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九校戦四日目(新人戦一日目)
今日から五日間、一年生のみで勝敗を争う新人戦が行われる。本戦の得点とは違い、二分の一の得点になるがポイント差をつけるのには十分な得点である。またその逆も言えることであり、追いつかれる危険もある。
本日はスピード・シューティング予選・決勝とバトル・ボード予選があり、午前のスピード・シューティング女子には北山雫、明智英美、滝川和美の三名が出場し、達也が技術者として担当する。
午後からはスピード・シューティング男子の試合が行われ、蒼士、森崎などが出場し、ほのかも午後からバトル・ボードで出場する。
一高の応援のために蒼士、深雪、ほのか、エリカ、美月、レオ、幹比古などいつものメンバーが揃っていた。蒼士、深雪、ほのかは途中から合流してエリカたちに席を確保して貰っていた。
「蒼士さん、ほのかさん、準備はいいんですか?」
パンフレットに目を通していた美月が、ふと気づいたことに話し掛けた。
「午後まではまだ時間があるから問題ないかな」
「私も問題ないです、自分でも信じられないぐらい落ち着いていますから」
蒼士の言葉の後に続くほのかも落ち着いていた。蒼士と顔を見合わせ笑顔になると幸せそうな表情で頬を抑えるほのか。
「心配なさそうね」
「リラックスしてますね」
「ここまで緊張していないのも凄いよ」
「ガチガチに緊張するよりかはいいな」
エリカ、美月、幹比古、レオの順に二人ことを見て述べていた。試合まで時間があるが緊張せずに自然体な二人を見ての感想だった。
「……」
その光景を深雪はジッと見ていた。エリカたちの声は聞こえているが反応せずに見ている。
「深雪、まだ今朝のことで怒ってる?」
そんな深雪に気づいたほのかは話し掛けた。明らかにおかしな深雪だったから。
「いえ、もう怒ってないわよ、ただ二人とも本当に仲が良いなと思ってね」
そうかな? と蒼士の方を向いて問い掛けるほのか。
「まぁ、一緒に暮らしてるからね」
ほのかの問いに蒼士が答える。
当然のように述べる蒼士の言葉に納得する深雪。学校だけじゃなく同棲して過ごす内に仲良くなっているというのは九校戦の準備期間中に分かっていた。
「そうですね、蒼士さんの言う通りです。だから深雪、朝の出来事の時に言ったこと考えておいた方がいいよ」
「ッ!?」
ほのかが深雪だけにしか聞こえないように近づき、話を切り出した。ほのかに自分の考えていたことがバレていて、ドキッと動揺を隠せずにほのかのことを見る深雪。
「雫も言ってたよね?」
ニコニコしながら述べるほのかに深雪は今朝の出来事について詳細に思い出してしまっていた。
深雪とほのかがコソコソ話しているのが気になり、エリカが絡んできたのをほのかは笑顔で対処する。そこから雫の今朝の状態の話、エンジニアをしている達也の話、昨夜に深雪がミラージ・バット本戦に出場することになった話で試合が始まるまで過ごすことになった。
その間の深雪は相槌を打つだけで特に大きな反応を示さなかった。兄の達也の話でも。深雪の変化に気づいていたのは蒼士とほのかだけである。
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今朝の深雪は少しだけ早く起床していた。睡眠時間も十分に取り、体調も良く、万全な状態である。
ほのかと雫と一緒に朝食をとろうと思っていた深雪は二人の部屋を訪れるがノックをしても誰もいなかったので兄の達也を誘おうと移動した。
達也と朝食をとりに行こうと思っていたが、一年男子女子のCADの確認を頼まれ、部屋で食事することを聞いて誘えなかった。一年男子の中には森崎もいたが、特に揉めることなくフレンドリーに達也に話し掛けている。
兄が偉大さを認めてくれる人が一人でも多く出てきてくれて嬉しく思う深雪は兄の邪魔にならないように移動した。
深雪は最終的に蒼士の部屋を訪れていた。
部屋の前に来てから何故か緊張していることに気づいた深雪は深呼吸してノックをする。普段通りにしていればいいのに落ち着かない自分の感情を不思議に思いつつも蒼士を待つ。
「おはよう、深雪、どうしたんだい?」
「おはようございます、蒼士くん、一緒に朝食を、と思いまして」
扉が開くと蒼士が出てきて、笑顔で挨拶をしてくれた。それに応える深雪も笑顔を浮かべている。
「おっ、是非とも一緒に行くよ」
蒼士は当然のように了承した。誘いに応じてくれたことにホッとしていた深雪だったが…
「二人とも準備は?」
蒼士と一緒に食事をとることになった深雪であるが蒼士が部屋の中にいる誰かに呼び掛けているのを不自然に思う。一人部屋であった蒼士の部屋に誰かいるのか、と。
––あ、す、少しだけ待ってください。
––ほのか、まだ?
蒼士が開いている扉の隙間から部屋の中にいる声が聞こえ、深雪は知っている声だと分かってしまった。それが先ほど部屋に行ったのにいなかった友人たち声だと。
「蒼士くん、ちょっと失礼しますね」
脳が命令を下す前に身体が動いていた深雪の行動は素早く、扉を開けている蒼士を押し込み、部屋内に簡単に入ってしまった。蒼士は特に止める気もなかったので通した。
「二人とも、何で蒼士くんの部屋で着替えているのかしら? そこのパジャマも気になるわね」
部屋に入って深雪が目にしたのは鏡の前で髪を梳かしているほのかと椅子に座って足をブラブラささている雫である。さらに二人の鞄もあることに気づき、パジャマなども見てしまい、頬を引きつらせている深雪。
「み、み、深雪、ちょっと怖いわよ」
「蒼士さんの部屋に泊まったからだよ」
ほのかは深雪の存在感にビビっていたが雫は正直に答えていた。
その答えを聞いた深雪の反応は魔法の暴走であった。周囲の体温が下がり始め、冷気が深雪の身体の周りを覆いかける。
「落ち着け、深雪」
「……ほのかと雫もですが蒼士くんにはちゃんと話してもらいますよ」
蒼士はとりあえず魔法に事象干渉して冷気を打ち消したが瞳が真っ黒に染まっている深雪に袖を掴まれてしまっていた。普段の家で過ごしている対応をしてしまったことを深雪の前で軽率な行動だったと内心で反省する蒼士。
「深雪、私たちが説明するからその間に蒼士さんには朝食をとってきて貰って、部屋で食事しよう」
深雪の変化に動揺しない雫が提案した。
「そそ、そうだよ、私たちが説明するから蒼士さんにはお願いしよう」
ほのかも動揺しながらも述べた。深雪の嫉妬心は分かっているつもりだったが、間近で見ると深雪の存在感に動揺を隠せない。
「いや二人にだけ任せるわけ「いいでしょう、蒼士くんは私たちの朝食を取って来て下さい」…いやしかしな「い・い・で・す・ね?」…分かりました」
蒼士の言葉に深雪が被せて言葉を捩じ伏せた。なんとも言えない凄味を発する深雪に蒼士は従うことに。蒼士が部屋から出て行くのを見送ると深雪と対面する形でソファに座るほのかと雫。
「ほのか、雫、もしかして蒼士くんの部屋で一晩過ごしたの? もしかして一緒に寝たの?」
深雪の言葉に二人とも頷く。
「蒼士さんの家だとこれが普通だよ」
雫のこの言葉に驚いてしまう深雪。ひとつ屋根の下で暮らしているのは知っているが、まさかそんな仲になっているとは思っていなかったようだ。
「その、もしかして、そ、添い寝?」
この深雪の発言に二人は頷く。発言時に少しだけ頬を赤く染めている深雪。
「うん、蒼士さんとくっ付いていると落ち着いて、ぐっすり眠れるんだよ」
深雪の態度が戻っていたのでほのかも自然に応えられた。さっきまでの嫉妬にも似た雰囲気を纏った状態は消えてくれたようだ。
「蒼士さんは来る者は拒まないから深雪も受け入れてくれるよ」
「ほのかの言う通り、深雪も蒼士さんの家で暮らせばいい、今まで以上に仲良くなれるよ」
ほのかと雫が述べた言葉に思わず深雪は怯んでしまう。二人は自分が蒼士に恋心を抱いているのを気づいているのに恋敵が増えるのは、普通なら嫌なはずなのに何故?という疑問が芽生えた。
「深雪なら私は全然いいよ、私は深雪のこと好きだから」
「うん、私も深雪のこと好きだよ、まだ過ごした時間は短いけど信用できる人だって分かっているから」
深雪の疑問にほのかと雫は述べた。二人の素直な想いを聞いてしまい、照れてしまう深雪。自分と付き合ってくれる友人は何処か遠慮気味の人が多かったのにほのかと雫に関しては、学校でもプライベートでも過ごす時間が多く、遠慮なく接することができる友人、友達だと深雪は思っていたので、それが間違いなかったということを知れて、二人の気持ちが嬉しくて照れてしまう深雪。
「それに蒼士さんは私たちが見ていないとすぐに女の子を口説くし、気が強い弱い女の子関係なく、蒼士さんの前では意味がないんだもん」
「そう、深雪も知っている人いるよ、エリカと美月もきっと好意を抱いている、だから一人でも味方が欲しい」
ほのかと雫の困り顔に思わず笑みをこぼしてしまった深雪。二人は自分たち以外に好意を持つ人を増やさないようにしたいのだと理解し、味方に自分も加えようとしているんだと深雪は把握した。
「だから深雪、考えておいてね!」
「切実な願いだよ」
高い本気度が伺える二人の言葉に思わず頷いてしまった深雪。怒りにも似た何かが心にあったのにいつの間にか消えていたのを深雪は気づいていない。
二人の行為には感謝して微笑んでいると部屋の扉からノック音が聞こえた。
「なんか盛り上がっているみたいだね」
朝食を持ってきてくれた蒼士が部屋に入ってきたのだった。そこから四人で食事をして過ごすことに。
だが、深雪は時間が経つにつれて、蒼士の家に住むことについて本格的に考えてしまう。考えないようにしても考えてしまい、まず一番に兄の達也に相談をして、叔母の四葉真夜にも許可を貰うなど住もうという意思が強くなってきてしまい、どうやって許可を貰うかを考えることになる。
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雫の試合が始まり達也がオリジナル魔法として開発した魔法『
見たことがない魔法に魔法関係者は驚愕し、豪快な魔法に大勢の観客から嘆声が漏れた。順調にクレーを粉砕していき、予選をパーフェクトで勝利した。
その後の女子スピード・シューティング予選は雫を含めて一高生三名が予選を勝ち上がり次のトーナメントに進出した。そして今から雫の準決勝が始まろうとしていた。
「いよいよ雫さんの出番ですね」
「コラコラ、美月が緊張してどうするの」
美月が試合に出るわけでもないのに異様に緊張しているのをエリカがツッコミを入れていた。既に雫以外の二人はベストフォーに進んでいたので、雫が勝利すれば一高から三名が進むことになるので期待が高まっている。
「大丈夫だよ、雫は必ず勝つよ、それに達也さんもいるから」
「お兄様がエンジニアとしてサポートしているんですから勝ちますよ」
親友の雫が勝つことを心の底から信じているほのか、兄のエンジニアとしての実力を十二分に知っている上に雫の実力も知っているので勝利すると自信がある深雪。
「雫は勝つよ、相手が
蒼士が名前を出した人物は雫の対戦相手であり、雫と同じくパーフェクトで勝ち進んでいる実力者であった。蒼士がホテルで話をした三高女子でもある。
「奥の手はとっておくものだろ?」
蒼士のこの言葉の意味はすぐに分かることになった。
個人予選は破壊したクレーの数で決まるスコア型、そして準決勝からは対戦形式になるので、達也は試合に勝利するためにハンドメイドのCADを雫に使用させたのだ。
試合が始まると序盤は栞がリードしていたが後半になるにつれて雫が追い上げていき、栞のペースが崩れていき、雫が逆転して勝利を収めた。
雫が持つハンドメイドされた汎用型CADを特化型CADにも劣らないレベルの処理速度になっており、負担も少なく、余裕を持ってクレーを粉砕し、勝利してみせた雫。対戦相手の栞は特化型CADであり、消耗も激しく、雫より疲労したことによるスタミナ切れ、集中力切れが敗因であった。
その後は決勝トーナメントに一高の生徒が三名進出して、さらに一位から三位を一高が独占する快挙をしてみせたのだ。
雫、英美、和美という選手の力もあるがエンジニアとして達也が担当した三人でもあったのだ。
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達也は蒼士に呼ばれて人影がない場所に連れて来られた。第一高校の天幕に向かう途中だったところの達也を捕まえて移動したのだ。
「蒼士、いったいなんだ?」
達也は蒼士から呼ばれて理由を聞かないまま蒼士に付いて来たが、ようやく立ち止まって喋れる状態になったのを確認して問い質す。
「すまん、ある人からお願いされてな、それとおめでとう、一位から三位まで独占させるなんて、やっぱり達也は凄いな」
「全部選手たちが頑張ったことで、俺は何もしてないぞ」
「いやいや、エンジニアとしての達也の技量があってこその快挙だぞ、他校も達也の存在に警戒するかもしれないぞ」
大袈裟にも感じるぐらい褒めてくる蒼士に謙虚な達也であったが、友人が褒めてくれることは悪くなく、とても有難い気がしていた。
「で、誰が俺を呼んだんだ?」
達也は本題を切り出した。蒼士を経由して自分を呼び出した存在が気になっている。
達也の問いに答えるように蒼士は携帯端末で誰かに電話して、少しだけ会話をしてから達也に携帯端末を渡した。この場にいない人物だとは分かった。
「盗聴防止回線で、周囲の音波を遮断してあるし、一応この周囲は魔法で隔離状態にしているから聞かれる心配はないよ」
達也は蒼士から携帯端末を受け取って電話に出てみて驚愕する。蒼士が厳重すぎる対策をしているから只者ではないと思っていたが、確かに、只者ではなかったと達也は思い知った。
電話相手からの話を聞いているようで達也の反応はなく、何か言おうとするような動作も見られたが、相手側に何か言われたようで押し黙る。最後に「はい」と答えるだけで電話が終了したようだ。
「おい、何か言うことはないか?」
達也の鋭い視線が蒼士に向けられているが、達也から携帯端末を受け取って、相手の要望で黙っていたが、ドッキリが成功したことに満足気分でいる蒼士は意にも返していなかった。
「しょうがないだろ、向こうにも黙っていてって言われたんだしさ」
「……全く
二人はその場を後にして達也と一緒に第一高校の天幕に向かう。蒼士と一緒に観戦していた深雪とほのかは先に天幕に行っており、エリカたちとは昼食時に合流する予定であった。
第一高校の天幕に着くと一位から三位を独占した快挙に浮ついた雰囲気に満たされており、雫、英美、和美に
そして鈴音から雫が使用した魔法『
魔法大学から新種魔法として登録されることは研究者にとって、一つの目標とされている名誉であり、第一高校から出たことによりさらなる称賛の声を掛けられる達也。一年男子などは背中を叩いて達也のことを褒め称え、一年女子も声を掛けて褒めてくる光景に口元を引きつらせて対処する達也。率先して褒めたのは森崎であったということに驚きもあったようだが。
開発者名として達也の名前が登録されるのを達也は
「(流石です、お兄様。お兄様はもっと褒められるべきなのです)」
「深雪、ちょっといいかな?」
兄が褒められて気分が良くなっている深雪が蒼士に声を掛けられて天幕内の隅に移動する。携帯端末を取り出して何か打ち込んでいる蒼士に疑問を浮かべる深雪。
「声を出さずに読んでくれよ」
蒼士から携帯端末を渡されて画面に目を通して、すぐに深雪は驚きの声を上げそうになってしまい、思わず自分で口元に手を当てて口を塞いでしまう。答えを聞くために深雪も携帯端末で文字を打っていく。
『(これは本当なんですか? 叔母様が本当に許可を?)』
『(うん、直接電話が掛かってきて、本人から聞いたよ)』
深雪も端末から文字を打ち込んで、蒼士も同じように打ち込んで返答して声を出さずに会話をしている。トークアプリなどで会話すればいいかもしれないが念には念を入れて。
『(開発者名の登録で達也の名前が世間に広まって、身元を調べられ、四葉との関係も暴き出されるかもしれない危険を考慮した上で、だよ)』
蒼士の打ち込んだ内容を見て、深雪は内心で考えていた。
叔母の四葉真夜がそんな危険を
『(甥の名誉のために人肌脱いだんじゃないのかな?)』
蒼士の端末に書かれていた内容に、信じられない、といった表情で返答する深雪。四葉が達也にしてきたことを知っている深雪は否定した。
蒼士は真夜の気持ちも深雪と達也の気持ちも分かっているつもりあったが、やはり関係修復には時間が掛かる、と予想通りであり、深雪の反応は織り込み済みである。
深雪にも知っておいてもらおうと蒼士は深雪にも敢えて報告していたので、徐々に真夜が寄り添えるように二人の意識改善に動いている。
渋々だが深雪は達也に起こった事態を把握してくれたが何処か不服そうな表情であった。
この件も終わり、蒼士は達也たちの方へと向かおうとするが深雪に制服の袖を掴まれてしまう。
「深雪?」
何だろう、と深雪のことを見る蒼士。
『(蒼士くんは叔母様のプライベートナンバーを知っているんですね?)』
蒼士の目の前で端末を見せて内容をハッキリと確認させる深雪。可愛らしい微笑みとは裏腹に目がは笑っていない。
「それは知っているよ、HSA社との取引する時もあるからね」
「あ、うん、そうよね」
蒼士は平然と答えたが、その言葉に納得できずに拗ねたような表情を浮かべてしまった深雪。
「その反応可愛いな、兄の達也がいなければ全力で口説いていたよ」
思わず深雪の頭を撫でてしまう蒼士であった。
蒼士は此処のところ深雪が自分に心を開いて、甘えてきてくれるのを嬉しく受け取っている。兄の達也以外に頼れる男性として深雪に認められたことを嬉しく思っている。そして蒼士の中では深雪が好きなのは達也だということにしてしまっていた。
勘が良い蒼士であるが深雪の達也への『敬愛・尊敬』を好意を
「え、えっと、蒼士くんになら口説かれてもいいですよ」
頭を撫でられながらチラチラ、と蒼士のことを見ながら頬を赤く染めている深雪に驚いてしまう蒼士。深雪からそんなことを言われるとは思っていなかった。
「え、本当かい? それなら「蒼士さん、私が優勝したんだからもっと褒めてよね」ちょっと「蒼士くん、深雪と何してるのー?」エイミィ、ちょっと待って「ラブ臭がするわねぇー!」滝川さんは何言ってるのかな!?」
深雪に対して声を掛けていた蒼士であったが、雫、英美、和美の介入により最後まで話すことができずに達也たちの方へ連れていかれてしまった。
「(もうちょっとで蒼士くんが声を掛けてくれたのに……ッ!? わたしったら何を期待しているのかしら!?)」
口説かれてもいい、という大胆な発言をしてしまった自分自身に恥ずかしくなって顔を手で覆う深雪。
「(蒼士くんに口説かれてどうするのよ!? そのまま腰に手を回されて蒼士くんの部屋に……ってわたしったら本当に何を考えているのよ!? そんな
雫と英美が蒼士に撫でられいるのを視界に入れて、深雪は内心で考えが纏められずにいた。温泉でほのかと雫の話を聞いてから深雪の中では何かが変わり始めていた。蒼士への想いを自覚してからでもある。
「気になったから来ちゃったけど、深雪さん、大丈夫?」
「か、会長!? 大丈夫ですよ」
真由美が深雪に話し掛けてきた。達也を褒め称える生徒のことを見ていた真由美は天幕内の隅で蒼士と一緒にいる時から見ていたようだ。
「蒼士くんなら応えてくれるわよ、深雪さんが想っていることについて(だって私も経験あるだもん!)」
面白いものを見つけたと真由美は微笑みながら
深雪の動揺具合に関しては破廉恥な妄想をしてしまうことは真由美自身も経験済みであったから察せられたのだ。
「ッ!? わ、わたしは何も想っていませんよ、お、お兄様が褒められていたのが嬉しかっただけです!」
冷静に振る舞おうとしている深雪であったが動揺が隠せていなかった。
「それならいいんだけどね、年上のお姉さんとしてアドバイスよ」
いつもの深雪の反応ではなかったので、それが可愛らしく思えて微笑んでいる真由美は述べる。
「女は度胸よ!」
胸元で握りこぶしを作って、それだけ言うと手を振って、達也の元へ去っていく真由美。反応に困る深雪。
深雪は真由美の言葉を聞き、一気に冷静になって、普段通りに振る舞える状態まで落ち着く。ある意味で真由美に感謝した深雪である。
達也が称賛されている
次回の更新も少し間が空きます。