ターニャのガンパレード【完】   作:ノイラーテム

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空間要塞編
造られた偶像(アイドル)


 あれから熊本市まで撤退し、ついでに道中に隠れ潜んでいた兵を回収。

市の防衛にあたりながら、芝村から求められていた人型戦車のレポートと、軍からの要望で塹壕戦の要諦を書き上げる日々を送っている。

 

円滑に資料を閲覧するため、旧制五校にあたる熊本大学(この世界では明治維新が無いので微妙に変わっている)を本拠にさせてもらっていた。久々のアカデミックな日々はなんと充実してる事だろうか。

 

「喜べ中尉。昇進と隊内転属だ。良い話と悪い話、どちらから聞きたい?」

「光栄であります、大尉。まずは悪い方からというのがセオリーでありましょう」

 急な話だが、どちらもある程度は想像がついている。

良い方は昇進に絡めた話だろうし、悪い方は悪化する戦況でどう戦うかという命令だろう。

 

八代開戦で自衛軍は実働戦力の八割、各地の防衛戦力を含めた全戦力の六割を失った。

これを容易に埋める手段があるはずがない。ということはソレに伴っての転属だろう。ただ隊内転属ということは、新城大尉の部下扱いという立場からは大きく変わらないようだ。

 

「上は年齢固定型クローンによる戦力再編までのつなぎに、徴兵年齢を大きく引き下げてこれに充てる。熟練兵の一部をこの教導を兼ねて先任士官として回すわけだが、愚かしいことに残余から抽出するらしい」

「熊本を守る戦力を減らすのですか? なんともまあ」

 大尉と上層部、どちらの気分も判らなくもない。

上から見れば減耗著しい部隊の残兵など役にも立たないし、一部は後方で静養させなければ精神のバランスを欠くほどだ。よってそういう連中を先任士官や戦闘担当の尖兵として充てるのだろう。頼れる先任士官さえいれば学徒兵も一応の形くらいにはなる。

 

とはいえ熊本を捨てることはありえないし、その為には形の上とは言えまともに機能している新城隊の解散もありえない。ということは我々はすり減った友軍と共にこの場所を守らなければならないのだ。この有様では新城大尉としても苦笑するしかあるまい。

 

「それで良い方は?」

「君の提出した塹壕戦の件が認められたらしいな。九州を放棄するにあたり熊本に戦力集中して守るが、山口に至るルートを塹壕に寄る空間要塞化。その教導の功績を持って二階級目の特進が予定されている」

 特進とは素晴らしい!

前世の知識の粋を尽くして書き上げた甲斐があったというものだ。ライン戦線での奮闘は無駄にならなかったというわけだな。

 

しかしこの処置に対して疑問が生じる。

私が塹壕戦の準備に飛び回り、上手く戦えるように知見を周知して回るのは大いによろしい。発言力で言えば鰻登りなのだから。

 

しかしそれでは、隊内転属というのがおかしな表現になる。

新城大尉も昇進するとして同じ少佐になるではないか? 別々の道に進むとか、もっと大きな隊の同僚になるのであれば判るのだが。

 

「それはもしかして、九州総軍として再編成されるということでしょうか?」

「半分アタリで半分ハズレだな。君は参謀課程に推薦されて、学徒兵の現地第一号になる。少佐にあたるのは上級万翼長というそうだ。いずれ増える肩の線に負けぬようにした方がいいぞと言っておこうか。デグレチャフ万翼長殿?」

 は? 軍大学に進んで参謀課程になるのは良い。

だが学徒兵扱いとはいかなることか? それでは順調に出世したとしても、一段下に見られかねない。というかだいたい、現地第一号と言う事は参謀課程をこの熊本でやるということではないか!

 

それと後方な安全での錬成はどこへ行った!?

 

「九州総軍が臨時編成されて軍の部隊と学徒兵の部隊はその指揮下に入る。同階級では軍の方が一応上に来るし先任でもあるから、僕が色々指示を出すことになる。その時はお互いに可能な範囲で助け合おうじゃないか」

「ありがたくあります。新城少佐殿」

 抗議の視線を向けたがスルーされた。

ちなみにこの場合の『先任』とは『先任士官』と微妙に異なる。あれは兵士にとって敬うべき兵卒の大将とでもいうべき意味合いが強いが、軍の内部における先任とは先に昇進した者を序列の上に置くという物だ。もちろん中央の作戦局と現地の階級では意味が異なるので、必ずしも同じではないのだが。

 

しかしこうなると熊本大学を本拠に置けたのは理由あっての事なのだろう。

参謀教育を此処で行いながら、同時に九州総軍の直下に居たというアリバイ作りに違いない。

 

そしてこの時の私は、学徒兵であり現地組の第一号という意味合いを測りかねていた。

 

それが同期の星という、判り易い偶像(アイドル)製造目的だということに気が付かなかったのだ。

 

 より良い未来を得るために新しいレポートを書き上げて行く。

今は死守命令を受けないように、かつての記憶を元に遊撃部隊編成を塹壕戦の仕上げとして彩っていた。

 

(塹壕を知らない士官用に、どうして有用なのかを別紙で付けておくか)

 まず数に勝る幻獣に対し、基本は塹壕陣地で迎撃する。

奴らは食料も補給も不要で生物兵器としては優秀だが、その反動なのか作業者としてみるなら意外と不器用だ。ゆえに空堀としての塹壕があると、そこに嵌ってから乗り越えようとする。定位置への射撃は練習し易いし、動きを止めているのだから鴨撃ちだ。挙句に幻獣の死体は時間が経つと消えるので、塹壕はまた再利用できる。

 

つまり弾薬と士気が続く限り塹壕は非常に落ちにくい。

これを『金床と槌戦術』における金床として想定し、幻獣たちを多層の塹壕で拘束。遊撃軍がハンマーとして無防備な横合いから殴りつけるという訳だ。アカ以上にひたすら消耗戦を行う幻獣も、身動きも取れず横合いから殴り続けられる戦況では流石に撤退するという訳だ。

 

もちろん私は戦術的自由度が高く精強な遊撃軍に位置し、危険な現地軍には所属しない。加えて幻獣を打ち破れるほどの部隊に所属するので功績を上げ易いという塩梅である。

 

「ヘリが使えるか人型戦車が今少しまともであれば、戦闘団構想をこちらでも立ち上げるのだが」

 戦闘団は諸兵科が連動してお互いの欠点を補いつつ、長所を高める物だ。

ナポレオン時代の三兵戦術をさらに推し進めたもので、第二次大戦のドイツで花開いている。私はかつてのライヒでも提案して航空魔導師を中核に運用したことがあり、魔導師を代用できる戦力があれば運用する自信はあった。

 

「まあ無い物ねだりはしても意味がないな。ひとまず守り易い山岳地帯以外は重深陣化させるための敷設案を急ぐとして。これと挟撃するための部隊にはせめて足の速い戦車が欲しい物だ」

 とか言いながら充実した日々を送る予定だった。

……だった。要するに過去形である。まあ学生とは言いつつアリバイ造り程度だったしな。安全な後方陣地で休息できるだけマシと思っておくしかない。

 

だがしかし! これはどういう事だろうか!

遊撃軍に必要な戦力はまるで足りない。それはまだ良い! 学徒兵も到着してないし、自衛軍残余に余力があるわけでもないのだ。

 

「なぜ……コレがここに?」

「足の速い戦車を要望していただろう? 貴様ならば上手く使うと押し付けられたんだろう。そもそも塹壕に優先してL型を回しているから補充自体が無理だ、あるだけマシと思うしかないな」

 そこにあったのは士魂号M型こと人型戦車だった。

それも目立つように白銀色に塗装され、ところどころ赤・黄・青の三原色で彩られている。あまりにも派手なので新城少佐も苦笑していた。

 

ガンダムじゃあるまいし、なんでこんな目立つ塗装なんだ……。

いやいや、それ以前にまともな兵器として運用するには問題があるとレポートに書き記したはずだぞ!?

 

「あれは私というよりはあの子の能力で……」

「ビクトリアならセットで着いてきたぞ。後で面会しておけ」

 居るのか……逃げ道を塞がれてしまったな。

というかレポートを書くにあたり芝村に他部隊での運用資料を見せてもらって唖然とした。私以外の連中は馬鹿みたいに突撃してスクラップにしている。足に負担が掛かることも、装甲が通常の戦車以下であることにまるで気が付かないかのように。

 

資料を見た時に思ったのだが……。

どうして他の連中はあんなに馬鹿なんだ? それとも私もそうしておけば、今からこんな欠陥兵器に乗る羽目にならずに済んだという事だろうか。自分の優秀さが恨めしい。

 

「乗らざるを得ないのであれば後で面会しておきます」

「そうしてやれ。芝村の連中はロクでもないが、それはあの子の責任でもない」

 ……? 良く判らないが後で会いに行くとしよう。

まったく他に戦車がないとは。しかも人型戦車で完成しているのは騎魂号一台きりで、他はまだ組み上げている最中だ。これでは部隊としての火力を低く見積もらざるを得ない。スナイパーライフルを装備すべきという提案が通ったのは少しだけ見直しても良いのだが。

 

「しかし以前にも申し上げた通り、アレはまともに動かす用途の物ではありません」

「現実問題として他にない。どうしてもL型が欲しいというならば戦果を上げて陳情するか、接収して戦果で黙らせるしかないだろう。芝村は見込んだ奴とその計画に対して、そういうところがある。死にたくなければ使いこなせ。楽がしたければ運用方法を見つけろ」

 芝村は有用であると見なした兵器や、士官に対して固執するという。

使えると見なせばガラクタ扱いされても改良していくから、人工筋肉やウォードレスの開発の第一人者だ。人によっては奴らこそが持ち込んだ技術という奴も居る。

 

そして人間に関しても同様で、敵対派閥でも役に立つなら援助するし、味方として引き抜けば一門として偶する。蛇のように執念深く厄介な奴らだと言えよう。

 

 長話になりそうだったので、コーヒーを淹れてテーブルへ。

メモを出したいところだが、侮られるので止めておく。

 

「率直に聞くがM型について君はどう思う?」

「難しくあります。建前と本音が乖離する場合は特に」

 不景気な顔の上官に私は率直に答えた。

故障だらけのロボットに対してどう答えろと言うのだろう。

 

仕方がないので色々と運用法を考えてみるが……。

普通の戦車と勘違いした馬鹿はみんなスクラップに変えている。戦術のパラダイムシフトを測らねば駄目だ。運用法を完全に変えて、人型戦車の性能を活かせるような戦闘法こそを主体に据えるのだ。

 

「僕は曖昧さが好きでは無いな。公式では無い会話では特に」

「稼働可能ならば使い方次第で優秀。好んで使いたいとは思えないのは、まともに動かせない事からです。今回の様に使わざるを得ないのであれば考え方そのものを変えるべきかと」

 仕方無いので真実と現実でタップダンスしながら不景気に答えた。

理想的環境のみまともに動くならば、現実の方を理想に近づけるしかない。もちろんパーツや技術者が山盛りなんて幸運は考えるだけ無駄である。

 

「良いじゃないか。僕らの手元にはL型がないからな。続きを頼む」

 私の答えに新城少佐はいたく感激されたらしく、顎をしゃくって続きを促す。

まともに陳情しても通常型の戦車の補充が追いつかず、厄介者扱いの欠陥ロボットしか来ないなら、私同様に考え方を変えるしかない。同意が得られるのは判っていた。

 

ではどう使用するのか?

人型戦車が活きる戦闘方法とは何だろう? 八代平原でキメラと戦闘した時はあれほど苦戦したのに、小学校より後では倒すだけなら難しくはなかった。その後の戦いでは、きたかぜゾンビを容易く撃ち落とした。

 

「軽戦車程度の火力と装甲しかない脆弱な機体。そんな物にロマン以外に用途を見出すならば、突撃砲と対空砲とヘリの役目をマルチロールする兵器と思わざるを得ません」

「ふむ」

 少佐は葉巻を咥えながら、懐からマッチとチョコレートを取り出した。

星印製菓の純正品のようだ。人相が不景気な上官殿は心まで吝嗇家ではない様で、物で人を釣るくらいのことはやってのけなさる。後でビクトリアと分けろと言うのだろう。

 

「つまりだ。君は使用法のパラダイム・シフトを行い、歩兵の随伴を戦車にせよと言うのだな?」

「その通りであります。主役はあくまで歩兵とすれば違ったものが見えてきます。浸透突破を図る歩兵を守る囮であり、陣地戦を行う歩兵の支援であればすこぶる優秀ではあります。稼働すれば」

 火力に乏しく装甲が薄いという、人型をしているが故の欠点。

これをして、まともに幻獣という無数のバケモノと戦えと言う方が無茶だ。何しろ同じ士魂号と名前が付いていても、普通の戦車であるL形以下の火力と装甲である。同列視するのも比較するのも間違いだ。

 

だが、何もかもが足りない歩兵の保護者としては十分過ぎる。

歩兵からは欠陥兵器でも損害を推しつける憎き相手でも無く、守護神として礼賛されるだろう。問題は、まともに動かないことだが。

 

「うん、稼働すればだな。しかしM型しかないとあればなんとかする他あるまい。智慧を出せ」

「とにかく全機をまともに動かしてはパーツも人も足りなくなるでしょう。そこで動かすのは一機、残りは支援攻撃とパーツ取りに充てます」

 戦車は四機で一小隊編成だが、どう考えてもまともに動かない。

足回りが直ぐに壊れそうだし、全員が優秀なパイロットに成れるとも限らないだろう。配属されてきた全員を教導し直すよりも、ちゃんと判ってくれる優秀な一人だけを前に出す方が楽だ。少なくとも他の隊に居たような突撃バカをパイロットシートに座らせたくはない。

 

だから最初から一機のみを使用する。

整備員とパーツはこの一機のみに充て、残りは数歩動ければ良いものとする。手足を使えば、普通の戦車と違って山の上や木の陰に隠れるのは得意なのだから。起伏や町などの地形を利用してケンタウルスやゴルゴーンを翻弄したのは記憶に新しい。

 

「場所を固定するのか。まあ動かなければ壊れはしないな」

「はい。残る一機も囮というよりは測距に用いるのです。戦術リンクを活かし、全機で中型幻獣を一匹ずつ始末していきます」

 支援する機体も、二機で一機分の火力だと思えば問題ないだろう。

前線に出る一機の火力が、実質的に二倍になったようなものだ。この間の新種を倒すのに苦労したが、このシフトで行けば文字通り瞬殺できる。

 

もちろんそんな都合の良い場面ばかりではないだろう。

多数の幻獣が迫るのだ。手を取られて支援できなくなるなんて当たり前の事だろう。だがそれでも、ゾンビヘリ群を任せたり、長射程のキメラを任せるだけでも話は変わって来るはずだ。

 

 

そうやって意見を出し合い、部隊として動ける算段を付けた後。私はビクトリアに面会することにした。

 

思えば器用に世界を渡ったつもりの私だが、この世界というものを真に理解したのはその時だ。そして芝村という外道のやり方を知ったのも。そして彼女たちを利用する私もまた、同様に外道であることを知ったのもである。

 

「着任おめでとうというべきか。それとも久しぶ……」

「はじめまして。私、セカンド・ビクトリアです」

 クローンか、それとも記憶洗浄か。

 

どちらにせよ、彼女を有意義に使い潰すには必要な処置だと判断できてしまった。

そう考える事ができた時点で、やはり私も外道どもの仲間なのだろう。そしてクローンは兵士どころか住民にも多数いる。先端技術に関わる場所では必須なのだから仕方あるまい。

 

コレを許容する世界なぞロクな物ではない。




 という訳で原作シーズンに突入です。
ガンパレの本編、皇国の龍州編、ヘルシングの序盤くらいの辺りでしょうか。

二週間ほど彼らが学校で授業している間に、志願して望んで兵隊やってる人たちは戦争することになります。逃げ出すような奴は新城さんもターニャも絶対に許さないので諦めましょう。

●塹壕戦術と遊撃隊
 原作では芝村から戦場を渡り歩く権利をもらった5121ですが、ここでは理論的に保障されています。また塹壕戦も榊ガンパレで導入されるのですが、この話では普通に現段階から実行しております。

●人物紹介
『新城直衛少佐』
 九州総軍に所属する遊撃隊を率いる。
八代残余を再編し、比較的にまともな歩兵を中心に増強大隊を構成している。

『ターニャ・フォン・デグレチャフ万翼長』
 参謀教育課程に入ったので学徒兵扱いになった。この段階ではまだ大尉相当で、参謀枠ではあるが、増強大隊の人型戦車小隊と威力捜索小隊からなる中隊を率いる。
後に塹壕戦の教導を持って上級万翼長になることが約束されており、それは同時に、学徒兵の星として偶像化される事になる。

『セカンド・ビクトリア・サモトラケ・ニケ』
 と書くとヴィーシャの名前っぽくないですか?
もっともアニメ版とOVA版で微妙に人格とこだわりの違う、どこかの婦警さんの方をオマージュしているわけですが。
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