ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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狩人たちの時間

 こちらを新拠点として定めたと言っても塹壕すらなく霧がある程度。

それでも保険が有ると無いとでは大違いだし、待ち受けている間に訓練ができたのが大きい。巫女委員会は学兵に選ばれなかったくらいなので連携訓練どころではなく、簡単なお使いくらいしかできないのだが……。

 

面白い所では生体結晶を使用した行動制御に、魔導技術を入力できるのが大きかった。

少なくとも私が作成したプログラム・セルを食わせれば、魔導師としては半人前の巫女どもでも最低限のお使いは実行可能。そして私自身の戦闘パターンも調整できるのが戦術上の差だろうか。

 

「ひとまずお空のデートには邪魔者が多過ぎるな。保護者共は消えてくれないか!」

「グア!?」

「ちょろちょろと!」

 囮として敵集団を引っ張り回す。

だからといって敵兵を倒さないわけではないが、強力な敵に固執して数を減らせないのは無意味だ。壬生屋タイプの戦車随伴歩兵(スカウト)と尖兵の集団と言う組み合わせだったので、同行する尖兵のうち空中機動について来れる奴を狙って落としていく。

 

京都の町で人数の劣る浪士たちが逃げ回りながら戦う事もあったと言うが、考案した奴は悪魔的だな。機動戦をできる能力とそれを活かせる場所という前提条件が必要だが、揃っているならば追いついた奴から倒して行けば良いのだから。

 

「もういいですわ! 貴方達は包囲網として逃がさない様に!」

「はっ!」

「ちっ! さすがに学習したか」

 予定通りだ。奴らは戦闘力の高い壬生屋タイプを前衛に周囲へ散った。

これで一気呵成に突っ込まれる可能性は無くなり、同時に後ろに控えている龍騎兵共が各個撃破に回れる。周辺の山を駆けまわりながら遁走する予定なので、ついて来れない奴から捕食されていく。

 

それが一人であるか二人であるかに関わらず、メイン・バトル・ビーストと言うべき龍騎兵の戦闘力ならば瞬殺だ。むしろ攻撃を気付かれないまで隠れて追跡している時間の方が余程長い。その姿は見えないが、所々に御活かせている符丁は未だに『順調』のまま。少なくとも行動を開始しているだろう。

 

「フフフ。そんなに動き回って良いのですか? 竜師のロケット燃料はそれほど余裕はないでしょうに」

「余計なお世話だ。いい加減しつこい奴は嫌われるぞ」

 壬生屋タイプのコピー人間に追われながら空を翔ける。

その間も少しずつ相手の性能を測り、そして何より運用方針こそを見抜いておこう。コピー人間である以上は追加で再生産して幾らでも投入できるのだから、倒すよりも戦術の癖を見抜く方が重要だ。

 

暫くしてコイツがなぜ中途半端な銃に固執しているのかが分かった。

元になった壬生屋の能力を考えれば白兵戦の方がはるかに適正が高いのだが、銃撃に関してのみ強力な術式が使えるのだ。

 

「さあさあお逃げなさい。ですがご用心くださいな」

「誘導術式!? しかもこれほどの軌道を描くだと!」

 ライヒに置いて誘導術式と言うのは、あくまで弧を描く程度の射撃だ。

高速回避やターンを掛けた程度では避け切れないが、それだってS字やW字を描くような頭のおかしさは持っていない。あくまで補正する程度で、高速で逃げる相手を追いかけ続けるような攻撃ではないのだ。

 

これだけ見れば確かにピンチだし、こんなことができるならば凄い事のように見える。

 

(こいつ馬鹿だな。いや語源を考えれば盆暗か。せっかくの白兵戦技能が啼いているぞ。しかしこれは私にとってチャンスだ)

 ボンクラを盆暗と書く場合、これはゲームの盤上で先行きを見通せない奴の事を指す。

例え地頭が良かろうと、勝負のキーを見通せないならば意味はない。戦術の組み立てから言えば、一発きりのホーミング弾で追おうとするのは悪手でしかない。

 

「くそっ。この性能ではいつか『捉まって』しまう! 誘導弾どころではないぞ!」

「ホホホ! 私は狩人リップヴァーン! 有象無象の区別なく、いかなるモノも私の魔弾は逃しませんわよ!」

 得意げに成って制御しているが……。

弾丸はともかく奴自身の動きに鋭さを感じない。視点コントロールで物体制御をしているのか、弾丸に意思主体を移して飛行術式を制御させているのだろう。それ自体は凄い曲芸だと褒めても良い。

 

だが考えて欲しい。それは白兵の天才である壬生屋がやることだろうか?

あるいは本体の射撃能力を補う牽制や、私を追い詰める布石ならば脅威だったろう。二手・三手を先読みし、最終的に確実な死を与える目的ならば恐ろしいのだ。しかし白兵戦と二足の草鞋を履いて、しかも集中力を欠いているのだから笑うしかない。

 

 既に三次市の圏内に入り、川がチラホラ見える頃には霧が出る時間になって来る。

最初は朝靄と言う程度でしかないが、朝霧ともなれば視界を大きく制限し始めるはずだ。雲海の中でならば私だけではなく味方も好きに動き回れる。

 

「……しめた。霧が出て来た……なんとか逃げ切れれば……」

「私が何時でも竜師に当てられるという事をお忘れなく! それが嫌ならば逃げ切って見せなさいな。これまで節約せざるを得ないほど残り少ない燃料で可能ならばですけれど」

 それまで必死に逃げているフリ。偶然に霧が出て来たので縋りつくフリをした。

だが奴は自分の能力に過信して、白兵戦でトドメを刺そうとしていないし、ここで霧が出てきたことが都合良過ぎるとも気が付いていない。

 

ゆえにここからは霧が深まるまでの時間稼ぎである。

奴をあしらいながら敵部隊の詳細を把握し、人型戦車が出るまでに始末するキリング・タイムと設定した。もう少し行けばちょうどよい地形があるのでダンス・マカブルでも踊ってやろう。

 

(そろそろ生体結晶に意識をブチ込むか。これだけアホならば没入してしまっても問題ない。ランダム軌道も不要なお馬鹿さんで助かった)

 自身と弾丸の速度差・軌道変更速度の差で先読みしておく。

何度かターンを繰り返し、途中で大胆にショートカット。先行して行動を決定し、生体結晶に自らが取る行動を読み込ませていく。

 

これで現在の行動を効率化し、奴との差を広げることができるだろう。

何しろ奴は私が避けてから、その背を追う様に弾丸の軌道修正しているのだ。それならば『アキレスと亀』の法則ではないが、ロケットの軌道を飛行術式で制御するこちらにとって追いつかれる心配は殆ど無い。弾丸がターンした所で即座に別方向に曲がれば、当たる心配すらない。銃剣による斬撃や刺突だけに気を付けて回避機動を入力した。

 

「なんだ! 心配して損をしたな。せっかくの魔弾でも使い手が凡庸では意味が無い。その誘導術式を寄こせ、私がもっと有効活用してやろうではないか!」

「なんですって!」

 注意を引き付ける為とはいえ、ただ逃げるのも意味が無い。

挑発して注意力をさらに散漫にさせつつ、こちらが周囲を探る時間を捻り出す。発光サインを確認し、あるいは事前に隠させた符丁を読んで全体の戦況を確認する。

 

ソレを見ると、敵はこいつの他にもう一名強い奴が居るらしい。

エリカを逃がす形でサキが殿軍として残り、そいつを足止めしているようだ。とはいえこちらにその様子が分かるくらいである。最悪の場合、龍騎兵が介入して逆転させるだろう。

 

(構成的には戦車随伴歩兵(スカウト)が二名、残りは尖兵で構成された歩兵分隊か。人型戦車を守るためにもう半分居るとして……なんだ私が考案したままか。なんとも教科書通りな)

 この部隊を率いている奴は私が理想とした運用を丸写ししている。

あるいは当初の予定では私が率いる筈だった切り札だったのかもしれないが、途中で預ける相手を変えたのだ。歩兵二個分隊ではなく四個分隊だとか、コピー元の厳選くらいはやっているかもしれないが……性能はあまり大きな差はないだろう。

 

つまり相手の人型戦車は最大でも三。

質を全て最新型で揃えつつ、コピー人間の歩兵も徐々に尖兵から戦車随伴歩兵(スカウト)級の腕前を揃え、南高のような高速展開を目指しているわけだ。

 

「そこのレディ。誠に申し訳ないが余興は終わりだ。先ほどから応答が無いので部下を迎えに行かねばならん。あれでもたった二人残った部下なのでね」

 笑いながら反転してこちらも射撃を行う。

もちろん誘導術式で対向などしない。ただ単に奴の鼻先に機動を読んで、軌道の前に弾を置いておく。いわゆる予測射撃だけで撃ち合って見せた。

 

「歌でも謡うとしようか。紛い者どもが紛い物の(イミテーション・)火の邦の宝剣を掲げて罷り通る(カグツチ・スローン)

「ばっ、ばっ……ばかに、馬鹿にしてえ!」

 英単語を繋げて歌ってやると、ムキになって誘導性を上げて来た。

軌道変更やターンの速度を上げて、先に私を倒そうとしているのだ。ハッキリ言おう、それは更なる悪手である。リソースの全てを命中精度に回してしまったら、行きつく先は『必中』以外の結果にはならないのだ。最終的に必中であると判れば、やっておくことなど一つである。

 

こちらはリソースを防御に回せばそれで済む。

 

「効かない!? どうして! 私の魔弾は命中しているのに!」

「汝、亡霊を名乗りて欺くならば、汝自身。亡霊となり果てるべし! 壬生屋の技を忘れたことがお前の敗因だよ!! 浦島太郎ならば古い技術に固執すれば良かったものを」

 私は飛行術式をカットして防殻術式に魔導能力を全て振り分けた。

相手は守っていも無い空中戦の素人である。こちらの弾が命中するだけで倒せるのだ。回避機動の補助に飛行術式を割くよりも、防御一辺倒で弾丸を防いでしまえばよい。人型戦車の攻撃ならばともかく、マスケット銃の攻撃程度ならば何とでもできる!

 

そして奴は銃撃戦を有利に進めるために防御をあげたと思い込んでいるだろう。それが奴の落とし穴だ。

 

「私は壬生屋じゃない! 私はリップ・ヴァン……」

「同列視されたくないだけで白兵戦を捨てたのか? 馬鹿め。名前などラベルでしかない」

 最終的に私はすれ違いざまに蹴りを叩き込んで終わらせた。

これまでは銃剣を恐れて白兵戦距離に接近しなかったが、奴が銃撃戦に固執してしまったならばむしろこっちの方が早い。何しろ空を飛んでいるのである。リテゴルロケットの向きを変更するように蹴り落せばそれだけで方が付くだろう。

 

同じ人物である事で起きるモラル崩壊は、本来クローン兵士の量産段階で越えたはずの課題だった。だがコピー人間どもは技術のみならず知識をコピーできることで、その壁に再びブチ当たったのだろう。ゆえにこいつは絶対的な素質を有する白兵戦技能を余技に落したのだろう。それだけの技術を私が持って居れば幻獣王戦だって苦労しなかったろうに。

 

「同じ外見で同じ能力ならばまだマシだろうに」

 同じ記憶で別人の体。そして今までの能力も技能も活かせない環境。

そこまで追い込まれてから出直せと言ってやりたい。思い返せば二度目の転生はともかく一度目は酷い物だった……。

 

「いや。業なかりせば人非ず……か。存在Xに恭順しろと言われれば私も少しは考える。とはいえ与えられた能力だろうと、私が構築し私が鍛えた能力は私の物だからだが」

 そんな他愛のない事を思いながら騎魂号に向かう事にした。

どうせ序盤は二機の人型戦車を削りながら、本命の狩谷機を追い詰めねばならない。

 

ならば無理してサキを救助に行くほどではない。最悪、重傷でもサキが死ぬまでに片を付ければ良いだけの事だ。

 

「だがほんとに死なれても困るか」

 移動しながら私は少しだけ修正をすることにした。

フォローを考えるなど以前より甘くなったものだ。同時に作戦の要としてサキを考慮した以上、やはり保険はかけておきたい。この世界では人間が兵器であるというならば、兵器を保全するのは使用者の役目だからだ。

 

「……瀬戸口。あの微笑みデブにサキ達の援護を徹底させろ。やり方は任せる」

『通信まで入れて心配するなら、ご自身で援護に向かわれては?』

「時間が惜しい。第一、向こうが人型戦車で動いていないとは限らん。そうなれば私が向かっても無駄だ」

『ごもっとも。大丈夫だとは思いますが、念を押しておきますよ』

 既定の作戦なのでフォローする必要もないはずだ。

しかしあの微笑みデブが芝村である以上は、作戦全体を優先してサキを見殺しにするかもしれない。サキは兵器として利用するつもりなのだと、改めて注意させておけば大丈夫だろう。

 

朝霧の深まる三次市で間もなく人型戦車同士の戦いが始まる……。




 という訳で歩兵戦終了。裏ではクイーンオブハートが芝村英吏というオプションと頑張ってます。
サキとエリカは幻覚を使うマッチョと戦闘中。

●イミテーション・カツツチ・スローン
 シンフォギア風の単語を入れてみたかっただけです。
ちゃんとした歌ですらないのと訳も通らないのでしょうが、だからこそ挑発と言う感じで。

●プログラム
 魔導技術がインストールできるとは限りませんが、やらないとガンパレぽっくないので。
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