暫く幻獣を蹴散らしながら進んだ所で一度停止し、味方の合流を待って再編を行う。
熊本だけでも幻獣は数十万を残しており、ここから先は別の群れだ。劣勢認定・士気崩壊など起こしていない可能性の方が高くなるからだ。戦闘レポートも走り書きでは信用ならん。
そして三つの戦闘団はどこも連戦続きで、一息入れないと士気も補給も途切れてしまう。その為に率先して停止し、さっさと首脳陣を集めて軍議のお時間である。
「従兄弟殿。よくもまあ涼しい顔で……」
「千翼長、止ておけ。裏で台本を書いたのは代行殿で、お前の従兄弟は黙っていろと言われただけだろう? なら殴るのは気持ちよく思い切らせてやるだけだ。『次』に期待しておけ」
「その表現は止めてください。まるで私がマゾヒストの様ではないですか」
舞を宥めているとトカゲ顔は涼しい顔で微笑んだ。
見抜けぬお前が悪いと言わんばかりの表情だが、まあ実際にそう思っていそうだ。しかしこいつは芝村らしからぬ舞を野放しにしている支援者であり、複雑な精神性はやはりマゾなんじゃないかと思わなくもない。
ここに南高の連中が居ないのは、舞とのやり取りを見せたくなかったのだろう。
情けない姿を見せたくないのか、それとも上官を殴るであろう舞に罪を押し付けたくないのか。どちらにせよ心の清算をさせず、次に共生派が動く時に止めたくなるように心理的プレシャーを掛ける方が建設的だ。
「皆を集めたのは未来の話をする為だ。例え親の仇でも諍いは許さん。例外はアカどもだけだ」
「……アカ共だけですか。なるほど」
「思い切り私怨じゃないですか。笑えない冗談は置いておいて……本題に入りましょう」
善行は冗談だと思ったらしい。
私は本気なので『幻獣の和平派』はともかく、アカ共が居たらこの場で撃ち殺していたと思う。その辺りの機微を悟ってトカゲ顔の方は苦笑している。
「これから難しい匙加減が始まる。夏を前後して幻獣の攻勢が強まるだろう。これから一週間で可能な限り押し返しておきたい」
「例年なら休戦期なのですがねえ……」
以前は半信半疑だった善行も既に休戦期を信じてはいない。
何しろ熊本城を攻めるのにあれほど好き放題やったのだ。自然休戦期には攻めませんなどと、この部屋にいる全員が信じてはいまい。
「具体的にはいかがします? 列車砲を押し立てて各地で奮戦なさいますか?」
「冗談は止せ。そんな事をしたら壊してくださいと言うのと同じだ。戦力はまとめて使うモノだしな。アレは八代の蓋にしよう」
「今はザルですからな。その方が建設的ですか」
話を促すために例を口にする善行だが私は即座に首を振る。
複数個所で使えば確かに戦闘効率が上がるが、護衛部隊と調査部隊の両方を各地に派遣する必要がある。秘匿できないから何処かで共生派に潜り込まれる可能性もあるし、単純に転戦先で幻獣が待ち構える可能性もあるだろう。
これに対して一か所で使用し続ければそれなりに防備を固められる。
鹿児島から一直線の位置にある八代平原で敵を喰い止めるために、出口に当たる位置へ設置すれば撃破速度もそれなりに早くなる。メシ屋と同じように回転率を上げて勝負という訳だ。
「どのみち足手まといを連れて転戦を繰り返せるほど戦力が残って居まい。第三戦闘団は役目を終えた物として第一・第二が吸収する」
「妥当ですな。それならこちらの戦力回復も早い」
「やれやれ無任所ですか。隊員たちには何と言ったものやら」
第三戦闘団はそもそも熊本城決戦に向けて用意したダミー情報だ。
トカゲ顔は当然の様に頷くし、善行も苦笑して見せるが予定の行動なので文句を言ったりはしない。
「そうだ。解散するのは構いませんが、その前に岩田君をお願いできませんか? 彼の案には素晴らしいものがありました」
「幻獣の出現パターンの話か? 了解した。一律で昇進させる前に他と合わせて処理しておこう」
なお今回の任務では熊本城で戦った全員が昇進する予定だ。
殆ど死地に放り込んだ様なものだし、激戦の結果が今の勝利につながっている。そのくらいは至当だろう。
ちなみに私は戦いを運営した立場なので昇進はしない。
学兵をまとめる立場になったからこその竜師昇進だったしな。計画した者が計画通りいったからと言って昇進するはずがない。まあ自衛軍の方はちゃんと昇進してくれているとありがたいのだが。
「滝川百翼長の方は銀剣突撃章の推薦で勘弁してもらおう。今回の連戦も合わせて考慮されれば貰えるだろう。森百翼長は整備学校教官への推薦、それと狩谷十翼長も今の内に昇進させる」
「狩谷?」
「ああ。彼が予備の士魂号を整備しておいてくれたのですよ」
挙げられたレポートの中には幾つか推薦事項が書いてあった。
妙に詳細だなとは思わなくもないが、どれも至当ではないかもしれないが問題はない。滝川がアニメの話で岩田の話を補強したのはオマケみたいなものだが、狩谷が予備の士魂号を整備したのは助かった。おかげで損耗扱いにした二機の補充もできたしな。
整備のトップである原の副官ともいえる森の手際も良いので、将来の事を考えて教官枠に推薦しておこう。
「話は戻るが、先ほど言ったが戦力は傾斜させた方が使い易い。第二戦闘団は八代に位置して、列車砲の護衛と後詰めを頼めるか?」
「列車砲に加えて第二まで?」
「オリジナルの話込みで幻獣を引っ張るつもりであろう」
この話にはトカゲ顔ではなく善行が首を傾げた。
金床と鉄槌戦術の有用性だけでも納得できるだろうが、舞の言った『オリジナル幻獣』というネタをこの場の全員に周知させる狙いもあるのだろう。
ここで熊本市を単純にガラ空きにしてしまうと嘘である可能性が高くなるが、どこかに警備の厚い場所があれば話は別だ。そこに攻め寄せたくなるし、既に兵が居る八代なら増援を送り込めばよいかと妥協したくなるだろう。
「そういう事なら反対する要素はありませんな。5121はそちらでお連れください。罠としては過剰過ぎます」
「助かる。敵の大多数は八代に流して列車砲でまとめて潰すとしよう」
という訳で歩兵主体の第二戦闘団を列車砲の護衛兼、予備戦力として一足先に休息。
トカゲ顔の言う通り機動戦力の足を止めるのも惜しいので、5121は第一戦闘団と共に運用するという流れになった。これで第一戦闘団の戦力も拡充するし、消耗を抑えれば幻獣王戦にもそのまま行ける形だ。
以前にも火力小隊として用いていたし、舞を戦闘団付きに参謀にしていた。
同じ扱いで一足先に百翼長に昇進させた岩田を参謀枠に入れておく。舞に関してはエースofエースなのでもはや無碍にする者もいないし、あえて参謀に任ずる必要もないしな。
「まず比較的大きな塊を潰した後は枝葉を叩く為にテコ入れする。自然休戦期前の駆け込みだと思わせる」
「あまり追い返し過ぎたら幻獣王を暗殺し難いのではないですか?」
善行の疑問はもっともだが私は首を振っておく。
繰り返すようだが敵は圧倒的な大集団なのだ。熊本だけで数十万、九州南部にはまだ百万かそこらは残っているはずだ。
「絶対数の差は正義だよ。連中にとってはまだ本気になった一回目の派遣軍がおじゃんになった程度に過ぎん。それに……味方の空気をもう少し引き締めておきたい」
「空気?」
「厭戦気分の事ですね。ソレを失念してました」
今度は逆に舞が首を傾げ、善行が説明を加える。
誰もが常在戦場という訳にもいかないし、舞から見れば当たり前のことを普通の兵は出来ない。いや、こればかりは将校もだ。……かつてのブレスト軍港の件が思い出される。
ライヒはフワンソワに勝利したが、ド・ルーゴと残存戦力を取り逃がして痛い目を見たのだ。その時に追撃を提案した私の提言はあり得ぬことだと言われてしまった。あの時の苦渋は忘れがたい。
「単純な話だ。ポーズとして休戦期を利用するのは良い。だが、方便を皆が信じてしまえば奇襲は成功してしまう。気が付いたら熊本市が落ちていたなど笑い話にもならん」
直前まで戦っていれば前線は自然と気を引き締めるだろう。
後衛も手元に戦力が居ないので、共生派対策に駆り出されて弛緩する余裕はないはずだ。
後はギリギリまで押し込んだ状態で、幻獣側から強硬策でもう一度攻め込ませるべきだろう。
「竜師よ。事前に兵には周知しておくとして理由はどう付ける?」
「そうだな。幻獣は夏になると能力が下がるなり大幅にエネルギー消費が悪化するだけで、攻めようと思えば攻めれるとだけ伝えておけ。その辺りは岩田百翼長が詳しいのだったか? 説明込みで考えさせておけば、千翼長になっても誰も不思議がるまい」
「うちは不思議がってますよ。どうして普段から
舞の質問には以前から考えていた疑念を出しておく。
善行の冗談には答えようがないのでスルーして今回の軍議は終わらせた。
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改めて損耗を確認すると目を覆いたくなる有様だった。
第三戦闘団は近代軍事上の全滅である二割は当然の様に戦死しており、数字上の生き残りは半分以下。その数値も5121や置いていった戦闘団の歩兵は大半が無事なので、比率的に戦い慣れてない連中は実質的に壊滅していると言っても良い。
そして生き残っているメンツにも色々と問題が生じている。
士魂号が損傷して
「申し訳ありません。自分らがこんな所で……」
「名誉の負傷だ気にするな。それに引退とはいえ教官役を務めてくれるのだろう? ならば遠慮しないで下がれ。どうしてもと言うなら専用のウォードレスでも作ってもらって前線へ復帰せよ」
何が痛いかと言って兵藤と妹尾の両中尉が重傷を負った。
無理をして幻獣共生派対策に兵を割いた所、二人とも大怪我を負ってしまったのだ。一人は片目を、もう一人は片腕をやってしまっている。
もっとも最近の医療技術は進んでいる事と、生体結晶を使ってウォードレスや士魂号を動かせることから、本当に戦えないわけでもない。傷さえ癒せば予備役兼で歩兵の教官くらいはできるはずだ。当面は連絡要員を兼ねて後方の病院送りが適当だろう。
「それ本当なんですか? 専用のウォードレスなんざ聞いたことはありませんが」
「ドクは製造や整備用に四腕の可憐を改造して居たぞ? 変人……いや天才の所業とはああした者をいうのだろう」
「それって伏せてませんよね? そこまで偉くなれそうにないですが」
二人を大尉に昇進させて教官とし、PTSDの兵を付け部隊単位で送り出す。
自然休戦期になるからと後方からリクルートするにしても限界はある。共生派対策やら幻獣側の強襲に備えて残しておかねばならないしな。こうでもしないと兵のやりくりが追い付かん。
それに後方には戦闘よりもむしろ気の利く連絡員の方が重要だ。
という訳で表面上は温情と気遣いのオブラートに包んで、せいぜい彼らを有効利用しよう。
「さて、ここからは速攻だ。右往左往する事になるから途中へ補給ポイントを設けて整備の一部に歩兵を付けて置いていく。原千翼長に手配は任せる」
「それなら狩谷君が適任ね。森さんは職人気質だけど彼ならマニュアル型だから」
嘘か誠か疑似転移には赤い雲が関わって居るらしい。
本当かどうかは判らないが、ともあれ指針くらいにはなる。こちらが『赤い雲の方向性を絞る様に行動している』とは思われないように、速攻であちこちを潰す必要がある。となれば補給もだが人型戦車の足回りが心配だ。
それにしても褒めているのか、けなしているのか。原の表現はいまいち判り難い。まあ戦闘団の時に少し付き合っただけの間柄だしな。とはいえ整備に関しては熊本で一番なので、その目は確かなはずだ。
「では行動に移れ!! 今日中に叩いて明日からは可能な限り枝葉を潰すぞ!」
「「はっ!」」」
例年で言えば五月十日が自然休戦の目安だという。
残すは後数日だが、これは当てにならない。でき得る限り鹿児島まで追い返したいものだと思っていた。
そして奇妙な噂が聞こえてくるようになる。
謎の士魂号が幻獣を狩って歩いていると、僅かな間に熊本中で噂になり始めたのだ。
という訳で熊本城決戦編は終了しました。
次回から幻獣王暗殺編に移ります。そこまでは過去のメモがあるので確実に終わる予定。
その後に●●●●編を描き卸しで進める為、ややペースが遅く成る予定です。
●戦後処理
本当はターニャが幻獣和平派が信用できるのか、
それともジョンブルみたいな信用ならん奴か? とかいう懸念出したり
じゃあ事前交渉お願いしますと言われて「どうしてこうなった!?」という話でしたが
ターニャが出来たとしても合わないので止めておきました。
レルゲンさんが居たライヒのころは良かったなあ……とか思う話だったのですが。
後、重要な事ですが……ゲームと榊ガンパレでは流れと相手が違うのですよね。
なので詳しくは語らず、どちらかといえば後から聞いて「なんだと!?」ですかね。
●整備関連
受け取った報告の中に色々と書いてあったからですね。
知ってたらターニャなら功績を認めるでしょう。誰の書いたレポートかは別にして。
中間拠点のリーダーに狩谷君が就任するのも、一応は妥当な事です。
榊ガンパレではマニュアル型で説明が判り易いと一番評価高かったですからね。
もちろん手際のよい彼の事です。自分が何かする為の時間は上手く空けてくれるでしょう。