熊本市への帰還途中、厄介なことに有力な幻獣の集団とぶつかった。
旧型であるケンタウルスのみで構成された集団で、その機動力は無視できない。特にネームドとでも言うべき漆黒の個体は屈強だった。
何が厄介だったかというと、レーザーだけではなく斧槍や長槍で武装していたのだ!
幻獣が武器を持つなと言いたいが、知性を隠すのを止めたらしく平然と隊伍を組んで襲い掛かって来た。
「良い引き際だが……被害は?」
「戦車隊は離れていたので無事ですが、軽装甲が二機ほど無視できないダメージを受けました。特に運動性が最悪です」
それでも戦闘そのものは勝利した。
理由としては単純で、対レーザー装備を付けた私の機体があった事と、基本的には地形を利用して回避を前提にしたからだ。敵も時間稼ぎが目的だったらしく、敵は一定時間戦うと見事に退却していった。
ケンタウルスの集団突進は恐ろしい。もし戦闘経験の無い部隊だったら壊滅していただろう。勝ったのも双方の戦術と選択肢が合致していた為でしかない、精鋭部隊同士の戦闘はしばしばそんな薄氷の上に立つことがある。
「……その二機は応急処置を施した上で損害に認定しておけ。大佐の方に回す」
「了解しました。秘匿戦力行きですね」
西住姉妹とエリカには幻獣王暗殺計画の話をしておいた。
なので
「どうしても間に合わない場合、我々は適当な所で戦車とトレーラーを置いて人型戦車だけでショートカットする。それまでの間に補給と整備に関しては可能なレベルで行っておけ」
「「はっ!」」
問題なのはこの後どうするかだ。
本来であれば熊本市に直帰すべきなのだが、敵がここで足止めを送り込んで来た事実が気にかかる。
幻獣側が速攻を掛けていないと足止めを送り込む意味がない。薄氷の勝利など目指す気が無いから確実に勝つために派遣したはずだ。先ほど引いていったのも逃げる為ではなく『まだ戦力が残っているから危険かもしれない』と思わせる為だろう。
「竜師は先ほどの敵が再び来襲しないとのお考えなのですか?」
「牽制攻撃くらいはするかもしれんがアレほどの集団を使い捨てる意味はないな。第一、お互いに必要なのは時間の方だ」
熊本城を救えなければ作戦の意味はないし、タップリ誘き寄せたところで列車砲で粉砕すれば後の戦いが楽になる。列車砲には『保険』もあるから……。列車砲?
本当に幻獣がこちらの切り札を想像していないのだろうか?
(待て。本当に列車砲は切り札なのか? 我々の切り札ではあっても芝村機関の切り札なのか?)
敵はここに来て知恵を隠すのを止めた。
スキュラボーンは我々からも見えたし、通信を拾うと新型幻獣やら疑似転移やら目白押しだ。オマケにご丁寧な足止めまで派遣してくれて厄介極まりなかった。
そこまでやって来た幻獣側が人間側の切り札を想定していない筈はない。
その程度の事は陰謀は専門外の私でも思い付くくらいだ。芝村が思いつかない筈はない。
(むしろ積極的に列車砲も囮にするくらいはするんじゃないか? だとしたらマズイマズイ……)
思わずゾっとした。何がマズイかといって『保険』の問題だ。
舞に非常手段としてハッキングの事を教えたが、あれは我々にとっての保険だった。
芝村機関がマッチポンプをやったとして列車砲も第三戦闘団もまとめて囮に使いかねない。
だとしたら何だ? 何が芝村機関にとっての
(どうすれば……どうしたら……)
本当にこのまま帰還しても良いのか?
急いで帰った瞬間に諸共に皆殺しにされたりはしないのか?
だが……そうでないならば時間は刻一刻を争うのに!
●
間もなく影響を与える為の時間的分水嶺が訪れる。
もし間に合わないのであれば戦車やトレーラーを捨てて直行するか、それとも移動している幻獣集団に横槍を入れて増援を止めなければならない。
だがBC兵器をその地点に設置されていたら我々も危険だ。早急に状況を把握し指示を出さねばならないだろう。
「市街外延に居る部隊に連絡を取れ。全体の戦況……特に第二戦闘団はどうしているとな」
「了解しました」
もし芝村が裏切った……こちらを使い捨てて勝利するつもりなら帰還はマズイ。
熊本城ともども一緒に粉砕されかねない。まさに狗の様に煮られてしまうなどとは御免だ!
理由を付けて逃げるべきか? そう思う心を静めて報告を待つ。
芝村は芝村でも、どの芝村が図面を引いたのかで意味が変わるからだ。
「判りました。市街の兵は包囲として外延からの攻撃にシフト中、第二戦闘団が代わりに戦っているそうです。詳細はもう少しお待ちください」
「……第二戦闘団が? 判った。暫くこのままの速度を保つ」
どうやらトカゲ顔ではなく代行殿の陰謀であるようだ。
トカゲ顔なら急遽戦う必要はない。おそらくは列車砲が使えなくなったので、急遽、保険を使う為に仕方なく奮戦中なのだろう。そして第二戦闘団が戦っているという事実が重要だ。
そして切り札がこの周囲から熊本城辺りまで吹っ飛ばすなら、やはり第二戦闘団が戦う必要はない。
むしろ指揮する必要があると言って、外延からの攻撃に専念しつつ必要ならば退却戦を企図するだろう。戦う以上は熊本市の何処かに存在するはずだ。ならばこの位置を含めて吹っ飛ぶことはないだろう。
「お待たせしました、これが配置図です」
「本営のある熊本大から豊肥線に掛けて? 包囲網の一角として動いているのか? ここを守るくらいなら最初から鹿児島本線でも守っていれば良い物を。……ここでも線路か」
第二戦闘団は市内に溢れかけている幻獣を倒している。
他の部隊は遠巻きにして精鋭を持って攻勢をかけているのだが、どうしてそこで戦うのか? 遊撃兵として待機するならば熊本大ではなくとも良かったはずだ。
線路を守る意味は分かるが、それなら別に鹿児島本線でも良いし、佐世保から運んだ列車砲は後衛であるそちらに配備していたのだ。鹿児島本線を守れば良い……と言おうとして違和感に気が付いた
(芝村機関にとっての
そして輸送を我々も幻獣も見逃してしまうナニカ。
そんな都合の良い物があるはずはない。見逃してしまうような盲点だ。
段々と読めて来たので、私は一息吐くと冷静にタイムスケジュールと今の戦況を計算し始めた。これから起きうる事態を計算して安全かつ、効率良い場所を選ばねばならない。
(舞が列車砲を動かせる場合と、そうでない場合。これらを把握する方法を探しつつ、同時に芝村機関の保険がどう動くかも把握せねばならんとは……)
そのヒントはおそらく第二戦闘団の配置だ。
舞の方がなんとか動かせるならば、トカゲ顔は追撃にこそアレを使うだろう。その為の配置……ギリギリまで様子を見るなら時間が目安か?
無理だと判断すれば即座に熊本城の周辺に『試射』、第二射を直撃、第三射を増援に使うだろう。逆に何とかなるならば試射も本命も敵後方に使うだろう。
やがてショートカット可能な場所に出たが、幻獣も直行しているのでルートが限られる。
そろそろ行けるという場所に出た時には、既に列車砲が発射されているはずの時刻だった。曲射砲や超長距離砲は試射しないと位置調整が難しい。
「……変ですね。そろそろ列車砲が使用されても良い時間なのですが……」
「それは今頃故障中だろう。なに、心配するな。列車砲自体は『もう一門』あるはずだからな」
芝村機関が用意する保険、それは誰にも知らせてない『二門目』だ。
以前に『背州公の遺産』をブン取る権利を交渉材料にしていたが、その段階で二門あるからこそ一門を交渉材料にしたのだと思えば連中のやり口に相応しい。
そして二門目を動かす為に第二戦闘団は隠している列車砲の周囲で戦闘中なのだ。
「きっ聞いてない。聞いてないですよ!?」
「私も聞いてないからな。
これは単純な計算式である。
三引くことの一、あるいは二引くことの一は零なのか? 余りがあればそれも列車砲にするだろう。
「考えても見ろ。どうして背州公は地元じゃなく佐世保に発注した? そこに『現物』があって改造が行い易いからだ。あるいは改造中に中止・延期されていたのかもしれんが」
「え? 佐世保ですか? それは海軍の……あぁ!?」
そう、列車砲は戦艦の主砲を転用している。
可能性論でしかないが二連砲塔ないし三連砲塔をバラしているだろう。つまりバラした砲は最低でも一門の追加が存在するはずだ。再建造のために実験するとしても二門あった方がいいし、元のサンプルだけなら燃料不足で動かせない戦艦で十分だ。
それを補強するのは背州公の権力欲と芝村の陰謀性だ。
切り札は複数用意して、一つしかない貴重品であるように交渉する。その姿が見えるようではないか。
(おおよその青写真が見えて来たな。二門あることを知っているなら、片方を囮に幻獣側へ差し出せばいい。破壊するなり運用する為の人員を皆殺しにすれば、私でも考慮から外す)
仮に敵の指揮官が用心深くても、始末したモノにまで注意を払うまい。
まともに戦って倒すよりも楽だし、何よりも政敵を同時に葬り去れるのが良い。
芝村は他の部隊にも、他の芝村にですら策謀を仕掛ける。口にした事を守るというのも『一回だけなら嘘を吐いても良い』という悪魔的な手段を用いる為でしかないだろう。
「元戦車兵のお前に言うのもなんだが列車砲に限らず曲射砲には試射が必要だ。撃ってないという事は、一門目がギリギリ動かせそうなのだろう。という事は二門目が狙うのはこの辺りだな」
第二戦闘団は熊本城の東北東に陣取っている。
そこからなら熊本城も、幻獣の増援も狙う事ができる。そして熊本城には舞が動かす一門目がハッキングして調整中ならば、二門目も調整中であると考えた方が自然だ。
繰り返すが二門目が無いならば第二戦闘団が奮戦する理由はない。
そして一門目が破壊されているならば、とっくに発射してしかるべきなのだ。
●
ここまで推測できたことで方針も見えて来る。
本来ならば時間が無いので普通ならばショートカットするべきだが、むしろ目標を変更する事で増援やら回り込む敵を叩きに行くべきだろう。
着弾点は熊本城からやや向こう、そしてさらに向こうへ二発目だ。
「人型戦車に搭乗せよ。ただし目標は熊本城ではなく南から西へと回る」
「目指すのは熊本城ではなく、後退する幻獣の側腹ですね。西住万翼長にもお伝えします!」
担当すべきは第二戦闘団が本来するはずだった追撃戦。そして『万が一』の対策だ。
ゆえに我々は幻獣の増援部隊を叩く。次々に送り込めないようにして追撃に移る為の補給時間を稼ぎ、同時に……考えたくはないが第三戦闘団が壊滅し掛かっている場合はその再編の為にも時間が必要だからだ。
状況的に一門目は無事で二門目の列車砲はあるはずだが過信するわけにはいかん。
仮に無かったとしても、増援を一時的に阻んでおけば立て直せるというわけだ。まあ逃げ出す羽目になった時に『なんで何もしてくれなかったんだ』という事に成ったら軍法会議物だしな。
「列車砲の着弾と同時に信号灯! 十分待って着弾しないようならば、構わずに揚げろ!」
「はいっ!」
城ではなく移動中の敵を狙う為、距離的にも短縮できた。
第一戦闘団これにアリと信号灯を掲げ、我々もまた再出撃を掛ける。
「列車砲着弾! 弾種は榴弾です!」
「よし! 敵側面に強襲を掛けろ! 深入りは絶対にするなよ二門目に巻き込まれる!」
「「はっ!!」」
敵集団の画像を望遠で捉え、レーダーも合わせてそれなりに把握してある。
比較的に密度の薄い場所を探して置き、戦闘団の火力をフルに活用して攻める事にした。
『こちら西住。援護射撃を開始します。ご健闘を』
「行ってくる。落とさなくても構わんから次々に削っておけ。では我々も行くぞ!」
戦車の榴弾では中型幻獣を一発で落とすのは難しいが、士魂号のライフルと合わせれば十分な戦果を期待できた。
やがて戦車からの援護射撃が着弾し、こちらも榴弾で広く浅く削っている。倒すというよりも混乱を誘い、我々が落とし易くするためだ。
「よし! 行くぞ! 久しぶりに戦闘団の真価を見せてやれ!」
「突撃!」
「「おお!!」」
本来はこの形が理想形だが、流石に何時でも使えるわけでもない。
戦車隊は別の場所に砲撃したり、人型戦車は囮になって逃げ回ったりするのが定めだ。しかし今回は追撃戦、楽に勝てるならば言う事はない。
ライフルの砲撃で中型幻獣を一体ずつ潰していく。
相手にもよるがニ~三発の集中砲撃で一体だから、外れることを考えて四機で攻撃したりもする。移動射撃や逃げながらの攻撃だとどうしてそのくらいになるからだ。しかし榴弾で削っておけばその半分も必要ないのが助かる。いつもこうだとありがたいのだが。
「第二小隊は付いて来い! 斬り込むぞ!」
「はっ!」
さらなる攪乱の為に突っ込みなれた二機を連れて突撃。
ただし攻撃するのは主に私で二機の軽装甲は囮兼トドメ役だ。今回は歩兵を連れて来ていないし、流石に短期育成で5121みたいなのは鍛えられない。一番フラットな滝川でも戦闘経験がおかしいからな。
そうやって何も判らずやって来る増援部隊を次々に叩き、後退して来る連中も潰していると話に釣られたのか連中がやって来る。
『あれ? 竜師。いつのまに乗り換えたんですか?』
「え? 何を言ってるんですか。竜師なら私たちと一緒に……」
「ん? ああ、西住良い。……いやなに。流石に連戦だと面倒だからな」
戦場で合流した滝川が馬鹿な事を言い出した。
まるで私が熊本城で戦っていたかのような言い草だが、まあ戦場には良くある話だ。援軍が来たことを演出すれば士気が一時的にでも上がるしな。
話している間にも割り込み通信のノイズが入り始めたので、大体想像は出来る。
『申し訳ありません。実は……』
「良い。付き合え。……
善行に事情は察したと伝え、残敵を掃討することにした。
その内に第二戦闘団も駆けつけて、トカゲ顔が説明の一つもくれるだろう。
という訳で熊本城決戦は終了しました。
というか間に合わないと判ってるので、全体を想像して計画修正した感じになります。
敵は確実に妨害して来る、しかし間に合わなさ無いと立場が無い。
そして本当に大丈夫じゃなければ死にたくない! ドウスレバインダー!
という感じですね。