ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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二階堂サキとのガンパレード

 それが二階堂サキだと判ったものの当初は混乱しかなかった。

ハッキリと言って何故ここでサキが出て来るのか分からない。そもそも佐賀から救援要請に訪れた時に死んでいなかったか?

 

当時の事を思い返してみると明らかな致命傷だった気がする。

それに生きているならば性格上、礼の一つも言いに来るだろう。動けないとしても佐賀兵の誰かに伝言でも頼むはずだ。だからサキが生きているという事を端から除外していたと言っても良い。

 

(という事はコピー人間か……。だがどうしてサキなんだ?)

 そう考えれば辻褄は合うが意味が分からない。

コピー人間は記憶を有しているので刺客として使うかもしれないとすら思っていた。だがそれならばエリカで良いはずだ。少し捻った場合でも兵藤や妹尾、あるいは救助に来たと言って新城大佐あたりか。

 

しかし死んだと思われているサキでは混乱させることも難しい。

元々面識は少なく疑ってくれと言わんばかりの人物なのに、ここで投入する意味があるとはとうてい思えない。だいたいこの状況なら本人でも撃つ自信がある。だからこそ何の為なのか混乱を誘うのだ。まだ訓練中毒である5121の連中を量産して送り付けた方が脅威だろう。

 

(……量産。そういう事か。佐賀救援より以前から実験はしていたが、成功した初期ロットがサキをモデルにしたナンバーから。とはいえ特殊な個体であるとも思えんし人工的に魔導技術を植え込む実験でもしたな)

 折に触れて目についた人材でコピー人間生産の実験を繰り返していたとしよう。

代行殿は実験のついでに本人同士の皮膚・臓器を移植する手術を試したのではないだろうか? これが成功するならば次は他人の臓器、果ては造り出した個体に幻獣であったり他の人間が持つ色々な能力を持たせたと思われる。

 

そして色んな実験の果てに、魔導技術を移植した個体を投入したのだろう。私を元にしたコピー人間を探知用に残した上で、偶然成功した移植例を前衛に据えたという訳だ。魔導技術だけならこの世界に無い訳でもないだろうが、相性その他を考えれば条件が都合よく揃っているとも思えない。

 

(なら数が揃わない内にここで始末するべきだな。サキを使った素体だから気が付けたが、これがエリカや戦傷まで偽装した兵藤あたりでやられると面倒だ)

 私は思考を中断して相手の死角に回り始めた。

サキの外見をした……いやサキと同形ではあるのでサキに二号なり三号と言うべきか。いっそ面倒なら目撃例のBでも良い。

 

こう言っては何だが話を交わすと面倒なことになる。コピー人間は記憶も有しているし本人だと偽らせて攻撃なんか軽いものだ。いや、むしろコピー人間ではなく本人だと思い込ませた上で、命令の条件付けなりいっそ人間爆弾化すれば良いのだ。

 

「竜師!何処に……」

(此処にいるが、そっちに居ると思ってもらおうか)

 性格はサキと同じ直情型で、以前にはなかった魔導技術があるとする。

ならばここは魔導技術で出し抜こうとするよりも、小技で誤魔化した方が良い。一手目で優位に立ち二手目で仕留めるべきだ。

 

そう思って小石を拾うと、サキBの知覚半径ギリギリの辺りにある窪地へ放ってやった。

魔導技術に馴れない頃は強化を万能だと思い込むものだし、それでなくともサキの性格上引っ掛かり易いだろう。その為に窪地に石を投げ草か何かで音を立てたのだ。

 

「竜師? もしかして動けんのか? だったら……」

「いや。お前がな?」

 窪地に意識を向けたところで低い態勢で近づき一気に押し倒す。

そのまま片手で顎を抑えて連絡を絶ち、最低限のスイングでナイフを引き抜いた。

 

残りの魔力を総動員して魔導刃をナイフに注ぎ込んだのだ。

 

 間近で見ると驚いたような表情が見える。

だが油断は禁物。記憶は与えているだろうからその位は当然だろう。躊躇すればするだけこちらが不利、もし爆薬が仕掛けられているなら接近しているだけで危険だ。

 

確実に仕留めようと接近戦を選択し、一番火力を出せ相手の防殻に影響受け難いはずの魔導刃を選択した訳だ。後は有無を言わさず……。

 

「竜師何を……うちが判らんと? うちは……」

「黙れ。このまま死……っ!?」

 連絡をさせまいと顎を抑えたが確実に黙らせることができず言葉が漏れる。

何とか連携を絶ってる間に始末しようとしたのだが、残念ながら時間切れらしい。横合いから強烈な衝撃を受けてしまった。

 

どうやら隠れて様子を伺っていた敵指揮官が到着したらしい。

私が居ると思わしき辺り……今の格闘戦で立てた音に向けてフルオートで撃ちまくったようだ。

 

(おおよその位置しかバレてなかったからアレだけだったが、もし見つかって居たら今の防殻だけでは危険だったな)

 演算が焼き付いて何かの術式を使おうとすると、一緒に防殻が発動する。

だから消耗が激しく、術式に回せる魔力が少ない。だが今回はそれが良い方向に出て、不意打ち気味に食らった弾を防いでくれたのだろう。

 

「おやまっ! そこに居るのはサキちゃんじゃ、あ~りませんか。もしかしてボクちゃんとの熱い夜が忘れられなかったかなあ?」

「何ば馬鹿な事ば言いよるが!」

 やって来るのはまずは黒人。アサルトライフルを二丁持ちする馬鹿馬鹿しいスタイルだ。

同じラボで研究されていたのか顔見知りらしいが……。こちらに判断材料を与える会話をするあたり、こいつ馬鹿じゃないだろうか?

 

「……申し訳なか、助けるつもりが助けられた」

「そんなつもりじゃなかったが……。なんだ、知り合いなのか?」

 油断させる為なのか、猿芝居を続ける気らしい。

マウントを取ったのを狙撃から助けられたと主張するつもりのようだ。ちょっと無理があるというか、何処に居ても良いように制圧射撃をしていたのを見なかったのだろうか?

 

ともあれそっちがその気ならあのテロリストを倒すまでは芝居に乗ってやるとしよう。もしかしたら優先コードや爆弾を仕掛けられているだけで、記憶のままに行動している可能性もあるからな。その場合は言い包めながら拘束して爆薬を探すとしよう。

 

「芝村んところでバイトしと~時に襲い掛かってきた。名うてのテロリストでバレンタイン兄弟ばミュンヒハウゼンの爺さんば言うとった」

「ほう……あいつが……って、もう一人は何処だ!? 確か指揮官役は二人居ると……」

「もう遅いっての! チャオ♪」

 バレインタイン兄弟は確かに共生派を率いていたテロリストだ。

果敢な攻撃を得意な(アサルトタイプ)弟と白兵から狙撃まで万能型(オールラウンダー)の兄が居る筈……。その事に気が付いた時、そいつは凶悪な笑顔を浮かべた。

 

彼方で強烈な閃光が発せられたのはその時だ。狙撃銃じゃない!?

 

「散開!」

「っ!」

 咄嗟に言葉が突き出たがサキの方も反応したようだった。

よく考えたら巻き込まれて消えてくれれば面倒がないし、私のせいじゃないから問題なかったのだが……。まあ奴の演技に乗るなら別に良いかと思う事にする。

 

防殻を展開しながら横っ飛びに先ほどの窪地に転がっていくと、その勢いを何倍にも促進させるような衝撃が伝達。ややあって防殻はあっけなく崩壊し……。私の体は二転三転しながら吹っ飛ばされたのである。

 

「くそっ! 先に奴らを倒すぞ。さっきの続きは後だ!」

「判っ……。え、つ、続きって!? さっきの!?」

 どうしてそこで顔を赤らめる?

どこにそんな余地があった? だいたい私もお前も女だろうがと言いたい。不本意だがこの体は女であり、どう考えても濡れ場には遠い状況ではないか。

 

「なんだ? ボクちんたちを置いて二人でえちえちタイムですかー? ちょっくら混ぜてくださいませんかねぇ!!」

「アホンダラ! ……ゆうかきさん、前て言いよーことが違わんね?」

「気にするな! どうせそいつ()コピー人間だ!」

 バレンタイン兄弟について良く知らないのだが、どうも言動に齟齬があるらしい。

まあコピー人間は知識や技術を継承していても、感性には割りと差が出るはずだ。ああいうのは育ちの方が問題だからな。同じ単語を使うとしても、使うタイミングなどが少しずつ違ってきたりするはずである。

 

ともあれここはサキもどきを有効利用するべきだろう。

目の前の男だけならなんとでもなるが、バレンタイン兄弟はもう一人いる。そいつを引き釣り出すなり隠れて始末するにせよ一人で追い回される状態では手に余る。サキもどきを囮にして距離を詰めて一人ずつ始末するべきだろう。

 

「コピー?」

「後で説明する! もう一人は炸裂弾でなければなんとでもなる! まずは『目の前の敵を二人で』協力して倒すぞ!」

 サキもどきが反応するのを利用してエリカの反応を隠す。

炸裂弾なら範囲性があって回避し難いが徹甲弾で一撃死よりもマシだ。ランダム機動で相手の行動を誘導しつつ、少しずつ戦況を自分が望む方向に持っていく事にした。

 

しかしそこから見え始めたサキもどきの動きは独特だった。

私の反応に戸惑っていた頃が嘘のようなスムーズさで、最低限の回避で敵に向かっている。その折に僅かずつ魔力を放出を行っており、小さなステップがそれなりの距離を疾走できる機動性を秘めていた。

 

「中々の動きだな! その動き、誰に習った?」

「ミュンヒハウゼンの爺さんばい。……最後の最後まで万能執事ゆうて吹かしとった」

 サキもどきが言う所のミュンヒハウゼン老人は確かに芝村家の執事だった。

代行殿に逢いに行ったりトカゲ顔にアポを取るといつも出てきたものだが……。こいつはあの爺さんが死んだものと思ってるんだな。まあ老人から死ぬのは当然の順番だし、コピー人間で良ければ幾らでも会えるだろう。

 

よく似た他人でしかないが寂しいのならば後で教えてやるとしよう。

だがその前のこいつを倒してもう一人に向かわねば面倒なことになる。

 

「何を二人で楽しく喋ってるんですかねー!」

「目の前の動きに惑わされるな。五……二秒後に炸裂弾が飛んでくるぞ! それだけは大きく避けろ!」

 アサルトライフルの弾を避けながらあえて大きな声で注意を促してみた。

そうすることでサキもどきと事前に大きく距離離せば、『どちらを狙っているのか』が判るはずだ。私は複雑な機動で回避しているし、サキもどきは最低限でしかない。大きく離れればどちらかしか巻き込めない。

 

こいつらの言う事が本当で、あくまでどちらも敵ならば狙い易い方から倒すだろう。

サキもどきがやられている間に目の前の敵を倒し、守れなかったと謝りながら治療するという建前で爆弾を探せば一石二鳥。そう思ったのだがサキもどきの動きが私の想像とはかけ離れていたのだ。

 

「判ったばい! そいばってん……こうすっのが速かと!」

「アホか! こっちに突っ込んで来やがった!?」

「なん……だと」

 困ったことにサキもどきは今までとは打って変わって正面突撃を掛けたのだ!

最低限のステップに費やしていた魔力を全て突撃用に転換している。思い返せばギリギリで躱すというのは何かしらの目的があればこそだ。今思えば最初から一撃で仕留める為に、間合いを測っていたのだろう。我ながら迂闊と言う他ない。

 

これで倒せるかもしれない……。

思ったのは一瞬の事、『目の前の奴』は良い。だが隠れてこちらを狙っている奴はどう判断する? 間に合わないかもしれず味方を巻き込む危険性を覚悟してサキもどきの方へ? そんな馬鹿な! と成れば当然……。

 

(馬鹿な! これでは私の方が囮になったようなものではないか!?)

 だが混乱しているような暇はない。

炸裂弾が飛んできているのだ、仕方なくなけ無しの魔力を噴出。防殻を展開しつつ私も前に出る事にした。

 

ただし場所は目の前の男が取る回避ポイント!

ここならば安全な筈と、背中に感じる爆風を受けながら転がって行った。もはや自前のライフルを持っている余裕などなくナイフを握り締めるだけで手いっぱいだ。

 

「このやろう! クソガキが!」

「竜師!? 申し訳なかと……」

「良いから口より手を動かせ!」

 図らずも私が退路を塞ぐ形になった。

もんどり打って転げまわりながら奴の喉元にナイフを馳せる。噴出していた魔力を回そうとするが上手く行かない。もしかしてコレも焼き付いてしまったのか? と思いつつ抑えるので必死だ。

 

だが華奢なこの体が恨めしい。強引に引き離されてしまった。もしサキが居なければやられていたのは私の方だったろう。

 

「もらったばい!」

「フ●ーック!?」

 サキの拳が青く輝き、私に乗り掛かろうとした奴の頭を打ち砕く!

顔面に掛かる嫌な臭いと感触を感じるが、そんなことに構っているような時間はなかった。

 

「竜師! 今助け起こ……」

「そんな暇があるか! 説明は後だ! もう一人を『三人』で追い詰めるぞ! 私にも仲間がいる!」

 何度も遠距離から撃たれていなければおかしいが、体感時間を差し引いても余裕があった。

それを考えればエリカがどうにか牽制しているのだろう。その事だけを説明しながら射撃のあった方向に走ることにした。此処まで来れば心配していないが……サキを爆破すれば諸共に倒せるとなっては狙い易いからな。

 

こいつが信用できるかは後で吟味するとして、できるだけ移動し続けた方が良いだろう。

そして迂闊にも白兵戦を挑み、切り刻まれる寸前だったエリカを救出しもう一人のバレンタインを倒したのはしばらく後の事になる。

 

「話は追々聞くとして……。さっきの光る拳とかコツはあるのか?」

「皆目しらん! ミュンヒハウゼンの爺さんが何かゆうとったが……。曲芸なんぞに意味はなか。一撃に賭けるんが(ガンプ)とか。竜師が(リン)だけん丁度良かゆうて聞いた。それで十分!」

 期待はしていなかったが念の溜め魔力コントロールを尋ねてみた。

だが本人曰く気合で何とかしているというか、勝手に魔力が噴出しているらしい。聞いたコツはあくまで『全霊を賭けた一撃を放つ為に動き続ける』程度とか。

 

まあ推測通りに認識を混乱させ、この後に本命を用意しているのだとしたら……。サキが何かを知っている方がおかしいのだろう。

 

いずれにせよ三人に増えて姦しくなったことに溜息を吐くしかない。

何も判ってないことが判ったという程度なのが実に情けない所だ。サキに関しては他人の魔力を見て我が不利を見直す反面教師とでも思う事にした。




 という訳でサキの救援は全力で信じていません。
むしろ「信じられるか!」トターニャも言いたいところでしょう。

ターニャ:「ここで死ね」→防殻発動→「後で決着を付けよう」
サキさん:「このままだと死ぬぞ」→「押し倒した後の事をしよう」→「なんだ話の事か」

この位の齟齬があるもんだと思ってください。
演算が焼き付いて魔導技術を使うと、防殻が勝手に付いてくるのはこの時の布石……。
ではなく、さすがに汎用性の高い物を選んでおいただけです。

●何が判ったの?
 驚くほど何も判ってません。

青:高機動で色々やりながら一撃で仕留めるのを狙うタイプ

白:色々計画するタイプ

くらいの差だけじゃないですかね?
後は精々が、「一々リセットするしかない」と話していて悟るくらいで。
ただターニャにはライヒでの訓練経験もあるので、他人と比較するだけでもある程度は伸びます。
という訳で最低限の修業終わり! という感じでしょうか。

ターニャは塹壕とか戦闘団とか、勝てるシステムを構築して世界を動かす。
でも追放されて後に残るのは、義理と人情で得たモノだけ……。
というお寒い状況で、逆説的に「義理と人情で戦う」人な感じですね。

何も判ってませんし状況は動いてませんが……。
最低限のレクチャーと再訓練は終わったので、流石に次回からは少し話が動きます。
テロリストを退ける力があり、一応は本人らしいと回りが動くのもあります。
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