ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

38 / 56
幻獣王暗殺戦:前編

 幻獣王を追い掛けている最中、彼方で雷音が連鎖的に鳴った。

閃光も大きく上がっているが少し大袈裟過ぎるような気がする。おそらくは幻獣の目からも判り易くする為の演出という奴だろう。

 

それが功を奏したのか先行しているはずの集団が徐々に目の端に映り始め、似たような姿が別方向に見え隠れしている。

 

「ちっ。動きが鈍くなったことで陣形が整い始めたか。……トカゲ顔め派手にやり過ぎだ」

 状況を勘案すると幻獣王は驚いたようだ。

こちらの策が不発に終わったが、まだ何かする可能性があると様子見に転じたのだ。列車砲を守るついでに相手の足を止めたかったのは確かだが、予想外に幻獣王は慎重派だった。

 

もちろん幻獣の総数を考えたら余裕で人類を圧倒できる。今抱えている集団で我が身を守りつつ、一部を左右に戦力を展開して大穴を迂回させるだけでこちらの防御網など突破できるのだから。

 

『どうなさいますか? 少し予定と違いますが』

「仕方ない。早めにこちらの手の内は使い切ったと思わせよう」

 善行が通信を入れて来るが苦笑い以外を返せない。

これが互角の戦いなら相手の怯懦にほくそ笑むところだが、敵は大集団であり慎重なだけの行動がそのまま戦術行動になってしまう。置いていった兵を整えるだけで、防御陣形になってしまうのだ。遅れているミノタウルスの集団はそのまま外周防御になるだろうし、足を止めたゴルゴーンは再び砲列を築き直してしまう。

 

ともあれ起きてしまった変化は仕方ない。

相手の性格を見直し、その行動の先を読みながら作戦を調整した。

 

「5121で残ったミノタウルスに対処。ただし感応型を可能な限り素早く葬って、戦いそのものは続いていると思わせる」

「ミサイルは使っても良いのだな? ならば何とでもなろう」

 舞の言葉を私は素早く肯定した。

感応型の数と分布を確認し、ミサイルで一撃した後に残りを葬る。あるいは狙撃で仕留めきれるならば先に倒し、ミサイルを使ってミノタウルスを混乱させてその間に脱出する。

 

状況を造れるならばどちらでも良い。重要なのはミサイルという切り札を早々に使ってしまい、それがミノタウルスという枝葉でしかない相手を始末する為に浪費したという事だ。弾倉の重さを考えても時間を考えても、『普通ならば』余裕を持って使えるのは後一回と言う所だろう。

 

「ミサイルに塹壕爆破。列車砲が放つのは煙であって弾ではない。人類側は焦って切り札を空費したと見えるだろう。信じずとも良い、幻獣王が陣形を再編さえしなければな」

『了解しました。御武運を』

「速やかに戻る」

 重要なのは状況を固定することだ。

現時点で幻獣の陣形は崩壊し、幻獣王が人類側を牽制したり護衛を集める為に密度が歪な形になっている。

 

今ここでミノタウルスにミサイルを使えば、足止めの為に幻獣王は奴らを残すだろう。同時に護衛を集めて自らを守りつつ、列車砲を潰すために迂回させるはずだ。ゆえに敵が存在しない層が、極めて薄いながらも発生する。

 

『あの……。早めに切り上げて合流しましょうか?』

「問題ない。目標は奴ではないからな。むしろ5121とタイミングを合わせろ。攻勢に見せるにしろ、浸透突破で強襲するにせよ少数では意味がない。損傷機が出るのは仕方ないが弾倉の回収は忘れるなよ」

 みほ(・・)は部隊を率いつつ、先ほどのミノタウルスを誘導してもらわねばらない。

全体としては幻獣王に向かいながら、攪乱用の小隊が引っ張っていくのを管制するだけで手いっぱいだろう。そしてその様子は、敵から見ればミノタウルスに追われ散らされて、まとまった動きができないように見えるはずだ。

 

(さて。……問題は妹姫の様子と本隊に所属する感応型の位置だな。救出し次第にミサイルや列車砲で壊滅できる位置だと良いのだが)

 一番良いのは妹姫が邪魔に思われ直前で殺される事だ。

それなら消滅するまでの画像を記録してユーリア姫に見せてから、一気に襲撃すればよい。もっとも人間の形状をしているだけで幻獣なのだから、引きずられた程度で死ぬとも思えないのだが。十字架とはいわないが括られている可能性もあるしな。

 

ともあれそんな都合の良い事はあるまい。舞たちが感応型を始末するまでに接近し、相手の様子を調べるとしよう。場合によっては単騎で突入するべきかもしれないが。

 

 他の連中が集結するまでの間、電子戦仕様の能力を活かして孤軍奮闘。

超硬度大太刀で戦いながら何とか接近しようと試みている。そんな中で感じるのは幻獣王の大きさだ。

 

私はそれまで妹姫が地面に引きずられて死んでないか期待した。

だがその期待は見事に、それも助け難い形で裏切られる事になる。何しろ幻獣王の大きさが凄まじく、無造作に後ろ側へぶら下がっていたからだ。

 

「あれでは何機かが斬り込んで、別の一機が回収せねばならんな。やはり私一人ではダメか」

 ゆっくりと騎魂号を動かして、限界が来たところで大きくジャンプ。

敵集団後部に居たゴルゴーンからの砲撃が、面制圧モードで一気に攻撃する前にレンジ外へ飛びのいた。

 

すると十数体のゴルゴーンの内、最初の数体が私が居る居ないを無視して攻撃。ややあって残りのゴルゴーンは砲撃を中断してこちらに向き直っているのが見えた。

 

「観測射撃だと? いまさら何をやられても驚かんが。……最悪、三体以上の感応型があの区画の為だけに存在居るのか」

 細かな指示を出したのでなければ、持ち場の決まった個体だけ先に撃たせたのだろう。

少なくとも二体、最悪の場合は伝令を含めて三体以上の感応型幻獣が居る事になる。せめてオペレーター専用に劣化した感応型を量産していない事を祈るとしよう。

 

ともあれここで私を狙った集団の周囲をカメラで録画した後、ズームして記録。

これだけでは検証データが無いが、同じことをもう二・三度やれば比較することで、感応型の数や持ち場であるゴルゴーンの数が判るだろう。ついでに妹姫の姿も録画しておき、何らかのサインを出していないかもチェックしておく。こうしておけば変化があった時に比較し易い。

 

「……と。そのまま送り出して来たか。剛毅と言うべきか、それともミサイルを警戒したのか」

 こちらを狙ったゴルゴーンは、一機のみにも関わらず踏み出して来た。

一番近い集団が格闘戦を狙ってチャージをかけ始め、その間も他の集団は回頭を続けている。

 

嫌な予感がする前に、かつての戦いでのクソ袋戦を思い出す。

奴は頭に血が登ると味方などお構いなしに砲撃を掛けてきた。いや、まあ注意はしていたようだよ。『味方魔導士にだけは』な。しかし歩兵や戦車の事などすっかり忘れていたくらいである。幻獣王ほどの高所から見下ろす存在が、配下の幻獣などを気にするはずもない。

 

「無視した方が無難には違いない。しかし……後の事を考えると、避けては通れんな」

 その小集団に接近することで幾つかできる事がある。

まずは罠に引っ掛かる程度の頭脳。騎魂号であってもミサイルは無いのだと教え、あくまで突撃仕様は一機だと思わせる。そして感応型を至近距離で確認できるという事だ。付け加えれば、あの位置から幻獣王をニ・三発撃ってみるというのも悪くはない。

 

要するに私はちゃちな相手だと思わせ、ひいては人型戦車が非力だと誤解させておく為だ。

警戒すべきはミサイルのみ。その射撃数も機動戦では二回、防衛戦でも三回だったはず……と思わせておきたい。そうすれば極力戦闘に参加させないというオプションでも『最大三回』だと誤認してくれるだろう。

 

(奴が倒れるまで五度でも六度でも撃ち込んでやる。……だが、その為には単騎の人型戦車は非力であるという事実を教え込まねばな)

 5121が向かった方角で爆発が起こり、周囲の幻獣がばらけ始めた。

それで戦況の推移と残弾を察したが……。先に言ってしまうと舞の機体には改造など施していないし、機動戦の為に弾倉はあと一射分しかない。壬生屋に守らせて機動戦を行わない場合でも、追加で一回分というのは確かだろう。

 

だがそれは『騎魂号だけに搭載する』ならばの話である。

 

「ビクトリア。もし私が妙な事を口にし出したら即座にコントロールを奪って圏外に脱出しろ。精神汚染が一番の懸念事項だ」

「んー? 変?」

「岩田みたいな、良く判らないことを言い出したらだ」

「ん。ソックスそっくす!」

 なんだか良く判らないが最低限の意味は通じたようだ。

私は自分の機動は一定の能力を有していると思うが、それは物理的な事に過ぎない。一番警戒すべきは精神汚染を受ける事だろう。さしもの感応型といえど幻獣どもを管制している間は、精神汚染などできないとは思うのだが……。

 

私はかつてライヒにおいて、忌まわしき九十五式の使用で精神汚染を喰らった覚えがある。

信じても居ない神の愛を語り始めるなどなんと忌まわしき事か。その経験が精神汚染に対して耐性を持っているのか、逆に影響を受け易くなっているのかが判らないのだ。もちろん無関係の可能性もあるのだが。それゆえに第三者に判別を頼んでおく。

 

 突進してくるゴルゴーンたちは隙だらけだ。

しかしそれは後方からこちらを伺う敵集団が居なければの話。目の前の敵に加えて後方の射界も意識して、あえて普段はやらぬショートジャンプを行った。

 

それはすり足では届かぬ微妙な位置。普段のジャンプからすると僅かな飛距離。そこへ移動しながら大太刀でゴルゴーンの一体を切り裂いておく。もちろんそれで倒せなどしないが、そんなことを狙ってはいないので問題ない。

 

「一応はアレを狙っておくとして……。まあそう来るか」

 敵後列は旋回を続けてこちらを面で制圧しようとしている。

そのまま踏みとどまれば前列の格闘攻撃、かといってさっきの個体を狙えば旋回しきった後列の射程に踏み込んでしまうのだ。

 

私はここでさっきとほぼ同じ位置に移動し直した。

すり足ではどうして駄目だったかというと、旋回するゴルゴーンがこの位置に攻撃できる可能性があるからだ。そして傍目から見ると無様に右往左往しているように見えるだろう。先ほど狙った個体をターゲットサイトに入れて、ジャイアントアサルトで射撃しておく。

 

それでも倒せない。まあ本気で狙っていない以上は仕方が居ない。それでも即座にジャンプすれば間に合ったかもしれないが、感応型の姿や別の集団が狙っていないか探したので一瞬遅れてしまったのだ。

 

「……居ない。居ない。……居た。コイツか」

 次の移動先を計算しながらカメラに映った画像を眺める。

ほぼ同じ光景を見比べる面倒な作業だが、直観に頼るのではなく『景色』を見るように違和感の方を念頭に置いておく。すると前後の差分を人間の脳は覚えていることがあり『特に知っている情報』を拾い易くなるのだ。

 

要するに知っている情報とは感応型の望遠画像であり、ここでいうエフェクトとは……なんだっけ? カクテルパーティ効果……じゃなくて、工場で熟練作業員が失敗作を見出すコツだったかな。

 

「ターゲットインサイト。全弾……発っ! っとお! いかんいかん。チャンスに夢中になるところだった」

「ん~? これはいつも。の。かな」

 私がジャイアントアサルトの全弾射撃を実行しようとした時、夢中になっている事に気が付いた。

先ほどのゴルゴーンと感応型を同時に巻き込めると最初は判断していたが、足を止めると危険な場所であることを思い出したのだ。

 

実際には杞憂でギリギリ間に合っていた。だが同じような事を続けるならばどこかで損傷するだろう。リスクヘッジを同時に行うならば、念の為にもう数回同じようなステップを掛けてから誘導した方が良い。

 

「みほ、損傷機が居るなら弾倉だけ回収して観測を行わせろ。舞、聞いていたな? 煙幕代わりにもう一発使った後で、簡易補給を行ってから参加しろ。こちらはその間に幻獣王の攻撃範囲を調べておく」

「了解しました。損傷機は二。しかし狙撃戦ならば参加可能です」

「了解した。使い切って見せておく」

 合流までの行動に一連の流れを組み込んでおく。

複数回のステップを行って傷をつけたゴルゴーンと感応型を同時に狙う。そこまでの間、無駄な動きはあえて幻獣王の傍を目指してみるのだ。

 

どうせ無駄な動きなのだし……。幻獣王があの状態のままこちらに攻撃が可能なのか? そして妹姫の知覚半径に入ることで、こちらを認識できるかを確認しておく。

 

その動きの間、舞はミサイルを使うが私は使わない。上手く行けばミサイルの残弾や攻撃の本気度を誤魔化せるだろう。

 

「よし、少し踏み込んでみるぞ。場合によっては急速離脱する。しがみついておけ」

「ん。わかった」

 ランダムに移動を入れた後で、射程と射角を調整するようにすり足とジャンプを行う。

それでゴルゴーンに狙われないようにしながら、幻獣王の傍に可能な限り寄ってみた。最初の一回目は特になく、撃ってみようかと二回目を踏み出そうとした時。カメラの端に入れている妹姫の口元が動いたような気がした。

 

そこで完全に無意味な場所ではなく、情けなくも元の位置に逆行。一足早く連射で仕留めるシークエンスに切り替えた。すると先ほどまで向かおうと思った場所だけではなく、一見無意味な場所にまで触手の群れが伸びていたのだ!

 

「うおっ。気色悪! 体の一部を伸ばしただけで範囲攻撃とは! おのれ! ……なんてな」

 予想よりも相手の体が大きく、菌糸類ゆえに柔軟な形状をしていた。

その時点でジャパニメーションの知識が思い出され、触手の海の中に潜るのは嫌だと予想だけはしていたのだ。これでも肉体は幼女なので触手に溺れるなど北斎が許しても私が許さん。

 

その後に慌てて乱射したかのように見せて、ジャイアントアサルトの残弾を使い果たしておいた。一番密度の高い場所を感応型の周囲に指定し、そのまま射角全域に射撃を行う。果たして感応型は倒せたが、ゴルゴーンは最初の一体以外は倒せないという体たらくだった。

 

「やれやれ。あれだけ時間と弾を使ってたった二体か。大損・大負けも良い所だが、得る物は得たな。あとはあの触手も無理をすればもう少し先まで、もう少し早く伸びる物だと思っておくか」

 記録した画像を敵味方識別装置を経由させて取り込んだ。

そのまま全機に共有させると同時に、攻撃手段に関するメモを張り付けておく。こんなことができるのも電子戦仕様であるお陰だが、同時にファジーさが心配になった。

 

なんというか便利過ぎるのだ。これでは芝村機関や人型戦車の謎を探ろうとして、行方不明になる者が続出しても仕方あるまい。まあ私は兵器など役に立てば何でも良いのだが。

 

「んー。もう注意は良いの?」

「ああ。あとはゴルゴーンを引っ張りながら、他の連中と合流する」

 役に立つ兵器の筆頭と言えばビクトリアと言うべきか。

こんな事を言えば皆に怒られてしまうのだろうが、相棒と言うには幼く人間というには的確過ぎる。そんな相手に微妙な視線を送りつつ、具体的な救出作戦を考え始めた。




 という訳で幻獣王との戦が始まります。
ゲームの方の原作的には大型幻獣モドキ+@との戦いでしかないのですが。
しかし榊ガンパレの方としては一つ目の佳境を越える感じですかね。
幼女戦記で言えばモスコーを粉砕しているくらいのノリでしかないのですが。

とりあえずの切り札はミサイル乱れ撃ち。
別に弾薬を自分だけが運ぶ必要無いよね。だって僕らは部隊なんだもん。
冒険者にとって最強の武器とはパーティ仲間の事である。とかなんとか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。