仕事の休みの日に書いているので更新は不安定です。
プロローグ
魔法—それが伝説の産物でなく、現実の技術となってからもうすぐ、一世紀になる世界中の国々が“魔法師”の育成に邁進していた。
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とある一軒家に二人の男女が暮らしている。一人は兄、一人は妹、仲良く暮らしている二人だが、現在は不安そうな表情で誰かを家の中で待っていた。
「お兄様、私は不安です」
ソファに座って隣にいる兄に寄りかかる少女。今にも泣きそうな表情でいる。
彼女は
そんな深雪は兄を世界で一番大切で敬愛し、尊敬し、それを通り越して崇拝の域に至っている。簡単に言えば重度の
「深雪、心配しなくていい、深雪は何があっても俺が守る」
「お兄様……」
深雪の頭を優しく撫でてくる兄にうっとりしながら深雪は兄に体を委ねる。
彼は
「(何が目的なんだ、叔母上……)」
内心で達也も叔母である
四葉 真夜とは世界最強の魔法師の一人と目されて「極東の魔王」「夜の女王」などの異名を持つ。そして日本で最強魔法師家系の十師族の四葉家が現当主。達也と深雪の叔母に当たる人物。そんな人物が寄越す人物とは。
そしてその人物は訪れた。
高級リムジンから降りてきた人物は二人の予想とは違った人物であった。
「やぁやぁ、初めまして」
敵意が瞳に宿った視線をものともせずに声をかけてきて達也と深雪に近づいてきた。歩いてくる彼に敵意を向けているのが徐々に消えていくのを二人は感じている。何故だか理解出来ないが達也は自身が持つ魔法でも理解できていなかった。
彼はとても整った顔立ちをして、肩に届く程の黒髪、青く澄んだ瞳が特徴的な青年。妹の深雪と並んで歩いていたら絵になるな、と達也は思っていた。
「当主様から聞いていると思いますが、
穏やかな雰囲気を纏って人当たりの良さそうな笑顔を浮かべて二人に挨拶してきた人物が叔母の四葉真夜から紹介したかった人物であり、これから二人と共に第一高校に入学するのである。
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「これが上手くいかなくてさぁ、ソフト面では達也に聞いた方が良いって真夜が言ってたから」
「そうだな、このプログラムだと一般的なものよりも倍は効率的だが、ここを変えればもっと良くなるぞ」
達也の隣に座っている蒼士は自身のCADを達也に渡して見てもらっていた。自分自身で一から作った武器を他人に渡して全てを見せていた。
「それか、やっぱりすげえよ達也は、流石はシルバー様だな」
「いや、蒼士も大したものだ、このハードは俺には到底作れない、ソフト面でも俺が考えてなかったプログラムが見つかった、ありがとう」
出会って一時間も経っていないの仲良くなっている蒼士と達也。明らかに警戒していた達也に自分から自身の情報を公開し、CADも見せ、自分が無害だということを証明してみせた。
「深雪もこんなに凄い兄を持って幸せだな」
達也と蒼士が熱く語りながら弄っているのを不満そうに見ていた深雪に気付いていたものの話が止められず放置していた深雪に話を振った。
「はい! それはもう深雪には勿体ないお兄様です!」
不満そうな表情から打って変わって、頬を赤く染めて手を頬に当てて、うっとりしながら体をくねらせている深雪。
「こんな逸材を隠しているとか真夜のヤツは何を考えているんだが……」
「「……」」
真夜の名前が出るだけで雰囲気が変わる二人。
「四葉の闇みたいなのは真夜や執事の葉山さんから聞いたし、二人のことを誰にも言わない」
深雪が入れてくれた紅茶を飲んで息継ぎして新たな話を切り出す。
「さてと俺が誰かは真夜から説明して貰ってはいないと思うから今から説明するけど」
蒼士から会話をしてきた為に二人とも蒼士のことについて聞くのを忘れていたのだ。
家の中に入ってから達也はCADについて、深雪は自分が入れた紅茶を褒められ、敬愛している兄を褒められて、すっかり二人とも本題を忘れていた。
「俺は異世界人だ」
「「……」」
こいつは何を言っているんだ、という表情で蒼士のことを見る達也と深雪。
「こんなこと言っても信じてもらえないけど真実だ」
まだ会って間もないが信用出来る人物だと思え、自分らとも波長が合う気がするのを感じ取っていた。達也はある意味で警戒していた気持ちがいつの間にか消え去っていたことに驚きを禁じ得なかった。
「半年前に急にこの世界に飛ばされて、運悪く四葉家に墜落し、運悪く真夜のベットの上に着地したは良いけど襲いかかるようになって真夜と同士討ちで死にかけたのが真夜との接点」
話した内容に驚きを隠せない達也と深雪。世界最強の魔法師の一人の四葉真夜と相打ちになるほどの実力者ということに、それに何で死にかけてこの場にいるのだということに。
「俺の魔法で俺も真夜も回復して全快になったけど、四葉家全員敵になりかけたけど真夜が止めてくれてどうにかなったわけ」
そのことを思い出したのか、蒼士はソファに背中を預けてぐったりしていた。
「それからは何故か気に入られて四葉でお世話になりながらこの世界について調べて勉強中」
蒼士が言っていることは理解できなくもないが理解したくもない達也と深雪。二人は身を持って四葉の力、脅威を誰よりも知っている。
「改めて言うが、それは本当か?」
達也は蒼士の目を見て聞く。それと同時に彼の表情、動きを同時に見た。
「あぁ、本当だ」
蒼士の言葉に達也は嘘をついていないと確信を持つことが出来た。達也自身の魔法を使わずとも信用できると判断でき、達也だけではない深雪も達也と同じようだ。
「お兄様、私は信じます」
「俺もだ」
二人の言葉に笑顔でありがとう、と応えた蒼士。
「四葉のことは気にせず、これから友達としてよろしくな、達也、深雪」
二人に笑顔で手を差し出して握手を求める。
「こちらこそよろしく、蒼士」
彼の手を握る達也。
「はい、よろしくお願いします、蒼士くん」
達也の次に深雪も彼と握手を。
達也は握手をした時に多少の違和感を感じたが、それよりも自分達の事情を知っている人が身近にでき、不安よりも穏やかな気持ちになっていた。自分に感情というのはない、妹の深雪だけに対して自分は感情が出るというのに。
深雪は純粋に四葉のことを知っていても気にしなく、敬愛する兄に対して尊敬と敬意を払ってくれている蒼士を全面的に信用できると判断できた。
「じゃあ、友達になれたということで今日は俺が夕食を作ってあげよう、これでも腕には自信あり」
蒼士はそういうとキッチンに向かう。
「私もお手伝いします」
深雪もソファから立って掃除の後を追っていく。
初めて訪れた家のはずなのに蒼士は冷蔵庫、調理器具、調味料の場所など的確に分かっていた。
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“調理中”
「動きを見てれば分かるが深雪はかなり料理しているな」
「はい、お兄様のために毎日作っています」
「達也は幸せ者だな、美人な妹に毎日料理を作ってもらえて」
「そんな、私がしたいからしているだけで」
「いやいや、こんなにも完璧な妹がいる達也も鼻が高いだろうね」
「そんなことありませんよ」
「(うっとりしながら体をくねらせてるのに手元はちゃんと動いてるのは凄いな)」
「……でも達也もかなりカッコいい部類に入るし、中学の成績も良かったんだろ?」
「はい、勉学や運動もとても成績が良かったです」
「じゃあモテモテだっ「お兄様が何か?」」
「ちょ、ちょ、み、深雪さん、炒めてるから! 火が、火が消えてまうー」
「私が止めていなければ何人からラブレターを貰ったことですか!」
「深雪さん、ごめんごめん、じゃあモテてなかったんだね、だから落ち着いて冷気を消してくれ」
「蒼士くん! お兄様がモテてないとでも!」
「ちょい待ち、包丁持ってこっちに急に向くなッ! 殺す気かッ! なんだ、このめんどくさい女!」
「おい蒼士、深雪を侮辱するな」
「達也、オメェもかよ!」
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蒼士と深雪が一緒に作った料理を食べた達也は目を見開いて驚いていた。常に冷静沈着な達也をもってしても蒼士の料理、いつも食べている筈の深雪の料理、二人の料理はとても美味しいのだ。
「おっ、それ自信作だからな、美味しいだろう?」
彼の言葉は耳に入っているが達也は箸が止まらず料理に手を出していた。
「はい、とても美味しいです、驚きです」
深雪も箸が止まらないようで笑顔で蒼士に応えた。
「美味しく食べてもらえて嬉しいよ、それにしても深雪の料理も美味しいよ」
「本当ですか、お兄様にしか食べて貰ったことがありませんので嬉しいです」
純粋に美味しい、と褒められて頬を赤く染めて照れる深雪。蒼士と深雪の会話に参加せずご飯をおかわりして箸を進めていく。
「達也……深雪をくれ!」
蒼士の言葉に達也と深雪の箸が止まる。
「やらん!」
一言と箸を蒼士に向ける達也。
「そんな、まだ知り合って一日も経っていないのですよ」
頬に手を当てて照れる深雪。
「って、半分冗談で半分本気だから気にしないでくれ、それにそんなことが知れたら二人の叔母に何をされるか」
苦笑いしながら二人に言う蒼士。頭の中ではその事態になった光景が浮かんで口にできなかった。
「そうだ、急だけど俺の固有魔法についても話しておくよ」
蒼士の言葉に二人は驚く。魔法師にとって自分の魔法を知られるのを嫌う傾向があり、弱点にもなるからだ。
それを教えるということは自分の手の内を明かすということなのだから。
「いいのか?」
達也が確認をとる。
「うん、二人には信用して欲しいし、友達だしね」
蒼士の発言に思わず達也と深雪は顔を見合って笑顔を浮かべる。
達也はとんだお人好しだな、と思い、深雪は友達と呼ばれて嬉しくなっていた。
「俺の魔法は『
蒼士の話を聞いてしまって二人は心底驚いていた。単純に聞いてもとてつもない魔法であり、理解してしまうと恐ろしくも感じてしまう。
「全てとはどのぐらいなんだ?」
達也が質問する。
「全てだよ、相手の感情、魔法技能、身体能力、思考、知識、俺にかかれば全てが丸裸になってしまう、そして魔法師ならその人の魔法も理解し使用できる」
蒼士の言葉にさらに驚く二人。そして最初に会って自己紹介した時に二人は握手したのを思い出した。
「二人の動揺も分かるよ、最初握手した時に達也と深雪については理解していた。達也の『分解』『再生』『
達也は蒼士と握手した時に感じた違和感がようやく理解できた。自分のことを調べられていたからだと。
「あと最近使用できるようになった、とはどういう意味だ」
「この世界に来た当初は前の世界での技術や魔法が上手く使えなくてね、徐々に思い出すというか、脳や体が適してきたおかげで以前の力を使えるようになってきたんだ」
そのせいで真夜から致命傷クラスの魔法を喰らったんだが、と悔しそうな表情で述べた蒼士。だが、すぐに表情を笑顔になって切り替えていた。
「もちろん誰にも口外しないし、それに使い勝手は良いけど余計な情報まで手に入るから」
蒼士の言っていることは理解できている達也であったがあまりにも危険すぎる魔法だと実感出来たからだ。彼と関われば全て筒抜けになってしまい、どんな隠し事もできないということになる。
「二人が真夜を倒そうとしてるのも分かってしまったけど、それをとやかく言うつもりはないし、寧ろ応援したいから」
達也と深雪の最大の秘密がバレていた。そして予想外の発言に戸惑う二人。
「真夜の『
まさかの感謝の言葉に驚く二人。
「あ、あの、叔母様には本当に」
「言うつもりはない、命を賭けてもいい」
「なら私は蒼士さんを信じます」
深雪の言葉に達也は驚愕する。こんなにも簡単に信用していいものか。
「達也は不満があるみたいだし、信用もできないかな?」
「あぁ、まだ会って間もないのにそこまで信用できていない、確かに先程まで会話から信用できる人柄だとは思う」
「お兄様……」
不安そうに達也の方を見る深雪の頭を撫でる達也。
「じゃあこの情報も明かす」
達也に蒼士は名刺を渡した。
受け取った達也は書かれていた内容に驚き、横から深雪も覗いて驚いていた。
「本当か! お前がそうだったのか」
「本当なんですか、蒼士くん」
二人の驚きように満足しながら頷く蒼士。
「これを知ってるのは四葉の一部と達也と深雪と俺の個人的付き合いがある少数だけだ」
蒼士の言葉に達也はある意味で理解できた。
アレが世に出てきたのも蒼士が異世界から来たという時期に合う、そして達也も関わっていることだから。
「とりあえずは信じよう、ただし深雪に何かしたらその時は俺が殺す」
「お兄様!」
「(何かってどちらかという達也と深雪で何かしら起こりそうだけどな)了解した」
二人が納得したおかげでどうにか山場を越えて、ホッとしていた蒼士であったが、達也が空の御茶碗を出してきた。
「蒼士、おかわりだ」
「さっき自分でやってたよね!?」
「お兄様、おかわりなら私がよそいますが」
「いや俺がやるよ、信頼の証としてやらせていただきますよ」
「良きに計らえ」
「もうお兄様ったら」
「なんなの、この兄妹は」
何時も二人だけの食卓であったのが一人増えて三人での食事はとても盛り上がるものになった、と深雪は語る。
「そういえば蒼士くん、どうして叔母様を呼び捨てにしているのですか?」
「うーん、向こうからお願いされてね、名前を呼んでねってね」
「叔母上が」
「名前以外にご当主や四葉さんって呼ぶと魔法をぶっ放してきて不機嫌になるんだよね」
「(あの叔母上がここまで気にいるとは、一体何を考えているのやら、まさか蒼士を四葉家に取り込むのか)」
「(叔母様ってもしかして蒼士くんのこと気になっているのかしら……)」
「四葉家には借りがあるから仲良くしていくつもりだから」
達也と深雪の考えは果たして……