E組での蒼士は課題が出ると教えて欲しいとクラスメイトが殺到して忙しい思いをしていた。今はもう一人の生徒と一緒に教えることが多くなり、分散する事ができ、非常に助かっていた。
達也も教える側に入れる知識を持っているんだが、遠慮して断っていた。
「
「うん、こっちも課題終わりそうだよ」
卓上端末オンラインの授業での半分で課題が出てしまったので質問してくる生徒を相手に振り返るように授業内容を簡単に説明していた蒼士。授業内よりも分かりやすいということで教卓に出て、自分の端末を接続して全員に見えるように表示しながら説明している。
課題に重要な部分や補足を入れて説明し終わると半分以上は課題をやり始めており、一部は蒼士と
神童と呼ばれるほどの実力を有していたが事故により魔法力を損なった状態で第一高校の入試を受けた為に実技試験の方では力を出せずに今の二科生でE組に所属していた。
最初の頃は焦っていたのかピリピリした雰囲気を漂わせていたのでクラスメイトから警戒されおり、浮いていた存在だったが、蒼士が話しかけたことにより落ち着き、周りにも目を向けられるようになっていた。だが、胸の内には焦りを秘め、隠せずにいるために何かあればまた同じ状態になるだろうと蒼士は心配していた。
幹比古も蒼士と話している時やクラスメイトと触れ合っている時などは焦りを忘れられていいな、と感じているので自分の知識が役に立つなら、と蒼士と共に一緒に教えている。
「ミキ、此処が分からないんだけどー」
「エリカ、僕の名前は幹比古だ!」
蒼士の心配していることを察していたのは幹比古の幼馴染であるエリカであった。クラスが一緒になってから気にしていたようで、焦って浮いている幼馴染を見ていられず、相談したのが蒼士であり、昔のように気軽に呼んで揶揄えるような関係になれて蒼士に感謝していた。
「幹比古、こっちも頼むわ」
「ちょっと待って、レオ」
レオも貢献してくれていたが、本人にそういった意識は全くなかったようだ。
「蒼士さん、ちょっと聞いてもいいですか」
美月に呼ばれた蒼士は彼女に近づきながらエリカに揶揄われ、言い合う幹比古を見て、微笑んでいた。
「お節介だな、相変わらず」
「なんのことだい、達也」
幼馴染同士はやっぱり仲良くなくっちゃね、と思っていたことを達也に見抜かれて誤魔化す蒼士であった。
・
・
・
放課後になってクラブに行く人、友達とお店を誘って何処かに行こうとする人、図書館などで勉強する人、各々が自由に動き始める。
「(七草、十文字の工作の方はほぼ予定通り)」
個人情報端末に部下からの報告を受け取り、読んでいた蒼士は満足している一方で、全権を預けたんだからこまめに報告しなくていいのに、と部下の負担が増えていないか心配していた。
全権を委譲された人物もきっちりと『報・連・相』が出来る人であり、彼の部下たちも優秀だったので蒼士が心配するほどのことにはなっていないようだ。
表の顔は社長の代理となって社内でも代理と認知されているが、世間的には彼が社長だということにされてしまっている。取材やマスコミなどの対応も社長代理と答えていたりする。社長である蒼士の方針で隠さなくてもいい、という意見が出ているが彼も含め取締役たちでの間で意図的に拡散しないようにしていた。その事に蒼士も気付いているがあえて何も言わないし、問い質したりしてはいない。
「ねぇ、蒼士くん、一緒に帰らない? 美月やレオや達也くんもいるよ」
エリカが帰りの誘いをしてきたので蒼士は了承して一緒に帰るつもりであった。だが、それは出来なくなった。
ハウリング寸前の大声がスピーカーから飛び出してきたのだ。思わず耳を抑えてしまう者もいるほどであった。
スピーカーから聴こえてくる内容から明らかにブランシュに操られている面子だと判断できたというか蒼士は知っていた。一科生と二科生の差別撤廃、待遇改善などの要求に対してE組のクラスメイトたちは困惑顔であった。差別は些かあるかもしれないが、待遇改善は別にいらない、という面持ちであった。他の二科生のクラスでも過激なこの行動に困惑している者が多かったようだ。
有志同盟と聞いて改めて鼻で笑ってしまった蒼士。
「有志同盟ね、とりあえず放送室に行こうか、達也」
「あぁ、そうだな」
エリカたちに一緒に帰れないことを告げてから蒼士と達也は放送室に向かう。途中で深雪と合流し、携帯端末の方に連絡が来ているのを確認して三人で向かうのであった。
「これは、ブランシュの仕業でしょうか?」
「そうだよ、深雪の言う通りブランシュの意思が働いているよ」
「蒼士は知っているような口振りだが、何故止めないんだ」
「一高生徒に被害を出さないためだよ、犠牲者が一高から出たらマスコミが黙ってはいないだろうし、そしたら平穏な学校生活を送れなくなる。何よりも生徒同士の口論は生徒同士で解決した方が締めはいい」
「ですが、もしも武力に訴えてきたらどうします?」
「その前に此方の実行部隊が動くから平気かな、多少の誤差はあるかもしれないけどね」
「じゃあ前に見せてもらった計画通り進んでいるのか?」
「あぁ、ブランシュの拠点が潰されているから焦っているんだろうね」
「そっちに気を取られて一高への工作に割く時間と人手が減っていて、ブランシュの方でも揉めているのか」
「そう、だから達也や深雪への被害はこういう迷惑行為だけになるかな」
「蒼士くん、それはそれで嫌なんですが」
「深雪と同意見だ、血を流すような行いがないのは良い事だと思うが」
「二人とも一高の生徒なんだから手伝ってくれよ」
達也と深雪は元々自分たちから協力をお願いした経緯があったので問題なく協力するつもりであった。
・
・
・
放送室前には、既に摩利と克人と鈴音がおり、風紀委員と部活連の実行部隊も揃っていた。タイミングよく全員が揃ったようなので鈴音や摩利から現状報告をされる。
放送室の扉は閉鎖され、立てこもり犯たちは鍵をマスターキーごと手に入れているという報告を聞いてその場がざわつく。明らかな犯罪行為であるからだ。
鈴音は慎重に動く事を薦め、摩利は多少強引でも短時間の解決を薦め、方針が対立して膠着していた。その中で一人だけ二人の討論に耳を貸さずに放送室の扉の端末前にいる蒼士。
「梓條、お前は何をやっているんだ」
周りを見ていた克人は蒼士が一人だけ行動していたことに気付く。その声に摩利も鈴音も反応しており、その場にいた全員が蒼士に視線を向けていた。
「あ、もう開きますよ」
はぁ? と声を上げたのは誰か分からないが全員が思っていたことは確かであった。
「あと俺がタッチするだけ開きますよ、この扉」
自分の端末をその場にいる全員に見せて説明する蒼士。彼は黙ってハッキングしていたのだ
「このぐらいのならハッキングは簡単でしたよ、もっと網膜スキャンや指紋認証の方がセキュリティ的にはいいと思いますが」
「学校でそれほどの警備システムがいるところは限られますし、放送室には必要はないですよ」
「市原!? そこを注意するのか!? もっと他の部分があるだろう」
蒼士の行動に驚いていたものの冷静な鈴音は言葉を返していた。彼ならそのぐらい普通にやってしまうだろうと思っていたようだ。
摩利は『ハッキング』という単語に反応していた。学校の設備に侵入して短時間で解決させてしまったのだから。
「それと、これは光系統魔法の応用と科学技術の投影です」
蒼士は端末を弄りながら扉に魔法を使用して投影して放送室内の現状を映していた。熱源だけではあるが中には五人がいるということが分かった。
「君はつくづく有能だな」
「褒めても何も出ませんよ」
摩利が蒼士を褒めるも特に反応もなくつまらなそうにしていた。
「これだけ情報が揃ったので、突入してもよろしいのでは? 放送室内は既にハッキング済みですから操作もできないので」
蒼士の言葉に慎重派だった鈴音も突入に賛成することに。突入前には放送室内の機材を少しだけ操作し、混乱させてからの突入になるようにアシストするとも説明する蒼士。
克人、摩利、鈴音の意見が一致したので突入を開始した。ロックしていた筈の扉が急に開き、放送室内の機材が弄っていないのに反応するなどの混乱であっさり突入部隊に捕縛されることになった有志同盟。
捕縛された有志同盟の中には紗耶香もおり、達也や蒼士のことを睨みつけていたが、そんなことを気にする二人ではなかった。覚悟もなく、悪いことをしているという意識もなく、踊らされている存在に興味はないからだ。
「ごめんなさい、彼らを放してあげてもらえないかしら」
捕縛され連行される有志同盟のメンバーを止める人物が現れた。生徒会長の七草真由美であった。
真由美は今回の件についての措置は生徒会が委ねるということを報告する。先生たちには真由美が説明していたのでこの場にいなかったのだ。
有志同盟の面々に現在置かれいる立場などをさりげなく説明する真由美に対してまるで反省していない有志同盟メンバー。五人の中でリーダー的な行動を担っていた紗耶香に真由美はこれからの交渉に関する打合せを提案して紗耶香は承諾していた。
この件は一時保留で済ますことになり、捕縛されていた有志メンバーは解放されることに。不満を残す者もいるが生徒会長、部活連会頭、風紀委員長が三巨頭が納得していたのでそれに従うしかなかった。
「蒼士くんは議事録を取って欲しいからこの後も手伝ってね」
真由美と紗耶香は打合せの為に移動するようだったが、真由美の一言で蒼士が手伝うことに。蒼士自身も不満はなく、寧ろ真由美、克人などには手伝って貰っているので協力は惜しまない。
「壬生さんもいいかしら」
「……はい、構いません」
真由美が紗耶香に確認を取ると多少の間があったが了承してくれた。
「事後処理を手伝えなくてすいません、市原先輩」
「構いませんよ、それよりも会長の相手をお願いします」
「あぁ、俺と市原でやっておくから気にするな」
鈴音と克人から気にしなくていい、と言われたので真由美たちの方に移動する蒼士。真由美は全員に帰っていいと発言して解散を指示した。達也と深雪もそれに従い、帰って行った。
真由美と紗耶香の話し合いの末に生徒会と有志同盟の公開討論会が決まった。有志同盟は承諾しており、生徒会からは生徒会長である真由美が一人で参加することに。
その場にいた蒼士は自分も参加しましょうか、と聞いてみたが真由美の方から遠慮していたのだ。打合せする必要がないのと複数人だと何処かに綻びが出てしまい、そこに付け込まれてしまうのではという考慮があったのだ。
・
・
・
「ごめんなさい、遅くまで付き合わせちゃって」
「気にしなくていいですよ、真由美には七草家との連絡役として協力して貰ってますし、これぐらいの手伝いならいつでもやりますよ」
「うん、ありがとう、でも七草家のためだけなの?」
「いえ、そちらは建前で真由美のような美少女と一緒に居たいのが本音です」
「もう、蒼士くんは相変わらず嬉しいことを言ってくれるのね」
「やっぱり真由美には笑顔が似合いますね。では、このあと予定が無ければウチで料理でも食べて行きませんか?」
「え、蒼士くんの家、ん、うん、予定は無いから行くわ、行きたいわ!」
「では、決定で。一応護衛の方にも連絡を入れておいて下さい。自分が真由美を誘拐したと思われたくないので」
「そ、そんなことにはならないわよ、連絡しとくわね(蒼士くんにならイイかも…)」
「ほらほら、また顔を真っ赤にさせて可愛いですね、真由美。家に着くまで手を繋いでもいいですか?」
「うへぇー、可愛いとか言わないでよ、蒼士くんがどうしてもって言うなら手を繋いでもいいわよ」
「強がっていても顔は真っ赤のままですよ、真由美が嫌ならいいです、さぁ、ウチに案内しますよ」
「え、あ、うーん、つ、繋ぎたいです」
「正直なのは良い事ですよ」
「もうー、お姉さんを困らせて楽しいのかしら。それにしても男の人の手は大きいのね、それに暖かいわ」
「恥ずかしながらもちゃんと握ってくれて嬉しいです」
「普通は男の子から握ってくれるんじゃないの?」
「恥ずかしがる真由美を見たかったからあえて受け身に入りました、すいません」
「まったく、蒼士くんったら、このまま手を繋いだままで家まで案内してくれたら許すわよ」
「それは勿論、ちゃんとエスコートしますよ、お嬢様」
人通りが少ない道でお互いに笑顔で会話をして肩が触れ合う距離感で歩む二人は誰がどう見てもカップルにしか見えなかった。
※蒼士と真由美は付き合ってません!(重要)
次の更新は26日土曜日です。