渡り歩く者   作:愛すべからざる光

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第十三話

夜になり家の研究室に閉じ籠っていた蒼士はCADなど魔法の開発に勤しんでいた。多少の疲労を感じ、休憩している時にほのか、雫、エイミィから連絡が来た。

 

四人でグループでの会話をすることになったが、急に女性陣三人は蒼士に謝ってきたのだ。理由を察している蒼士は無事で良かったことを伝えて、再び感謝されることに。

 

三人とも蒼士の忠告も聞かずに危ないことに首を突っ込んでしまったことに非常に後悔しており、蒼士の部下である鴉羽に助けられたことを伝える。

 

今度からちゃんと自分や周りの人に相談することを、蒼士が伝えると分かったようで反省しているようだったので、暗い話から明るい話に切り替えることに。とりあえず今の一科生の勉強している部分などを聞いて話を逸らすことにした蒼士の策は上手くいく。

 

切り替えが速く、明るい性格のエイミィが元気になるのをきっかけにほのかも雫も暗い雰囲気からいつもの機嫌に戻ったおかげで、楽しい会話できるようになって、長電話をすることになった。

 

「(そういえば松が助けを呼んでいたけど、なんだったんだろう?)」

 

三人との会話を楽しみながら蒼士は部下からの連絡を受けていたことを思い出していた。修繕費がヤバいですよー、と叫んで電話が切れ、すぐ後になんでもないですよー、と棒読みの松の声を聞いて、とりあえず心配ないかと区切ったことを思い出していたのだ。

 

蒼士が一人で住んでいる場所は大きな一軒家であるが、実際には大きな豪邸を所有しており、そこに住んでいたが学業に集中するために一軒家を購入していたのだ。心配性の何人かの部下は毎日訪れて使用人のような仕事をしてくれていたり、掃除や洗濯なども蒼士に気づかれないようにしてくれているがモロバレであったりする。

 

本邸の方では部下たちも住んでおり、鴉羽や松が住んでいるのはこちらであり、松が伝えようとしたのは、とある人物たちの死闘で修練場が半壊しかけたことなのだが、近くにいた大満足中の鴉羽に脅されて伝えられなかったのが真実であった。

 

そんなことを知らない蒼士は美少女三人と楽しく会話していたのだった。

 

 

 

 

蒼士が所属するE組は魔法実習中であった。

 

「蒼士さん、お疲れ様です」

 

壁際に寄り掛かりながら休む蒼士に美月が労いの言葉を掛けてきた。蒼士は実習課題を一番最初にクリアしていたので他の生徒にコツを教えていたのだ。

 

一般的な魔法処理の仕方など起動式の立ち上げ、起動式の取り込み、魔法式の構築、魔法発動などの意識を少しだけ変えさせていた。魔法の発動速度は血統や才能で決まってしまう所もあるが、少しの意識の改革だけで多少の変化があることを蒼士は研究中に理解していた。

 

男女問わずに蒼士の話を聞いて、もう一度やってみると確かに少しだが、速くなっていることに驚いて課題をクリアしていく人が多く出てきたのだ。

 

「俺は何にもしてないよ、ただのアドバイスだよ」

 

「いえ、私は凄いと思いました、魔法の見方や魔法への意識の仕方なんて、考えたことがありませんでしたよ」

 

尊敬の目を向ける美月に笑顔でお礼を言って応える蒼士。

 

「でも理解してない人はいるみたいだよ」

 

「エリカちゃんとレオくんですね」

 

あの二人は感覚派だからな、と内心で二人のことを思う蒼士。頭で考えるよりも体を動かすタイプの二人だからな、と思いながらエリカはまだ頭を使うかと認識を改めた。

 

「でも達也さんも苦戦しているのは意外でした」

 

「ん、なんでだい?」

 

美月が口にした言葉に思わず反応していた蒼士。

 

「一旦構築しかけていた魔法式を破棄していて、最初の試技の時には起動式の読み込みと魔法式の構築が並行していて、この程度の魔法なら起動式なしで直接魔法式を構築できるんじゃないか、と思いまして」

 

美月の言ったことは正しかった。珍しく驚いてしまう出来事に蒼士も冷静ではなく、『目』で見ただけでそこまで分かってしまうのかと驚愕していた。

 

霊子放射光過敏症(りょうしほうしゃこうかびんしょう)とは、意識して霊子放射光を見えないことにすることができない知覚制御不完全症である。俗称は『見え過ぎ病』とも。

 

霊子という超心理現象の次元に属する非物質粒子で、この存在は確認されているが正体については解明されていない。そんな粒子の活性化によって生じる光を過剰な反応を示してしまうのが、霊子放射光過敏症という。

 

「凄いな、そこまで分かってしまうとはね、良い目をしているね」

 

美月は目のことを言われて、顔がサッと蒼褪めていたが、蒼士はそんな彼女に近づいて言う。

 

「達也はそれを知られたくないみたいだから、内緒でね」

 

美月の性格から言いふらすような子ではないことは知っているが一応釘を刺しておくことにした蒼士。

 

「は、はい、誰にも言うつもりはありません」

 

「うん、俺も友達として達也の秘密を守ってあげたいからさ」

 

美月の言葉に満足気に笑顔でいる蒼士。美月も吊られて微笑んでいる。二人が笑顔でいる間に達也は課題をクリアしていた。

 

「やっぱり美月もその目で困っていたりするんでしょう?」

 

「はい、元々この目をコントロールするために魔法を勉強しているだけで」

 

人が少ない場所でならメガネを外していてもそこまで辛くないようだが、人が多い場所だとかなり辛い、と美月から話を聞いていた蒼士は一つの提案を出す。

 

「じゃあ、ウチの会社の研究に協力して欲しい」

 

「え、蒼士さんの会社というとHSA社ですよね」

 

美月も蒼士が社長であることを知る一人であるから当然知っていた。

 

「そうそう、ウチの研究者に霊子放射光過敏症に興味を示している人物が居て、だから協力をして欲しいんだよね」

 

蒼士の話す内容を真剣に聞いている美月の表情からは既に答えは出ていると言いたげであった。

 

「はい、それは当然協力します」

 

彼女にしては珍しく興奮しており、普段は見せない積極的で蒼士の手を掴んで瞳を輝かせていた。

 

「こちらから協力をお願いしているわけだから、お金も出すし、美月の身に危険なことは及ばないように配慮する」

 

「そ、そんな、お金なんて要りませんよ、私の意思で協力したいんですから」

 

蒼士の目を見て話す美月はいつにも増して興奮して、気合いが入っていた。それも生まれてからずっと目で苦しんでいたのだから、制御できるかもしれないという希望が出て来たら(すが)りたくもなる。

 

「ちょっと、美月。なにエキサイトしてるの?」

 

蒼士の手を美月が両手で握り、目と目が合って見つめ合う二人は目立っていた。さりげなく声を掛けてきたエリカが割り込まなければ、まだ続いていただろう。

 

「はぅっ!?」

 

ようやく気がついた美月は顔を赤くして俯いた。

 

「美月って可愛いね、話はまた連絡するからよろしくね」

 

そんな彼女の慌てように思わず言葉を述べた蒼士であった。頭を優しく撫でてるとさらに耳まで赤くなってしまった美月。

 

「蒼士くん! 女の子に気安く触らないのっ!」

 

美月が機能停止して動けないのを見て、エリカが止めに入る。

 

「エリカも撫でてあげようか?」

 

「いらないよ、それよりも課題見てよ!」

 

美月から離れさせるようにエリカが腕を絡めてきて蒼士を連れていく。エリカと組んでいたレオも待ってました、と蒼士が来てくれたことに感謝していたようだ。

 

「美月、ちょっと座って休んだ方がいいぞ」

 

達也がまだ顔を赤くしている美月に言葉を掛けているのだった。

 

蒼士のアドバイスのおかげで誰も居残りせずに昼食に行けたので、クラスメイト達から感謝される蒼士。

 

 

 

 

昼食は生徒会室で取らずに屋上で取ることにした。いつものメンバーでお弁当がない人は買ってきたもので食事をしていた。

 

弁当組は蒼士、達也、深雪、ほのか、雫、エイミィであり、エリカ、美月、レオは買ってきたものを食べていた。ほのか、雫、エイミィは昨晩の電話している時に話していたので弁当の用意をさせていたのだ。食堂ではなく屋上で食べようと誘っていたのだ。

 

蒼士の予想通りほのかと雫とエイミィに会った時には直接謝られたが、もう気にしていなかった蒼士はすぐに話を切り上げていた。昨日の時点で謝罪は受け取っていたから。

 

エイミィは初めて会うE組の達也、エリカ、美月、レオに自己紹介して、すぐに仲良くなっていた。明るい性格のエイミィはエリカと相性が良く、すぐに連絡先を交換して仲良しになっていた。

 

「蒼士さんの料理ってどれも美味しそうですね」

 

深雪は前にも蒼士の弁当を見ているが相変わらず美味しそうな見た目をしているのを褒めていた。勿論、味が美味しいのも知っている。

 

「食べる?」

 

遠慮しなくていいよ、と蒼士が言うとそれぞれ食べたいものを食べていく。

 

流石に人数が多いので蒼士が食べる量が減ってしまうのを気にしているほのかや雫であったが気にしないで、という蒼士の一言で食べることに。

 

「なにこれ!? 美味しすぎ!」

 

「ほんと、美味しすぎるよ、蒼士くん!」

 

エリカとエイミィが絶賛しており、蒼士の背中を叩いて褒める。他の面々も美味しいと賞賛の嵐であった。

 

「何年も趣味で料理していたらいつの間にか上手になっていてね、料理は自慢できる自信がある」

 

自分の料理を食べて味に満足しながら食べ進めていく。

 

「でも蒼士さんって何事も難なくこなしていくから苦手なこととか無さそうだよね」

 

雫の言葉に全員頷いてしまっていた。勉強も魔法も並の人以上、一人暮らしをしているせいか家事全般も卒なくこなしている。

 

「苦手なものならあったな、昔だけど」

 

完璧超人に思えた蒼士にも過去形だが、苦手なものがあったことに一同驚いていた。

 

「是非とも知りたいな」

 

達也が興味津々に聞いてきた。蒼士の苦手なものには非常に興味があったようだ。他の面々もそのようだが。

 

「空を見るのが苦手だったんだ」

 

「あぁ、分かるかも、なんか空を見てると身体ごと空中に投げ出されるというか、引き込まれるというか、浮遊感を感じる時があるんだよね」

 

エリカが蒼士の言ったことに同調した。蒼士もその通りだと頷いている。他の人達もあったことがある者もいれば、分からないなという人たちもいた。

 

「苦手だったのは昔だからね、今は全然大丈夫だよ」

 

微笑んでいる蒼士に思わず周りも笑みが溢れる。

 

「克服したのも空の向こうにある宇宙に行ってみたいと思ったからなんだ」

 

空を見上げて述べる蒼士の姿に思わず聞き入ってしまう一同。彼が語る言葉に引き込まれている感覚を感じていた。

 

「無限に見え広がる宇宙、先が見えない恐怖もあるけど、未知との遭遇、未知の大発見があるかもしれない、だから宇宙に行ってみたいって思ったんだよね」

 

壮大なことを言っているようにも思えるがこのことを言っている蒼士なら有言実行できそうな気がする一同。確証もないんだか、この人なら出来そうという雰囲気を感じていたようだ。

 

「だから、ウチの会社がさっそく衛星を打ち上げたでしょう? ニュースになっていたはずだけど?」

 

今日のニュースやSMSなどで話題になっていたことを思い出していた一同は、このことだったのか、と思い知る。

 

「蒼士さんは夢に向かってもう行動していたんですね!」

 

興奮した面持ちでほのかが述べた。同じ年齢で学生の蒼士が夢に向かって歩んでいることに感動しているほのかだった。他の面々も驚愕と感心と感動を実感していたようだ。

 

「宇宙に気軽に行けるようになったら面白そうだな」

 

「アンタはお気楽ね、全く」

 

レオの言葉にエリカが呆れたように応えていた。エリカの言葉にレオが反応して言い合いなっていた。

 

「ウチの会社の衛星がやっと一つ活動し始めたから、これからもっと打ち上げる予定だからね」

 

今までは買収した衛星などを使用していたが、HSA社の記念すべき第一号は無事に打ち上げが成功して稼働しているのだ。

 

「今度の打ち上げの時にみんなで見学しに行こうか?」

 

蒼士のこの誘いにエリカとエイミィが一番に反応していたり、全員ノリノリで賛成していた。普通はテレビなどで見るのだが、直接見るのはそれだけでも貴重な体験である。

 

「ほら、早く食べないとお昼終わっちゃうよ」

 

話に夢中になっていたせいか昼食の時間が結構経っていたので食べ始める一同は蒼士の意外な一面を知れて良かったと思えていた。

 




インターステラという映画を見た影響である。

次の更新は明日です。

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