おおよその作戦は逆算で構築できる。有望な場所や兵装に限りはあるからだ。
スパイを介して名称がバレても本命は感応型幻獣なので問題はない。後はこの案そのものが間違っているか、あるいは誘導されたモノではないかの考察だけだ。
「問題は皇帝だけに肯定されている可能性ですかね?」
「……襲撃そのものは既定路線という事か? その辺りは可能性を上げていく他ないな」
幻獣に詳しい岩田百翼長からはつまらないギャグ以外に特に無かった。
こちらが逆算でスムーズに作戦を構築できる以上、相手も出来て当然だ。だが此処まで来れば残りの時間は欺瞞工作に使うなりするしかない。
可能な襲撃ポイントを幾つか選定。一番襲撃し易い場所よりも判り難い位置を選んだり、前の段階で陽動作戦を掛けたりくらいか? この前段階の襲撃自体は欺瞞なので成功する必要はないのが素晴らしい。
「襲撃に使うギミックは間に合うのか? バンザイ突撃は御免こうむるぞ」
「煙幕は帰りの分も含めて確保していますし、風速予報も問題ありません。どちらかといえば新城大佐の確保した伝手を信用するとして、どの程度カユイ所に手が届くかですね」
列車砲で煙幕を撃ち出してレーザーを無効。その後にジャミングを掛けて突撃する。
この流れは私が提案した段階で可能であったが、ちゃんと予備弾込みで用意してくれたのはありがたい。
しかし……大佐が用意した伝手というのが非常に『苦悩』させられた。
「このタイミングで『客人』か。潜伏している大佐が伝えてくる時点で向こうも襲撃を察していたのだろうが……。どうにも不安だな」
「協力が得られるならば襲撃の確実性は増します」
何が苦悩するかというと、知性型幻獣からの申し出があったそうだ。
猫の手も借りたいほどだが幻獣の手を借りるのはどうかと思う次第である。ただし内応というものは敵を倒す時に有益な手ではあるのだ。
「協力は得られるだろう。……私の書いた推論の中に、幻獣王が動く前に将帥が干された話を入れてなかったか?」
「アレが無ければ私たちも信用してませんね。信用と信頼はノット・イコールですが」
私自身が干されていた時、感応型幻獣に気が付いた段階で察してはいた。
善行たちですらその予測へ半信半疑であったからこそ、後から出てきた知性体幻獣からの要請が逆に信じられたのだ。単純に和平派とか言ったらその時点で信用しない。だが敵の敵は味方の理屈に置いて、派閥抗争への援助要請あるいは共闘関係を要望しているのだから信憑性が増している。
「それに『条件』が気に掛かります。襲撃に成功し易くなるとしても、勝てるかどうかが非常に怪しくなりますよ?」
「私はむしろあの条件こそが信頼に値すると考えている」
「舞の言いたいことも判る。だからこそ余計に難しいが」
突きつけられた条件は非常に難しい物だった。
善行が言う通り作戦の成功自体が危ぶまれ、同時に知性体……お姫様らしいが、その心情的に信頼を与えられるのだ。
いわく、妹姫が引き回されているので救助して欲しい。
そこは肉親の情ゆえと理解できてしまう。確保したらこちらが暫く静養に協力するという面で人質になるから猶更だ。この件そのものが誘き出すための策略なのだとしたら大袈裟過ぎるしな。
「問題は我々を苦しめた統率者の依頼で、テロの親玉を救って欲しいという事だ。しかも『目的』の近くだからいきなり吹っ飛ばすという手段が使えなくなる」
「では何時までも戦い続けるというのか? この千歳一隅の機会を捨てて」
軍首脳はともかく、政府筋はこの案に飛びつくだろう。
ボロボロに負かされた相手だから軍首脳は許し難い。しかし延々と続きかねない……それも敗色濃厚な現状に良好な終止符を打てるから政府は飛びつきたいはずだ。
世界大戦で言えば空母が全て沈み、燃料を喰う大和と武蔵だけが残された切り札の頃か。
軍首脳はまだやれるというが心情的に損切りできないだけで、和平を結びたい政府首脳の方はより良い条件があれば何時だって和平派ウェルカムなのだ。
「それともこの話を握り潰して英雄になってみるか?」
「出来たら苦労はせん。軍人は文民統制が原則だ。話が政治向きになった時点で既に伝えてある」
そもそも新城大佐が話を寄こした時点で裏はそれなりに取ってあるはずだ。
後は精査と言い訳けをよろしくと投げただけで、大佐の方でも駒城経由で廟堂に投げているだろう。話題にするようなものではないだけで、いつこちらに次官級の官僚が送られてきてもおかしくはない。
加えて私は安全な後方勤務が揺るがぬ第一志望だ。戦争続行など論外と言っても良い。
「であれば悩む必要は無かろう。我々は火中の栗であろうと拾わねば未来が無いのだ」
「勝算の問題をしているんですよ。誰もが芝村さんみたいに割り切れる訳ではありません」
「……いや。トータルで考えればこちらの方が確実かもしれん。無数の勝利と一度の博打だけならトレードオフしているとも言えなくはない」
依頼されたとおりに馬鹿正直に戦えばこちらも危険ではある。
だが心情的にも人質を得るという意味でも、幻獣の侵攻がそこで止まるのは確かだ。現時点で九州の半分を確保し、条約発効までに熊本全土を回収できれば渡すのは一部で済む。鹿児島と沖縄くらい……確保できずとも九州の半分見通しは明るいとはいえる。
例えとしてロシアに対する日英同盟なら吉兆だろう。
だが世界に対する日独同盟だとしたら不安でならない(イタリアはこの際忘れておこう)。手を組んだは良いがアメリカあたりに睨まれては意味が薄いのだ。確実に幻獣の動きを止められるという保証もないしな。
「竜師までそんな事をおしゃっては……」
「道が無いのは確かなのだ。一度の勝利で安定した後方、銃後が保証されるならば軍人としては動く他なかろうよ」
普通ならば同盟国になったアメリカを慮るべきだ。
私もこれが最初の転生ならば、米帝との戦いなど忌避したかっただろう。だが……。
くっそたれの存在X!
あいつならばどんな勝ち方をしても、最終的にアメリカを動かして試練だというに違いない!!
(どうせ米帝と戦う羽目になるのであれば、少なくとも味方は多い方がいい。そして他の幻獣勢力に対する技術を確保できれば話は変わって来る。幻獣と組むなら積極的にそんな技術を渡すはずが無い、日本が幻獣と組んだのは間違いだ……とな)
幻獣と戦いを繰り広げたばかりで、戦いが止んだからと言って即座に動く事はあるまい。
特に自然休戦期に入った所だ。偶然例外的に戦闘が起きたが夏の間は休戦している。そんな状態で有効な迎撃手段を見つけたから、幻獣の方が戦うのを控えたとも取れるはずだ。
米帝は強大でもすべての意見が日本攻めるべし等という論にはなるまい。
ICBMやSLBMもないから攻撃するとしたら爆撃機のみになる(というかあったら南米に使っている)。そんな事が可能な保証があるという事は、つまり日本に幻獣が味方していないという事になるではないか。どこかで妥協できるのであれば、戦う意味もあるだろう。
可能ならばジャーナリズムも味方に付けたいところだが……。日本はその辺苦手なのだよな。まあ私が関与する話でもないか。
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ともあれ共闘の話は受けるしかない。
その上で同行しない事でお互いの保証と信頼問題をクリア。故意に失敗させたりしないという信用のみを担保として共同戦線という路線になった。
「しかしホログラフに感覚上の仮想反応を持たせるとは考えましたね。閣下の勘案に対して感激の至りです。所でワタシは『か』を何回言ったでしょう?」
「数えて居られるか。欺瞞工作は多ければ多いほど良いからな」
光学術式の代わりに映像技術でホログラフを創る。
だが、ソレだけだと感応型幻獣に見破られてしまうだろう。だからこちらの味方をするという相手に感応型へのハッキングまたは、欺瞞情報として特殊反応を与えられないかを考慮したのだ。
後はソレに引き付けても良いし、自分たちの前に映し出して『あれは幻影だ』と思わせても良いだろう。見抜かれても見抜かれなくても、射撃一手分の時間を無駄に使わせられるならばそれで良いのだ。
「ともあれこちらの協力者にはソレに専念してもらおう。後はこちらで何とかする。部隊の掌握に関しては幻獣王の能力をどれだけ削れるか定かではないからな」
「妥協案としてはそれしかないでしょうね」
参考にしたのは
あれは面白い使い方だったし、私の好きな軍事物が混ざっていたので見に行った。転生しても覚えているのは単純に印象が強烈だったに過ぎない。一作目は嵐とコンピューター以外に覚えてないし、三作目以降があるのかなんて完全に忘れている。
「偽装襲撃で相手の動き方を測るか、それとも同時進行しそうな部隊を足止めするかで迷うな。前に敵集団を八代に誘導した時、妙に統率の取れたケンタウルス共に帰還を邪魔されてしまった。あの時の二の舞は避けたい」
「余力が潰れたのでは意味がナッスイング。しかし懸念ばかりでは余力の意味もナッシングです」
相変わらず馬鹿な事ばかり言っているが岩田の懸念も判る。
余計な事をして戻れなくなるのはアホだが、恐れすぎて何もしないのはバカである。適度に意味がある事を行い、相手の余裕こそを奪わなければならない。
とはいえそんな都合の良い敵集団など居るはずもない。
邪魔される時は邪魔されるし、相手にその予定が無ければ邪魔されもしないのだ。そして一度邪魔されれば攻撃タイミングを整え直すのは容易ではない。
「いかんな。堂々巡りになって来た。こんなことならいっそ……。いっそ?」
「いっそ一掃してしまえと? どうかその手段をテル・ミー・プリーズ!」
本人としては真面目に道化をやってるのだろうが、ここまで来るとただの進行役に過ぎない。
岩田ではなくAボタンとでも名前を変えれば良いのにと思う。だが、この場合は両者の距離はあまり離れていないだろう。
「そうだ。その手があった。どうせ邪魔されるのであれば、いっそ邪魔者を討てば良い! どうせ読まれるだろうと計画初期に放棄した場所があったはずだな!?」
「テル・ウィーではなくテル・ミーと言いましたので、此処は是非私にだけ教えてプリーズ」
「一度に聞いた方が速かろう。……少し待つが良い」
ここまで来たら考え方を変えよう。
前にも言ったような気がするが、貧すれば鈍すると言うではないか。せせこましく確率を上げようと考えるから考え自体がみみっちくループするのだ。
舞が取り出した作戦所と地図の中から、一番有望であると思われた地図を取り出す。それは襲撃し易く列車砲の援護も入れ易いのだが、地形の問題で相手からも予想し易い場所なのだ。
「いいか? まずド直球に此処で襲撃を掛けたように思わせる。もちろん援軍が来なければ陣形そのものを大きく削っても良い。だが、まずそうはならん。そこで……」
「ふむ。出てきた直衛を叩くのか?」
「なるほど。それなら早い段階で離脱もできますね」
その地形には通り道に合流ポイントが幾つかあるのだ。
自分達も潜めるが相手の部隊も潜むことが可能で、しかも平たんな場所なので敵は援護に駆け付けるなら、射撃での横槍が入れ易い。それこそ本隊と挟まれでもしたら全滅は確定してしまうだろう。
だが接近ペースを緩めるなり、先鋒を人型戦車だけにしてジャンプで戻れば話は別だ。Uターンしつつ増援だけを叩いて漸減させることができる。
「万が一、気が付かない場合はどうします? 新城大佐にも連絡必要ですし」
「こちらが見つかっても良いのだから、歩兵には相手の伏兵を見付けることを優先させれば良い。どうせ途中で引き返すのだから、列車砲と新城大佐の出撃要請は無しで行こう。妹姫とやらが本物か確認するくらいはしても良いと思うが」
まずこちらが即座に用意できる兵で相手の伏兵を叩く。
そいつらの中でも精鋭部隊だけでも潰しておき、その次は全ての手段をまとめて一気に攻めれば良い。
「表面上は隠蔽前提の速攻を装うという事ですね」
「そうだ。全く伏兵が居ない場合は……無いとは思うが、タランテラ周辺だけを潰して下がる」
「その辺りが限界であろうな。おそらく大樹を構えたミノタウルスが回って来るであろう」
形の上ではGタランテラのレーザーを無力化しながら、ジャンプで敵ミサイルを回避。
接近して突撃する態勢に居なるが、舞が言う様にミノタウルスが回り込み、そのままゴルゴーンらも砲撃態勢を整えるだろう。
ゆえに我々はさっさと厄介な新型のみを叩いて撤収。
相手の陣形変更がどの程度のものかを確認し、陽動作戦を終えて下がるという手順を組んだ。理想的なのは、伏兵を潰したうえで相手の動きを確認したいところだがな。
奇襲を装った伏兵殲滅作戦に向けての動きはスムーズに行った。途中で例の御姫様とやらが合流するのが面倒ではあったが。
という訳で具体的な作戦を詰めつつ、予備作戦の策定です。
次回は久しぶりに戦闘になり、迎撃して来るであろうケンタウルスの精鋭部隊と戦います。
●お姫様たち
オリジナルの話を持って来た妹姫のせいで大変なことになった。
また人間なんかに敗北したのは姉姫のせいだ。そこで両者とも処断。
巨大な御立派さまであられる帝弟殿下が御親征遊ばされております。
なので、引き回されて酷い目に合ってる妹姫を助けるべく
姉姫さまが人間側に付いてる感じ。まあ帝室同士の陰謀の結果とも言えますが。
この辺は皇国の守護者と榊ガンパレを混ぜた感じに成っています。
●ICBMとSLBMがない
前回も書きましたが、江戸城を核投下で吹き飛ばして
降伏する前に幻獣が現れて大変なことになってますので、伊号を渡したり
V号を接収するまではしていても、弾道弾を開発する余裕がアメリカにはありません。
……まあ芝村とかが技術を渡してなければの話ですけどね。
あったとしても、南米を中心に北米の一部に居る幻獣に使っているでしょう。
その辺は話が面倒になるのでグレーゾーンにしておきます。