熊本に置いてきた機体に乗り変えた事もだが、部下が来て戦力を整えたのは良い。
パニックが収まり冷静に成った所で、改めて戦力換算を行う。もちろんサキと交代した壬生屋も立派な戦力だ。
竜は屈強で少なく見積もって士翼号のカタログ・スペックと同等。数体の眷属を引き連れて居ると控えめに言って窮地ではある。
『竜師! ようやく通じましたね。援軍が到着しましたが……大丈夫ですか?』
「さっき言っていたのはソレか。まあ別に無いだろう。この程度の相手ならば、な」
ジャミングの影響を何とかする為、瀬戸口も外部回線で報告して来た。
勝算など口にするべきものではないし、敵軍に聞かせる物でもない。だが味方の士気を上げる為ならば仕方あるまい。
『な……なんだと!?』
「実際その通りでしょう、ドク? 竜の性能がいかに高かろうと、私がいかに卑小であろうとも……別に勝つだけならば何とでもなる」
おそらくだがドクは異世界を知っているがゆえに、この世界の力を誤解している。
存在Xの仲間にありがちな、あたまでっかちでモデルケースのミスに気が付いていないのだ。高い性能だけ持たされた愚図など私の敵ではない。
トランプでいえば大富豪……地方によっては大貧民や革命みたいなものだ。
最強カードを揃えられても、最後に要所や最強にカードを使ってくると判って居れば何とでもなる。最弱のカードのツーペアや、革命による逆転などなど……スペックを上回る戦術など幾らでもあるのだ。地方ルールを交えたらもっと増えるだろう。
(そう、戦術。それがこの世界で最大の力だ。力は力でも、権能と書いてパワーと読むやつだが)
人工筋肉如きでは、幻獣に対してどうにもできなかった。
ウォードレスであろうが人型戦車であろうが、幻獣の能力と数の暴力に勝てなかったのだ。必然的にソレは、別の要因で補う事になった。
私が思うに、それは三つある。
(手段の多様性。多次元的な機動。そしてそれらを目的に合わせて実行する作戦。どれが欠けても駄目だ)
その有機的な融合こそが、
必要に合わせて武装を変更し、必要に合わせて移動方法と場所を変える。それは総合的な最適解ではなく、『相手や状況に合わせた最良』を選び続けるという努力だ。
ドクが用意した竜は、この世界で発展した戦術を投げ捨てている。
カタログ・スペックを求めるだけならば、それは最適解ではあろう。不必要な物を斬り捨てて、物凄いパワーと物凄いスピードを有する強靭な生命体。
(竜は恐ろしい。だが、その力は当たればこそだ。当たらない位置に移動し、こちらが一方的に攻撃し続ければいい)
先ほど壬生屋の斬撃を竜は容易く防いでいた。
だがそれが逆説的に、壬生屋クラスの攻撃ならば危険だと判断したからだ。傷ついた腕が再生しているようだが、まともに食らい続けたら死ぬからだろう。それを踏まえれば当初の予定通り、サキと組んだ時の攻撃力ならば突破できるはずだ。
その場合の欠点である取り回しの悪さに関しては、
(読み違えて攻撃を喰らったら死ぬが……流石にそこまでは面倒見切れん。新城大佐が良く言っていたな。自分から好き好んで戦争を希望するような士官連中は幾らコキ使っても良いと)
だからこそ連絡を取って余計な気遣いなどさせなかったし、来てしまった以上は気にすること自体が失礼だろう。ならば……。
それは、進んで絶望へ落ちる漢たちの権利なのだから。
「私は卑小で、竜は最強? だからどうした! 私に足りないのならば、白銀にして錆銀と呼ばれた私は指揮官として任務の遂行を要請しよう」
我は
ただの葦より現れて、戦い抜くべき術を教えられた
我は号する。誰にも支配されぬ明日を見るために終わる今日!!
「我に付き従うと言ってくれた者どもに、我は正統なる権利を要求する! 行きつく先は地獄だぞ? それで良ければついて来い!」
『天を取るならば貴女だと信じよう。貴女が天に弓引くならば、我らも天に弓引く者なり!』
『今更水臭いですよ竜師! あと幾島さん、言い方ぁ!』
幾島め、煽り返すにしてもやり過ぎだぞ? だが、よろしい!
ならば正当な権利によりて 我は暴力として振り上げたる牙を使役する!
『おのれデグレチャフ! その程度の戦力でできると思っているならばやってみるがいい! 私の竜は最高なんだ!』
「やって見せるとも! その程度と呼ばれた卑小に、何ができるかを見るがいい!」
怒れ、焦ろ、人の叡智を活かせぬままに死んで行け!
悪いな、ドク! 私の狙いは最初からお前だ! 竜がいかに強かろうと、お前が戦の素人では何も始まるまい!
「だが、私はこれでも小市民だ。私の為に命を懸けるという者どもに、何もやらぬでは気が引けよう。だから私は……たった一つの贈り物を贈ろう」
この流浪の旅路で聞いた情報で一つ重要な事を知った。
ソレを試し、この三次の地に辿り着いて色々聞き、更に練り直す段階でようやく簡単な事に気が付いたのだ。
この世界での魔導は、歌の形をしているという事。
ソレは誰かに教えられて、誰かに教え合って叶える程度の
(問題なのはソレを謳い上げるには、意味と行動が必要なのだよな。実際に行動して、実際に活躍しなければ何にもならない)
要するに積み上げた蓄積を、結果として作用させるだけの精神論なのだ。
つまるところは、ソレを確実に動作させる為だけの御呪いである。私にその積み上げがなければ、私に魔導の才能がなければ、加えて言えばそこまでやっても、誰かに聞いて誰かに伝えねば何にもならないのだ。
(何もなければ始まらない。だが、ソレは最初から私の元にあった!)
そう人型戦車の整備や運用が、そのコツを伝授したりされたりして成立するように。
一度覚えたコツは、目に見えぬ所で作用し、素人の五割増しでまともになり、まともな作業を五割増しで習い覚えて熟練者となるように……。素人が気の遠くなるほどに蓄積を重ねて、熟練者となったら二倍以上の能力を持つように。
●
私は私がかつて覚えた事を伝えよう。
この世界で熟達したモノを、ソレとしてお前たちに教えよう! これはただソレだけの唄!
怯える羊をなだめすかし、取って食うのではなく戦う戦場の狼に変えるだけの唄!
私が一人でないと気付いたからには、この世界の魔導の使い方を覚えたからには、意味が成立するだけの詩!
「求めるのは
「あるのは至難の戦場。わすかな報酬、剣林弾雨の日々、耐えざる危険」
「ただ生還の暁には名誉と賞賛を得る」
それは自分が英雄だったと誇れる日々。
取り巻く周囲や子孫たちに囲まれて、自分は英雄だったと誇れるヨタ話。ただそれを掴み取る権利だけを約束しよう。
「我がコールサインは
『『はい!』』
約束できるのはただ、一つ。
自らこそが天下を守る万民の剣だと誇れる権利だけをやるとしよう!!
そして私は魔導でみなに簡単な幻覚を見せた。
なに、いま私が見ているレーダー画像と相手のレンジ予測だけだ。あえて違いを言うならば、それぞれの分隊指揮官に02から05を割り振っただけ。ただそれだけで良い。それだけで自分が何をすべきかをこれまで教えて来たのだから!
「
『はい!』
私が竜を倒すのは確定として、必要なのはツーカーであることだ。
邪魔されるのは困るし、できるならば相手を邪魔してくれればありがたい。ツェッペッリンに人型戦車の武装が積んであるにしても、何があって何を使うか、それをどうやって輸送するか?
それらを考えるに、
「
『『了解』』
適正から言えばこの両名は少し難しい位置にある。
南高の連中は歩兵だけなので相手の元歩兵を倒し、ほほえみデブの龍騎兵は元士魂号に対処すべきだ。
しかし戦場で対戦相手の交換などスムーズに行くはずはないし、そもそも似たような格上と戦う事になってしまう。それならばむしろ、状況を限定せずにセットで扱うべきだろう。もし芝村閥で共有している隠し玉があるかもしれんしな。
「
『おまかせ……お任せときんさい!』
『任せれ! あと、サキ! ようやった!』
巫女たちは何をやってるんだか、マイク争いをして居るようだ。
それはそれとして面倒くさいのは佐賀兵たちで、どうやら合流して乗り込むサキを見つけたらしい。
まあどうせ戦力として当てにはしてないから良いが、サキのメンタルの方が問題かな。
「良かったのか? みっともないのを見られたくないとか言っていたようだが」
「ああ、幻獣みたあで恥ずかしか。……だからどうした! だからどうした。今が、いっとう晴れがましか!」
サキのウォードレスは人型戦車用では無かったので脱いでいた。
人工筋肉を溶剤で溶かして半ば裸で乗り込んでいる。問題なのはドクにでも改造されたらしい痕があったのだが、この忙しさを理由に忘れてしまう事にしたようだ。
仲間に佐賀兵に顔を出せなかった不義理を、私を助けたという義理で返したという事だろう。佐賀兵たちも言いたいことはあったろうが、その辺で折り合いをつけたようだしな。
『ヤッホヤッホー! こちら特務部隊……えーっとカグツチだそうです! うちの一番上が何か言いたいんだってさ。OK?』
「
確か黒幕の部隊に加藤もろとも送り込んだ兵だったか。
その時に裏切らないか略歴を調べたら、なぜか名前の読み方が違っているという意味深な女だった。しかしこれだけ能天気ならば疑う余地も無いというのが笑えて来る。
とはいえ戦闘に向けて戦術を再構築中だ。忙しいし、手筋は読んでいるとはいえ直撃したら危険なので注意を反らすのは止めて欲しい。
『だってさ。言いたいことがあるなら、我慢せずに言っちゃったほうがいいよ?』
『……こちら特務部隊カグツチを預かる守原定康である。幻獣共生派に入り込まれ、そちらを攻撃しているようだ。好きにして構わんから討伐してくれて良いぞ。……すべての責任は指揮官である私にある』
「ほう……そう来たか」
どうしてこの期に及んで話を通しておかないのか?!
だが、これは悪い話ではない。こちらを追い詰めている部隊指令と言うか、私を始末したい護州閥の次期党首からのお墨付きだ。
実質的な降伏であり、私を追い詰めていた陰謀こそ認めないしたたかさは感じられたが……それでも軍律上の問題が解決できたのは大変喜ばしい! 芸州公や備州公には話を付けたが、これで大手を振って軍に復帰できるというもの。
『きぃっ貴様! 代行殿から恩義を受けておいて!?』
『幻獣共生派に組し、人体実験しておいて何を言うか! 我らは一天万乗の君に使える剣であるぞ! その上でデグレチャフは貴様らよりも余程同輩であると見なしただけだ。……狩谷を頼む』
「心得た!」
別に許したわけではないが、この場は乗っておくべきだろう。
ドクはますます激高するし、音声データを残しておけば奴らの問題だと言い訳できる。
これにて茶番劇は閉幕。
後は竜を倒すだけだ……というところで、思わぬ横槍が戦場を貫く。
『こうなったらゲートからエネルギーを注入して何もかも……ム!? 既に暴走しているだと!? 誰が勝手にリンクを始めた!』
『竜師! 竜の眷属が、竜の眷属が増えて行きます!!』
「今ごろ!!!」
黒幕どもの飛行船が墜落する。
正確には飛行船もまた幻獣化し、魔力の結晶化によって肉体を再構成していた。
そこからまるで粘菌が森を喰らう様に、次々に周囲のモノを幻獣化させていくのだ。
●
困ったことに様相が一変した。
敵の戦力が増えたのみならず、パターンが二つに分化したからだ。
一つはドクが制御する、最適解を追い求めるスペック重視の集団。
もう一つは暴走によって、何を考えているか分からない狂気の集団である。
「ピクシー03と04は先の命令を徹底! 02は構わんから周囲を迎撃。私と竜の舞台から排除せよ! 05と06は負傷者の回収に専念!」
『『『了解』』』』
再度の戦場整理とはまったく面倒なことだ。
向かってくる狩谷機の成れの果てとの戦いに専念する為、他を近づけさせないだけで精一杯とは!
援護抜きで格上と戦えとはまったくもってマッドは余計な事しかしようとせん!
『竜師! 飛行船からは粗方出尽くしました。しかし飛行船そのものが……』
「見ていれば判る! それとレーザーに注意しろ! 持っている奴は煙幕を散布!」
瀬戸口からの戦闘管制がありがたい。
流石に増援規模は判らないし、各部隊に一々指示などできないからだ。時おりに幻覚を飛ばして、相手の動きを予想したり攻撃レンジを示すのが精々である。
それはそれとして油断できない個体は二体。
狩谷機であった竜と、飛行船そのものが変化した……あれは龍というべきか蛇と言うべきか悩む個体が一体。竜骨を伸ばしながら迫って来た。
『デグレチャフ反応を発見。破壊、はかい、ハカイ!』
「やはり来たか! ジャミング用にしていなければ……」
竜骨を伸ばして来た個体は、顔から大出力のレーザーを放ってくる。
その威力は強烈だが、読み易いので何とか避ける事ができた。むしろ狩谷機だった竜から注意が逸れた方が問題だろう。
そこで私はプログラムを生成して、生体結晶に喰わせて先行入力で対処することにした。
「人工筋肉もだが、この生体結晶もオーパーツだな。機体への命令を先に出しておけるとは」
コンピューター上で処理したことを、仮想空間で処理しようという話を思い出した。
転生前にはギリギリで無理だったはずだが、あの後で実用されたのだろうか? ともあれ機械ならば命令を先だしするのはおかしくないが、この生体結晶の凄い所はそこではない。
なんと生物並みのファジーさを維持したまま、機械としての優先命令を処理してくれるのだ! ただのコンピューターならば、条件が違うからと命令を突き返したり、致命的なバグとなって帰って来るだろう。それら矛盾を発生させずに処理できるのは凄い事なのだ。
「サキ。先に入っておくぞ。武装は拾うが最終的に格闘戦で処理する。感覚投入のカウントダウン省略!」
「判っとる! 任せれ!」
全感覚投入すると意識があやふやに成っていく。
私とサキの意識が入り混じった第三の人格が騎魂号のAIとして処理を行っていくからだ。優先命令は先に出しているので、後は『読み』が当たって居るか、奴らの『即応』が勝って居るかの差でしかない。
そして読みに優れていても、相手が早いならばこちらが負けるのは道理。
しかしここで生体結晶越しに操る際の、独特の動きが私に作用する。
『竜師。ボクは、僕は……貴方を超え……越えて……』
「っ!!」
命令は複数の行動から成るが、機体の動きはそれを忠実には再現しない。
銃を拾って、腕を上げて、右や左に構え直す。そんな行動を指定したとしても、余計な動きをキャンセルしてくれるのだ。十の命令に対して、九や八に短縮して実行してくれる。
だがそれは全てではない。
たまたま短縮するか、短縮できないかはプログラムの組み合わせや、機体の動作方向に寄って決定付けられる。だからこそ、その差はランダムな結果として、私の読みや奴らの即応に僅かな差をつけてくれるわけである。
「っ! 遅い! そして聞こう! 越えて何をするつもりだ!? それは本当にお前のしたい事か!?」
『僕はボクはぼくは……ああああ!』
『貴様は何も考える必要はない! 従え! 従え……代行殿に、私に……したがええええ!!』
説得と言うか、メンタルを攻撃しようとする私にドクが割り込んで来る。
というか、あの龍みたいなのはドクが幻獣に取り込まれたのか? いい気味だと思う反面、奴がつけていた独特の四枚メガネが複眼の様に機能しているのが面倒くさい。
拾った銃で顔を撃ち、牽制しようとするが何にもならなかった。
銃を投げ捨てながら超硬度大太刀を拾おうとして……あまりにも読まれて居そうなので、バズーカを棍棒代わりにするとでもしよう。
「ドクから潰すぞ。あいつの方が判り易い。どうやら狩谷は暴走に巻き込まれたようだしな」
「了解!」
これはただの予感だが……代行殿はまったく取り込まれているような気がしない。
いつもの笑みを張り付けて、バケモノと化した飛行船の中で笑っているような気がする。
そしてただ一言『勝負だ』と他人事のような舞台の中で、このシチュエーションを狙っていたとばかりにコールをかけて来るのだろう。
「ああ、そうだ。お前にも名前を付けてやらないとな。……即席で悪いが、こんなものか。さて、全感覚投入! 目を覚ましたら……」
「ぶっとばしてやるけん! うちと竜師とアAn……」
ランダム要素を増やす為、ふと悪戯心で余計な事をすることにした。
確か代行殿やドクと最初に出逢った時に、名前のないクローンにビクトリアと名前を付けた。だからその時を思い出し、騎魂号にも名前を付けてやることにした。
『死ね! 恩知らずのデグレチャフ!』
「っ!」
再び全感覚を投入し、ドクが放つはずのレーザーを躱す。
連続斉射に広範囲の砲撃、そいて横薙ぎのレーザーを盾に動かして文字を描く。ドクならばそんな感じで自分の新しい体を確かめながら、最適解な攻撃をしてくると思っていた。
だからそうなる様に誘導しながら移動し、ショートステップの連続ジャンプから、摺り足を間に入れて大きなジャンプへ。途中で棍棒にしたバズーカを投げつけ、気を反らせてから急接近という手はずだ。
そして戻った意識の前の前には、ナイフで刻んだこの機体の名前。
Ann。
アンと言うべきか、アニと言うべきか。ただの女の子、一番目の女の子だから。Ann。
まあ名前などラベルなのでどうでも良い。
重要なのは、龍と化したドクの顔に向けて必殺の一撃を放つだけだ。
「今だ! 蹴り飛ばせ! アニ!」
全体重を載せた蹴りを、長い首を持つ龍に向けて放つ。
そしてドクが撃とうとした反撃と狩谷機からの攻撃をジャンプで回避したところで、再び意識が蘇ったのである。
『馬鹿な! どうして私が! 私の計算は間違っていない筈だ! 実戦を経て能力を向上させ、その操作性をままたたたた……』
「そりゃ読み易いからに決まってる。勝負は読み合いだ。あんたが単に盆暗だっただけさ」
首をへし折り、竜の攻撃を喰らってしまっている。
それも体が大きく、長過ぎて扱い難いからだ。そういう意味で言ってもドクは選択を間違えた。
これだけ長大な体であれば、上半身は右を狙いつつ下半身は左に動くくらいのことはしても良かっただろう。ただそれだけで私の読みは難しくなるのだから。
『演算……戦闘』
「そうだ。教科書越しに教えたし、お前もさっき気が付いただろう? 約束組手ならばどれほど強くても何ともで成る」
ここで私はサイドの誘導を行う事にした。
読み合いによる演算戦闘は相性にもよる。以前の狩谷やドクのようなガチガチの頭でっかちには通用し易い。能力が十ならば常に十しか使わない相手というのは読み易いからだ。
対して今の狩谷の様に、暴走している相手ではそうもいかない。
発狂状態というか攻撃を無意味に乱射したり、延々と突撃して来る場合なども考えられる。
だからここそ演算戦闘を捨てるつもりで、狩谷に一手無駄打ちをさせた。私が読み難くするために行動を誘発し、こちらの手の中に引き込んだということだ。
『ナラ、コレは要らない!』
「そう来ると思っていたよ……。流石は我が弟子……とでも言うべきか。良い見切りだ!」
狩谷は竜がまとっている装甲部分を潔く捨てた。
先ほど龍に対して放った蹴りを見て、直撃したら装甲程度では防げないと判断したのだろう。
ゆえに速度を上げて読み難くすると同時に、自分が捕まえる為の速度を上げる。
……まあ私にとってはその方が助かるのだがな。タメの大きい蹴りよりも、パンチや『他の手段』でも削れるという事だ。
(確かに『私』の手はここで打ち止め。だが盤外戦術を読み切れるかな?)
装甲を無くしたことで、行動に矛盾が発生しつつもスピードで追いつけるようになった。
そして矛盾が発生するから対処している間にランダムになり、結果として私も演算戦闘ができない。
だがしかし、装甲が無ければ光る拳や足でなくとも通じる!
少なくとも全力でなくとも、最低限のタメで放ったとしても通じるだろう。そう思えばこそ、この事態を誘導したのだ。
『オオオオ!』
(予備動作が浅い……だが、ここは危険と見るべき!)
先ほどは足が甲まで地面が沈み込むほどだったが、今回は爪先だけ。
しかし装甲に回している魔力を出力に振り替えたはずだ。段違いだと見なして、大きなジャンプで飛びのいておいた。
すると予想は過たず、恐るべきロケットダッシュが繰り出されたのだ。
「はん……。いや、違う! なんとお!」
『カアッ!』
反撃に転じようとしたところで嫌な予感がした。
私だったらアレで終わらせない。せっかく浅い踏み込みで動いたのだ。確実に連撃をかけて追い詰めに掛かる。肩を外しそうな……どころか、確実に壊れるような動きで裏拳が飛んできたのはその時のことだった。
その予感が私たちを窮地から救った。
人型戦車が決してやってはいけない、ゴロゴロと横転することでバックナックルを回避! 立ち上がりながらショートジャンプで飛ぶが、ピーピーと足全体に負荷が掛かったことを忠告して来る。
「まさか自壊覚悟とはな。いい感じで狂ってる。予想通りとはいえ泣けてくるな」
教科書通りで丁寧な狩谷の部分と、それが暴走しているという両面がある。
それを考えればこの位はやって来るだろう。相手の方がスペックが高い上に、自己修復機能までついているのだ。この程度の事は平然と実行できておかしくはない。
それでいて素地で優っている部分を活かし、徐々にこちらを追い詰めようという辺り、やはり根は狩谷の頭の良さを感じた。同じ人型戦車を元にしていても、幻獣化した竜とそのままの騎魂号ではタフネスに天地の差があるのだから。
『まだ……遅い……』
「そう来たか! まあスペックを上げるにはそうするしかないよな!」
驚いたことに狩谷機は更なる進化を見せていた。
肩関節のおかしくなった部分を直すのではなく、むしろ体を伏せて四つ足に近い形で設面積を増やした。これでバランスも強制的に補正できるし、四ツ足化が始まれば速度も上がるだろう。
そういえば誰かに聞いた、竜は必要に合わせて進化していくという話を思い出した。
最初から強かったわけではない。必要だから鱗を持って硬く成り、空を飛ばなくてはいけないから翼を生やし、火が無くては倒せないから炎を吐くのだという。
「このままではジリ貧だな。何処かでスペック差による逆転が起きる。だが……サキ。さっき言ったことを覚えているか?」
「え? あーそりゃまあ。って、まさか!?」
遠からずスペック面で手の付けられない領域に持っていかれる。
更にランダム性を有し、こちらの行う挙動に対応する攻撃範囲と即応性を身に着けるかもしれない。よしんば優位を保ったとしても、損傷が続く限りどこかで負ける可能性が高くなるのは間違いない。
ならば……むしろ『負けることを想定すべき』ではないだろうか?
「そうだ! 奴が対応できる内に肉弾戦に持ち込む! 『その時』に備えろよ!」
「何てちゅう無茶ばすっ気なんか」
無茶は先刻承知!
だが死ぬよりは良い。ただ負けるよりはだいぶマシだ!
そうと決めたならば、行動の最終系をイメージする。
こちらが圧倒しあちらが圧倒する。そんな未来を許容し、行動の延長上にある演算戦闘を行うのではなく、むしろその行為を行わない為にこそ動く。
『ガアア!!』
「来るぞ! 対ショック!」
「何時でもこんか!」
相手の突撃に合わせてこちらも機動を掛ける。
すり足で最低限の動きを掛け、死角に回るのではなく勢いを殺すためにこそ動く。カウンター気味に拳を振り上げるが、倒すというよりも奴の動きを固定させるためにこそ放った!
そして奴が私の予想を上回らない内に『相打ち』に持ち込むことに成功したのだ。
だが、それでは再生力が無いこちらがジリ貧! そのまま体を反転させて投げ技に持ち込みつつコックピットを露出させる!!
「これで終わりだ! 行くぞサキ……そして……」
「おう!」
ハッチが空かない可能性があるので爆発ボルトで扉を吹っ飛ばす。
私たち脱出するあの間にも、機体はプログラムで入力したそのままに狩谷機のコックピットをねじ切り始めた。
そしてサキが光る拳を振るい、私は魔導刃を振るって触手の様に癒着した部分を切り裂いていく! でも足りない? だがそんなことはない!
「来い、壬生屋!」
「はい!!」
乗り換える時に降ろした壬生屋は何処にいたのか?
ずっとこの時を狙っていたに決まっている。この女は情が厚いから、何かできないかと超硬度カトラスひっさげて見守っていると言っていたからな。
そして狩谷たちを救出するという余計な作業。
実はコレが私の勝算であり、最後の切り札であった。
「油断したな竜よ! 狩谷たちが核になっているならば……この二人引きはがせば良いのだよ! 馬鹿正直にバケモノと付き合って居られるか!」
ガンパレードマーチは誰かを迎え入れる歌だと言っていた。
ならばこうやって狩谷たちを迎え入れ、助け出すのが最期に相応しいだろう。
護州の次期統領も抑えたことだし、後は凱旋といこう。
と言う訳で最終回です。
黒い月を塞いでいた士翼号とリンクし、力を引き出していた竜を倒しました。
ガンパレードマーチの裏設定・榊ガンパレ・ガンオケを少しずつ足した感じです。
後は後日譚と言うか細かい設定を語る回を一回分、何がどうしてこうなったという捕捉ですね。
他に書きたいこととか本編では書きにくいことがあれば、外伝を付け足していく形。
●勝因は戦術である
ひとえにドクの勘違いであり、ガンパレ原作でも言っている様に人間の力とは
戦術であり、それを使い熟すことが最強たる者であるとしました。
というかAが企図した竜とは、その戦術を使いこなすヒーローの事。
ですがドクを始めとしたセプテントリオンは異世界を知るがゆえに、
としての竜を重要視してしまったのでしょう。(代行殿は気付いて放っている)
●ターニャの唄
かつて気づきあげた絆、その戦果を新しい世代に引き継ぐだけの唄。
お前らはヒーローだと言われ、自分が英雄だと誇って良い権利の為にヒーコラ言う契約。
その誇りを胸に活躍し、ともの為に生き、そして死んでいく権利。
そしてその歌は、幼女戦記の序盤を知っている人はみんな知っている。
かつて201航空魔導大隊を募集した、あの文面である。
●定康の手の平ドリル
原作に準拠しています。
責任を取ると言いつつ保険を確保して、罰を受け入れつつ敵軍のフォロー。
最悪の状況をパパっと終わらせつつ、「今からしがらみ捨てて、帝の為に頑張るわ」
と豹変する辺りがそのままです。
なお、お前らはヒーローだ! と援軍が言われているのを聞いて、羨ましくなった模様。
●Ann
零号機から乗り換えた一号機、あるいはただの人型戦車。
「そういえば最初もそうだったな」レベルで、適当にアニと名前を付けただけ。
その名前に意味があるか、得意技が蹴りな事に意味があるのかはきっと不明である。
●狩谷機
竜と化しました、士翼号と同じくらい強かったです。
そして途中で進化して、もっと強くなります。
「こんなの勝てるか!」と諦めて、さっさと別の手段を見つけるのがターニャの戦術。
ガンパレの裏設定・小説では精霊手でサクっと倒すことになりますが……。
そんなの上手く行くはずがないので、肉弾戦で人間レベルの精霊手で切り取って終わりになります。