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九校戦メンバーのお披露目という名の発足式が行われる講堂には全校生徒が集まっていた。クラス内でいない者は選抜メンバーに選ばれたことの証なので各クラス騒ついていたりする。
「梓條くんも司波くんも緊張してなさそうだね」
舞台裏では選手たち、作戦スタッフ、技術スタッフがそれぞれのユニフォームを着て、待機している。蒼士も選手用のスポーツジャケットを羽織り、達也も技術スタッフ用のジャケットを羽織っていた。
「そんなことないです、緊張してますよ、
「右に同じく」
達也の答えに蒼士も同意していた。二人に話し掛けていた人物は一つ上の先輩であった。
「なによー、もっとオドオドしてもいいのよ、後輩の二人は生意気ね」
啓の腕に抱きついている人物が声を掛けてきた。舞台裏に入ってからずっと啓の腕に抱きついていたのを目撃しており、そして二人の目の前に来てもその姿勢を崩さずにいる。
「
「右に同じく」
達也の言葉に蒼士は同じく同意していた。そして話し掛けてきた人物も啓と同じく一つ上の先輩であった。
「梓條くんはずっと携帯弄ってるけど何してるのよ」
花音の述べた通り蒼士は先程から携帯を弄り、誰かと連絡を取っていた。
「いえ、もう終わったんで、お気になさらず」
花音に問われるのと同じタイミングで蒼士は携帯端末を閉じていた。
「それにしても相変わらず五十里先輩と千代田先輩はラブラブですね、結婚式は何時なんですか?」
携帯端末の方に意識が向いていたので簡単な返事しかせず、今は二人の会話に意識を集中できるようになった蒼士。いつもの調子でからかい半分の言葉を述べていた。
「し、梓條くん、まだ早いって」
「あ、あたしはいつでもいいわよ、啓」
両想いでありながら常にラブラブな雰囲気を滲み出している啓と花音。頬を赤く染めて見つめ合う二人、そして花音の方から啓に顔を近付けていき、キスをしようとしている。
「馬鹿どもが! 発足式前だろうがッ!」
花音の頭に摩利のチョップが炸裂していた。痛そうにしゃがみ込んでしまった花音に対して啓は心配している。
「仲が良いのはいいけど、場所を考えて欲しいわね、蒼士くんも二人を煽るようなことはしないようにね」
摩利の後ろから真由美が現れ、頬に手を当てて呆れ気味に後輩カップルのことを見ていた。二人を誘導した蒼士にも一言だけ注意している真由美。
「はい、出来るだけやらないようにします」
綺麗な笑みを浮かべる蒼士にまたやるな、と感じ取った真由美と摩利であった。
発足式も始まるので舞台裏の人たちは移動を始めているが蒼士は真由美に声を掛けていた。
「七草先輩、今日一緒に帰りませんか?」
「あら、急にどうしたの?」
真由美は進行役なので舞台袖の場所で待機しているので移動はなかった。全校生徒の前に立つのに緊張している雰囲気もなく、笑みを浮かべて蒼士の誘いを歓迎していたが、すぐに表情が曇った。何か嫌なことを思い出したようだ。
「ごめんなさい、家の用事で今日はすぐに帰らないといけないの」
「そうですか、じゃあまた今度にしますね」
真由美自身は一緒に帰りたかったが、父の弘一から言われていたのでそちらを優先したのだ。七草家の長女として家のことも家族のことも大事にしているので、好意を持つ男の子からの誘いも断ったのだ。
真由美の返事を聞いた蒼士は舞台に移動していた。そんな蒼士の背中を見ながら残念だなぁ、とため息を吐いて残念がる真由美である。蒼士くんからのお誘いだったのに、と内心で呼び出した父に対して愚痴っていたりする。
発足式は時間通りに始まり、つつがなく進んでいた。だが、舞台上の選手、スタッフたちの中でも異様に視線が集中している人たちがいた。
二科生で選手として抜擢された蒼士と同じく二科生で技術スタッフとして異例の抜擢された達也の二人であった。二科生が抜擢されているのを不服に思っている者たちは勿論いるが、その人たちと比べられない人たちが好意的な視線を向けている。特に学年問わず二人と同じ二科生の生徒達からは尊敬の念を禁じ得なかった。
一人一人、選手の紹介が始まり、蒼士が真由美に呼ばれて、一歩前に進み出て一礼する。笑顔の深雪に応えるように蒼士も笑顔を浮かべて、深雪から
歓声に応えるように一礼して手を振る蒼士。舞台にいる全員は思わず苦笑していたり、ため息を吐いていたりと各々が蒼士という人物に期待しているのだ。
技術スタッフの達也も一年生全体や二科生の三年、二年の先輩たちから大きな拍手を多く受けていた。二科生の技術スタッフということで舐めている先輩たちもいるようでブーイングが起こりかけそうな時に蒼士や深雪や真由美が拍手をしてタイミングを逃していたりする。
兄が期待され、舞台で注目されていることに本人以上に喜んでいる深雪はうっとりしながら達也に見惚れていた。その状態の深雪を見た者たち男女問わず総じて顔を赤らめていたようだ。
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「雫、ほのか、蒼士くんは?」
「今日は本社の方に用があるんだって」
「蒼士さん、今日は帰って来れないかもって言ってた」
「そうなのね、じゃあ今日は学校終わりに蒼士くんの家には行かないことにするわ」
「ん、別に蒼士さんはいない時に訓練室を使っても怒らないよ」
「雫の言う通りだよ、寧ろデータが取れて助かってるって」
「雫、ほのか、別に行きたくないわけじゃないのよ、日用品などの買い出しもしたいと思っていたの、だから丁度良くてね」
「そうなんだ、私はてっきり蒼士さんがいないから来ないものだと思った」
「う、うん、私もそう思った」
「ちょっと、まるで私が蒼士くんを目当てで行ってるみたいに言わないで」
「違うの?」
「そうじゃないの?」
「……蒼士くんはとても効率の良い練習メニューを組んでくれますし、お兄様と同じでCADの調整もすぐに出来るので助かっているだけですよ」
「ほんと?」
「本当だよね、深雪?」
「二人が蒼士くんのことを好きなのは知っているわ、邪魔するようなことはしないわよ」
「(って言ってるけど、ほとんど毎日のように蒼士さんの家に来てるんだよね)」
「(深雪は達也さん一筋だもんね、蒼士さんには友達として接しているだけだよね)」
「分かって貰えたかしら、雫、ほのか。それよりも放課後の練習始めましょう」
その後、三人とも閉門時間ギリギリまで学校で練習をしていたようだ。
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蒼士は迎えの車でHSA本社に訪れている。夜に本社から近い場所に用事があるので寄っていたのだ。
本社の人たちには教えていないのでお忍びで訪れていたはずなのだが、車から降りると熱烈歓迎されていた。社員総出とかではなかったが一部の人たちが待機している。
「蒼士様、
メイドの一人が頭を下げながら蒼士に述べていた。メイド達に頭を下げられながら蒼士は本社内に入ろうとしていた。
「蒼士さん、お久しぶりです!」
「ちょっと
蒼士に駆け寄ってきた女性とその女性を追いかけてきた女性の二人が蒼士に目の前まで近寄っていた。
「久しぶりだね、鮮花、フィオレ」
鮮花と呼ばれた女性は蒼士の腕に抱きついて甘えており、蒼士も笑顔で受け入れ仲の良さが伺える。鮮花を止めるようにフィオレと呼ばれた女性は蒼士に謝りながら鮮花を引き剥がそうとしていた。二人とも美沙夜と呼ばれた女性の部下であった。
フィオレと呼ばれた女性は本名はフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアという。彼女も容姿端麗で頭脳明晰でもあり、穏やかで奥ゆかしく、身分に関係なく礼を忘れない人格者である。鮮花とよくいるので彼女とは親友同士で遠慮なく接しているが鮮花が羽目を外した時の責任や苦労を取ることになってしまっている苦労人でもあった。
「フィオレも抱き付きたいなら片腕空いてるからいいぞ」
「え、そ、そんな私如きが
「えー、蒼士さんが良いって言ってるんだからフィオレも抱き付きなよ、こうやってね」
蒼士の言葉に恥ずかしそうにしているフィオレを鮮花が自分の真似をしろと言わんばかりに見せつけていた。鮮花は蒼士の腕に自分の胸を押し当てているのだ。巨乳と言ってもいいぐらいの大きさであり、カーディガンを着ているのだが、胸の部分が服を押し上げていることから大きいのは分かっていた。鮮花の十分すぎる大きさの胸は蒼士の腕に柔らかな感触を伝えている。
「ほらフィオレもやってみなよ」
片目を閉じてウインクする鮮花に対してフィオレは恥ずかしそうに頬を赤く染めながらゆっくりな動きで蒼士の腕に抱き付いていた。フィオレも鮮花に負けないぐらいの巨乳であったので両腕に蒼士は柔らかな感触を感じており、まさに両手に花の状態。
「じゃあ、美沙夜さんの所へ行きましょう」
「そ、そうね、行きましょうか」
一人は元気よく蒼士の腕を引っ張っており、もう一人は恥ずかしそうにしながら蒼士の腕に胸を押し付けながら部屋まで誘導していくのであった。
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部屋の前に着いて入室すると、まず初めに部屋の主人に睨まれて見下された。ソファに座りながら足を組んで瞳の奥の光が消えた真っ黒な瞳で蒼士達のことを見下している。
「その状況は?」
「社員を労うのは社長として当然だろ?」
コイツは何を言っているんだ?といった表情で蒼士のことを見下す彼女は
彼女の名前は
「……
「……否定できません」
蒼士の方が一応上司にもなるのだが、蒼士と美沙夜の関係は対等な間柄であった。美沙夜の方も自身の命を救ってもらった大恩があるので彼に尽くしている経緯がある。
「それで、お忍びで来たのは何故かしら?」
「ちょっと本社の
HSA本社の敷地内には複数の施設があり、七大工房と呼ばれる技術部門が管理している場所があるのだが、その一番奥に厳重に管理されているところが永劫回帰と呼ばれる場所で蒼士を含めて彼に認められた数少ない人しか立ち入れない領域であり、常人では扱えない代物や封印状態の存在が保管されているのだ。
「貴方は早く本来の力を取り戻しなさい、
「分かってるさ、『掌握』の制御と元の力の一部でも取り戻すよ」
フィオレが用意してくれた紅茶を飲みながら蒼士と美沙夜の間での会話は一時的に終わったが、二人揃ってお互いのことを理解しているような会話をしており、それだけで二人の関係の深さが伺えた。鮮花もフィオレもそんな二人の信頼感に何故だか、負けた気がしていた。そんな鮮花は蒼士の腕にさらに強く抱きついて嫉妬心をぶつけていたりする。
久しぶりに会ったので情報交換などをしつつも美沙夜、鮮花、フィオレと会話を楽しむ蒼士。美沙夜の強い口調に鮮花が突っかかるような物言いをするのをフィオレが止めに入ったりと上司と部下の関係を超えて信頼しあっている三人だと蒼士には感じ取れた。
三人と別れた蒼士は一人で七大工房の永劫回帰で予定の時間まで鍛錬をすることに。身体を使用する鍛錬、身体の内に眠っている力の制御と把握、現状の状態で何処までが自分の限界で、どれだけの力を使えるのかを把握していく。
前の世界での技能や力を少しずつ取り戻しつつあるが大半が封印状態であり、一気に解放をすると自身が滅びる危険性と周りを巻き込む危険性を考慮しつつ、慎重になっていたのだ。
予定の時間まで鍛錬をして一部の封印を解き、今まで制御出来ていなかった固有魔法『掌握』の制御に成功していた。掌握魔法のオンとオフが出来るようになり、滅多なことや相手の了承を得ない限り使わないようにすることにした蒼士。
シャワーを浴びて身なりを整えてから約束の人物へ会う為に車で移動する蒼士。相手の方は蒼士が来るとは知らずに待ち合わせ場所にいるようだ。
あとがき
後付け要素に『掌握』魔法を制限を掛けました。
小説を書いていくうちにこの魔法がかなり厄介になってきてしまったのが原因でもありがますが、感想で書かれたように、他者の信頼を失いかねない魔法なので制限することに。
『Fate/Prototype』の登場人物。
・玲瓏館 美沙夜
『Fate/Apocrypha』の登場人物。
・フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア
『空の境界』の登場人物。
・黒桐 鮮花
来週もまだ忙しいので17日土曜日の投稿です。