ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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士魂号とのガンパレード

 情報受け取りポイントである研究所の分室は小学校だった。

数ある小中学校の一つに過ぎないし、公共施設を接収して軍が使うのは当然のことだ。しかし自らの年齢を考えると苦笑せざるを得なかった。もう小学校に行く年齢ではないと抗議すべきか、まだ中学生レベルだと納得すべきか。

 

ともあれ公共施設というのは下調べをし易くてありがたい。

できれば市役所にいって調べれれば最適だが、大まかな地図で良ければ手に入れ易い。学校というのは場所事情がなければ、テンプレ形式で建設されるからだ。熊本出身者数人に聞けば推測できる。

 

「本命は別ですし幻獣に見つかりたくはありません。少人数で確かめに行きたいところです」

「心配するな。僕も行くから千早も居る。よほど安心できるだろう?」

 龍騎兵は常に主人とユニットを組んでいる。

だからこんな秘密とか陰謀の臭いがプンプンで、新城大尉も来ざるを得ないときは常に同行するのだ。あの威力をサーベルタイガーのサイズで有しているのだから、隠密行の時は非常に頼りになる。

 

それにしてもこの新城直衛という男も不思議な男だ。

潜入する前から震えているくせに、自分を犠牲の勘定から外しはしない。戦闘力だって育ち切ってない私と大差ないくらいだ。歴戦の勇士というには程遠いのだが。

 

それでいてイザ戦いになると覚悟を決めて奮戦し始める。

震えて動けないよりは良い事だし、自分だけ安全地帯に籠られるよりは良い。できれば私こそが安全地帯に引き籠って居たいところだが。

 

(まあいい。勝手な答えを見つけて決めつけるのは早計だ。第一私に何の得にもならない。精々、地雷を踏まなければそれでいいさ)

 昨日の晩に危く地雷を踏み掛かったことがある。

志願して付いて来ようとする兵が居たのだが、そいつが実に幻獣を憎んでいた。断った後も原隊を離れて勝手について来ようとした上に、いつ暴走して幻獣を攻撃しに向かうか判らなかった。

 

その時に始末して良いかを聞いたのだが、その時に激怒されたのだ。

『それをやるとしたら僕が自分でやる。僕自身の責任と権限の元に。僕のモノを勝手に奪うな』と。結局その時は眠らせて原隊送りにしたが、それ以上は余計なことは聞かないことにした。

 

私自身、もしアカが共闘を申し出て来たらその場で殺しかねないところがある。

アカと手を組むくらいならば共生派の方がまだマシだし、共生派のやったことで唯一褒められるのはアカの国を消し去ったことくらいだろう。

 

芝村は連中よりマシだと良いのだが

 

 ターニャ・フォン・デグレチャフです。

ただいま突入に備えてウォードレスを簡易的に着ている所です。どうしてか判りませんが、あちらさんの指定で体形が小さくて士魂号L型……戦車を動かせる者がいるならば正規の方法で装着してはならないと指定を受けました。

 

「肉が付いていないと心もとないな」

「中尉殿は元からでしょう。我慢してください」

 悔しいことに体形に関することを部下に知られてしまった。

それで舐めて来たら許さないが、微妙に温情的なのが悔しい。おそらくは娘が従軍したら……とでも勝手に想像しているのだろう。

 

「しかしなんでそんな指定をしてきたんでしょうね」

「嫌な予感しかしないな。大方、試験型のウォードレスでも用意してるんだろう。空を飛ぶ代わりに爆発しなければ良いのだが」

 前世でマッドと知り合った一件を思い出してしまう。

あのイカレは事もあろうに制御できなければ自爆しかねないシロモノを寄こしたのだ。その後の活躍に影響こそ与えているが、人体実験のモルモットにされたこちらは良い迷惑だ。存在Xからの精神汚染もあったのが忌々しい。

 

しかしシューゲル博士の事を思い出そうとすると、なぜかダンダリオンという男を思い出す。

アレはフィクションの登場人物だったはずなのにどうしてだろう。記憶が曖昧になってきて、前世の記憶と最初の生で垣間見たフィクションでも混ざってしまったのだろうか。

 

「ともあれ私はこのザマだ。今回ばかりはお前たちに先頭を任せる」

「問題ありませんや。こっちには女神さまだって付いてますしね」

「随分とゴッツイが人間だったらさぞベッピンだったろうよ」

 小声とはいえ部下たちが闇夜の中で強気で居られるのも龍騎兵が居るからこそだ。

見つからないように隠密行を々、仮に戦闘が避けられない場合でもあのサーベルタイガーが居るだけでも違う。

 

瞬時に光を出さずに倒さねばならないのに中型幻獣が居ればそれだけでアウトだ。

しかし任せられる相手がいる上に、ゴブリンだけなら瞬殺してくれるのが心強い。正直なところ、私も部下たちよりも頼りにしているくらいだ。同じ二日の間柄ならば、龍騎兵の方がまだ信じられる。

 

「……校庭に何匹か走り回っとります。この分だと校舎の方も怪しいですが」

「プールの方に抜けろとの事だ。見えている奴だけ心配しているわけにはいかんぞ」

 ここで問題に成るのが建物の中や物陰に潜む幻獣だ。

攻撃衝動に任せて暴れまわっているならともかく、走り回って索敵らしきしている奴だけではなく、隠れ潜んでいる奴が居かねないのが問題だ。最悪の場合、専用の通信端末が置いてあるというプールの更衣室でバッタリとかな。

 

「その辺りは千早が何とかするさ。僕のねこは優秀だからね」

「……」

 千早と呼ばれるサーベルタイガーは主人の言葉に対して尻尾で足をはたいて答えた。

その仕草だけならただの猫科の動物だが、さすがに中型幻獣を食い殺す相手をただのネコだとは思いたくない。

 

 

さて、そこから先はちょっとしたホラーや冒険があったのだが忘れてしまった。

普通の隠密戦闘だったので、特にレポートする必要は無いだろう。

 

問題はそこから。ろくでもない陰謀ではなく、ロクでもない倫理観の差が待ち受けていた。

 

「こちら新城」

『……私だ』

 誰だよ。とツッコミを入れたいところだが芝村だと聞いていたので黙っておく。

ただ意外だったのは、モニターに映っていたのが日本人ではなかったことだ。まあ芝村は血筋ではなく才能ある物を同士にして増えるそうなのでそんなこともあるだろう。

 

そいつは金髪で白いスーツを着た、軍人とも思えぬ太った男だった。

顔に薄気味悪い笑顔を張り付けている。

 

「迎えにはどちらへ? ここには必要な装備もあるとのことでしたが回収すれば?」

『そうだ。プールには面白い戦車が隠してある。概要だけなら知っているかもしれないが、ちゃんと動くやつをうちのドクが作り上げたんだ。きっと傑作だぞ』

 恐ろしいことにコイツは詳細を知らないらしい。

自分の所の研究者ならば100%確実だと信じているようだ。勘弁してほしい。まるで子供がプレゼントを待ち詫びているかのようだ。

 

嫌な予感がしてたまらないが、コイツの声がシュ-ゲル博士に似ているような気がするのだ。

確信に満ちた表情と悟ったような笑みもいただけない。なんせ乗るのはこの私だぞ? 付加価値を付けようと戦車徽章を採った自分が恨めしい。

 

『そこのフロイライン?』

「はっ! ターニャ・フォン・デグレチャフ中尉であります!」

 思わずテンパってしまいフルネームで答えてしまった。

それというのも、よくよく考えれば私が中尉になった時にシューゲル博士と出会ったことを思い出したからだ。まさかこんな所にも存在Xの魔の手が!?

 

『ほう。元同国人か。それもアカではないのが素晴らしい。君ならばきっと使いこなせると確信している』

「光栄であります!」

 どうやらこいつもドイツ人崩れであるようだ。

だが同じようなメンツを見つけて嬉しがる気持ちはさらさらない。きっと帝国陸軍出身者とナチの突撃隊あたりが顔を合わせた時もこんな感じだったのだろう。

 

「僭越ながらお尋ねしたいのでありますが、プールにはどのような戦車が? まさか多脚戦車でありましょうか?」

『士魂号M型騎魂号。人型戦車だよ。君の活躍を楽しみにしている』

 嫌な予感という物は即答されると頭痛に変わるらしい。

プールに戦車が隠してあると聞いて、おもわずアニメのダグラムで出てくるような多脚戦車を思い出した。

 

だが真実は残酷だ。無用に車高の高い人型だと!

どうしてこうなった!?

 

「あの。新城大尉……何かご存じで?」

「寡聞にして大して知らんが、M型が人の体形を目指して失敗を繰り返している事。それとスピリット・オブ・サムライと呼称するが、騎魂号はスピリット・オブ・ナイトと呼ぶくらいだな」

 聞くんじゃなかった。

そう思ったがもはやどうしようもない。無事に動くことを願うか、動かなくて放棄することを願うか迷ったくらいだ。もっとも存在Xになんかに祈る気持ちなどあるはずはないが。

 

元は日本人だったので八百万の神にでも祈っておこう。

 

 嫌だ嫌だと思っていても、現実は分刻みで侵攻している。

もはやこれ以上踏み留まることもできない。仕方なく更衣室にある専用のウォードレスを所定の手順で着こなしていく。

 

そしてプールに行くと、既に迷彩シートを取り払われていた。

身長9m前後の機体がプールに沈んでおり、ゲル状の半液体になっているらしいが、これは衝撃吸収材の代わりだろうか?

 

「プログラムは食わせたな?」

「はい。後は勝手に誤差修正してくれると思います」

 生体結晶にプログラムを入れると、一定の操縦動作は保証してくれる。

ただ各一的な動きになってしまうので、あくまで参考にしかせず、自分なりのマニューバーを行うのが定番だ。

 

しかしこんな初めて動かすような機体の制御を行う場合には補正プログラムの画一性がありがたかった。

 

……さて、いい加減に目を背けるのは止めよう。

少なくともこれを動かそうと努力しなければ問題だろう。試して無理だったら仕方がない。押し付けた方が悪いのだ。

 

ただ、大きな問題がある。

どうしてこんな所に、民間人らしき少女が居るのだろうか?

 

「大尉、その子は? 保護したのでありますか?」

「この子は最後のパーツ。……コ・パイロットと言っていたな。操縦適正を誤魔化してくれる特殊能力を持っているらしい」

 新城大尉の不景気な顔が今にも人を殺しかねない表情になった。

気持ちは判る。こんなところで人体実験なんか知りたくもなかった。コレは聞いたらアカンやつだ。

 

「……私はターニャという。君の名は?」

「……V。V号ってみんな呼んでた」

 一面に塗りたくられたクソの臭いを思い浮かべてしまう。

どいつもこいつもクソばかりだ。そいつを利用しようとする私もクソに違いない。

 

存在Xに禍いあれ!

 

「デグレチャフ中尉。適当に考えてやれ。流石にその名前は外で呼べん」

「了解しました。可及的速やかにお引き取りを願ってきます」

 押し付ける気だな……年のころを考えれば仕方あるまい。

ひとまず芝村の所に行って一応の救助を考えなければならない。クソと知っていても、引き受けた以上は任務が優先する!

 

「緊急稼働する。気を付けることは?」

「……グラフ? 心理グラフ。影響する。酔う?」

 レバーやハンドル以外で生体結晶を使って操る時。

心理接続する時に酩酊することがあると聞いた。おそらくはその事なのだろうが、もしかしたら操縦適正の問題というのはソレが大きいのかもしれない。

 

せめて何分も夢を見ている事の無いようにと、苦笑しながらコックピットに入った。

 

「ターニャ。名前くれるの?」

「……ああ。後で考えよう」

 同情心と同時に、かつて関わった部下であり秘書の名前を思い出した。

咄嗟にその名前を思い浮かべ、即座に否定するセンチメンタルな自分を発見する。まだ私にこんな感情があるとは思ってもみなかった。

 

不精せずにちゃんと名前を考えるか、芝村に返さないとな。

 

 夢を見た。デ・ジャ・ヴどころか身に覚えの無い夢だ。

金髪の綺麗な娘が似合いもしない制服をまとい、その周囲に仲間たちらしき姿がある。

 

……それが誰の見た夢は判らない。V号と呼ばれた娘の消された記憶なのかと思うくらいだ。

 

「システム・オール・グリーン。騎魂号起動。初期のコールサインはヴェアヴォルフ104」

「そこは放っておいて良いだろう。武装はどうなっている?」

 目が覚めると同時に基本状態を読み上げる。

機体各部に異常はなく、立ち上がると足元に小さな点灯があった後、瞬時に問題が解決した。

 

武装を確認すると機体に直接設置された装備が三つ。体育館に装備が隠してあると情報が記載されている。

 

「基本装備は超硬度クロー、生体ジャミング、消耗型の対レーザー塗料。他は体育館の様です。」

「格闘装備と防御系? 絢爛舞踏でも目指しているのか? まあ良い。体育館はブチ破れ。直ぐに移動するぞ」

 ヴェアヴォルフとはよく言ったもので、相手の攻撃を防御し易くなっているらしい。

生体ジャミングは相手のミサイルを逸らす能力があり、対レーザー塗料は文字通りレーザーのダメージを軽減すると説明があった。

 

生体結晶で動かす時の僅かなタイムラグ。

すると歩いて体育館に向かうが随分とスムーズに移動し、こちらを発見したゴブリンよりも先に辿り着いてしまう。

 

時間が無いので体育館の天井を引っぺがすと、そこにはガトリング砲を改造した手持ちのアサルトライフルと、超硬度太刀とでも呼ぶべきものがある。

 

私はそれらを装備するために手を伸ばす要領で拾おうとし……。

 

再び現れた点灯表示に顔をしかめた。

 

「どうした、不具合か?」

「いえ。直りました。初期起動に対するオートバランサーの問題かもしれません。試射を兼ねて戦いたいところですが、早めに潰します」

 直ぐに消えたがどうなるか分からない。

ガトリングの予備弾倉は大尉たちに任せ、さっさとゴブリンを叩き潰すことにした。

 

やはり生体結晶で動かす時のタイムラグを感じる。

しかし思い通りにアサルトライフルは弾を吐き出し続け、次々にゴブリンを粉砕。キメラやゴルゴーンが居ないかを確認する余裕があったほどだ。

 

(思ったよりもレーダーのレンジが広いな。指揮車両の代わりに使うなら安全地帯に置いておきたいところだが。せめてスナイパーライフルか何かが欲しかったな)

 人型戦車にスナイパーライフルがあるのかしらないが、あれば嬉しい程度だ。

その前にこのタイムラグを何とかしたいが、突き返すつもりなので放っておいても良いか。

 

そう考えていると、レンジ外から次々に幻獣が現れたのを確認する。

 

「大尉。敵の増援です! 何とかする予定ですが、今の内に奪取を!」

「そうしてくれ。こちらは弾薬やら何やらを拾ったら行く」

 中型幻獣も居るらしい……どうやらハードな戦いになりそうだ。




 という訳でようやく士魂号が出てきました。
次回は要救助者を求めて斬った張ったの戦いになる予定。

●登場人物紹介
『芝村?』
 金髪で白いスーツを着た太った男。
薄気味悪い笑顔を浮かべている。階級は少佐だが、こんな偉そうな少佐が居るか!

●装備
『士魂号M型騎魂号』スピリット・オブ・ナイト
 言わずと知れた人型戦車で、騎魂号は複座型になる。
初期に割り振られているコールサインはヴェアヴォルフ104。

装備は超硬度クローと対レーザー塗料。生体ジャミングは騎魂号としての基本装備。
足元が点滅して元に戻るのは、体重の掛け方が悪くて足の筋肉が断裂しかけている。
これをドクが予め仕込んだ調整プログラムで補正している。

『V号』
 元は幻獣共棲派の連れていた子供であったらしい。
現在は思考洗浄され、生体ユニットとしてコントロールの補助を行う。
彼女が居ても特に強くはならないが、普通の士魂号と違って適正が無くても動かせる。
その辺も含めて、まともに動かない士魂号の欠点をドクが調整したもの。
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