ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

41 / 56
●黒の章
成功の報酬


 幻獣王マランツォフは所詮、最上級とはいえ指揮個体の一体にしか過ぎない。

しかし一方面に一体しか居ないとも言われる大型幻獣であり、次席指揮個体のユーリア姫が和平に応じた事は大きかった。

 

他にも大きな影響があった。士魂号のブラックボックスが一部開封されたのだが……これがとんでもないモノだった。とうてい実現可能では無いと思えるが、真実ならば世界を揺るがす情報だろう。

 

「世界を救済する方法が見つかっただと? それが何故、士魂号の研究資料の中にある」

「正確には幻獣状態の解除方法ですね。研究者が自分の研究データを分散させて、後の世に遺産として残したのです。その目的が世界を救済する事というべきでしょう」

 最初に聞いた時はまるで信じられなかった。

真面目なフリをした岩田という時点で信用に値しない。しかもその内容が世界の救済であり、幻獣状態の解除方法などタイミングが良過ぎて胡散臭くなる。

 

何しろようやく幻獣との戦いに一息ついた自然休戦期。それも指導者の一人と和平を模索中なのだ。どちらを釣る餌にせよ話が大事過ぎる。

 

「服を着た以上は休む時にソックスを脱ぐのは当然! まあ欧米では靴を履いたまま寝る人も居ますがね!」

「幻獣を倒せるビームライフルとか、人型戦車の機動を三倍にする方法という方がまだ信じられるぞ?」

 よく判らない冗談を交え始めたところでようやく岩田本人だと理解した。

だが、どうして今なのか? どうして士魂号の研究データの中にあったのかが説明されていない。

 

「私達には世界の救済などお伽話でした。しかし『ある人物』は真面目に考えた結果、段階を追い複数のルートで指向したのです。戦闘力の面で人工筋肉。敵性体研究の意味で幻獣研究。あるいはオリジナル・ヒューマンの保護であり、子供たちの夢を育むアニメです」

「あくまで手段の一つとして人型戦車を作り上げた……と。しかしどこかで聞いた話だな」

 岩田は私の答えに冷めた眼で続きを喋った。

それこそ最初から受け入れられる事を信じていないといわんばかりだ。まあ幻獣どもを釣る為の囮にオリジナル幻獣などというモノを聞いたばかりだしな。自分で言っていて信用されるとは思っても居ないのだろう。

 

「お疑いですか?」

「いや? オリジナル・ヒューマンの使い方という意味で理解した。知っているか? 欧州で豚の改良をもっとも進めた国では、あばら骨が一本多かったそうだ。代わりに色々な問題が出たので、オリジナルに近い豚を求めたとか」

 生前の話だがこんな話がある。

ベルギーだったと思うが研究開発が進み過ぎて、肉を取る為の最適解の豚を作り上げた。しかしあまりにも袋小路のガラパゴス過ぎて、その問題を解決する為に中国で生産される、原種に近い梅山豚を求めたのだという。

 

この世界ではクローンの技術が進み過ぎて判らないかもしれないが、研究開発の進み過ぎとはそれほど問題に成るのだ。既に第六世代に突入して、子供ができない時点で何を言わんや……だ。

 

「総合的に世界を救う気なら子供を産める世界にせねばならんだろう。その話を聞いた時点で、半分くらいは理解を示した。出来過ぎているなとは思っ……」

「その研究者の名前はユーリ・A・田神。芝村機関での名を芝村裕吏」

 舞の父親の名前がそれではなかったか?

その問いが私の口から出ることはなかった。ハッキリと尋ねるのは無神経過ぎたし、私の頭は聞かねばならないほど衰えてはいない。何よりとてもシックリ来る気がするからだ。

 

暗躍する芝村閥に所属し怪しげな技術研究に奔走する。

誰もが捨てる世界を拾う事で救済するのだと嘯く連中。実にらしい(・・・)じゃないか。世界を救う技術、世界を救う概念、そして世界を救う人類! それを手にするのが誰かは知らんがな!

 

(……A? 『た』の神? これほど判り易い意思表示は初めて見た! そんなに私を翻弄し、かき乱して嬉しいか! 存在X!!)

 存在Xと同じ派閥かもしれないし、別の派閥であるという意味かもしれない。

だが私にとってこれほど警戒と怒りを掻き立てられるモノは存在しなかった。導く気なのかそれとも討たせる気なのか知らないが、今回の件に存在Xが関わっている可能性は非常に大きいだろう。

 

その後に岩田に聞いた『人工衛星のようなモノ』を特定して壊す、という方法は実現性に欠けるので半分くらい耳に入って居なかったが……。存在Xの事を思い返した事で、かつてのようにライフルを携帯する習慣が蘇った。

 

ソレがまさか……あんな役の立ち方をするとは思いもしなかったが。

 

 幻獣達が退いていく事で戦いも一段落し、裏切りを警戒しつつも熊本市に帰還する。

どのみち故障機ばかりでどうしようもないので、一度大掛かりな整備を行うしかない。かといって警備の穴を空ける訳にもいかず、ローテーションを組む為にも第二軍団の南高のメンツと詳細を詰める事になった。

 

久しぶりに熊本市に戻ると共生派を警戒しているのか要所に兵が立っていた。幻獣の指揮官とは話が付いたが、共生派はある種の主義者でありテロリストだ。そいつらから街を守り、ユーリア姫たちの部下を牽制する意味でも警備は厳重にあった方が良いのは確かだ。

 

「まさかデグレチャフ竜師が魔法まで使えるとは思いもしませんでしたわ」

「使えたらこんなに苦労はしてませんよ。林竜師。まさに薄氷の勝利でし……た……が?」

 とうとうこの女にも地位で並ばれてしまった。

この戦いが終われば私も昇進するんじゃないかと思うのだが、その時は学兵としての身分が大竜師になるのではなく、軍籍の方が中佐になっていて欲しいものである。

 

しかしここで私は違和感を覚えた。どうして第二軍の本営である崇城大学の中でもこんなにも警備が厚いのだろう? いや、本営だからというのは判るのだが……首脳部が居る場所を直接守っているのだ。普通ならばもう少し目立たないようにやるはずだ。それに……。

 

「ライフルは預けなくても良いかな? このご時世だ。念の為に持って来てしまったが」

「所持したままで結構ですわよ。その方が都合よろしいでしょうし」

 私はその言葉を好意的に誤解してしまった。

てっきり共生派がテロの実行を試みており、近くに潜伏していると判断したのだ。指先だけを安全装置の端に掛け、視線は不自然でない様に死角へと向ける。

 

だが林凛子は溜息を洩らしてアンニュイな表情を浮かべた。芝村に所属しているのであれば、腹芸など得意だろうに。

 

かつての世界では考えられないほど迂闊な判断だった。主に私の判断の事なのだが。

 

「共生派の潜入ですか?」

「広義の意味ならそうなるのかしら? 勝吏くん。説明を」

「はっ」

 不思議なことにトカゲ顔の芝村はニュースの一面を用意した。

そこには『フランソワーズ茜博士の再生実験に成功』とある。帰り道で聞いたニュースの一つで、5121に息子が居るそうなのだが微妙な顔をしていると聞いた覚えがある。

 

あまりにも奇妙な内容に私は意味が分からなかった。後から考えても全く知らない事なので、当然と言えば当然なのだが。

 

「フランソワーズ茜博士は士魂号研究の第一人者でした。その才能は素晴らしかったのですが、知ってはいけない事実を知ろうとしてしまった。悲しい事です」

「好奇心は猫を殺すというやつだな。それで?」

 どうやら博士は芝村機関に処分されたらしい。

以前にチラっと考えたこともあるが、人型戦車の生体コンピューターはファジー性能が高過ぎる。研究者がその性能を知ってしまえば知りたくなるのも当然だろう。まして博士はブラックボックスの直ぐ近くに居たのだ。

 

この期に及んでも私は無関係のことゆえに別の警戒をしていた。人道主義に思い切り反しそうな技術を、共生派が暴露しようとしているのではないだろうか? などと思いっきり人の良い勘違いをしてしまったのだ。

 

「しかし彼女ほどの逸材を死なせたままにするのは惜しい。再生して何処かに送り込もうという指示が下ったらしいのですが……。まあ技術はともかく知識は足りていなかった。これを何とかしたのが今回の件です」

「まあ当然だな。今までのクローンは技術の焼き付けまでだった。知識もある方が良い」

 第六世代型のクローンは肉体が強固だ。

人工筋肉の塊であるウォードレスを着ても何の反動も無く動き回れる。我々が食事している物の中にも、クローン前提の色々加工食品があるくらいだ。体の強くない舞には苦手らしく……。

 

ここで舞がオリジナル・ヒューマンだと気が付いた事が初動の遅れをもたらしてしまった。でなければもう少し上手く立ち回れたものを。

 

「そういう訳で技術に成功した以上は色々試したくなるわけです。表ではコピー人間にまで人権を与えるか、それとも年齢固定型の延長上として認めるかをもめてる段階だそうですが」

「話が見えんな。能力のある兵士が製造できるならば、後は予算の問題だろう」

 暗躍する芝村機関で技術開発した以上、色々と問題のある事をしているらしい。

ただ大抵の事は以前からやって居るはずだ。有能な将兵のクローンを作る為に、勝手に遺伝子交配を行うくらいはしているだろう。それこそ幻獣の因子を組み込むくらいはやって居そうだ。

 

だがそれでも今の警戒とは繋がらない。それこそ上層部の中に共生派が居でもしない限りは……居る可能性? まさか……。

 

「……待て。もしかして技術奪取を狙ったことにして排除しろとでも言われているのか? 廟堂で排斥したい連中が居るのは知っていたが」

「惜しい。守原閣下の言う話では、功績泥棒という実罪だそうですよ」

 開いた口が塞がらないとはこのことだ。

八代平原で総指揮を執った守原大将は、BC兵器を使って限定的な勝利を得た後で画竜点睛を欠いた。なし崩し的な消耗戦への移行で自衛軍は露と消え、人類は結果的に敗退してしまったのだ。

 

計画的に撤退し、要所を守ればまるで問題なかった。その反証を私がしてしまったことで、とてつもない殺意を覚えているとの事だ。

 

「まさか! あなた達、まさか閣下を……」

「馬鹿馬鹿しい。私は尻拭いをしただけだぞ? それで殺されてはたまらん。というか、さっきの話と余計につながらんぞ?」

 自分が降格人事どころか、まさか処刑されるほどとは思いもしなかった。

こんなことなら足手まといのエリカなんか連れて来るんじゃなかったと思う反面、コイツを盾にすればなんとかなるか? と思い始める自分が居る。

 

というかさっきライフルを離さなくてよいと言ったのは、証拠をでっち上げる為か。安全装置を指で触れるようにしてるし、画像加工すれば一発だろうな……。

 

「いえ、これがそうでもないのですわ。実罪というのもコピー人間というのも」

「こう言えば判り易いですかな? ターニャ・フォン・デグレチャフをコピーしてみた……と」

「っ竜師を!?」

 私を守ろうと気丈に立ち塞がるエリカの顔色が変わった。

口元を覆って驚愕してるが、クローン人間など作っている世界で今更だと思う。

 

私の場合は生前の知識だと、怪盗の三代目とクローン人間が戦う話があったと思うが……。あのクローンは確か知識があって本人という意識があったよな。そういう意味であまり驚いていない。クローンとは元もとそうだと判断していたからだ。その意味ではようやく生前知識に追いついたと言っても良い。

 

(っ待て、生前の知識はどうなる? 所持していてそれも喋ってしまったのか? それとも……。

 これまで思った事の無い疑問なのだが、転生者の記憶は何処に宿るのだろう?

脳に焼き付いているなら、自白剤を使うまでも無く軽く誘導しただけで喋ってしまう可能性がある。少なくとも自分の有能さをアピールして実験動物扱いから逃れるだろう。

 

そしてもう一つ厄介な知識がある。

ライヒでの魔法がどういう扱いなのか不明だった。この世界でサッパリ使えなかったが、知識として存在するが利用できないと言ってしまうのかもしれない。そうするとやはり面倒くさいことにしかならない。

 

「ラボでの答えはこうです。能力に関しては第五世代に類似した能力を備えているのに反し、知識に関しては甚だ不足している。どうやっても貴女の知識量には及ばない。だが第五世代に似ているという言葉が補いそうですな。一体どこから出てきたのやら」

「スポンサーでも居られるのか、それとも感応力を発揮されたのか……」

(っ! 転生知識はコピーしきれてないのか。助かった? いや、これはこれで厄介な!)

 転生知識がコピーされてない、要するに肉体に無いというのは助かった。

そこまで覗かれていては対処のしようがない。というかどんな知識があるのか尋問されそうで怖いが、気になるのが第五世代に類似した力という事だ。

 

私は魔法が使えなかった。しかし本当は使えていたのか? 生体結晶があればプログラムを扱い、人工筋肉をウォードレスという形で制御しているかの様に?

 

「待ちなさいよ! さっきから貴方達おかしいわよ! みんなを助けてくれたのは竜師じゃないの!」

「エリカ……」

「そう。デグレチャフだ」

「あれも、これも、それも……」

 弁護しようとしてくれたエリカの心遣いがありがたい。

さっきは盾にして逃げようかと思ってすまなかった。できれば私が言い包める内容を思いつくまで粘って欲しい。

 

「八代で残存戦力を救ったのは貴女です」

「塹壕で九州北部を救ったのも、戦闘団で熊本を救ったのも貴女だ」

「今もこうして幻獣王を倒し、あちら側の指揮官と手すら結んで日本を救った」

「次は人類の救世主にでもなるおつもりですかな?」

 事実の羅列は反論の気力を奪う。

そういえば拷問で同じことを繰り返し尋ねるというモノがあったような気がするが……。普通の人間ならば一つ達成できれば十分な事を続けざまにやらされたのだと気が付いてゲンナリした。

 

おのれ存在X……。

 

まるで奴がライヒでやった弾劾であるかのように、事実は私を追い詰めていた。




 という訳で最終章になります。

いきなり追放物のようですが、この章の主題は他にあります。
ゲームにおける竜との戦、榊ガンパレでの黒い月問題。
それらを私になりに考えて解決に向かって行こうと思います。

なお前章までは三年かけてストックしていたメモから起こした内容ですが
ここからはストックが無いので、不定期になるのでご了承ください。
おそらく週に二本、仕事が忙しい時は一本になるかと思います。

●黒い月
 これがあるおかげで幻獣は元の姿にもどれません。
彼らは本来、一時的な手段としてそお姿を取っているはずなので……。
その元凶さえ何とかすれば、平和に成るとか。

●フランソワーズ茜博士
 web小説を見ると粛清されたはずの茜博士は、再生されて他の世界に送られたとか。
実は能力・知識・技術ごとコピーする方法はセプテントリオンにはある模様。
ドクが開発していたのは、ソレをより普遍化して行う感じですね。
年齢固定型が持つ技術の焼きつけだけじゃなくて、記憶や成長後のスキル込みでコピー。

なおターニャの中の人は、マモーは見たことあっても
とある科学は知らない物としています。

●転生知識
 コピー体は持っていないものとします。
あくまで転生した魂の記憶ですので。再確認する為に覚え直したことは別だけど。
なのでコピーしたターニャには転生前の知識が無く……
入手元不明の知識が残り、功績と比較すればするほど怪しくなってしまいます。

月島さんのお陰じゃないか!
という有名なブリーチのセリフを、第三者が聞いたらどうなるかって感じですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。