ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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八代開戦の終わり

 新種の中型幻獣を倒せとの無茶振り。

そのことに散々怒りの言葉を吐き出した後、私は思考回路を高速回転させた。並列思考なんぞ便利な物はないので、足りない情報で必死に頭を動かすしかない。

 

そして考えを整理していく中で、物凄い怒りに見舞われる。

どうして敵の情報が得られるのか? それは芝村が派遣したエリート兵か何かが情報を送っているからだ。

 

では送られた情報がどうして、レーダー画像の様に準リアルタイムで送られているのか?

その謎は転生前からの知識にあった。正確には一番最初の人生で、軍事オタクやミリタリー系のゲームマニアとして知ったことなのだが。

 

「戦術リンクシステムだと? これがあれば随分役に立つはずだ。何故これを公表しない!」

 仮に測距観測しながら曲射砲と戦車をリンクしたとする。

すると後方に準リアルタイムの位置データを送るだけで、障害物越しに百発百中の攻撃ができる。

 

どうして公表しないのか?

おそらくは戦術上で楽に勝利することに価値を見出していないのだ。苦心惨憺の戦場こそが奴らが技術開発を行う上での舞台なのだろう。戦術リンクシステムは、そのための観察手段に違いない。

 

「……だが怒りは今は不要だ。そうだ、今は逆用させてもらおう」

 利用すること、利用されることにこだわりはない。

だが楽に勝てるのを放棄して、ワザと怠ける事は許せない。だが、ここで怒って使用しないのは私の怠慢だろう。今は最大限に利用して、奴らの思惑を飲み込むべきなのだ。

 

幾分か冷静になった思考でMAPを見つめ直す。

新城大尉たちは南回りで当該施設に辿り着き、北側から北東に掛けて抜ける予定になっている。この流れを可能な限り邪魔すべきではないだろう。

 

「奴は北西、つまり私たちの初期ルートのど真ん中だ。……くそ! 元来た道を戻るのか。ということはゴルゴーンの砲列を抜けて行かねばならん」

 このまま自分も南回りにでも移動するつもりだったが、そうはいかなくなった。

そのルートで自分も合流し、先行して出ようとすると敵の視界がどうなるか判らなかった。そもそも芝村の連中が即座に動けるとは限らないのだ。

 

となると元来た道を逆走とはいかぬでも、ある程度は使用して射界の中を抜けねばならない。

 

その上で未知の敵との交戦が待っている。最低でも勝利せねば自分の命が危い。

出来る限り速やかに勝利して、北西から一度西回りに抜け得て北に向かうか、グルリと一回転してまた南に戻る必要があるだろう。それも、この脚部に不安を抱えた人型戦車でだ!

 

「ビクトリア。これからジグザグに走るが、時々合図を送ってくれ。タイミングは何でも良い。1・2・3でも、10を数えて10になったからでも良い」

「ん。ターニャを脅かすくらいでいいの?」

 普段ならば自分でランダム回避タイミングを計るが、今回はビクトリアに任せた。

これから地図を見ながら走り、しかも新種のデータも図らねばならない。動きだけで相手の性能を予測するなんて無茶をするのだ。意識を裂いているような余裕はない。

 

「それで構わない。上手く行ったら次に菓子を分配する時、私の分を半分やろう」

「わーい」

 ビクトリアが小さく数え始めた段階で、地形を見ながらジグザグに走り始める。

そして合図が入った所で、右左ではなく、右右あるいは左左とパターンを変えた。

 

同時並行して新種の動きをチラリチラリと頭に入れる。

これで相手の行動半径がおおよそながら把握できる。

 

どの程度の速度なのか、どの程度の射程なのか。

それを測って、画像にはやはりタイムラグがあるのだと思って上方修正するくらいで良いだろう。

 

「この動き……ゴルゴーンの亜種か? 時々ミサイルを放っているな」

 加えて移動速度は直線移動が短く横に広い。

平均してゴルゴーンとほぼ同等か、それ以上の能力だと思われた。後は他に能力があるかどうかと、攻撃力・防御力の割り振りがどうかだろう。

 

ひとまず格闘用に大きな角や尻尾を持っていたり、攻防を純粋強化するために野太くなった個体を思い浮かべておいた。

 

そして時折その動きを予想してみながら、可能な限り迅速に砲列の中を駆け抜けていった。

 

 弾幕の嵐を抜けると河川敷に出る。

なるほど川を使って移動を阻む気なのかと思うと同時に、開け過ぎた地形に思わず鼻白んだ。

 

河川にも色々あるものだが、もう少し起伏の多い場所だってあって良いはずだ。

本来ならばそういう所に誘導するのだろうが、こともあろうに芝村の尖兵はこんな場所を決戦場に選びやがった!

 

 その理由は明らかに見栄えがするからだろう。

だが私としては幻獣と仲良く友情ごっこをする気はない。素早く敵味方の姿を確認すると同時に、戦闘パターンの確立に入った。

 

「あれは武尊……か。新種の幻獣なんぞ誘き寄せられるはずだ」

 汎用ウォードレスとして量産されている互尊は平均的過ぎる能力だ。

それは人工筋肉の開発の失敗であり、求める能力が得られなかったので仕方なく汎用能力に走っているとも言える。それはそれで優秀な兵器なのだが、これをフルスペックにしたのが武尊と言われていた。

 

まだまだ開発中で試験運用が二・三というレベルのはずなのに、そんな物を用意しているとは恐れ入る。使い手はライフルを二丁? いや、そう思えるようなロングバレルの拳銃で回りのゴブリンを仕留めていた。そして空を滑る様に高速で移動し、時たま強力な格闘戦を示している。

 

「あ、大尉だ」

「新城大尉……ではないのか。将校に尖兵をやらせるとは酔狂な。エース出身なのか?」

 どうやら新種を呼んできた尖兵(精鋭の事)の階級は大尉らしい。

確かに素晴らしい動きだし、体格にも優れていて強力そうな兵ではある。これでいっぱしの知性があれば、大尉と呼ばれても不思議はないのだろう。

 

それはそれとして、戦うべき相手の様子を確認にすることにした。

なんというかそいつは色々な意味で驚きだ。何しろ四つ足のゴルゴーンを直立させてバランスを取ったようなボディで随分と肉厚の筋肉を備えている。

 

「あれだけの体格ならば格闘戦は得意と見るべきだな。皮も厚いだろうし……こいつに生体ジャミングがあって良かったよ」

 この人型戦車は複座式で、基礎装備は二種類選べるそうだ。

一つ目は重装備のミサイルで、範囲攻撃を仕掛けられる優れもの。もしエースを越えて銀剣突撃章が欲しいならばこれを選ぶべきだろう。

 

しかしこの機体にはそんなものは付いていない。

つまるところもう片方。生体ミサイルを邪魔するための生体ジャミングが装備されているのだ。

 

「とはいえ誘導ミサイルがロケット弾に変わる程度と思っておくか。ちゃんとした回避機動を取っておいた方がいいな」

 取り扱い説明ではミサイルを無力化すると書いてある。

しかしそんなものは信じられないので、命中精度を落とす程度として考えておいた。頭から信じてモロに食らうのは愚か者だし、回避機動というのは習慣にしておくべきものである。

 

「タフそうだし太刀の直撃で三発というところかな? ミサイルが多少短めの近~中距離戦の個体と見ておくべきか」

 真っ先に排除した回答は遠距離からの射撃戦だ。

先ほどまでゴルゴーンの射程を潜り抜けてきたのだ。時間を稼ぎ過ぎれば追いつかれてしまうだろう。かといって、近接型に白兵戦を無策で挑むのも愚かしい。

 

そこで軽いシミュレートを建ててみる。

序盤はガトリング砲で牽制しつつ移動攻撃。奴がミサイルを撃とうと足を止めたところで速度を速めて走行。その後は太刀を構えて……ジャンプだな。白兵戦距離に入ると見せて裏を取るか。

 

「なんたる硬さか! だが糞袋ほどではない!」

 かつて戦った最悪の相手を思い出しながら河川敷に踏み込んでいく。

バラバラと吸い込まれる弾丸はあまり効いていないような気もする。奴が射撃体勢に入った所で、入れ違うように前進。背中越しにミサイルが大外れしたのが判った。

 

これで判ったことは三つ。

相手の硬さはゴルゴーン以上。射撃で片付けるのは時間が掛かるという事。そしてミサイルを無効化しているが、あくまで照準を無効化しているだけだ。座して留まって居たら流れ弾に当たってしまうかもしれない。

 

「格闘戦には少し遠いが……やはりな!」

 案の定、今までの幻獣よりも格闘範囲が大きい。

こちらの太刀と似たり寄ったりで、もし迂闊に切り込んでいたら手痛い反撃を受けていたに違いない。

 

既にジャンプさせていたので、タイムラグを入れても十分に間に合った。

少し残念なのは裏を取ったつもりで、奴が前に出たことで太刀の攻撃範囲を抜けられてしまったことだ。

 

「奴は四時の方向か。振り向いて攻撃する……と仮定して。万が一を避けておくか」

 もしミサイルで攻撃するつもりで離れられると困る。

そこでどちらでも良い位置まで移動し、至近距離からガトリング砲を撃ちこんでおいた。

 

ここで改めてジャンプし、奴がどういう行動をとってもジャンプで脇に抜けるコースを設定した。

 

「さすがに裏拳などというテクニックはあるまい!」

 超硬度大太刀をスイングして奴の脇腹を切り割くことに成功した。

二発のガトリングも含めて少なくない傷を負わせたのか、ドロリと体液が零れてくる。

 

だがまだ撃破には遠い。

薄氷を踏む思いで戦うのは避けたいし、一度距離を取って仕切り直すことにした。

 

「ビクトリア、置き去りにした敵は追い付いて来るか?」

「もうちょっと?」

 その返事を聞いて一度ガトリング砲を懸架し直した。

射撃戦は少々こちらに分が悪い。もし人型戦車で挑むならばもっと口径の大きな方が必要だろう。

 

ゆえに白兵戦で倒すしかないのだが、このままでは安全マージンを取ってることもあり、相対位置がずれて行くのだ。

 

「腕部クロー展開。これで左右どちらでも行ける」

 揺さぶって移動と牽制攻撃で倒したいがそうもいかない。

だから白兵戦で片を付けるために、格闘武器も用意してチャンスを広げる事にした。

 

旋回半径はこちらの方が微妙に速いし、太刀と奴の格闘が同等だとしても、こちらのクローならば有利なはずだ。移動しながら僅かな隙を見つけてクローを突き立て、最後に太刀という所で良いだろう。

 

「二連続ジャンプで……そこだ!」

 これまでにないパターンを組んで、二度の跳躍で再び脇を取った。

だが今回はクローの適正レンジ。しかも攻撃が速いので奴のパンチより確実だ。改めてその後に今度は歩行とジャンプを行って、緩やかな右旋回を実行する。

 

「中途半端な射撃二回で直撃一回分。同じく半端な太刀とクローで太刀の直撃一回分として……もうちょっとだと思うんだが……」

 本当のことを言えば、ここで離れて射撃戦で倒したい。

歩き回ってジャンプを繰り返して射撃すればリスク無しで倒せるだろう。

 

だがこれは試合ではなく戦争なのだ。

何が起きるか判らないし、当然ながら幻獣の増援は考えておくべきだろう。そうするとガトリングの弾は逃走用に残しておきたいのもある(あんまり効いてないしな)。

 

「新城大尉はまだか……。既に目的地に着いているはずだ。……くそっ、倒すしかないのか」

 こちらの攻撃は肉迫しないと通じない。

逆に奴の攻撃は普通にこちらを貫通しかねない。試したことは無いが、こちらの装甲が通常の戦車以上だとか、奴の攻撃がゴルゴーン以下という事はないはずだ。

 

ゆえに一撃喰らったら重傷、二撃で致命傷と考えて安全マージンを取り続ける。

タイムラグのある操作がもどかしく、どうにかもう数発のクローや蹴りを浴びせた時には、視界内にゴルゴーンが追い付いてきたのが判る。

 

「ちっ。見えてしまったということは、ビクトリアの忠告を聞き逃したのか。すまん」

「いーよ」

 本当ならば軍人として口の利き方を判らせねばならない。

だが今はその微笑ましい口調が何よりのストレス解消だろうか。我ながら何とも気弱になったものだ。

 

追いついてきたら教えてくれと言っておいて聞き逃してしまった。

それは私が頭に血を登らせていたという証左であり、後少し、後少しで倒せると焦った結果でもある。

 

「次の切り込みで片を付ける。それで倒せなかったら射撃戦だな」

 いまいちガトリングの威力に不安だが、そこまでやって倒せないなら諦めるほかはない。

ゴルゴーンの打撃型に分かれた亜種だとするならば、そろそろ倒れても良いはずなのだが……。

 

いずれにせよ、ゴルゴーンが追い付いたことで今まで以上に慎重な動きを入れる。

ただし攻撃は太刀一種。クローの展開を解除して、いつでもガトリングを構えられる態勢で飛び跳ねた。

 

大きく跳ねた後、歩行を交えて微妙な位置調整を心掛ける。

少なくともゴルゴーンが突出して来ても問題ない場所に。そして新種からの格闘攻撃が当たらず、次のジャンプで脇を取れ……。

 

(いかん。ここ数回の打ち込みでパターン化している。ここは冷静に成るべきだ。当初の動きを思い出せ)

 確実に当てられる脇ではなく、相手の移動によっては抜けられてしまう裏を取る。

これで駄目なら射撃で片を付けるつもりなのだ。欲をかいて死ぬことはない。

 

ただし、降りるべき場所は奴のすぐ後ろ!

例え踏み留まったとしても、裏拳がない以上は攻撃されない位置だ! ここならば奴がちょっと動いた程度ならばなんとかなる!!

 

「唐竹割りだ!!」

 後ろに飛んでも、真向唐竹割りと言うべきなのか?

こちらの動きに慣れた奴があまり動かなかったことで、上手く狙える位置だったのでフルスイングを掛けた。

 

余計な思いが問題だったのか、それとも最初から当て難い縦の攻撃は無かったのか。

いつも通りの横薙ぎで奴の背中を切り割いてやった。

 

……そして奴は腹のミサイルを抱えて崩れ去る様に、そのまま倒れたのである。

 

「ふう。長かったな。余計なモーションが入る分だけ気を使った。もうこんな戦いは遠慮したい」

『ふっふはは』

 息を吐いて逃走のために走り出したところで、謎の声が木霊した。

明らかにビクトリアの声ではない。いや、この声の主を私は知っている。

 

『いやあ中尉。随分とご活躍じゃないか。君を見込んだ私の甲斐もあったという物だ中型幻獣が五、エースという奴かな?』

「敵の配置やライバルがいないなど運に恵まれました。どこで合流いたしましょうか?」

 やはり見ていやがったな!?

こちらが倒してから逃げ出すつもりで新城大尉たちを煙に巻いていたのだろう。憎らしい程の笑みを浮かべて太った男が画像に現われた。

 

褒められはしたがギリギリのスコアではエースを名乗るわけにもいかんし、下手に見込まれても困る。欠陥兵器はさっさと熨斗を付けてお返しすることにした。

 

『上を見給え中尉。こいつが降下しても狙われない位置になるだろうかな。後からゆっくり着いてくると良い』

「ツェッペリン級!?」

 驚いたことに連中は飛行船なんぞを持ち込んでいたようだ。

迂闊に高度を下げるとあっさりと地上の幻獣にもやられてしまうし、ゾンビヘリ群に追いかけまわされたら御終いである。

 

こいつ馬鹿なんじゃないか? と思ったが言わぬが花であろう。

その後は適当な場所まで移動し、まずは新城大尉たちと合流。その後に安全地帯に降りて来た連中に、人型戦車を叩き返して任務を終えた。

 

最期に一つ。

 

「ばいばい」

「さようならだ。できればもう戦場には出て来るなよ」

 芝村が寄こした大陸で加工した高級チョコレート。

約束通り半分ほどくれてやり、ビクトリアとも別れる事になった。

 

子供の御守りが終わって清々したと思う反面、こんなに早く別れるならばあの名前は止めておけばよかったと……思わなくもなかった。




 という訳で第七回です。
要人救出任務を終えたら、案の定だったという感じですね。

●注釈
 ゲームではジャミング掛けるとミサイルが当たらなくなりますが……。
ここでは誘導が効かないだけとしています。
未完成品とも言えますし、そもそもそんなに強力だったら自衛軍困ってないよね。と。
ただし、戦車はロケット弾レベルでも困るけど、人型戦車は移動方向を気を付ければ
そこそこ安全になるレベルの装備なのかもしれません。

ぶっちゃけ、ミサイル乱打した方が速いんですけどね。

●新種
 前回の時点でお分かりの方も多かったと思いますが、敵はミノタウルスの初期型です。
戦車随伴歩兵のエース部隊とか、芝村が用意した人型戦車の実験とかを見て
幻獣が進化し始めたところですね。
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