ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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霧の中で

 騎魂号で待機する壬生屋の元に向かう中で、聞き慣れた音が聞こえて来る。

それは人型戦車独特の疾走音でペースからすると軽装甲だろう。予定よりも早い進軍に私は少し戸惑った。壬生屋を呼び寄せて戦う事は出来るがこのタイミングで戦っても良いのかどうかだ。

 

敵の数は本当に三機までなのか、他の基地から援軍を要請していないのか?

そして援軍ではないとしたら、何の意図があって先行して送り込んだのかだ。戦い方にもよるが、人型戦車の駆動時間は概ね三十分から一時間が全力稼働できる限界である。芝村経由で確認している相対距離を考えると、少し遠い気がするのだ。

 

「門司の囲みを解いてからの進軍速度を考えれば私の考えた一個小隊のままだな。援軍だとしたら厄介だが呉から徴収はすまい。ならば……」

 部隊の展開速度には限界がある。

かつてのライヒで501が航空魔導師一個大隊というのには意味があった。必要以上に部隊が増えれば物資は必要だし、駐屯や移動の度に時間を取られてしまう。それを考えて奴らの移動速度を考えれば一個小隊のままだろう。

 

おそらくこの小隊は私が描いた理想を書き綴った教科書をそのまま形にしているのだ。

優良な装備と兵を備えて高速展開する中核と無し、必要ならば他の部隊を糾合して戦闘団を作ればよい。その時に緊急展開するという意味では、基幹部隊は小さければ小さい方が良いのは確かだ。

 

「……罠がある事を感づいたとして先行して探らせたか。霧も出てきたことだしな。判らなくもない」

 呉の鎮守府からならば送り込める位置だ。

しかしそれでは海軍の息が掛かるし、場合によっては関東での研修のために移動中の滝川や森が戻ってきてしまう。他から徴収する場合はやはり時間が掛かってしまうし、飛行船か何かで高速展開できるならば歩兵と一緒に出して随伴させるべきなのだ。

 

仮に教科書の延長ならば三機の内の一機を先発させ、威力偵察に使うつもりだろう。

人型戦車は一発でもダメージを喰らうと能力が下がるほどにモロ過ぎる。だが人間相手であれば軽装甲でも十分だ。何しろ装甲はともかく本体の耐久値はどれも同じである。私が何をしても最低限の情報を送信できるのは間違いあるまい。一機だけならば組み易しと見て迂闊に戦えば情報を抜かれてしまうという事だ。

 

「で、あれば……間違った情報を与えておくべきだな。やはり龍騎兵を前に出さなくてよかった。瀬戸口もオペレーターの方が使い出があるしな」

 私はとある場所に向かいながら再び通信を入れる。

向かってくる軽装甲をそちらに引き付けて罠にかけるつもりだった。私の手はそれきりで、迂闊にも援軍が居ないことを露呈しまうという訳だ。

 

龍騎兵や巫女供はあくまで罠の敷設や連絡に当てるべきだろう。

当てにならない兵を戦力として期待するより、手元にある戦力を最大限に活かすべきだ。その意味で現状は別にピンチではなく、逆利用できる有意義な状態であると規定し直した。

 

「瀬戸口。この先に小さな谷があったろう。壬生屋をそこに向かわせろ。それと、少しくらい遅れても構わんから回路への仕掛けの類は入念に探らせておけ」

「了解。その辺の手口はやったことあるんで俺が確認しときますよ」

 やはりかと思うがこういう時だけは助かる。

芝村のスパイだと言っていたし、おおかた5121に試練を与えるとか言ってやったことがあるのだろう。竜計画とやらがどの程度の人材を求めているのか知らんが、5121の実力相応の相手などそれほど居まい。丁度良い試練を演出するのに人型戦車を故障させたのだろう。

 

ともあれこれで予定は組んだ。

後は奇襲で軽装甲に一撃を与え、ほどどほどのスピ-ドで撃破するのみだ。

 

「あれに見えるはローテンシュトルム。よりによって荒波! 我が命運もこれまでか……などというとでも思ったか!」

 そう思った所で遠目に赤い塗装の人型戦車が見え始めた。

そこでまだ少ない霧に紛れ姿を消すためだと思わせる為に低空飛行に切り替える。人型戦車の中で騎魂号のレーダーは強力だが他はそうでもない。カメラで補っているわけだが、激しい動きをしながらでは確認が難しくなるからだ。

 

そしてあの赤い軽装甲には見覚えがあった。

九州に集められた学兵の中でも相当な腕前を持つ軽装甲のパイロット。負傷してからは指揮官として小隊を率いる方に専念していたが、厄介な奴をコピーとして仕立てたものだ。まあコピー人間による兵士と言う意味では間違っていないのかもしれないが。

 

『ははは! そう、この私こそ九州一のエース。竜師と言えど逃がしなどいたしませんよ』

「やれるものならばやってみろ!」

 何というかこいつも荒波の良さを殺しているな。

奴は機動戦闘だけなら私以上でまともに組み合えば勝てる余地はない。しかしそれ以上に着目すべきは、それだけの実力を囮として特定の場所まで引っ張っていくという細心さだ。決して奢らず釣り野伏の囮に徹するだけの視点の広さがあった。

 

しかしながらこいつはエースパイロットとしての腕前だけに固執しているように見える。

森の近くを経由すると横槍を警戒しはするが、総合的に追い詰めたり全体の様子を確認しようという動きが見えない。もしかしなくても自分が居れば勝てると思っていて、情報収集が斥候の役目という事を忘れているのではないだろうか?

 

(まあ荒波の腕前と、部下の弱兵ぶりを知識としてだけ知って居ればこうもなるか。やはり身に着けた経験値は重要だな)

 学兵ゆえに奴は部下に恵まれてはいなかった。

だが視野の広さと落ち着きぶりは一級品で、エースでありながら指揮官もできる。エースでありながら撃破を狙うのではなく、被害低減と最大効率を求めて囮を務められるというのが奴のウリなのだ。決して能力に任せて突っ込んで来るような阿呆では無かった。

 

やはりコピー人間は知識・能力のコピーを有する別人であって、鍛え上げた戦術や感性は別物なのだろう。もし一兵士ではなく下士官・士官以上としてのフォーマットを作るとしたら、その教育課程も重要だろう。

 

「ともあれリップバーン相手に鬼ごっこにはあきた。そろそろ逆襲するとしようか。……騎魂号、スタンダップ!」

『何!?』

 逃げ回りながら谷まで引き付けたところで、私は上に飛んだ。

小さな谷にしゃがみ込むことで騎魂号は隠れることができたが、それでも戦うには難しい。荒波コピーはそこに兵が潜んでロケットランチャーか何かで攻撃する事までは予想していたかもしれない。

 

だが人型戦車が跳躍し、私を回収する事までは考えていなかったようだ。

 

 私がここまで無事に逃れることができたのは、奴が奇襲を警戒していたからだ。

歩兵部隊が蹴散らされたのは伏兵が居たはずだ。歩兵であっても武装によっては人型戦車を倒せる。そう思って森や岩陰を避けており、私はそういった場所を思わせぶりに使う事で逃げ切っただけだ。

 

「お待たせしました」

「いや、ドンピシャだ。これ以上早かったら見つかったかもしれんしな」

 正直な話、荒波のコピーを入れて来るとは思っていなかった。

有能ではあるが我が強く、有能であるがゆえに普通の士官では扱い切れまい。誰が自分よりも有能な兵士を扱って居られようか。その広い視野ならば献策できるだろうし、腕前自体が突出しているから嫉妬もしよう。

 

これは狩谷も改造を受けたか? それとも純粋に成長だろうか?

そんなことを考えながら特殊なスプレーでウォードレスの肉を落とす。多目的結晶をリンクさせながら周辺を探った。

 

「レーダーに他の敵影無し。やはり一騎駆けか。稼働時間はともかく各個撃破には向くな」

『まさか騎魂号を用意していたとは驚きましたが……。やれますかな?』

 軽口を叩きながら起動を終えると荒波コピーが迫って来た。

ジャイアントアサルトを連射しながら飛びのくと、奴の機体は体を揺すって軽やかに避けて行く。新型に加えて荒波のテクニックならばこの程度の攻撃は躱せるという事だろう。仮に本物の滝川が居てもできない芸当ではある。

 

だがそれは正解だろうか?

もちろん攻撃を避けたことに意味はあるし、腕前が優れているのは間違いが無い。だが奴が足止めに徹するならば、もっと大きく……私の様に飛びのくべきなのだ。逆に私にダメージを与えようとするのであれば、一発でも当てるためにこそ動くべきだ。

 

「……なるほど。優秀なパイロットとして性格を固定したのか」

 あるいはこのコピーに指揮官として動く気が無いのかもしれない。

リップバーンの時に思ったのだがコピー人間はオリジナルと同じことをすることに隔意があるようだ。まあ能力も外見も同じで、負傷であるとかコンプレックスなど悪い部分を知っているというのもあるだろう。

 

だからこの個体は荒波が負傷せず部下などのために時間も捉われていない。そんな可能性に自分の個性を見出したのかもしれない。その選択自体は間違っていないと思うが、この状況でソレを貫き通すことに何の意味も無いのだ。もし滝川だったら躊躇せずに離れて時間稼ぎをしたに違いない。だがそれは滝川が臆病だからという事よりも、役目を弁えているからの方が大きい。

 

「悪いが君にあまり時間を掛けているわけにはいかない。戦いにおいて性能差が決定的な差ではない事を教えてやろう」

『っ!? できもしない事を!』

 私は霧の深い方向に移動しながら射撃を繰り返す。

どうせジャイアントアサルトは本命相手には役にたたないだろうし、ここで使い切る気で行こう。荒波コピー……いや下位互換の劣化荒波を引き連れて無明戦闘を行う事にした。

 

音源探知で敵の駆動音と風の流れる音を参考に位置を探る。

そして奴が通るべき場所の周囲に弾を散らして、撃破するというよりは何発かの牽制弾を周囲にばらまくために放った。

 

『馬鹿な。なぜこちらが判る!? まさか同調能力で……』

「それこそ馬鹿な事を。君ごときには必要ないよ。戦いは常に二手・三手先を見据えて動くものだ!」

 私はこの霧の中で戦う準備を行って来た。

そしてどうすれば相手の位置を理解し、当たらない状況でも至近弾を食らわせられるかを考えていたのだ。戦いとは常に弱兵を持って強兵に勝つ戦術を考えて動くべきだ。奴が荒波本人であろうと、舞や壬生屋並でも勝てるだけの算段を整えてある。むしろ臆病だから逃げと足止めに徹するであろう、滝川の方が倒すのに苦労すると思ったくらいだ。

 

「お前の動きは手に取るように判るぞ。荒波本人ならとうに逃げ出しているだろうに。下手に勇者であることを重視したことが君の敗因だよ」

『違う! 私が、私こそが。最高なんだ!!』

 コピー人間は所詮、実戦経験一カ月未満だ。

どんなに優れていて技術と知識を有して居ようと、危険や絶望に際して取った経験則までは有していない。いや、有していたとしても、ソレを重要視しないという方が正しいか。

 

こちらが霧に紛れて逃げながら戦っているのだ。

別に霧の外から当てずっぽうで撃っても良いはずなのだ。足止めと牽制が目的ならばそれで十分、逃走経路を潰しながらこちらの最大稼働時間を削ればいい。下手にこちらの動きを追い掛けて戦おうとするから余計なダメージを負う事になる。

 

「こういえば判るか? お互いに見えている時はまるで当たらなかったのに、お互いに見えていない状況では容易く読み負ける。つまりお前は眼と手足以外を使っていないのだ」

『そこか!』

 簡単に言うと詰将棋と囲碁の差だ。

コピー人間は詰将棋で何処に打てば良いのか最適解を打ち続ける。だが私は『紛れ』を行って意味のない行動すら行い、ランダム機動を掛けている。

 

だから奴が取っている行動は何となく読めるし、奴がこちらを読む行動は的外れとは言わないがどこかずれ続けているのだ。

 

(奇襲と霧だけで片が付けられそうだな。トラップは他の二機……できれば本命に使いたいところだが)

 人型戦車の稼働時間は三十分から一時間。

全感覚投入してさっさと軽装甲を潰すべきか、それともあと少し時間をかけて行くべきか悩むところだ。感覚投入をすると壬生屋に引きづられてこちらも最適解だけで戦う事になり、荒波コピーにもこちらの動きを理解できるようになってしまうからだ。

 

そしてその迷いが、こちらに攻勢を掛けさせるタイミングを失わせてしまった。

 

『ハンター1より赤の一番へ。竜師は音源でお前の位置を確認している。人型戦車の装甲は形状の問題で、飛ぶ場合と歩く場合の前振りが違う。聞き分けて斬撃の備えるんだ』

『りょっ了解!』

「ちっ。狩谷が追い付いて来たか。余計な事を」

 まだ残りの二機の音は聞こえないが、近くまで来ているのは確かだ。

攻勢を掛けて先に撃破する機会を失ってしまった。とはいえ後悔している余裕はない。ジャイアントアサルトを荒波コピーが撃ち込みそうな場所に放り投げ、ちょっとした爆発を演出しつつ死角に回ることにした。

 

(音源だと判ったという事は、狩谷機も電子戦仕様か。この戦いは苦しくなりそうだな)

 死角からの打ち込みであるのに、咄嗟に躱されてしまった。

言われたことに直ぐ対応する当たり、荒波コピーのパイロットとしての才能は高いのは間違いが無い。残り二機の到着まで倒せるか確信が持てないでいた。




 と言う訳で人型戦車同士の戦いです。

幻獣との戦いでは『直ぐ壊れる、使えねー!』と言う感じでしたが……。
人間同士の武装として考えると、速攻で破壊することが難しく、
跳躍で逃げ回れると面倒な相手になります。

●霧の中での戦い
 V104号は電子戦仕様と言うのを活かして、音源や気流の動きを拾っています。
それを踏まえMAPと、動きの予想を計測情報で補正して戦っている感じです。
FSSでやってた先頭のパクリとも言いますが。

●荒波コピー
 榊ガンパレで出て来たエース。負傷して居なかったら撃破数200越え。
榊ガンパレと違って負傷が早いので、200は行ってませんが。
負傷の問題で現役を離れるのが早く、原作よりも指揮官よりになります。

コピー人間の部隊を造る際に、重装甲・軽装甲に乗せることを考えて
最強の軽装甲パイロットをチョイスしたことから、彼のコピーが軽装甲を担当。
性格が指揮官より~パイロットよりになっており、かなり自信家になって居ます。
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