一戦闘したことで今いる部隊の不出来な部分と良い面の両方を見ることができた。
最精鋭でもロクに命中もさせられない未熟な者ばかりな事と、妥当であれば新参者の命令でもちゃんと従ってくれるという事だ。
そして何よりの僥倖は、龍騎兵というモノが実に頼りになる事だ。
『彼女』らは小さな戦車ともいうべき存在で、人よりはよほど大きいが戦車よりは遥かに小さい存在だ。にもかかわらずメイン・バトル・ビーストとでも表したくなるほどの戦闘力を秘めていた。三匹居たキメラの内一体を、単体で仕留めたという事実がこれを端的に表している。
「自分が……でありますか?」
「うん。僕の対人スキルは基本、嫌われるか蔑まれるか妙に見込まれるかと極端でね。大概ロクなことにならない。その点、君は如才無いだろう?」
何というか聞きたくなかった頼れる上司の欠点。
知らずに巻き込まれて前線送りにされるよりはマシか。
苦虫をまとめて噛み潰しつつ、これから先の展開を考えておく。
「了解しました。自分の方で誘導と接収を行っておきます。それと先ほどの戦闘を見た限り、基幹部隊の方も速やかに練度を上げておく必要があるかと」
「素直に言う事を聞いてくれるだけマシだとは思うが、腹案は?」
こうして話が即座に通じるあたりは非常に得難い上司ではある。
なんとなく感性などは違うと思うが、さすがに仕事でそこまでの一致は求めまい。
ライヒにおける私とレルゲン准将ほどの信頼関係はそうあるものではないのだ。
「分隊単位で統制を行います。まず二名ないし三名で偏差射撃。その後に残りの者が同様に撃てば、間断なく命中打を与えつつ、無駄弾を避けられるでしょう」
ここでの射撃とは、中型幻獣への対処だ。
まず最少単位のユニット化を行って測距させる。どの程度の目算で放てば当たるか・効くかを全員に周知させ、その様子を見て直接狙うなり手前に置いておくなりを判断させる。もちろんノックバックを考慮して次々のけぞらせたいのもあるが。
「その辺りは後で猪口に言っておこう。今付いている連中は君の好きにすると良い」
「はっ! ありがたくあります!」
僅か数名で充足した分隊には及ばないが足が速く、なにより馬鹿が居ないのは助かるので素直に喜ぼう。それ以上の話は進みそうにないこともあり、敬礼して救出した部隊の元に向かう。
その頃には予め派遣していた下士官が相手の内情を探っていたらしい。
ハンドサインでは可もなく不可もなく。下手に佐官が居て隷下に組み込まれたりはしないが、全て吸収できるほどバラバラでもないらしい。
「指揮官代理殿ですか? 当部隊は次の救援に向かいますので、若輩の身で失礼いたします」
「あ、……ああ。救出ありがとうございます。おかげで部下たちが助かりました」
並行してお互いの官位姓名を告げながら話し始めると、こちらが外国人であることに戸惑ったらしい。しかし軍が八代開戦の前に既に疲弊していたこと、志願兵の募集に相当の圧力が掛かっていたのを思い出したのだろう。そこからはスムーズに話が進み、状況を整理することにした。
やはりゴブリンに追いつかれて馬鹿が銃で倒したらしい。
その砲火を嗅ぎつけて五体以上のキメラが現れたため、仕方なく先制攻撃で何体かを葬ったとか。そこから先は我々の知る通り泥仕合で、射程外からレーザーを撃たれている間に戦車は殆どが倒されたとのことだ。
(しかし話を聞く限り車両は全滅していてもおかしくないのだがな。もしかして土煙でレーザーに減衰が起きたのか?)
確かレーザーは大気中、特に邪魔な分子があると減衰が起きるはずだ。
だが生体レーザーだけに確信が持てない。迂闊な発言をして恥をかく気はないし、どうせなら検証してから提案する方が良いだろう。それに土煙に紛れることで命中精度が下がっただけという可能性もある。また次の機会に考えるとしよう。
「暫くすると塹壕を築いている所に出ます。後続の到着を待って再編成されるとよろしいかと」
「何から何まで申し訳ありません。後続がどのくらい無事かは判りませんが利用させていただきましょう」
よし、これで塹壕を守らせるだけなら戦力になってくれるだろう。
まあこいつが勝手に全ての兵を引き連れて帰ってしまう危険もあったが、階級的にはこちらと似たり寄ったりの中尉殿による代理指揮官なのでそれも難しいだろう。安全地帯になる可能性が増えたと喜んで良い状況のはずだ。
ならばここからは戦力を引き抜くための交渉になる。
「手前味噌な話ですがこちらも損害を受けて車両を損耗しております。つきましては何台か融通していただけるとありがたいのですが」
「そうですね。もう直ぐ塹壕まで到着できるとのことですし輸送車両の類で良ければ」
話を詰めて行くと、この男も塹壕を守る必要性は理解していた。
だから戦車や火砲は渡せないが、無用の長物になる兵員輸送車両や輸送車両ならば構わないと言ってくれた。それでも怪我人の後送や補給の事を考えれば全てとはいかないのは仕方の無い所だろう。
指揮車両や装甲車が手に入らなかったのは惜しいが随分と楽になった。
兵員輸送車両を使ってローテーションを組めば疲労はかなり収まるし、輸送車両にはロケット弾などの予備や拾った物を積んでおけばこれまた移動が楽になる。現時点においては十分な成果だと言えるだろう。
「それではお互いの幸運を祈って」
「機会があればいずれまた」
有意義なビジネスをした後は気分が良い。
いまいち上層部の敢闘精神に信用が置けないので塹壕は策源地や発起点と呼びたくはない。しかし新城大尉にも言ったように、帰るべき出発点が有ると無いとでは心強さが違う。先ほどの中尉殿は人が好さそうだったので、使い捨てる友軍基地としては及第点だ。
「分け前をブン盗ったところで本隊に追いつくとしよう。今の内に体を休めておけ」
「はい。常着者を優先して休ませておきます」
今の内に説明しておくとウォードレスの着方には二種類がある。
普通の衣服の延長上だとプロテクター以上だが強化外骨格どころか軽環境スーツとも呼べない微妙な性能になる。時間が無い時はこの着方をするか、そもそもウォードレスを身に着けない。利点としては防具を身に着ける時間で、それ以上の費用効果が見込める程度だ。
これに対して人工的な肉として特殊ゴムを吹き付ける方法がある。
インナーに簡易トイレやら生命維持装置やらを設置した後、特殊ゴムを吹き付けて肉の代わりにするのだ。するとゴムによる肉が衝撃を和らげてくれるほか、人工筋肉の反応がカタログ値に近い値を出してくれるので、軽環境スーツ並みの能力向上が見込める事になる。欠点としてはちょっとどころでは無い装備時間が掛かるので、簡単に脱いだり着たりが難しくなることだろう。まあ本格的な戦争状態だとこちらがデフォルトになるのだが。
「お前たちは正式に私の部下になった。先の戦いの様に、私はお前たちに出来ない仕事は割り振らない。私に恥をかかせない限りはどんな言葉遣いだろうが許容しよう。だから言ったことだけは必ず
「お手柔らかにお願いしますよ。訓練で死ぬのは御免ですからね」
「そいつは言えてまさあ」
私が口にしたことは要するに古参兵ならば実行できて当然のことを求めているだけだ。
急場で編成し直した兵にかつての精鋭部隊と同じことなど求められない。それは戦友たちへの侮辱であるし、今居る部下を無駄に殺すだけなのだから。
もっとも今回の部下たちは能力はともかく私の言いたいことが判る程度には場馴れているらしい。
おそらくは大陸帰りかと当たりを付けたが、自分から言わないのであれば余計なことはこちらも尋ねなどしない。作戦立案者と実行者の間には、ただ能力に対する信頼だけがあればよい。人格に対する信用などティーブレイクに匹敵する贅沢だと言えよう。
「面倒でも生体結晶にランダム回避のパターンを入れるなよ? あれは心構えに刻むものだからな。以上、合流まで好きなだけ休め」
「大して離れてないじゃないですか」
「ひでえ。車の振動に揺られた上に正味二十分もねえぞ」
私が居ては休めないだろうから助手席に乗ることにした。
後ろの方から馬鹿笑いがするが、よくこの状況で笑えるものだ。休める時に休めるのが良い兵の条件でもあるが、彼らはいっぱしの古参兵なのだろう。ならば精々、簡単に死なないように鍛えてやるまでだ。
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二日とはいえ割りと長い行程なので報告は簡単に略そうと思う。
仕事は順調に進んだものの、これと言って目立った戦果はあげてない。当たり前だが遅延作戦と逃げて来る味方への援護が目的だからだ。
絶対多数に対する少数の戦い方は補給路分断とゲリラ戦以外には存在しない。
幻獣は命尽きるまで無補給で戦う兵器の様なモノなので補給線の分断は無意味だ。深入りしてまで友軍を助けに向かいたいとは思えないし、八代開戦から合計で三日も経過しているのでもはや平原中央部は絶望的だろう。
……と、思っていた。
何というか、微妙にそうならなかったあたり、存在Xの関与を疑わせてくれる。
「良かったのですか? せっかくの指揮権を奪われて」
「良くはないが行動権の自由を奪われるよりはマシだな。それに君、塹壕は端から捨てていただろう」
ここに来るまでに佐官を何人か救助したのだが、その内の一人が敢闘精神旺盛な御仁だった。
頭の中がお花畑な奴が居ることは、何度も説明するように予め考慮していた。だから塹壕陣地を景気よく提供し、そいつが我々を組み入れようとする動きは、『次の部隊を救出に向かう』という名目で断ることができた。
問題が発生したのはそこからだ。
八代平原の中に立て籠る友軍から、熱烈な救援要請が入ったのである。ご丁寧に最新式の高性能な生体結晶を使って。
「今更ですか? 幻獣共生派の罠である可能性の方が強いと思いますが」
「そう思わなくもないが無視は出来まい。何より最新式を共生派が使えるとも思えんしな。それと間も悪くある」
何が問題かって、同じ通信を塹壕陣地でも聴いている可能性がある。
これほど高性能な代物はお目にかかったことが無いので、試作品を最新型に変えるべく完熟試験中ではないかと思う程だ。当然のことながら踏み留まった佐官殿にも早晩伝わるだろう。
ここで無視しては友軍救出の名目が崩れてしまう。
せめて同じ陣地で会議する相手であれば、スパイ疑惑や可能性論の問題でスルーすることを提案で来た。だが行動権を重視して出撃を続けていたこともあり、相談などできるはずもない。
「更なる問題として、推測くらいはしているだろうが要人保護になる。前線まで出てきたロクでなしを保護せにゃならん。ポーズだけでも一応はな」
「ポーズだけでも兵が死にそうですね。任務とあれば否応はありませんが」
お互いに相手の性格と距離感が掴めて来たので今はこんなものだ。
あくまで他人が居ないならば(居て当然の猪口曹長は除く)の範囲だが、それなりに歯に衣は着せなくて済む間柄というやつだ。
新城という男の性格を掴めるのはまだ先だろうが、それでも優先順位くらいは判る。
安心できる材料としては、決死の突撃で馬鹿を救出には向かわないだろうという事。そして兵の命を無駄に犠牲にするくらいならば、出世コースを潰してでも放置することだけは伺えた。
(マズイ。マズイぞ……。このままでは前門の虎と後方の狼だ)
無駄に命を懸けるか、それとも出世コースからの脱落か。
どちらを選ぶのも嫌過ぎるが無回答というのが一番問題だ。ここは大尉の言う通りポーズだけでも救出に向かい、可能では無かったと言い訳するしかない。
「ひとまず馬鹿が指定する通信ポイントまでは向かう。そこで詳細を聞いて不可能だったら無理だったことにしよう」
「了解です。あちらにも有事の備えがあるくらいは期待しましょう」
お偉いさんはコッソリ作った研究所に居るらしい。
情報管理用に分所の建物で詳細な情報を受け取れるらしいが、そこまでして実験したいモノがあるならば逃げ出す準備もしておけば良い物を。
「そういえばどこの馬鹿がここまで来て実験を?」
「芝村だ」
その言葉に苦笑以外の表情を浮かべる事が出来なかった。
悪名高き芝村一族は様々な技術開発に血道を上げており、日本有数の財閥でもある。
それでいて独善的で回りを省みないやり方は嫌われているのが問題だ。助ければ奴らの狗と見られかねず、断れば熱烈な粛清を喰らいかねない。通りで新城大尉が聞いた段階で無視を決め込まない筈である。
まあ戦力と功績の補償に期待出来るだけマシだな。
という訳で第四回です。
部隊を地道に整えながらある程度は戦えるように仕上げてる感じです。
景気の悪い話はここまでで、次回はガンパレらしい話を目指す予定になります。
●新城隊の戦力
・一個中隊(精鋭小隊x1、威力偵察分隊x1、普通の小隊x2)
・龍騎兵x1
・歩兵輸送車両x1
・輸送車両x1
混成大隊(六個中隊弱) → 他の指揮官の元に編成
(その内に消えてなくなるので、特に指揮官名は付けません)