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九校戦三日目は男女バトル・ボード、男女アイス・ピラーズ・ブレイクの各決勝が行われる。
蒼士は先輩たちの応援に行っている友人たちとは別行動をしており、ホテルのラウンジで親しくさせてもらっている女性と会う約束をしていたのだった。
「先輩方の応援に行かなくて良かったのかしら?」
「何事もなければ優勝、二位、三位に入れる実力はありますから大丈夫だと思いますよ、それに久し振りに
「あら、私も会いたかったわよ、本当に蒼士くんは嬉しいことを言ってくれるわね」
お互いに席に座り紅茶を飲みながらゆったりしながら会話をしていた。
蒼士が約束していた人物は
「そういえばエンジニアもこなしているんでしょ? 無理してない?」
「大丈夫ですよ、オフの日もありますし、ちゃんと休んでいるので問題ないです」
なら良かったわ、と呟く響子の笑顔に蒼士も笑顔を浮かべてお互いに微笑んでいた。自分のことを心配してくれたことに感謝する蒼士。
「そういえば我が社を調べていたんですね、響子さん」
「んっ、んん、知ってたのね」
響子がティーカップに口をつけた時に蒼士の言葉を聞いてしまった為にむせてしまう。
「部下からの報告で聞きました。サイバー対策には力を入れていますから響子さんでもハッキングできなかったでしょう?」
「はい、ごめんなさい(私も蒼士くんの知り合いじゃなければHSA社の暗部に暗殺されていたのかしら)」
響子が所属する国防陸軍第一〇一旅団・独立魔装大隊の任務だったとはいえ、響子は電子・電波魔法のスペシャリストであったのにも関わらず一切、情報が掴めずに終わり、次の日からこの任務は破棄され、HSA社に触れるな、と上層部から命令されていたのだ。
個人的に調べようとした響子であったが、やはりハッキングできずに逆に三重にもダミーを用意していたのに個人を特定されそうになるという失態を犯していた。そして自宅でHSA社の手の者に暗殺されそうになったが忠告だけされて見逃された経験をしている。
裏社会のハッカー達の間ではHSA社の情報には手を出すな、というのが広まっており、興味本位で腕に自信があるハッカーは挑み、ハッキングできずに、次の日から音信不通になるのが多発しているのため暗黙のルールとして拡散している。
「響子さんが話せる範囲でいいので『
蒼士の話した内容に響子は驚いていなかった。彼の手足となって動くHSA社の存在と彼を崇拝している部下たちの存在を知っているからだ。
響子が話す内容を聞く蒼士は部下から受けた報告の内容と同じであったのを確認して新しい情報を得ることができなかったことに少々残念な気持ちになったが、すぐに切り替える。
「ありがとうございます、再度言いますが我が社には手を出さないでくださいね、部下の暴走があるかもしれないので」
「うん、分かっているわ、私もあんな経験はしたくないもの」
響子は蒼士の言葉を深く受け取っている。顔を青ざめさせて当時のことを思い出してしまっていた。
HSA社を調べていたその日の夜、セキュリティも万全な自宅に帰宅してみるとリビングに気配を一切感じさせずに
軍人である響子はどうにかこの状況を打破しようと魔法を使用するがその前に目にもとまらぬ速さで間合いを詰められ、白仮面の人物は、HSA社について調べるな、と忠告だけして霧のように消えていったのを記憶していた。
響子の中でその出来事はトラウマになるレベルであり、上層部が急に任務を破棄した理由を身を以て知ることになった。ただそれ以上に軍にも容易に指示できる政治的圧力を保有していることが分かってしまった。
響子の雰囲気が変わったのを感じ取った蒼士は話を変えることに。
「ところで、自分の心配をしてくてくれたのはとても嬉しかったですが、響子さんも無理していませんか? 軍の仕事などで?」
「そうね、此処の所は働き詰めになっているわね」
「それはいけませんね。ちゃんと休んでくださいね」
「うーん、ありがとう、そういう言葉を掛けてくれるのは蒼士くんだけよ」
魔装大隊での響子の立場は重要であり、活躍する場面も多く、大隊内では欠かせない役割を担っているためにあちらこちらで仕事を頼まれていたようだ。
「響子さんとはいつまでも付き合っていきたいですから」
「……それって告白かしら?」
急な蒼士の発言に頬を赤く染めて照れている響子。
気になる男の子という印象だったのがお酒の勢いがあったとはいえ、肉体関係を持ってしまって、それから会う度に自分から蒼士を求めてしまい、気になるから、本当の好きになっていたことを自覚してしまった。響子は心の隙間を埋めてくれた好きな男性からの言葉に思わず反応してしまっていたのだ。
「ご想像にお任せします」
「ちょっと、年上を
笑顔で答えて誤魔化す蒼士に響子は年下にいいようにされて可愛らしく怒っていた。
面倒見の良いお姉さんだな、という印象を響子に持っていた蒼士。二人で一緒に出掛けている時に響子が過去に婚約者を亡くしていたのを本人から聞いて、心に傷を負っている女性を放っておけないという自分の性格もあり、響子とプライベートを過ごしたり、肉体関係を持ってしまった経緯がある。
そのことに関して蒼士は一切後悔はしていない。ただ一つだけ気になっていることはあった。
「軍を辞めて我が社に入社してくれると本当に助かるんですけどね」
「……それは考えているわ」
HSA社の社長である蒼士から勧誘を響子は保留にしているのだ。
家や軍の事情もあるのだが、暗殺されかけたという印象が強く一歩を踏み出せずにいる響子。蒼士個人との付き合いは平気なのにHSA社については拒否反応を示している。それだけ響子の中で恐怖の対象になっているようだ。
堅い話はここで終わって、プライベートな話に切り替えた二人。久し振りに会ったので蒼士と話していたい響子の気持ちを汲み取り、次にどこに出掛けたいかなどデートの話になって楽しく会話をする蒼士と響子。
だが、二人の携帯端末に同時に通知が来て、楽しい二人の時間は終わりを告げた。
「すいません、またちゃんとした時間を作りますので」
「私のことは気にしないで、早く行って」
ラウンジから飛び出すように蒼士は響子の元を去る。
「これも『無頭竜』の仕業なのかしら」
蒼士と響子の端末に届いた内容はほとんど同じであった。
––女子バトル・ボード準決勝で事故、一高と七高の選手が接触、フェンスに衝突し負傷。
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蒼士が会場に到着した頃には摩利と七高の選手は医務室に運ばれていた。
達也が同行していたので、蒼士は現場を確認するために移動したが大会委員のスタッフに止められて、現場に近づけず、破損したフェンスの修復作業をしていたので現場の確認ができなかった。摩利と七高選手のCADも大会委員のスタッフに回収されていたのでCADの記録なども見れなかった。
とりあえずは友人たちと合流することにした蒼士は不安にさせないようにいつも通りの態度で過ごしていこうと心掛ける。
案の定、不安な表情を浮かべていたほのかや雫を宥めて、深雪も表情には出ていなかったが右手で左腕を強く掴んで動揺しているのが分かった。
そんな様子を見た蒼士は深雪を落ち着かせようと力がこもっている右手にそっと手を重ねていた。
「達也が向かったんだから大丈夫だよ」
深雪は自分が動揺しているのを改めて認識して、深呼吸して落ち着こうとする。
「ごめんなさい、もう大丈夫よ」
蒼士の手を一瞬だけ握って、すぐに離すといつもの深雪に戻っていた。敬愛する兄が的確に応急措置を指示していたのだから大丈夫だと信じられた。
気持ちも切り替えられて他の先輩方の応援をすることにした一同。
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蒼士は女子バトル・ボードに出場しているもう一人の先輩の元を訪れていた。優勝候補の摩利がいなくなってしまい、バトル・ボードでの彼女への責任という重圧と期待が高まっていたのだ。
「応援に来てくれてありがとう、梓條くん」
「
「君まで私にプレッシャーを与えるのかい?」
「では、楽しんできてください、
「ぷっ、なんだそれは、それと君にはまだ名前で呼んでいいと許可を与えていないが特別に許そう、私は君の先輩だからね」
「ほら、肩の力が抜けたでしょ?」
「……そういえば」
「新人戦に出場する後輩たちも見ているんですから期待させてもらいますね」
「おぉい、緊張が解けたと思ったらまた緊張させるとは何事だ!? おい、梓條、ちょっと待てコラ!?」
蒼士との他愛のない会話でリラックスして試合に挑むことができた小早川は
同級生では居なかった好青年の蒼士に九校戦の練習の間に仲良くなり、小早川を担当している技術スタッフの
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病院に搬送された摩利の付き添いに付いている真由美と連絡して容態などを確認しつつ、達也の部屋に向かっている蒼士。
達也、五十里が中心になって摩利の事故究明にあたっていた。深雪と花音も付き添っているようで幹比古と美月も協力している。
蒼士は大会委員から返却された摩利のCADを持っていた。真由美を経由して調べていいことを摩利から許可されたので、達也に渡そうとしているところであった。
達也たちと合流してから達也と五十里に確認してもらったが異常はなかったことを確認している。もしかしたらあるとすれば七高側のCADの方かもしれない。
達也と五十里が調べた結果、不自然な水面の動きは魔法によるものだと分かり、
この発言にはこの場にいる面々はただ絶句したままだった。蒼士と深雪を除いて。
競技に使用するCADを大会委員に引き渡した時に何かを仕掛けたのだろうと推測し、そして事故後に証拠を回収する。
CADを調べても細工が分からず、どういった手口かが分からないのでいっそ警戒を怠ることはできなくなった。
このことはこの場にいる面々だけが知ることで、口外しないように約束し、克人、真由美、摩利、鈴音にしか報告しないことを決めた。
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三日目の成績は男女アイス・ピラーズ・ブレイクで優勝、男女バトル・ボード二位。総合得点二位の三高はこの逆の成績であったので点差は開かずに余裕を持てる状況であったが新人戦でも何が起こるか分からない。
そのため作戦スタッフは新たな一手を打つために深雪を呼び出し、過保護な保護者の兄の達也もミーティングルームに呼び出していた。
深雪と達也が克人、真由美、鈴音、摩利と会っている時に蒼士はホテルの屋上にいた。蒼士は人と会うために屋上におり、約束の時間より少し早く来て、一人っきりでゆっくりしていた。
摩利とホテルで会った時に頭部に包帯を巻いていたので心配し、声を掛けたが、日常生活には問題ないということで元気そうに振舞っていたのを目撃している。全治一週間のため今年が最後の九校戦に出場できないと知り、悔しいはずなのに人前では気にした様子を悟らせない摩利の芯の強さに感服する蒼士。
お節介かもしれないが彼氏の千葉修次に連絡した蒼士は、既にこちらに向かっているということを聞いて思わず苦笑してしまった。海外出張中なのに大急ぎで彼女の元へ行こうとする修次の行動の速さと行動力に。とりあえず蒼士は摩利には黙っていることにした。
ホテルの屋上に一人でいる蒼士は知っている人物の気配を感じて、振り向くと白仮面を着ける人物が二人いた。見た目からして不審者であるが蒼士はその二人のことを知っている。
「
蒼士の言葉に素直に従う二人は仮面に触ると霧状のものが二人の身を包んで、中の人の正体が明かされた。身長、体格、全ての外見が仮面を着けていた時とは大きく違った人物たちが現れる。
「久し振り、蒼士」
「お久し振りです、蒼士さん」
アカメとリーシャと呼ばれた人物はどちらも女性であり、美人と呼ぶに相応しい容姿をしている。HSA社が開発した隠蔽魔法が組み込まれた仮面で自身の姿を偽っていたのだ。
アカメと呼ばれた女性は、腰まで届く黒髪と赤い瞳が特徴的な美少女。黒い制服のような服の上から黒コートを着ており、腕には赤い籠手を装備し、コートの中には日本刀のような武器を隠し持っている。
リーシャと呼ばれた女性は、綺麗な髪を後ろで結び、物凄い豊満なバストが特徴的な美少女。露出が多い戦闘服だが、服の各所には暗器のような武器が見え隠れしている。
「本当にリーシャまで動いているなんて、表の仕事は大丈夫なのかい?」
「はい、許可はもらっていますし、それに蒼士さんのためなら無理をしてでも動いちゃいます」
胸元で両手を組んで元気に振る舞うリーシャに思わず笑みをこぼす蒼士。
劇団『アルカンシェル』の新人アーティストとして成功し、最近では取材などを受けて知名度をあげているリーシャのことを気にしていた蒼士。本人が表も裏の仕事もこなしてみせると決心しているので本人の意思を尊重して止めずにいる。だが、このことに関してリーシャをアーティストとして鍛えている上司からの苦情を蒼士は直接受け取ったりしている。
「私だって蒼士のためなら無理をしても動くぞ」
リーシャに張り合うようにアカメも蒼士に詰め寄っていた。自分のことを心配してくれている二人の気持ちを嬉しく受け取る蒼士。
「俺のためとはいえ、体は壊すなよ、二人とも」
蒼士は二人を落ち着かせるように軽く頭に触るだけをした。子供のような扱いをされたように感じたが不服ではないような表情を浮かべるアカメとリーシャ。
「クララからの報告は無頭竜とは別件だったけど、何か新しい情報は?」
蒼士の言葉に緩んでいた表情が一瞬で切り替わる二人。実力は折り紙つきの二人は仕事モードになっていた。
二人からの報告では九校戦で賭けを行い、大きな金の動きがあること、横浜から他国の工作員が不法に侵入していること、HSA社にも手を出しつつあるという報告を聞く。
「社長として動くべきかな?」
「いえ、既に手を打っているので問題ない、ということです」
そっか、と呟く蒼士は部下に任せることにした。全幅の信頼を置く部下たちならと納得する蒼士。
「大会委員のスタッフの情報も洗っていますので」
「他国の、大亜連合本国からの無頭竜工作員は私ら暗部が始末している」
リーシャが秘書のように報告に耳を傾け、アカメの報告も聞いていると屋上に上がって来ている人がいることに気づく蒼士。アカメもリーシャも気づいたのか仮面を着けて変装していた。
「じゃ、また報告に来る」
「明日の試合頑張ってください」
アカメとリーシャが蒼士に声を掛けて、結構な高さがあるホテルの屋上から飛び降りて行った。二人の実力は知っていたので心配してなかったが、知らない人が見たら絶叫ものだな、と面白くて苦笑していた蒼士。
「あ、いた、蒼士さん、もう休みましょう」
「そうだよ、明日は本番だよ」
屋上に来たのはほのかと雫であった。
明日から始まる新人戦に出場するのは蒼士、ほのか、雫でもあったのだ。
「そうだね、もういい時間だし、休もうかな」
部下たちが遠ざかっていくのを感じ取りながら先程まで密談していたのを悟らせないように二人を屋上から室内に戻そうとする蒼士。暖かくなってきた季節とはいえ、夜はまだ冷えるので二人が万が一でも体調を崩さないように気をつけての行いである。
「はい、休みましょう!」
「ほのかの言う通りだよ」
両サイドから腕に抱きつかれた蒼士。身体全体で甘えるほのか、腕に抱きついてくっ付くようにしている雫。
「明日は頑張ろうな、ほのか、雫」
明日が本番で緊張しているのかと思っていたら特に緊張した様子もない二人に安心した蒼士は微笑んでいる。
「はい、蒼士さんとの練習の成果を早く発揮したいです」
蒼士の笑みに呼応してほのかも微笑んでいる。
緊張しやすい性格だと自分でも分かっていたほのかであったが蒼士に期待されていると想うだけで緊張が解けていくのを感じ取っていた。本番でもこの気持ちを秘めて実力を発揮すると決心していた。
「うん、蒼士さんもそうだけど、協力してくれた達也さんのためにも勝つ」
出場する選手なのでエンジニアとして蒼士はサポートできないが達也が二人の担当をしてくれている。学校での練習、蒼士の家での練習、作戦の提案、新たな術式開発など達也も多大な貢献をしてくれているのでほのかも雫も期待に応えたいと思っている。
「達也の頑張りを無駄にしないよう頑張ろうな」
蒼士の言葉に笑顔で頷くほのかと雫。
九校戦の練習をして自分自身に身に付いた実力、技術面で優秀すぎる達也のサポートを受け、メンタル面でも蒼士という存在がいるだけで二人には何よりの効果を発揮できる。気持ちの面で負けそうになった時に蒼士を想えばいい、とほのかと雫は心に誓うのであった。
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・
「二人とも部屋に戻らないの?」
「今日は蒼士さんの部屋で寝させてください」
「パジャマも持ってきてるから心配ない」
「あの雫さん、まだ許可をしていないんですが?」
「ダメなんですか?」
「ダメ?」
「どうぞ、お入りなってください」
ガッツポーズをするほのかと雫。
「で、一緒に寝るかい? それとも片方のベッドが空いているから使ってもいいよ」
「勿論、蒼士さんと一緒に寝ます、ねぇ雫」
「そうだよ、熟睡できるのに協力してよ」
「了解、俺にも役得だしね」
蒼士を真ん中にしてほのかと雫が両サイドに抱きつくような寝る体勢になっていた。蒼士の家では日常になっていたことであったが、改めてこの体勢の効果を知ることになる。他愛のない会話して過ごしていると二人とも様子が変わってきた。
「なんだか、眠くなってきました」
「ん、わたしも」
瞼が重くなってきて睡魔が襲ってきている二人に毛布を肩まで掛けてあげて寝かせる蒼士。安心したのか寝始める二人を見届けてから蒼士も眠りについた。
妨害工作があるかもしれないと警戒はするが部下たちを信じて明日の試合に挑むことにする蒼士。
『アカメが斬る』の登場人物。
・アカメ
『零の軌跡・碧の軌跡』の登場人物。
・リーシャ・マオ
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