ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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まずは盤外戦

 幻獣を連れて戻るわけにもいかないので、出先機関である修理センターへ向かう。

ここは熊本城攻防戦の後に効率化を狙って整備員の一部を置いていったところで、熊本市に戻るよりも時間短縮になるのもありがたい。

 

「狩谷千翼長。また厄介になるぞ」

「どうせ竜師が設置した場所です。好きに使ってください」

 熊本城決戦の論功賞も終わった後なので、参加者は一律昇進。

狩谷も自分がその流れで千翼長にまで登り詰めたと自覚しているのか、出迎えの言葉には過分な皮肉があった。

 

「代行殿あたりから聞いているかもしれんが『客人』に関しては他言無用だぞ」

「……国家の安全のためには必要な妥協。判ってはいるつもりです。ただ、自分が何の為に行動したのか、疑問には思いますがね」

 いまだに維持運営している現状では任せたことは間違いであるとも思えない。

ここを利用して戦線に再復帰する者も多いので、政治がらみかと疑うよりは復帰者の数でも誇れば良いのにと思わなくもない。

 

とはいえ今まで戦った敵と手を組んで、別の敵と戦って和平など気持ちよくないのも判る。何しろその辺には自分たちの努力の余地も無く、上の奴らとお姫様たちの機嫌次第でもあるからな。

 

「時々好き勝手に生きれたら……。とは思うよ。いっそ新城大佐の様に自分を含めて何もかもを恨んで生きられたら楽なのかもしれんが」

「それはそれでゾッとしませんね。修理に関しては請け負いました」

 今更ながらに理解したのだが、あの御仁は未だに地獄のマンチュリアに居るらしい。

寝ても覚めても地獄なので、気を緩めずに何かに対して準備し続ける。憎しみを抱いた相手は決して許さないし、佐脇大佐を生かしているのも『その方が屈辱的』だからだ。ゆえに彼が生きている事を世に公表していない。いずれ適当なところで殺す気だろう。

 

とはいえ自分にも恨みを抱き、一緒に戦って死んでくれる兵たちのみを慈しむような日々は私も送りたくはない。精々彼には遠い戦場で協力体制を築く相手で居て欲しいものだ。そういう意味では姫も大佐も変わりはしないな。

 

「ひとまず状況を把握したいので、善行以外は解散。舞たちは手が空いた所で顔を出してくれ」

「はっ」

「了解した」

 ピンだと消しゴムだのを駒に見立て、地図の上に並べていく。

最初に排除する駒は本命を邪魔するはずだった迎撃部隊。奴らは熊本が失陥することにでもなれば私たちを追撃する筈の部隊だろう。つまり今後は機体を失いでもし無い限り、私の命は保証される事になる。

 

そう考えれば危険や不満も多い戦いだったが成果は実に有意義な物だった。

また知性体幻獣のユーリア姫が持つ指揮能力とその問題。そして解決方法が判明した事で、本命である幻獣王暗殺後に成功が保証される事が判ったのだ。これで私の失策は無くなった、不運までは責任が持てないが。

 

「感応型幻獣は増幅器でありオペレーターかな。アレが居る限りは姫たちとて指揮権を回復できないだろうが、倒せば命令系統を把握し直せる。流石に即戦闘中止というのは無理だろうがな」

「倒す意味と保護する意味が再確認できましたからね」

 最初は居るかどうかも怪しかった感応型幻獣。

その存在を確認でき倒せば戦闘が楽になることが判った。幻獣王を倒すだけでも姫たちが自分を守るために周囲の連中を掌握するだろうし、感応型幻獣を壊滅させられれば外周の幻獣を端から除去して行ける。

 

何が素晴らしいかと言って、姫たちの了承のもとに『将来厄介な相手』を排除できるという事だ。

居なければ詳細な行動をさせられないから、裏切られても細かな命令を出せなくなる。指揮できる部下が居なくなるという事は肉親の情を抜きにしても、妹姫の比重が高いという事だ。つまり人質としての価値があるし、命令を出すユニットを確保できるという意味でもある。

 

(妹姫を救出するのは負担でしかないが、リスクと引き替えに出来る価値があると判ったのが大きい。無理を承知で我々にやらせるという事は、大きな譲歩を引き出せるという事でもあるしな)

 場合によっては九州を回収できるかもしれない。

他の幻獣王が存在するとして手に入れた領地を我々が倒し、代わりに九州を返還しろと替地要求が可能になる。二人の姫を表す駒を取り上げ、手の中で転がしながら適当に配置し直した。

 

従兄弟の皇帝とやらには好感が高そうだったので排除は無理かもしれないが(警戒しているだけかもしれないが)、公爵クラスの連中ならば排除を躊躇わないだろう。何しろ帝弟を殺してまで妹を助けようとしているのだ。皇帝以外は……好意が無ければ皇帝を倒すことにも躊躇はすまい。

 

「とはいえ、それは推測や計算を補助するレベルの物でしかない。依然として妹姫を救出するリスクは変わらん。本命の作戦では細心の注意が必要だな」

「絶対数の不足が痛いですね。幻の士魂号の力も借りたいほどです」

 陣形を組んだ幻獣の脅威は依然としてそのままだ。

感応型幻獣を全滅させれば規模は小さくなるだろうし、幻獣王暗殺に成功すれば瓦解もしよう。だが接近するのは命がけだし、倒すために攻撃する時間は相手からの攻撃もやはりそのままだ。

 

結局のところ、リスクに見合った危険だと再認識できたに過ぎない。それでもあるべき価値があり、勝てば戦いが終わることが判っただけでもマシではあるのだが。

 

(逆に言えば姫が掌握した部下を戦力に数えられない。という事が判っただけとも言えるしな。存在するかもわからぬ噂に善行が頼りたくなるのも判る)

 感応型幻獣が居る限り姫の指揮順位は無視されてしまう。

精々が遠距離からスキュラにレーザーを吐かせるくらいだが、それだって感応型を派遣されたら終わりだ。再掌握されて挟み撃ちになりかねないからおいそれと使えない攻撃手段でしかない。

 

この間はギリギリ上手く行ったからと言って、何度も使える手段ではないしな。

やはり離れた位置に待機してもらって、幻獣王を抹殺するなり、感応型を壊滅したら掌握してもらうべきだろう。攻撃手段はこちらで何とかやりくりをする他ない。

 

 私は一つ失念していた。戦場には敵が居り、盤面には対戦相手が居るのだ。

つい幻獣というイメージが先行し、愚かであると考えがちだが知性を持っている。将帥の才能を持つユーリア姫がこちらに付いたと言え、相手は無能ではない。その事をすっかり忘れてしまっていたのだ。

 

「大変です! 敵が進軍速度を早めました!」

「なんだと!」

 当初の余地ではもう少し先の場所で仕掛ける予定だった。

だから余裕があると思っていたのだが、敵の方は先ほどの襲撃を受けて進軍を早めたらしい。

 

こちらの襲撃を退けて好機と見たのか、それとも迎撃部隊が潰されて危機だと見たのか。

いずれにせよ今は進軍速度を早めて、こちらの態勢が整わない内に攻撃すべきと判断したわけだ。

 

「しまったな。帥の素人だというのを忘れていた。罠かもしれないのに迂闊に前に出るとは」

「ですが我々の打てる手が減ったのは事実です。どうなさいますか?」

 どうしたもこうしたも無い。予定地点で早めに戦うか、それとも予定時間に別の場所で戦うか。

どちらにもメリットとデメリットがあり、それらの捨拾選択をせねばならない時点でこちらは手詰まりだ。援軍は追加できないし、敵は減らせない。無理に何かを実行しようと思えば、別の何かを捨てる必要があるだろう。

 

「列車砲の発射準備を急いで整えさせろ、もちろん護衛付きでな。合流予定の新城大佐に関しては別口で考える」

「はっ! 即座に手配を行います」

 動かせない中で必須のモノはやはり列車砲だ。

既に準備を始めているし、これを持って移動など不可能に近い。もちろん測距射撃なんぞ間に合いはしないが、幸いにも今回は煙幕弾こそが本命だ。少々外れても風向きの計算さえ間違わねば問題ないのだ。

 

これに対して大佐の連れてる部隊に関しては諦めるしかない。

人型戦車と龍騎兵が少々……その数では戦局は大きく変わらないし、列車砲による援護とは比べ物にならないのだ。もちろん無駄に放置する気はさらさらないが。

 

(考えろ。現状では戦力が足らん……大佐の兵こそが援軍だと考えるとしても後少し、後少しの状況で突破し得る戦力が無い……)

 善行が伝令将校を呼び、みほ(・・)や5121のコア・メンバーを呼び集めている。

考える時間はその程度だし、即座に集結し次第に出発するのが正しいタイミングだ。現状では時間との勝負になってしまうが、かといって足止めに徹したらそれだけで戦力が磨り潰され、増援と合流する意味ごと失われてしまう!

 

(いっそ近くに居る部隊を緊急招集し、変わりに大佐たちを穴埋めに充てる? 馬鹿な。信用度の面でも実力の面でも折り合いが付くはずはない。半分の戦力にでもなれば御の字だ。どうしたら良い? どうしたら可能な動員戦力を増やせる!?)

 数は正義だが、それも時と場合に寄る。

高機動と高火力を前提にした戦闘の中で、着いて来れない兵など足手まといも同然だ。減っていく友軍を見て士気崩壊すらありえる。かといって援軍の充てが無ければそれはそれで戦いたくなどない。

 

まほ(・・)は近くまで来ているから、それに付ければ撤退支援ぐらいなら行けるか? だがそれも最終手段だ。付き従う兵を安心させる程度の保険に過ぎない。あまりにも早ければ姫側に付いた幻獣と戦いかねん)

 前回の戦いでは戦車隊が上手く戦えないので合流予定地点に向かわせている。

だから今直ぐ指示を出せば序盤から参戦させられるが、場所的に危険を承知で戦う事になる。やはり近くの兵を幾らかでも吸収させて、援軍として使う程度だろう。

 

では煙幕弾を戦車隊に撃たせて、列車砲には榴弾を撃たせる?

やはりそれも駄目だ。指示が右往左往しては間に合うものも間に合わなくなる。第一、妹姫に当てない様に撃たせるなど無理だ。榴弾ではなく徹甲弾で撃たせるにしても前衛のミノタウルス共を砕く程度に留まってしまう。かといってユーリア姫に頼っても指揮順位の問題は崩せない。

 

(待てよ? 追加の攻撃手段はこちらで用意する。姫に用意させても指揮権を奪われる。だが……それは本当にユーリア姫を使ってはいけない事か?)

 こちらの戦力が増やせないのは、現在進行形で幻獣が速攻を行っているからだ。

あちこちの陣地で戦闘は継続しているし、最終的に熊本市に合流するコースで放牧されているから迎撃するしかない。そいつらの進路はおおよそ固定されているし、監視を兼ねて感応型幻獣も居るだろう。だから戦力を割いて足止めせねばならないのだ。

 

だが、だがしかし。ユーリア姫を動かす意味は本当に無いのだろうか?

無駄手間になるとしても、千日手を一定期間挑むのは悪くないのではないだろうか? 少なくとも感応型幻獣は手元から減るだろう。そして、迎撃戦闘を行うよりも、ルートを反らせた方が確実なのだ。

 

「竜師。主だったものは揃いました」

「戦車隊を撤退路へ向かわせろ。それとみほ(・・)、パイロットのデータは覚えているか?」

「はっ? はい。今のメンバーと、ベルゲ士魂号時代のメンバーでしたら」

 善行が戻ってくると、さっそく指示を出していく。

既に通信を出している可能性はあるが、戦車隊の集結地点に具体的な場所を示す。これで撤退できるとコア・メンバーに周知して、死地に向かう訳ではないと思わせておく。

 

そしてここからが綱渡りだ。可能かどうか怪しい作業を確認していくことになる。

 

「かつての生徒共の中で狙撃可能なパイロット。後は尖兵の中で狙撃が得意な者のリストは作れるか? もちろん今どこに配置されているかも含めて」

「一応可能な筈ですが……」

 幻獣は強力な兵器であるが基本は愚かだ。

姫や感応型幻獣は知性が回るが大駒はそれだけ。精鋭であるあの漆黒のケンタウルスでも命じた事を覚え実行できる程度らしい。だから八代に誘導した時も成功した。挑発したら乗る程度の知性と、誘導に引っ掛かる半端な感情を残しているからだ。

 

そして……誘導は別に戦闘行為だけとは限らない。

挑発して回るだけなら戦力は必要ない。そして何より……こちらにはユーリア姫が居るのだ。

 

「……その駒は?」

「それは確かユーリア姫を示す駒でしたか? 姫に何を?」

「感応型幻獣の画像とおおよその行動半径を各陣地に流す。どのみち精神汚染の危険があるからな。その上で見つけ次第に狙撃させる。同時に姫にお願いしてビリヤードよろしく各地の幻獣を弾き出すんだ」

 姫を示す駒を掴み、近くの幻獣集団にぶつける。

そしてその集団の駒に持ち替えて、適当な場所にスライドさせていく。

 

大きく逸らす必要はない、多数を反らす必要もない。

今だけ、僅かな時間だけ、僅かな距離を稼ぎ出してくれれば良い。

 

「姫には動かせる程度の幻獣を使って、ビリヤードのキューになってもらう。そこから先は運任せだが何もしないよりは良い」

 もちろん感応型幻獣の狙撃に成功すればの前提だが……。

意図してルートを変える放牧をやってもらえば、幻獣どもは別のコースに向かうのではないだろうか? 姫だって陣地で戦闘して死なせるよりも、放牧でコースを変える方が気が楽になるだろう。

 

そうやってコースが変われば陣地そのものを減らしたり、それでなくとも戦力が引き抜ける。

もしかしたら速攻で感応型幻獣を派遣されるかもしれないが、その場合は幻獣王の手元から手駒が減るという事だ。倒すべき敵が減るという事でもある。

 

「理想を言えば敵集団のコースが変わって援軍を調達できる。無理だとしても、倒すべき感応型が減るはずだ。どうせユーリア姫には戦闘の序盤から参加してもらう訳にはいかんしな」

「確かに。足止めを考えたら戦力は厳しいですが、倒すべき数が減れば時間も確保できます」

 先の迎撃部隊を掃討する際にも数体倒している。

残っている感応型は何体だろうか? 姫の様子からも貴重な存在である事くらいは伺える。単純に部下を慈しむ性格である可能性もあるが、数が居るならあそこまで気にはすまい。

 

問題に成るのは感応型の伝達距離だが、おそらく大丈夫だ。

もし届かない場合、確認に時間を取られて何が起きているか判らない間に戦力を集められる。逆に即座に理解できる場合、感応型がやられたことを察して、姫に掌握されないように派遣し直すだろう。だから今回に限ってはどちらでも構わないのだ。

 

「流石に三十も四十も存在すまい。数を減じれば、本命に残るのは十数体という事もあり得る」

「という事は榴弾とミサイルで一気に減らすことも……」

 何十も居るなら精神汚染で一気に切り崩してくるはずだ。

幻獣王がそれを躊躇うとは思えないので、そこまでの数が居ないと推測できる。迎撃部隊と共に討ち取った個体や、既に各地に派遣している個体を考慮すればそう数は居まい。多くて二十、そこから各地に派遣し直せばさらに減るはずだ。

 

「移動中に削りながら、妹姫を回収し次第に雨霰とくれてやろう。それでケリがつくはずだ。幻獣王も討ち取れれば理想的だが、その次でも構うまい」

「できれば本命で片を付けたいですけどね。でないと熊本市が巻き込まれかねません」

 随分と意味合いは変わるが、かつてライヒで行った斬首作戦に似ている。

オペレーターである感応型幻獣を狙撃して潰し、派遣させて減った所を襲撃する。そして意図的に敵部隊の指揮系統を破壊して、一気にトドメを刺すのだ。

 

やるべき事が見え、戦力を揃える充てが出来た事で周囲の表情が明るくなる。

上手く行けば妹姫を助けるデメリットを相殺するくらいには何とかなるはずだ。後は作戦時間との勝負……。ユーリア姫との面会を求めつつ作戦を練り上げていく。

 

「しかし相手も速度を上げています。何処から手を付けてもらいますか?」

「決まっている。大佐が来る方向だよ。最悪、その道だけでも空けば構わん」

 新城大佐は援軍としてはともかく開戦までには間に合わない。

だがこれは彼が迂回しながら決戦の場に向かっているという前提だ。ならば迂回する必要や隠れ潜む必要が無ければ話は変わるのではないか?

 

もし間に合えば十分に戦力は整う。

都合よく周囲の陣地から戦力は集められなくても構わない。だからそのコースだけは成功して欲しいと思いながら出撃命令を出した。




 という訳で最終決戦前の一幕になります。

感応型幻獣を倒せば姫が幻獣を掌握して、後は平和だぜ!
と思ってたら、敵のボスが突如として大暴走。
「どうしてこうなった!?」を通り越して「お前、普通それはやらないだろ!?」状態です。
罠の可能性を無視して進軍された為、罠が今にも踏み潰されそうな状態。
まだ時間も戦力も足りないので、大慌てで手配した感じですね。

昨日の時点で書いた段階では、もう少し楽な戦いになるはずだったのですが……。
新城大佐が到着して二人で作戦組んで突撃命令出してると違和感というか
面白くなかったので予定を変更した感じです。
やはり新城大佐もターニャも、窮地にあってボロボロで勝機を掴む方がらしいかなと。|
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