馬鹿な早過ぎ……」

「いえ。来援です! 竜師の来援です! 助かりました! 芝村さんは急ぎ列車砲を。竜師の御言葉ですよ!」

 疑念の声を善行はねじ伏せた。

違ったとしても、いや、違うだろうがコレを利用しない手はない。列車砲さえ動けば勝てるのだ。

 

多少誰かと『混同』した所で列車砲を動かす時間を稼ぎ、味方の士気を上げてくれるならば何の問題もあろうか。

 

『いや、すまんね。新機体を試し切りさせてもらおう。デグレチャフに持って来たドレスだ。何の問題もないだろう?』

「閣下の手の者でしたか。……驚きましたが助かりました」

 代行殿がどうしてターニャの音声を用意しているかは聞かないでいられた。

善行も必要ならば舞に頼んで同じ様な音声を用意しただろう。今は時間を稼げただけで万々歳だ、これ以上を望むのは間違っている。

 

……第一、ここで負けたら後がない。

逆に勝てたら幻獣との戦力比は大きく縮まるだろう。もしG・タランテラの様な共棲型幻獣を倒した時、例の赤い雲が大きく減るのであれば逆転すら可能かもしれない。そういえばミノタウルスのミサイルも……と他愛のない願望で危険な連想は埋め尽くされていった。

 

『という訳だ。友軍から撃たれる危険はないので安心して構わんぞ。あと君用のオペレーターはメイドを用意しておいた』

『メイド……ですか? しかし……』

 初期設定(プリセット)のついでに戦闘してみるか?

そう言われて一も二も無く頷いた狩谷であるが、この申し出には驚かされた。もちろんメイドの話ではなく、最新型の騎魂号を自分等に任せる事をだ。

 

『あー。誰だっけな。そうそう、遠坂家に招待された時にメイドをしていたんだ。アルバイトだという話だし、まあ気にするな』

『でしたら構わないのですが』

 メイドの事を尋ねようとしたのではない。

本当に自分等が使って良いのか? 戦車徽章を持っているだけで殆ど戦闘したことが無い自分なのに……。そう言おうとして韜晦されてしまった。

 

もちろんシミュレーターで訓練したことならある。むしろ人より多いくらいだ。

足の怪我で戦場に出られない悔しさから、山ほど訓練した。戦闘経験の無い自分でも違和感なく戦える様に、安全圏から戦う滝川のデータから始めて、パイロットたちの為に用意すると嘘を吐いてデグレチャフ竜師のデータまで手に入れていた。

 

だからこそ、狩谷はターニャの偽者として戦えている。

大回りして敵の射線から外れ、あるいは『この個体を倒せば戦況が楽になる』という個体を倒すために突っ込んでいく。

 

そんな時に(くだん)のメイドから通信が入ってしまった。

 

『あのー……。失礼します。5121の加藤です。うちオペレーターは初めてなんで失礼したらすみません』

『……か……とう?』

 どうして彼女が通信に出るのか?

いや、専属オペレーターを用意したと話は聞いていた。それがどうして、よりにもよって彼女なのか?

 

確かメイドを……遠坂に雇われたメイドを用意したと言っていなかったか?

 

『はい。うち加藤・祭です。ふつつかもんですがよろしうお願いします。戦況の案内や効率的な敵へ誘導しますんで。瀬戸口君みたいに御耳の恋人なんてできませんけど……あの竜師?』

『……問題ない。……敵は……倒すさ』

 待て待て!?

どうして彼女が? どうして寄りにもよって遠坂の所で働いている? 確か今時に珍しい割りの良いバイトを見つけたと言っていて、騙されていないか皆で心配していたくらいだ。

 

どうしてそんなに金が必要なのか? 彼女は贅沢をしていない。

そりゃ隊の為に備品を調達したりするが、それは予算内だし出血サービスする時もヘソクリの範囲だと言ってたじゃないか。

 

(いや、加藤のことなんて良いんだ。どうせ同情で構っていただけだし……金持ちの遠坂に乗り換えたならそれはそれで清々するさ)

 以前も同じ学校ではあったがそれまで近づきもしなかった。

それなのに自分が足を負傷してからやって来て、善意の顔で世話を焼いていた偽善者。

 

居無くなれば清々する。

そう思って何度も強い言葉を使って遠ざけようとしたのだ。だから……遠坂の方に行った方が良いのだ。

 

『新しい敵が内外同時に現われました。竜師には外をお願いしてもええですか? まずGタランテラ、その次に……』

『……見えている。即座に殲滅するから、次の目標を選定してくれ。悪いが休んでいる暇はないぞ』

 狩谷は腹立ちまぎれにタランテラを葬った。

最新型の対レーザー装備は順調に機能していて、レーザー主体の敵など物の数ではない。スキュラの弾幕ですら集中されなければ問題ないだろう。

 

注意するのはミサイル装備型の敵のみ。

ミノタウルスを新型の盾に付けられた鋏状衝角で殴りつけシールドバッシュしながら突入。そのまま追撃の一閃で切り裂いた。僅かな移動なのに数歩分の価値があり、新しい個体に回り込んで後ろから切り裂いていく。

 

力だ。此処には圧倒的な力があった。

 

『閣下。先ほどの件、もし可能だったらお願いしてもよろしいでしょうか? 可能でしたら』

『ん? ああ銀剣を取ったらというやつか。構わんよ』

 狩谷は先ほど、出撃前に聞いた冗談を思い出していた。

他愛ないジョークで、代行殿はこういったのだ。『ドクならば君の足を直す程度は簡単だ。銀剣突撃章を取れるほどの勇者ならば、その腕を振るわせても良い』……そう言ったのだ。

 

初陣で緊張する狩谷を励ますジョークに過ぎない事は判っていた。

 

だが芝村は口にしたことは必ず守る。その事を知っていた狩谷は悪魔との取り引きに応じる事にした。それが魂を売る行為だと知っていたのに。

 

熊本城決戦……こう呼ばれることになる戦いは、いまだに勝敗が伺えないでいた。




 という訳で二話に渡って主人公不在です。偽者は出ましたが。
次回は5121とのガンパレード。ようやくターニャが帰ってきます。

士魂号重装甲西洋仕様で瀬戸口が秘かに暴れるイベントと、狩谷のイベントを混ぜました。
原作だと裏側で始まるイベントですが、外伝でこなした感じになります。

●ユーリア姫の策略
1:主人公に足止め
2:スキュラボーン
3:転送からの実体化による、ビリヤード戦術
4:新型の中型幻獣投入
 これらを実行しています。
それまでは知性があることを極力隠していましたが、バラすなら大々的に実行する。
一気に片を付けてしまうつもりです。
え? 幻獣共生派? なんの事か判りませんね。

●銀翼突撃章をイメージした意匠
 この世界には銀剣突撃章はあっても、銀翼突撃章はないっす。
なのでこの機体には存在Xからの後押しが! まあターニャには届かないんですけどね。
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