妹姫救出に際して考えるべき要素は彼女の無事ではない。
捉えられた場所が幻獣王の尻尾とでもいえる部分なので、ついでに幻獣王を倒す……いや、こちらこそを本命にするべきかどうかだ。
(問題は『今』の戦力で倒せるか、『次』にチャンスがあるかだな)
幻獣王に関して理解している事と推論の両方を考察し、現状と今後の推移を考える。
今倒せるかどうか、出直して戦い易くなるかどうか。逆に戦い難くなるかどうかを素早く計算する。戦力を考えれば姫だけ回収して出直した方が確実なはずだが……。
最も勘案すべきなのは幻獣王の性格と学習能力だ。
今のところ大胆な手腕と決断力を伺わせるが、臆病な程に慎重で将帥としても兵としても素人じみている。だが熊本城攻防戦でのユーリア姫以上に、無数の改善策を出してくるところは脅威だった。
(今ならば戦闘面では恐ろしい程ではない。だが……ここで逃して次も素人でいてくれるか? たかが一戦闘とは言え……)
一度下がれば次は新城大佐の部隊も居るし、列車砲だって期待できる。
だがこちらの打つ手を見抜けるほどに成長している可能性はないだろうか? そして戦士としても急成長する可能性はないだろうか?
例えば先ほどの触手攻撃。ただ巨体ゆえの攻撃だったのだろうか?
何も居ない場所にも攻撃をしていたが、こちらのランダム機動を予想したものかもしれない。だとするならば兵士としての素質が皆無である可能性は低い。次にフェイントを混ぜて攻撃されたら、無事でいられるかは怪しいところだろう。
(では攻撃を掛けるとして倒しきれるのか? サイズもだが……クソ袋並の防御力があったらたまらんぞ)
気になるのが幻獣王の反応が列車砲やミサイルくらいという事だ。
先ほどの攻撃は騎魂号の形状に反応した上で、念の為にミサイルを持っているかを確かめる為だった可能性もある。それまで発射してないので、どれがそうなのか判らないからだ。
こちらは他にも突撃仕様の騎魂号は居るが発射させてない。
先ほど舞が放った二発が精々、こちらに突撃仕様は一機しかないと思っていると思われた。このアドバンテージは大きく、今悩んでいるのはその為だ。
(奴は菌糸類。防御よりも高耐久で再生力を重視しているタイプだろう。焼ききれば行けるか?)
耐久型でも防御型でも倒し難いのは変わらない。
だが形状的に耐久型と思われたし、ミサイルが効くと仮定した上で厄介なのはこちらの方になる。高防御型なら最悪、超硬度太刀で攻め潰せるからな。だが回復してしまうならば私どころか壬生屋まで無効化されてしまう可能性がある。
「竜師。集結完了しました」
「弾倉の受領も済ませてある」
「観測データはまとめておいた。短距離通信で送るから適当に見ておけ」
もう少し考えて居たかったが損傷した二機を除いて集結を完了。
敵の攻撃から逃れるために距離をそれなりに空けてあるので、全機が一か所に集結しているわけではないが、損傷具合は何となく判る。私も含めてリロードは終わっており、万全ではないものの攻撃を掛けることは可能だ。
これでうちの火力小隊にいる突撃仕様が損傷して居たら悩むことはないのだが、そんなに都合の良かったり悪かったりするようなことはない(もちろん5121の方は脱落無しで合流していた)。
「妹姫を回収した後に幻獣王を飽和攻撃で攻め潰す。私が攻撃を引き付けた後に壬生屋が斬り込め。私も追って駆けつける。舞は総予備」
「多重の陽動か。承知した」
「じゃあ上手い位置に付けないとね」
もはや躊躇うべきではない!
存在Xの関与も考えればこんな機会はありえない。次は学習をしてしまうと見るべきだ。妹姫の回収は大前提として幻獣王も暗殺せねばならない。無理だったら引けばよいだけの事。
これでおおまかな配置とルートは決まった。
私の機体が先頭になって突っ込み、その後ろを追い掛けるように壬生屋機。その直ぐ後ろに舞だ。この三機で突撃すれば幻獣王は自分を攻撃すると思うだろう。そう思わせておいて妹姫を救出する。舞も太刀で斬り込むが触手対策を行いつつ、ミサイル攻撃に備えてできるだけ前に出る。
「竜師。私たちは?」
「
「「はっ!」」
そして残りの機体は半円を描くように我々を後ろから追う。
その半円は傾斜しながら敵の援軍を喰い止めつつ、滝川が中心に成って感応型幻獣を始末。中でも火力小隊の騎魂号は飽和攻撃に備えてこちらに接近できる位置に付く。これで突撃仕様二機がかりでミサイルを使う事もできるし、敵から見てその位置も不明瞭に成るから警戒を余儀なくされる。
救出部隊は陽動であり、援護部隊もまた陽動。互いに切り札を隠しつつ時至らば全員で攻め立てる構えだ。
●
念頭にコースを描きながら再吶喊、妹姫の位置にジャンプで降りたつのが最終形だ。
この事を踏まえつつ幻獣王へ飛び込もうとしているかの様にランダム接近していく。徐々に近寄ってはいくが、ジグザグであったり突然真横に飛んだりと、いきなり走り込んだりはしない。
「竜師。敵ゴルゴーンが来ます。通常の砲列かと思いますが、偏差射撃を警戒してください」
「任せる。行け」
先ほどとは別のゴルゴーンがやって来る。
教科書通りの布陣で面白みも無いが、先ほどがいろいろ工夫を凝らしていただけに信用ならない。幻獣王が答え合わせのために元に戻した可能性もあるが、有効であると思っているなら別の工夫を組み込むだろう。
それを踏まえて
ありとあらゆることに対処するのは不可能だが、人間には分担作業という知恵がある。相手はコンピューターの分割思考できるのかもしれないが、それだってなにがしかの負担が生じるものだ。任せられるのならば最初から他者に任せるべきなのだ。
「滝川。判っているな?」
「オレは感応型っすね。任せてください」
もはやルーチンワークなので詳しく命じる必要もない。
その習熟は専門化ゆえに高い技量にある。自然と安全地帯に身を置き、放火の乱れ舞う中で獲物を探すだろう。
まあエースの称号を得た段階で機体の色を染めているので、もしかしたら敵もその事を理解しているかもしれない。だがそれはそれで囮になるから問題ない。感応型の狙撃を狙っている機体は他にも居るし、私たちに向く注意も減るからだ。
「手順は壬生屋が後部の切り離し。私は確保に向かうが……相手には伸縮自在の能力に加えて再生力があるかもしれん。舞、その時は任せた」
「了解しました」
「任せよ。再生しない場合はミサイルを食らわせてやる」
全機で我々三機を守り、私と壬生屋で舞を温存する。
だがそれは再生力であったり伸縮性を使われて妹姫を救出できない場合に備えての事だ。まずはこれで確実な確保を狙い、幻獣王を仕留めるのはそれからになる。
もちろん感応型幻獣にも戦力を割いているので手薄にはなるが……。
現状では色々と策が成功しているので暗殺が成功するかはトントンだ。最悪でも妹姫は確保できれば御の字。ならば私が巻き込まれさえしなければ良いし、犠牲になるとしても部下たちであればまだ補充することもできる。
「まあ……。何もないのが一番なのだがな」
一応はここまでの動きを上方修正して考えておく。
先ほどの攻撃範囲よりも広く長く、場合によっては体勢をこちらに入れ替えることで大幅に射程が伸びるかもしれない。その時に備えて迂闊な飛び込みは行わない。
飛び込む時は柔らかそうな腹目掛けて行くと見せて、背中の姫側に回る。
この流れなら攻撃の為にこちらに頭を向けるか……。腹を庇うにしても伏せるなり背をこちらに向けるくらいのものだ。頭を向けた場合は誰か一機がその場に残って、残り二機が背に回れば良いのだ。
「そろそろ先行する。壬生屋、展開準備を」
「万が一にも備えてですね? 了解しました」
私が走行や前方へのジャンプを増やすと同時に、壬生機が展開式装甲を稼働させる。
防御行動によって後方二機が安全に成ると同時に、その姿勢を維持して動くために目に見えて移動力が減った。もちろんランダム機動も減ったので狙い易くなるが、あそこまで攻撃するならば相当な無理を行うはずだ。
一石二鳥を避けるべく壬生屋の前方を通るときはことさらに注意。
ロングレンジ攻撃に巻き込まれないようにしておく。そして視点は妹姫の位置と触手を支える部分にこそ集中する。触手が伸びてもたかが知れる、問題なのは支点部分そのものが伸びる事だ。そこにだけ注意をしておけばよい。
(攻撃手段は格闘の他は溶解液……いや。レーザーか? ……どっちも警戒しておくべきだな)
こちらの接近に合わせて列車砲が再度の煙幕弾を射出している。対レーザー
だが念には念を入れて対レーザー装備を稼働させておこう。今の技術ではレーザーを集中させたら煙幕は突破されるとの事だし、至近距離で放たれても困る。壬生屋が持つ煙幕弾を重ねる手もあるが、今は動きが鈍って居るしな。
途中で無意味なすり足やショートジャンプを入れつつ、着実に幻獣王へと迫った。
距離は残り僅か。そうすれば斬り込めるという所で、ジャイアントアサルトで奴の周辺を射撃する。流石にステルスしている幻獣が潜んでいないとは思うのだが、何発か当てておいて再生力があるかを確認しておきたいのだ。
『っ!』
「くそっ! 過剰反応だな。もう少し大人しくしていれば良い物を!」
帝弟というドッシリ構えて居そうなイメージと違って、幻獣王は過激に反応した。
想定した通りと言うか、触手を伸ばしてこちらに攻撃して来る。同時に短いが硬そうな触手が追加されて、そいつが近縁をガードしながら穂先の様に構えているのだ。
今までにない行動……奴はどれだけこちらの想定を上回る気なのか。
恐るべきは槍の如き触手ではなかった。それはあくまで前兆行動に過ぎない。奴の過剰な防衛反応は此処からだった。
「竜師! 上です!」
「ここに来てナーガだと!? 捨てていなかったのか!」
ゴルゴーンの中にキメラもナーガも見なかった。
てっきり足が遅いから放置したかと思っていた。だがそれはキメラだけで、小型というかギリギリ中型のナーガの方は『自分の背に乗せて』いたのだ!
触手の一部を蠕動させてそいつを、まるで投げつけるように送り込んで来た!
「クソ! そろそろ捨てようかと思ったはずの装備が役に立つとはな!」
ジャイアントアサルトで迎撃しながら態勢を整える。
相手の動きには注意していたから良い物を、運が悪ければ格闘攻撃を喰らっていた所だ。
そして底というモノは二重底。ついでに言うと、奴から見れば策を二重三重に使うタイミングなのだろう。遠慮なしに次々に攻撃を放ってくる!
「竜師! 超信地旋回が来る! 避けよ!」
「ええい! 振り回してくれるな! こうなったら……ん? ということは……。いかん! 二機とも飛べ! ジャンプの用意だ!」
「竜師?」
舞の忠告と共に避けようとするが、咄嗟に上方へのジャンプに切り替えた。
普段は脚部へのダメージが大きいのと、敵に接近できないのでやらない行動だ。しかしレーザーから二機を守るためには『避けてはならない』からこそ仕方なく行った。幻獣王の巨体がグルンと回転し尻尾が迫る!
私が尻尾とでも言うべき部分の攻撃をジャンプで避けると、着地と同時に光の剣が伸びて来た! やつはテイルアタックの直後にレーザーを放ったのだ。技を見せるならフェイントをかけるか、さもなければ幾つも同時に使うべき。奴は小賢しいフェイントではなく怒涛の攻めを選んだのだろう。
「竜師! こちらは何とかなりました。避けてください!」
「馬鹿者! そうはいくか! 本命が来るぞ! それに……こちらにとっても本命だ!」
悲鳴のような壬生屋の現状報告。
無事だと知ってホっとしつつ、これで終わりではない事を頭で理解する。私が同じことをするならば、絶対にこの程度で終わらせないからだ。こちらがミサイルを用意している様に、最も火力の高い攻撃で来るだろう。
「Gタランテラか! こればかりは……くっ。……」
「来たな!」
舞も何が起きるかを理解して押し黙った。
現時点で最強の火力を持つのはスキュラかGタランテラだ。そいつをナーガと同じように送り込み、近距離で放てば回避不能という意味ではスキュラよりもこちらが恐ろしい。避けたら対レーザーのある私はともかく後ろの二機は絶望的だろう。
そして接近するしかない壬生屋はともかく、舞の方は『何か』をしているはずだ。この後を考えるならばそれに賭けてみるのも悪くはない。少なくともレーザーでは致命傷にならないだろうと信じてこの攻勢に耐えることにした。
「私が部下を守って盾になるとはな……。舞、まだか!」
「もう少しだ……居たぞ! 壬生屋、行くがよい!」
「タランテラが? ……あ、そういう事ですね!」
まったく我ながらどうかしているが『目標』の為にはしかたがない。
やるべきことは幻獣王を倒す事でも、ましてやGタランテラ如きを潰す為ではないのだ。その目標を舞が見つけてくれると信じて、耐えて居た甲斐があったというものだ!
舞の指示で壬生屋は尾に当たる部分の内で、切断できそうな場所に向かう。
私はジャイアントアサルトを捨てその先、ある程度細くなった場所に向かって吊り下げられている『ナニカ』を受け取りに向かった。もちろん切断しきれていなければ、残りを私と舞で斬らねばならないが。
「はああ!」
「よし! 確保した!」
「……わ。……のは……」
壬生屋が切断すると同時に、落下するナニカをキャッチ。
最悪の場合、太刀も捨てようかと思ったが、意識があるのかしがみついてくれた。残念ながら何を言っているのか分からないが……。
そのまま後方へジャンプしながら、攻撃指示を出そうとする。
だが、この時に聞き逃した言葉は衝撃的な事実だった。ミサイルの爆風が過ぎ去った後に聞こえた時、私たちは千歳一隅のチャンスを逃してしまったことを悟るのだ。
「カーミラ姫。御無事ですか? ユーリア姫の依頼で貴女を確保します!」
「感……ます。です、が。……ではありません」
爆音が収まると同時に再び声が通る様になる。
しかしこの時、チャンスは何処かへ過ぎ去ってしまっていたのだ。
「こいつを倒したら姉君の元にお連れします。もう暫く……」
「違います! 操っているのは……アンドレイです。倒すならば……彼を……」
その時、思わず誰の事か一瞬分からなかった。
まさか帝弟が傀儡であり、稚児であり共棲生物にさせられたアンドレイという少年こそが幻獣達を操っているとは思いもしなかったのである。
腹の方に居た少年は、大切そうに抱えられて……まるで幻獣王そのものを玉座あるいは城の様に守られていたのである。
という訳で概ね状況は終了。
後は大きな敵と、へばりついている小さいのを倒すだけです。
まあここからは小さい方が直接操作するので、少しだけ強くなります。
というかボスが喋らないのはどうよ? と思ったので喋ります。
榊ガンパレで言うと叔父上と兄上を足した感じで、幼女戦記で言うとロリヤは変態!
という感じですかね。後は進撃の巨人で真にヤバイ奴は王様じゃなかったみたいな。
とはいえ一話で倒せる予定なので、その段階で幻獣との戦いはおおむね終了。
本当は今回が後編、次回が外伝の筈でしたが……。
幻獣王とお稚児さんを同時に撃破した方が判り易いと思ったので、中編になりました。
あとはこの騒乱を終わらせるための●●●●編に突入することになるでしょう。