渡り歩く者   作:愛すべからざる光

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第二十五話

九校戦は何事もなかったように開幕した。昨夜におかしな動きがあったが、そのことを知るのはごく僅かであるために影響はなかった。

 

今は蒼士、達也、深雪、ほのか、雫で真由美のスピード・シューティングを観戦すべく、競技場へ移動していた。

 

「達也、俺ってなんか深雪に嫌われることしたか?」

 

「さぁな、だが、問題はないと思うぞ」

 

「いやいや、俺のこと見ると顔を逸らすんだぞ、これが問題ないとは思えない」

 

「気にしすぎだ、害はないからいいだろう」

 

蒼士と達也は今朝からのおかしな出来事について話していた。途中で深雪、ほのか、雫からお願いされて、席の確保を任され、三人で何か話があったようで離れていた。先に蒼士と達也の二人で一般用の観客席に陣取っている。

 

おかしな出来事とは、開会式のために一高生が集まった時に蒼士は一年女子メンバーに会って挨拶したのだが、ほのかと雫以外の面々が頬を赤くして挨拶してきたのだ。その中でも深雪が頬を赤くさせながらそそくさと挨拶してから兄の達也の元へと行くのを見送った蒼士であったが、それから開会式で並んでいる時も深雪の隣になって、チラチラと蒼士の顔を見てて、目が合うと勢いよく顔を逸らすなどの深雪にしては変な行動が目立っていたのだ。

 

そのことについて兄の達也に聞いてみたのだが、知らないという答えを貰う。なんかしたかな、と頭の中で考えを巡らせている蒼士を面白そうに眺めていた達也。

 

「そういえば昨夜だが、賊が侵入しようとしていたぞ」

 

「部下からの報告で聞いたよ、どうやら一高を妨害したいようだね」

 

「やはり知っていたか、じゃあ俺や幹比古が対処しなくても良かったのか?」

 

「あぁ、でも自分らとは別で国防軍の人が気づいていたから様子見していたところに幹比古や達也が参戦したって流れかな、その賊たちの後続はこちらが始末したんだけどね」

 

蒼士の言葉になるほどな、と納得していた。撤退のための人員がいると思っていたら蒼士が対処していたのかと分かったからだ。

 

「こちらもまだあまり手掛かりを掴んでいないから、相手がどう動くやら」

 

実際にある組織の名前と下部組織の動きなどが部下から報告されているのだが、今の達也には九校戦に集中して欲しいというのもあったので、敢えて口にしなかった。

 

「そうか、そっちは任せる」

 

了解、と返事をする蒼士。そんな蒼士たちに近づいてくる人物たちがいた。

 

「あ、蒼士さん、すいません、席の確保を任せちゃって」

 

「ごめんね、お礼に会場限定のアイスあげるから」

 

ほのかと雫が観戦席を取っていてくれた蒼士と達也にお礼を述べていた。蒼士も達也も特に動いたりしていないので感謝されることではなかったが有難(ありがた)く、雫からアイスを受け取る前に人に呼ばれた。

 

「蒼士くん、少しいいかしら?」

 

ほのかと雫の後ろにいた深雪が蒼士を呼んでいた。席から少し離れて深雪と二人っきりなる蒼士。頬が赤くなったりせず先程とは打って変わっている深雪はいつもの落ち着いた雰囲気の深雪である。

 

「さっきは変な反応ばかりしてごめんなさい、ちょっと恥ずかしいことがあったから」

 

「そっか、深雪にしては珍しく慌てたりしてたから何かあったんだろうな、とは思っていたけど、てっきり嫌われたものだと」

 

声のトーンも普段通りに戻っていた深雪は蒼士と話をしていた。蒼士は知らないが温泉でのことで深雪の中で蒼士の存在が特別な存在になっていたのに気づいてしまい、兄と同等かそれ以上の存在になっていることに戸惑っていたのだ。それを先程まで引きずっていたのだが、ほのかと雫が深雪の気持ちに気づいて何かしらの会話があって、深雪はいつも通りに戻ることができていた。

 

「そ、そんなことはないわ、(むし)ろ––」

 

深雪は思わず口走ろうとした言葉を止めた。言葉を呑み込んだのを自分でも褒めたいぐらいであった。

 

「寧ろ?」

 

歯切れが悪かったので蒼士は深雪に聞いていた。

 

「んっ、お兄様と同じぐらい頼れる人よ」

 

「達也と同じか、それは高く評価してくれて嬉しいな」

 

可愛らしく咳払いして言葉を述べた深雪。動作の一つ一つが魅力的で美しく周りにいた人たちが深雪に見惚れいた。蒼士もその一人であったがすぐに深雪の言葉に答えていた。

 

「ほら、達也の隣の席を取っておいたからそこに座りなよ」

 

蒼士が言った通り達也の隣は空いていた。達也の隣には妹である深雪が座るのが当たり前のように思っていた蒼士はわざわざ席を取っておいたのだ。

 

「ありがとうございます、でも蒼士くんも隣にいてくださいね」

 

深雪が蒼士の手を握って一緒に達也たちがいる席まで歩いていく。深雪の行動に驚く蒼士であったが可愛らしい行動に思わず笑顔を浮かべる蒼士。

 

「深雪からのご指名ですか、それは応えなくちゃね」

 

「そうですよ、私がお誘いしたのですから」

 

いつもの調子に戻っている深雪と笑顔を浮かべ合う蒼士の二人。普段の深雪に戻ってホッとする蒼士に、普段通りに蒼士と接せれるようになったことにホッとする深雪。

 

蒼士と深雪は達也たちと合流するとエリカたちも現れて一緒に観戦することになった。達也、深雪、蒼士、ほのかという順番の上の段にはレオ、幹比古、雫、エリカ、美月のいつものメンバーが揃っている。

 

「いきなり真打(しんうち)登場ね」

 

「毎年優勝候補に名前が出るし、今年も優勝すれば三連覇になるから凄い期待されているしね」

 

エリカと幹比古が述べた。二人が述べたことは一高生なら誰でも思うことであり、真由美はとても期待されているのだ。

 

「七草先輩なら問題ないよ、今回も優勝で決まりだ」

 

蒼士が呟いていたのを全員が聞いていた。誰かに聞かれる前に蒼士はさらに述べる。

 

「コンディションも万全だったし、先輩の知覚魔法『マルチスコープ』とドライアイスの弾丸を撃ち出す魔法『ドライ・ブリザード』の芸術的なまでに磨き上げられた魔法で他を寄せ付けないレベルだからね」

 

蒼士の言葉に達也、深雪、ほのか、雫は頷いていた。蒼士の家での練習で達也も真由美の実力を見たので知っており、深雪、ほのか、雫も実力を目の当たりしている。

 

「あれ、蒼士さん、もしかして会長に会ったんですか?」

 

「うん、始まる前に少しだけね」

 

美月の疑問に蒼士は答えた。達也たちと移動する前に蒼士は真由美に会って会話をした。勿論、応援することも告げたがそれだけではなかった。

 

 

 

 

達也たちと合流する前に真由美と会っていた蒼士。人の気配がない場所に案内されて真由美と二人っきりになっている。

 

「ねぇねぇ、優勝したらご褒美ね」

 

「真由美の実力なら優勝間違いなしだと思うけどいいですよ」

 

真由美のお願いを蒼士は笑顔で了承した。その答えにさらに気合いを入れた真由美はやる気に満ちている。

 

「体調も良さそうですし、真由美の勇姿を見させてもらいますね」

 

「うん、私のこと見ていてね」

 

蒼士にしか見せない真由美の可愛らしい笑顔に蒼士も笑顔で返す。二人っきりというのもあって、真由美は周りを気にせずに蒼士と接しており、蒼士も同じく。

 

「最後に蒼士くんから元気を貰うね?」

 

真由美が笑顔からウインクしたと思ったら蒼士の首に腕を回して抱きつくように引き寄せてから唇を重ねた。真由美からの行動に一瞬だけ驚かされるがすぐに受け入れた蒼士。唇を塞いだまま十秒が過ぎて真由美から唇を離した。

 

「んっ、ねぇ、もう一回いい?」

 

真由美のお願いに今度は蒼士から応えてあげて唇を重ねキスをする。そんな蒼士の行動に嬉しそうにキスをする真由美は彼の行為が嬉しくて気分を良くしている。そんな真由美はさらに蒼士の行動に気分を良くして受け入れていた。蒼士から舌が入ってきてディープなキスになったのを驚きはしたものの、それに応える真由美は舌を絡めていく。同じく十秒ぐらいしてから唇を離すと二人の唇から透明な糸が光っているのが見えた。

 

「ありがとう、これで優勝できるわ」

 

舌をペロッと出して舌舐めずりする真由美は色っぽい表情をしていた。つい最近までこのような行為を想像するだけで赤面していた彼女は蒼士に変えられていた。身も心も。

 

「これから試合だから昂ぶっていたんですか?」

 

「いいえ、私がしたかったからしたのよ、蒼士くんだってちゃんと応えてくれたじゃない、舌を入れてくるなんて」

 

蒼士の家に住み始めてから蒼士へのアプローチが過激になっている真由美。一度経験したことを二度三度も経験すれば慣れや余裕が出てくるものだが、真由美はまさにそれであった。

 

「家に帰ってから覚悟していて下さいね」

 

「私が家まで我慢できないかもしれないけど、うん、楽しみにしているわね」

 

蒼士と短い時間を過ごして元気を貰った真由美は控え室に向かって行く。それを笑顔で見送り、達也たちと合流するために身嗜みを整えてから向かう。

 

 

 

 

真由美が登場した瞬間に観戦席の前列にいた真由美のファンが声を上げて、さらにエルフィン・スナイパーというニックネームにピッタリの近未来映画のヒロインのような雰囲気がさらに盛り上がる要素になっていた。豊かに渦巻く長い髪とヘッドセットと目を保護するゴーグルを掛けて、小銃形態デバイスが相まって、可愛らしさと凛々しさが絶妙にミックスされていた。

 

真由美をネタにした同人誌があることをポツリと呟いてしまった美月は深雪から変な目で見られて、あくまで聞いたことがあるだけであったのにそんな対応されるとは思っていなかったので動揺する美月もいたりした。

 

そんなじゃれあいをしていると試合が始まった。

 

真由美の技量を知っていたほのか、雫は何回見ても高校生のレベルを超えている実力に感服していた。達也はレオやエリカに真由美の魔法を分かりやすく解説して、深雪もそれを聞きながら、流石は十師族の七草だと認識させられた。

 

その中で蒼士は真由美がマルチスコープでこちらを見ているのに気づいて、ちゃんと集中しろよ、と彼女に視線を向けるがマルチスコープの視線が消えることはなく、クレーを撃ち抜いていく。

 

蒼士が言った通り真由美は全てのクレーを撃ち抜き、パーフェクトという圧倒的な実力で勝利した。観客席にいる真由美のファンの人たちが歓声を上げているのに応えるように真由美は手を振っていた。

 

 

 

 

次にバトル・ボードに出場する摩利の観戦に来ていた。一枚のボードに乗って、まともに向かい風を受けるので、選手には相当な体力を消耗する競技である。女子にはつらい競技であるが、この競技にほのかは選ばれているのだ。

 

「ほのか、体調は大丈夫かい?」

 

「問題ありません、蒼士さんに言われた通りに鍛えてきましたので早く私と蒼士さんの成果を見せたいです」

 

ほのかの試合はまだであるが気合は十分(じゅうぶん)のようで早く試合をしたいようだ。蒼士に気にかけてもらったことが嬉しくてニコニコしているほのか。

 

「へぇー、蒼士くんがほのかを鍛えていたの?」

 

「うん、私もほのかに付き合って鍛えてもらったよ」

 

エリカの問いに雫が答えていた。ほのかと常にいる雫も蒼士の家でほのかのトレーニングに付き合いつつも自分の練習をしていた。

 

「二人に合わせたトレーニングだったけど二人とも弱音を吐くことなく、一生懸命やってくれていたね」

 

素直にほのかと雫のことを褒める蒼士に嬉しそうに笑顔を浮かべて照れる二人。自分自身も鍛えられ、好きな人のお世話になりながら一緒にいる時間が増えて二人にとっては全然苦ではなかったようだ。

 

「でもトレーニング後の蒼士さんのマッサージをしてもらうのも楽しみになっていたので全然辛くありませんでしたよ」

 

ほのかの言葉に雫が頷いていた。上機嫌になるほのかと雫の二人に呼応する人物がいた。

 

「あ、アレね、確かに、とても気持ち良かったわね」

 

「マッサージされたまま寝落ちしちゃってたもんね、深雪」

 

頬に手を当てて照れている深雪に雫が一言。雫の名前を呼んで思わず声を上げてしまった深雪は自分の行為が恥ずかしくなって周りからの視線に戸惑っていた。

 

「あれか、確かに、気持ち良かったな。マッサージというのを味わったことがなかったが蒼士のマッサージは相当のものだぞ」

 

えっ、と事情を知らないエリカ、美月、レオ、幹比古は驚いていた。達也も蒼士とトレーニングや組手をして蒼士の家を訪れた時に蒼士にマッサージをしてもらった経験があった。達也本人は遠慮したのだが、妹の深雪から話を聞いて興味が出たのでマッサージを受けたのだ。

 

ほのか、雫、深雪、達也からのベタ褒めの蒼士のマッサージとはいったい、と興味を惹かれて、やって欲しいと四人は思ったようだ。達也の気持ち良かったというコメントに美月だけは違う解釈をして赤面していた。

 

摩利の試合が始まるまで十分に会話をして時間を潰せた一同は試合を観戦することに。真由美と同じで摩利にも熱心なファンがいて、真由美は男性が多かったが、摩利は女性ファンが多かった。

 

試合の結果は一着でゴールして勝利していた。臨機応変に多種多彩な魔法をコントロールして他を寄せ付けなかった。予選だが、圧倒的な強さを見せてくれた。

 

 

 

 

昼食後、午後はスピード・シューティングの準決勝と決勝を観戦することにして、達也だけ一旦、別れて昼食をすることに。

 

達也が昼に用事があるのを今朝聞かされて蒼士と深雪は達也の用事の内容を問われないように配慮し、協力して昼食を取っていた。今いるメンバーの中で達也が軍属の独立魔装大隊の隊員であることを知っているのは蒼士と深雪だけである。

 

「蒼士くんの予想だと七草会長は優勝なんでしょう?」

 

「あぁ、みんなも見たと思うけど驚異的な速度と圧倒的な精度の精密射撃は高校生のレベルを超えている。それに直線だけでなく、ありとあらゆる全方位から撃てる『ドライ・ブリザード』それを可能にして死角がない『マルチスコープ』それ故に『魔弾(まだん)射手(しゃしゅ)』と呼ばれる」

 

蒼士が語っていることを再度聞いても強すぎると感じてしまう一同。接近するにしてもドライ・ブリザードを掻い潜るのが必要、隠れていてもマルチスコープで把握され狙撃されるという完全に詰み状態になってしまう。

 

「じゃあ蒼士くんと七草会長ってどっちが強い?」

 

エリカにとっては単純な疑問を蒼士にぶつけた。だが、聞く人によってはとてもつもなく重要なことになる。

 

「一応、スポーツとしてスピード・シューティングと対人戦形式で模擬戦した結果を聞きたいか?」

 

蒼士が淡々と答えてくれたのにエリカや美月やレオは興味があり、聞きたそうにしている中で幹比古だけは事の重大さに気づいていた。相手は一般人ではない、日本最強の魔法師集団の十師族の七草ということに。

 

「あれ見ていて凄かったね」

 

「うん、二人とも凄かった」

 

「確かに、どちらも凄かったわね」

 

ほのか、雫、深雪は知っていたのでそのことについて思い出していた。

 

「スピード・シューティングでは決着がつかずに引き分けで、対人戦では俺が勝ったよ、流石に強かった」

 

蒼士の言葉に結果を知らない面々は驚いて詳細を知ろうと蒼士に聞く。幹比古は知ってはいけないことを知ってしまって頭を抱えていた。十師族の七草に勝ったってどういうことだよ、と。

 

「スピード・シューティングについては本番で見せるつもりだから秘密で、対人戦に関しては使い慣れてる刀を使用して、ドライ・ブリザードを切り払いながら接近して勝負あり」

 

淡々と述べているがありえないだろうと信じられない面々は目撃している人たちに視線を移すとほのかも雫も深雪も頷いていたので真実だと知ってしまう。

 

「高速のドライ・ブリザードの弾幕を切り払って、私は展開が速くて目で追いきれなかった」

 

「エリカやみんなも見たことあると思うけど、蒼士さんの特殊な歩法『韋駄天(いだてん)』で会長の背後とかに移動したりして翻弄していたんだ、私も目が追いきれなくて後から聞いたんだけどね」

 

「私はぼんやりとだけど見えていたわ、それでもマルチスコープで蒼士くんの動きを捉えて魔法を放つ七草会長は私でも無理だわ」

 

ほのか、雫、深雪から当時のことが語られるのを聞くエリカたち。幹比古も韋駄天を見たときは驚いていたのを思い出して、蒼士なら勝ってもなんか違和感出てこないな、と思い始めていた。

 

「七草先輩は前衛がいればさらに凶悪になるし、それに奥の手も披露してなかったから、実力的には互角だよ」

 

模擬戦とはいえ、十師族の七草真由美に勝ったことに蒼士は謙虚であった。それも互いに本気は出していなかったので訓練程度としか蒼士は思っていなかったが、相手の真由美は蒼士が強いことを見抜いていた。奥の手は隠していたが、その時の真由美は本気に近い気持ちで挑んで、蒼士に敗北していたのだ。死角がない『マルチスコープ』でも捉えているのに対応できない速度で近づいてきて、反応が間に合わなくなって真由美は負けていた。

 

そのことに関して真由美は前々から実力を隠しているのは察していて、負けたことを一切気にしていなかった。寧ろ自分よりも強くて、さらに惚れ直したというポジティブ思考であったのだ。

 

「それと、このことは内緒でね、友達だから特別に教えてやったんだからな」

 

蒼士の言葉にエリカたちは頷いて口外しないことを約束した。というか言える内容でもはないと分かってしまったから。

 

「蒼士くんが強いのは知っているし、勝ったのには驚いたけど、なんか違和感ないわね」

 

「そうだな、なんか説明できないがコイツならありえんじゃね?って思っていたからよ」

 

エリカとレオの言うことに美月と幹比古は頷いていた。

 

「蒼士さんは誰にも負けませんよね」

 

「君が負けるところは、やっぱり想像できないや」

 

美月も幹比古も思ったことを口にしていた。嘘偽りのない本音である。

 

「だから俺も負けるときはあるからな、でもみんなが信じてくれていることは嬉しいよ、ありがとう」

 

純粋に自分のこと信じてくれていることに蒼士は胸に熱いものを感じて嬉しくなり、笑顔でお礼を述べた。そのまま昼食を取りながら午後の真由美の試合まで時間を潰していく。

 

「ねぇ、本格的に私も鍛えてよね、この前の模擬戦は為になったから」

 

「俺も鍛えてくれよ、身体は頑丈な方だからな」

 

エリカ、レオもほのかや雫が鍛えていることを聞いて体育会系の二人は蒼士の家での訓練を望んでいた。

 

「僕にも出来ることがあれば手伝うよ」

 

「私も何かお役に立てることがあれば手伝いますね」

 

幹比古も美月も何かしらの役に立ちたいようで蒼士にお願いしていた。

 

「九校戦が終わってからなら訓練室もフルに使える時間が増えるから歓迎するよ。俺が気づかないこともあるかもしれないから幹比古も美月も協力してくれよ」

 

エリカもレオも蒼士の言葉に喜んでいた。幹比古も美月も頼られていることに頷いて笑顔でいる。ほのかも雫も深雪も付き合うつもりであり、今はいないが達也も蒼士の家の訓練室を使用しているので協力してくれるはず。

 

それぞれ向上心があり、頼れる仲間たちと切磋琢磨していくのは学生の本分である。

 

 

 

 

午後から開始されたスピード・シューティングは圧倒的な実力を誇る真由美が予想通り優勝した。準々決勝から凄い人気であり、会場は満席になっていたのでそれだけ注目されているということが伺える。選手たちにも向けられる視線が増え、期待度が高まって緊張する者もいたのだが、真由美はそれを全く感じさせず実力を発揮した。

 

優勝した真由美は観客に手を振って声援に応えていて、突如、指で銃のような形を作ると観客席にいるとある(・・・)人物にバァン、と銃を撃ったような動作をするというパフォーマンスを見せていた。真由美のパフォーマンスの銃の射線上にいた男性たちは自分かと思ってしまって舞い上がっているのを目撃されている。

 

あざとさがある真由美のパフォーマンスは小悪魔的な彼女にはピッタリだなと蒼士は思いながら真由美のことを見続け、優勝した彼女に拍手を送った。

 

 

 

 

一日目の競技のスピード・シューティングは作戦スタッフの予想通り、女子部門と男子部門で一高が優勝した。

 

夜になり、食事も入浴も終わって、英気を養うばかりの時間であったが、真由美の部屋には真由美、摩利、鈴音、あずさ、深雪が集まっている。あともう一人いるのだが。

 

「女の子に囲まれるのは非常に嬉しいのですが、女の子同士で労いあった方が良かったのでは?」

 

「いいのよ! 蒼士くんは特別なんだから、会長権限と年上権限よ!」

 

ベッドに座っている蒼士の隣には真由美が居て、蒼士にしな垂れ掛かりながら口にしていた。その様子を苦笑いで眺めている摩利とあずさ、鈴音と深雪も面白くなさそうに見ていたが、本日の功労者に免じて我慢しているが気持ち的には嫌な気分であった。

 

「了解、今日は本当にお疲れ様でした、明日も頑張ってくださいね」

 

入浴後に集まっていたのでシャンプーのいい匂いがする真由美の頭を優しく撫でて労う蒼士。

 

「んっ、とにかく優勝おめでとう、真由美」

 

「会長、おめでとうございます」

 

咳払いする摩利と二人イチャつき具合に視線を逸らすあずさの祝福に真由美は笑顔で頷く。蒼士に甘えながら。

 

「ありがとう、摩利も無事、準決勝進出ね」

 

今はジュースで簡単な祝杯を挙げているところだった。

 

九校戦は今のところ予想通りの展開で進んでいるがバトル・ボード男子部門の服部が予選で苦戦していて、今後何があるか分からない状況なので何かしらの対策をした方がいいと話し合おうとしていたが、既に対策済みであった。

 

「服部先輩は明日オフなのでエンジニアの木下先輩が調整に付くようにして、自分が木下先輩の代わりに明日の女子クラウド・ボールの副担当に入ることになりました。担当者の和泉先輩、作戦スタッフの市原先輩に許可はとっていますので問題はないと思いますよ」

 

いつの間に、と驚いていた真由美と摩利。あずさと深雪に関しては蒼士が服部と木下と話をしているところに付き添っていたので事情を知っている。後輩にまで心配されていたことを知って、服部も気持ちを入れ替えて蒼士の提案を聞き入れ、明日は体調管理とCAD調整に専念することを承諾した。

 

「中条先輩と深雪が居てくれたからすんなりと話が進みました」

 

蒼士の付き添いでいたあずさと深雪も蒼士に協力したようだ。

 

「いえ、違いますよ、蒼士くんがほとんど一人で話を纏めてくれたんですよ」

 

「はい、私たちは頷いていただけでした」

 

あずさと深雪の答えは違かった。蒼士の語ったことは服部を説得するのには十分であったが、蒼士だけではなく、あずさと深雪の計三人から説得されたのが後押しになったのだ。

 

「本当に君は優秀だな」

 

「惚れちゃいました?」

 

摩利とのやりとりで揶揄(からか)う蒼士。

 

「馬鹿を言うな! 私にはシュ––」

 

彼氏の名前を言いそうになったのを急に止めた摩利。自分で墓穴を掘るところだったのに気づいて、揶揄(からか)ってくる後輩をどうやって怒ろうか考えていると自分の代わりに動いてくれた人物たちを目撃する。

 

「ちょっと、摩利にまで手を出さないでよね!?」

 

「蒼士くん、彼氏さんがいる女の子に手を出すのはいけないと思います」

 

「いい加減にしてくださいね、蒼士くん」

 

蒼士に好意を持つ女性陣が蒼士に睨みを利かせていたのだ。それと脇腹や太ももを抓り、物理的な痛みを与えている。笑顔を浮かべている真由美と鈴音は謎の威圧感を纏い、深雪に関しては冷気が漂い室温が低下するのを感じる。

 

「すいません、冗談です」

 

冷や汗をかいて苦笑いを浮かべる蒼士、三人の豹変に震えているあずさ、摩利に関しては腹を抱えて爆笑していた。

 

素直に謝ってくれたことに真由美と鈴音は一言だけ注意して普段通りの機嫌になっていたが、深雪はそっぽを向いて不機嫌であり、蒼士や周りの先輩たちの会話でいつもの深雪に戻ってくれた。それからは女子同士の会話に上手く話していく蒼士のおかげで楽しい時間を過ごす。

 

 

 

 

明日も九校戦はあるので解散になるが蒼士は女性陣を部屋に送っていた。ホテルの中とはいえ女の子が部屋の外を出歩く時間帯ではないのもあったからだ。

 

今は深雪だけとなり、一番部屋が遠かったので最後までエスコートをする蒼士。

 

「ごめんなさい、明日から忙しくなるのに、わざわざ送ってもらって早くお休みになりたいですよね?」

 

「気にしないでくれ、まだ休むつもりもなかったしね、それよりも深雪の方が優先(・・)だよ」

 

二人っきりで互いに肩が触れ合いそうな距離であったが絶妙に触れ合っていなかった。そんな二人はいつも通りに接している。今朝の深雪の混乱もなく普段通りになっていた。

 

「そんな、蒼士くんったら、私のことをそこまで考えていて下さったんですね」

 

少々大袈裟かもしれないが両手を頬に当てて、戸惑っている深雪。

 

「達也が深雪のことを任せてくれたんだから、その期待に応えなくちゃね」

 

こういった深雪のエスコートなどの役割は達也が担っていたが真由美の部屋に集合する前に達也は一年男子、女子からCADの調整をお願いされ、技術スタッフとしてそれに応えて、動けなかったので蒼士に深雪のことを任せたのだ。

 

深雪のことに関しては誰よりも大切にしている達也が他人に妹のことを任せたことを蒼士もその場にいた深雪も驚いていた。兄に大切に想われているのを深雪は身を以て知っていたから尚更だった。

 

「それに達也には高校生として楽しんで欲しいのもある。レオやエリカたちのような信頼できる仲間や大切な妹の深雪と思い出に残る高校生活を送って欲しいものだ」

 

「はい、私もそう思います。それには蒼士くんも必要ですから手伝ってくださいね」

 

達也は一年男子、女子のCADを調整してあげたりして、ここ最近では話題の人物になっている。達也の実力を認める一年一科生も多く出てきて信頼を置かれる様になっていた。

 

「勿論だよ、深雪も高校生活を楽しもうね」

 

蒼士は笑顔で述べると隣を歩いている深雪の頭をポンポンと優しく触れていた。自然な流れであったので深雪はただ受け入れるしかなかった。

 

「あっ」

 

自然と声を漏らす深雪。今まで真由美やほのかや雫が撫でられているのは見たことがあったが自分はされたことがなく、ましてや軽く頭を触られただけで胸に暖かみを感じて兄といるような安心感を実感する深雪。

 

「すまん、いつもの癖で」

 

「いえいいんです、それよりもちゃんと撫でてもらってもいいですか?」

 

さっきまで真由美の労いのために撫でていたので無意識に深雪に触れていたことに気づいて蒼士は謝ったが深雪は気にせずにもっと求めていた。

 

深雪の反応に少しだけ面食らったが頬を赤くして可愛い彼女の期待に応えるように頭を優しく撫でる蒼士。自然と蒼士にくっ付いて歩いている深雪。

 

「ねぇ、蒼士くん、私もまだ眠くないから少しだけ話さない?」

 

すぐにでも鼻歌を歌いそうなぐらい上機嫌の深雪は笑顔で蒼士に告げた。上機嫌の深雪の微笑みは誰もが見惚れてしまうぐらい美しく魅力的である。

 

「深雪を寝不足にさせたら俺が達也に何を言われるか」

 

「大丈夫ですよ、私も謝りますから」

 

美少女からのお願いであるが、親友からのお願いを果たすために断腸の思いで止む無く断ろうとするが綺麗な笑顔の深雪の甘い誘いに乗ってしまう。シスコンの達也は深雪には強く出れないことを知っている蒼士は少しだけであるが自室に招待して話すことにした。

 

「話が分かりますね、蒼士くん」

 

蒼士に頭を撫でられて胸がポカポカしている深雪の今の気持ちは少しでも彼の傍にいたいという気持ちであった。

 

兄も大切な存在であるが、蒼士も大切な存在で好意を持っているのを自覚してきた深雪は行動を開始している。ほのかと雫の後ろ盾という強い味方もいるので深雪は動く。




すみません、次回の更新が少し間が空きます。
できるだけ早めに投稿できるようにはしたいと思いますのでよろしくお願いします!
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