逃げ回っている間に起きたことを知っている範囲で聞いておいた。
真っ先にやることは優先順位を立てて同時並行で実行することだ。こうしている間にも刻一刻と時間は過ぎ去っていくのだから。
「稗田教諭。誠に申し訳ないが予定が変わった。既に本題を終えてしまったので『先方』に確認を取っていただけるかな?」
「え? っどういう事でしょうか?」
稗田教諭は私ではなくエリカの姿を取った幾島佳苗に視線を向けた。
予め話を通していたのかそれとも移動途中で生体結晶でも使ったのか? その辺は不明だがこの女教師は私の傍にいる女(エリカ)に詳細を聞くように伝えられていたのだろう。
それに対して幾島も神妙な顔で頷いて事情の説明を始めた。
「これまでの調査で竜師の無実が確認されました。まずはその証明を行いながら、他は並行作業で詰めていく事になるでしょう。適当な場所はありますか?」
「それでしたらやはり我が校はいかがでしょうか? あそこならば何とでも理屈を付けられます」
どうやら広島東部にある三次を拠点に定めるようだ。
確かにあそこは備州公の影響下で、かつ芸州公の一門が守る山岳師団にも程近い。両者がコッソリ訪れても何の問題も無い。敵を引き付けるにも海岸沿いの町では警戒されてしまうだろうし、誘き寄せて戦うにも丁度良い。
地方なのに私がよく覚えているのには理由がある。確かあそこには大きな特徴があったはずなのだ。
「確か朝霧で有名なのでしたか?」
「はい。これからの季節は特に多くなります」
三次市は川の影響で非常に深い霧が掛かる。
それはもはや雲海と評すべきほどらしい。そしてこの地形は幾つかの点で有意義な物として伺えた。
もし何処かの部隊が襲い掛かって来ても逃走し易いという事だ。
同時に周囲にトラップを仕掛けたり、簡易センサーの類をでっちあげておけば自分だけが霧に隠れて戦う事もできる。もちろん人型戦車同士の戦いではそれほど役に立たないかもしれないが、自分だけが何かを隠して置ける。というのは大きなアドバンテージだった。川と言う地形も含めて利用できるだろう。
(これで防衛拠点に関しては問題ないな。相手が格上の機体を使っているならばどれだけ罠を仕込めるかだ。後は相手の調査と、無実の証明に手駒の確保だが……)
竜候補とやらにそいつが部隊を連れているかは幾島が情報を寄こすだろう。
そして無実の証明と手駒の確保に関しては同時に行えそうな気がする。魔導技術を供与すると言えば備州公だろうが芸州公だろうが乗って来るはずだ。その二人に対する影響度を誰が握るのかは別にして。
この時点で私は算盤を弾き始めた。
仮に最新型の人型戦車を中心にコピー人間で構成された精強な部隊がやって来るとしよう。もし朝霧の立ち込める三角州辺りで戦えたら勝算はどの程度だろうか? そのために必要な準備とは?
「稗田教諭。時に感受性の高いティーンエイジャーを数名知らないだろうか? 別に体格が無くとも構わない」
「……それでしたら私の妹たちはどうでしょう? 母の娘なので才能はあるともいますが」
判り難い言い回しだったろうか?
私としては魔導技術を供与する相手を選べと言ったつもりなのだが、返答が少し妙だった。魔導技術に関して聞いていないのか、それとも姉妹に対して何か含むところがあるのか?
その答えは意外というか、斜め上で笑うしかない。
絶好の条件という意味では勝利の笑みも浮かべたくなるほどだが。
「竜師。稗田教諭の御母君は人類側に残った第五世代です。適正は相当に高いかと」
「それは素晴らしい。対外的には仮に巫女委員とでもして呼んでおいて欲しい。そうだな……既存の巫女を朝霧の巫女、魔導技術を覚えた者を黄昏の巫女とでも銘付けておこうか」
「巫女委員ですか? 承りましたが……除霊でもしていそうですね」
そういえば三次には稲生物語という有名な怪談があったか。
百物語とは別系統だがそういう話のある地盤だと、たしかに除霊を行う拝み屋でも居そうだ。そういう意味で母君が第五世代と言うのは何かの縁を感じるところだ。
「第一戦闘団や5121の連中にも声を掛けたいところだが……難しいか?」
「そのままでは少々。守原に睨まれて居ますし適当な理由を付けないと難しいでしょう」
他の手駒に関しては何か手を打たねばならぬと思いつつ、今は拠点を移すことにした。
安全な場所であるかはともかく迎え討ち易いという点では良い場所だと思っておこう。
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それから巫女委員会をでっちあげて適当に魔導技術を教えておいた。
勿論こんな短期間でモノになるはずもない。だがこの場合で重要なのは魔導技術は覚えられる技術であり、私が幻獣ではないという証左である。
その上で三次を構成する三角州のあちこちへ実習と称して連れ歩いた。
もちろん戦闘する為の場所を見分しつつ、秘かに罠やセンサーもどきを仕掛けるための下準備でしかない。
「狩谷が? これはまた意外な奴が候補だな」
「ですが聖遺物の破片を受けて生存している事と、熊本城戦以後の戦績は目覚ましいモノがあります。精神的な葛藤が大きかったのでしょう」
整備センターの管理者にする段階で狩谷夏樹の経歴は洗っていた。
思想的に問題が無いのは当然の事、怪我をする前は文武両道で学校を引っ張る生徒会長でバスケット選手でもあったそうだ。
しかしここで重要なのはそこではない。この世界をおかしくしている聖遺物の類が壊れた時、その破片が飛び散って事故を起こしたらしい。哀れ狩谷はそれに巻き込まれて、幸か不幸か生き残ってしまった。その段階で目を付けられたのだろう。
「精神性か……。竜候補というのは神話時代のベルセルクでも作成するつもりなのか? 少なくとも私には無理だな」
「……竜師はとても安定されておいでですからね」
エリカを操る幾島が微妙な顔をするが、迂闊な期待されても困る。
これでも二度転生を行っているのだ。精神的に成長は殆どないだろう。ゲームでいえばメンタル系の部分は既にカンストしているのだ。その世界独特の技術や知識を覚えることはあっても、今更に成長などあるまい。
そしてこの段階で考慮すべきは精神的な発展・拡張が重要だという話だ。
言われてみればライヒで私も散々煽られたし、クソ袋に至っては驚くほどに猛り狂っていたせいか凄まじい能力だった。コッソリ戦っていたはずの狩谷が都市伝説になるほどのスコアを叩き出したのも判る気がする。
(精神性か……。どう利用すれば有効だろうか?)
ライヒでの戦いに置いてクソ袋対策は戦術ではなく、フレンドリーファイヤの誘発だった。
奴を煽れるだけ煽って、その行き先に敵軍を配置するという訳だ。おかげでこちらは爆裂術式なしに米帝軍の物量を丸焼きに出来たという寸法である。
しかしその方法は今回は使えまい。
狩谷は冷静な性格だし、そもそもコピー人間は替えが効くから有用なのだ。フレンドリーファイアに何の意味も無いとは言わないが、煽って精神的に強化されても困る。むしろやる気を削ぐ方が有効だろう。
「第一戦闘団と5121を半舷休息にし、理由を付けて一部の人員を拡散させろ。善行・原・芝村の三名は目立つところで監視の目を引きつけさせる」
「その間に何人かを呼び寄せると?」
「ああ。最悪、壬生屋ともう数名確保できればいい。できれば機体もな」
まあそれが理由の半分ではある。
敵が注目しているのは戦闘力であり、何をしでかすか分からない連中の暴走だ。むしろ解散同然に何もできないような状態にしてしまえば良い。それこそ舞の操る騎魂号はたった一機で戦局をひっくり返しかねない。丁度良い囮になるはずだ。
「例えば森は前から話の合った整備学校にでも講義に向かわせろ。確か滝川もどこかの部隊が教官に招いていたな? そんな感じで関連のある場所に送り込み……事務官の加藤は狩谷の部隊に放り込め」
「っ! また危険な事を……」
資料を読んだ時の記述を見るに、事故の原因は加藤祭らしい。
その罪滅ぼしなのかそれとも以前から好ましく思っていたのか分からないが、加藤は親身になって狩谷を世話している。
だが常識的に考えて狩谷は加藤を許しただろうか?
憎しみを覚え、憐れみを抱かれることに怒りと不快感を覚えるのではないだろうか? もちろん憎しみが愛に変わる可能性もあるが……まあ、その辺も含めて狩谷の下に加藤を送り込むのだ。
もはや加藤は狩谷の前に差し出された生贄も同然だ。
いたぶって良し、自分の方が出世していると上から目線で見下ろしても良い。もちろん世話も心苦しい者ではなく、れっきとした業務として命じられるだろう。もちろん殺してしまう可能性もあるが、それはその時だ。怒りの矛先を無くして精神の拡張が終るだけである。
「正直な話。その、竜師はもう少しソフトな方かと思っておりました」
「私もスマートで居られるならそうする。ならここの生徒を巻き込んでも良いと? まさか半人前の巫女どもや私の魔導技術を充てにしているわけじゃあるまいな? あんなものは手品だ。勝てるようにして勝つのが戦術であり戦略だ」
精神力で強くなるならば心を折ってしまえば良い。
そうする事に躊躇いが無いではないが、私は自分の命が惜しい。相手は最先端の機体に乗って、自分は今から調達……場合によってはその辺にあるまっさらな機体を一から教育せねばならない。他に勝てる手段があれば私の方が教えて欲しいくらいだ。
(後は足の治療くらいだが……手術の類なら既に代行殿が約束しているか。ならそうだな、ドクでも無理だった場合に備えて奴にも魔導技術を教えてやるとでも戦闘中に言ってみるか。信じれば御の字だ)
ウォードレスの人工筋肉の高度な技術ならば、手術が無理でもなんとかなる。
飛行術式ほど大げさでなくとも良い。ウォードレスの技術を使った専用の義足なり車椅子を使えば便利になるだろう。その方向で足が動かない不満を和らげる方法を模索する。
もっともこの場合は手加減して狩谷を何とか無事に助けなければならない。
そこまでリスキーなことができるか? ただでさえ相手の方が良い機体を使っているのに。そこまで考えたところでもう一つの懸念に気が付いた。
(考えたくはないが聖遺物の破片が狩谷に入っているのだったか。場合によってはひょっとするぞ……。そういえば竜候補を倒した後で、もう一戦あるかもしれないと言っていたな)
聖遺物の暴走が幻獣化が解けない理由らしい。
しかしその内情は異常再生で壊れもしないし直りもしない物が宇宙を彷徨っているとこのことだ。その所在を確かめるために天文台が必要で、疑似的に倒してリセットする為に聖遺物と最新型の人型戦車が必要だという。
この図式に二重螺旋を描く部分がありはしないだろうか?
普通の研究者はともかくとして代行殿やドクのような暇人はあれこれと盛りたがるものだ。特に狩谷の中に入っている聖遺物の欠片だ。場合によっては奴が傷ついたことで、暴走して機体を取り込んで同じ現象が起きかねない。
(ならばむしろ優勢になった所で、狩谷を引っ張り出して接続を強制的に切る方向にシフトすべきか? それはそれで難易度が高いが……その後の戦闘が一戦浮くなら話が変わって来る)
最新型と戦う難易度と、クソ袋もかくやと言う敵と戦う難易度。
どちらが高くて危険かといえば圧倒的に後者だ。狩谷と最新型の組み合わせだけならば、戦術やら戦闘法で何とでもなるだろう。だがクソ袋並の相手であれば硬度や回避率の問題で倒せない可能性があるのだ。
ならば手加減するよりも殺す気で引っ張り出し、即座に治療と称して処理してしまうのが楽だろう。
「先の指示に修正を加える。加藤を送り込むついでに護衛を付け、そいつらに目を付けさせている間にコピー作成の情報をラボから回収しろ」
「竜師?」
自分でも上手く案がまとまっていないが、考え方次第だと思うのだ。
狩谷に入っている聖遺物の破片と最新型の人型戦車。この組み合わせは暴走しかねない危うさがある。場合によっては代行殿の方でリミッターを掛けたり、逆に暴走を誘発させたりもしよう。
ならば暴走するものと予測した上で、対処しておく方が建設的だ。
そして暴走させるからには、リンクして再起動させる作業も同時にしてしまえばよい。そうすれば、竜候補を倒した後のもう一戦も短縮できるはずだ。
「手加減する気など無いが……場合によっては狩谷を人型戦車から引きずり出す。ケアくらいはしておかないとな。コピーの件は治療用にも、風聞的にも使えるだろう?」
「そうですね。臓器移植の要領で脊髄移植とか、風聞としてはコピーに成り代わられたとか」
ひとまず予測としてはこんな所だ。
具体的な戦術はこれから詰めるとしても、リンクに関しては展望台を確保できるか次第な所もある。それこそ代行殿が狩谷にリミッターをかけて楽に勝てるだけの可能性もあるのだ。
久しぶりにガンパレらしく部隊やら装備を調達し始める話です。
榊ガンパレとオーケストラ緑の章と白の章を混ぜたような感じになります。
部隊の分割は榊ガンパレでは陰謀の一環でしたが、こちらでは兵集めに使う感じ。
●稗田さんち
朝霧の巫女という漫画があり、三次を舞台にしております。
その話に出るヒロインが稗田三姉妹。お母さんは陰陽頭という絶好の立ち位置なので
丁度良いのでネタを混ぜてしまいました。これ以上クロスにしてどうするんだとか
朝霧の巫女は良いとしても、なんでアニメ版の黄昏の巫女を混ぜるんだと……と言われそうですが。
ちなみに壬生屋さんと瀬戸口くんが来援するのは確定しております。
後は竜騎兵のクイーンオブハートとその外付け記憶装置である芝村英吏ほか。
●狩谷君関連
ゲームではフラグを立てると、突如として学校で狩谷君が竜化します。
幾つかの漫画では戦場で竜化したりすのですが、その流れを整えてみました。
次回で戦力を整えて特務部隊と戦い、その次で狩谷戦になるといいなあ。