渡り歩く者   作:愛すべからざる光

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第二十九話

新人戦一日目の午後。

 

女子スピード・シューティングを一位から三位の独占という快挙があり、第一高校の士気は上がっていた。

 

午後からの男子スピード・シューティングやバトルボード予選に挑む選手たちに大きく影響を与えて、緊張がほぐれていて、試合に挑むにはとても良い状態であった。

 

「ほのか、お互い頑張ろうな」

 

「はい、蒼士さん、私も頑張ります!」

 

蒼士とほのかは既に試合のユニフォームに着替えており、第一高校の天幕内で会場に移動しようとしていた。

 

ほのかは落ち着いた雰囲気を醸し出して、緊張し過ぎず、慢心もしておらず、普段通りのほのかであった。

 

「あずさ先輩もほのかのことお願いしますね」

 

「勿論です、光井さんのエンジニアは私なんですから、蒼士くんの方こそ頑張って下さいね」

 

ほのかの担当技術者はあずさであった。技術者としてのあずさの腕は第一高校の中で達也を抜けば一番といえるレベルの技量を保有していたので、蒼士は安心してあずさに任せられ、信頼できる人でもある。

 

「それと、試合が終わったらCADを見せて下さいね、絶対ですよっ!」

 

興奮しているあずさに蒼士もほのかもちょっとだけ引き気味であった。蒼士が使用する自作CADにあずさが興奮しているからだ。

 

九校戦開催前に蒼士の部屋で見たCADとは違うモデルだったので興味津々だったのだ。

 

「試合が終わったらですよ、ほら行きますよ」

 

試合前とは思えない雰囲気を漂わせて、会場に向かう三人。途中で蒼士と別れるほのかは緊張せずにあずさと会話しながら試合に向かうのであった。

 

 

 

 

「蒼士、光井さんと中条先輩と話しながら来るなんて、随分と余裕だな」

 

「森崎か、自分なりの緊張をしない方法なんだよね」

 

「なんだそれ、それと名前で呼んでいいと言ったはずだぞ」

 

「どうも森崎って言う方がしっくり来るんだよね、悪いけど」

 

「まぁいいか、決勝で待っているぞ、蒼士」

 

「それはこっちの台詞だよ、先にカーディナル・ジョージに当たるのはそっちなんだから」

 

「分かっている、奴に勝って、お前にも勝つ!」

 

「気合いは十分みたいだね、じゃあ、先に決勝のステージで待っていようかな」

 

「ふんっ! 首を長くして待ってろ」

 

学校での練習も一緒こなして軽口をたたけるぐらい仲良くなっていた蒼士と森崎。

 

 

 

 

蒼士のスピード・シューティングを観戦しにきていたのは一高生は半分以上が来ており、予選であるのに大勢の観客が来訪していた。

 

「蒼士さんはどういった魔法を使用するんですかね、楽しみです」

 

「蒼士くんのことだから、あたし達が思いつかないようなものなんだろうね、そうでしょ、達也くん?」

 

「どうだろうな、見ていれば分かるぞ」

 

雫以外の蒼士の友人たちが観客席にいた。雫はほのかの方の応援に行っている。

 

「えぇー、深雪は知ってるんでしょ?」

 

「知ってるわ、でもお兄様の言う通り、見れば分かるわよ」

 

エリカに微笑みながら深雪も達也と同じくお茶を濁す。深雪の答えに不服そうな表情を浮かべるエリカ。美月、レオ、幹比古も苦笑してその場にいる。

 

話している内に蒼士が登場して、会場がざわめくことに。

 

蒼士が手に持つのはスピード・シューティングにまるで合っていない武装一体型CADの刀であったからだ。打刀サイズの日本刀に自動小銃のマガジンが装着されており、見た目が刀なのでどうやって競技に挑むのだ、という疑問が持ち上がる。

 

観客のどよめきを気にせず蒼士がスタート台に移動している時にソレは突然起こった。

 

刀から小銃形態に変形(・・)したからだ。

 

注目されていたせいで会場のカメラが蒼士に向けられていたのでスクリーンにその場面が映っており、鞘に納刀された日本刀のような状態から変形の違和感を感じさせない自然な流れで競技に適した小銃形態になっていたのが映像として流された。

 

魔法を知らない者も知っている者もこの光景を驚愕しており、そのことを知っていた達也、深雪だけは面白そうに会場を眺めている。

 

少し時間が経つと観客から声が上がり始め、見たこともないCAD、ロマンが詰まったCADなど、魔法を知らない人も「なにそれカッケェ! 」「SF映画のモノだろ!」と興奮した歓声の声が上がっていた。

 

そして試合が始まるかというタイミングで大会運営委員が一時中断するという大胆な行動をする。蒼士のCADのハード面でも競技用の規定を満たしており、検査を通っているので問題はないはずであるが中断する理由もないはずなのに運営本部のお偉いさんから特殊すぎるCADなので、もう一度検査が入ることになった。

 

せっかく盛り上がっていたムードを台無しにされた観客はブーイングにも似た野次が飛び掛けるが、蒼士が申し訳なさそうに頭を下げたことにより治る。試合に挑む準備が出来ている時に止められたので一番文句を言いたいのは本人である蒼士であるはずなのだから、と観客は検査で移動する蒼士を静かに見守った。

 

「おいおい、なんか大変なことになったな」

 

「まさか試合前から驚かせてくるなんて、予想外だよ」

 

レオと幹比古の口から漏れた言葉に蒼士の持つCADの事情を知らないエリカと美月はただ頷くだけだった。

 

「うふふ、本当に蒼士くんは人を驚かせるが上手ですね、お兄様」

 

「あれに関しては俺も驚いたしな」

 

深雪と達也は驚愕している友人たちを尻目に二人で会話をしている。当時の深雪と達也も蒼士に披露された際は友人たちと同じで驚いていたのだった。

 

「ねぇねぇ、達也くん、あの日本刀型の時って…」

 

「ちゃんとした刀だぞ、刀身もあるぞ」

 

エリカの言うことが予想できた達也は答えた。達也の答えに満足して笑顔でいるエリカ。自分が扱う得意武器に関して気になっていたようだ。

 

「実際のところ達也はあの仕組みは理解しているのか?」

 

レオが疑問に思ったことを聞いていた。達也の技術者としての腕を知っていたから問いを投げかけた。

 

「いや、俺でもあのCADの仕組みは理解できていない」

 

九校戦で技術者として名を上げた達也でも理解できていないことに友人一同は唖然とする。それだけの技術を蒼士が持っていたのか、と改めて認識させられた。

 

 

 

 

五分も経たずに蒼士は戻ってきた。観客から拍手で迎えられ、対戦相手の選手に謝罪をするように頭を下げてスタート台に立つ。日本刀の状態からライフル状態になるのを再度見れて、観客は喜んでいた。

 

そして待ちに待った試合が開始された。

 

試合開始と同時に小銃の引き金を引くと蒼士の周囲に十個ほどの黄色の球体状のモノが浮遊展開されていた。この光景を見ていた人々は何事だと驚きながら次の動きに目を見開くことに。

 

クレーが有効エリアに侵入した瞬間に黄色の球体状がクレーを撃ち抜いていたのだ。複数のクレーが侵入した瞬間も撃ち抜き、得点を重ねていく。有効エリアに入った瞬間に撃ち抜かれており、目で追いきれない速度が出ており、黄色の閃光が飛び回っているのが見えるだけであった。

 

その光景は観客を惹きつけていた。黄色の球体が高速で撃ち抜くのがとても綺麗であったということだ。同時にクレーを撃ち抜いた時など綺麗な閃光が舞っているようであり、目移りしてしまっていた。

 

あっという間にパーフェクトを取り、勝利してしまった蒼士。

 

観客を魅了した蒼士に対して盛大な拍手と歓声を上げる会場内はまるで決勝戦のような雰囲気を漂わせることになっていた。

 

その後も蒼士は順調に勝利し、決勝進出を決める。

 

「(森崎と吉祥寺真紅郎、どちらが勝利するか見物(みもの)だな)」

 

控え室で二人の対戦を観戦する蒼士。森崎と一緒に練習を積んで実力が格段に上がっていることを蒼士は知っている。そして対戦相手の吉祥寺真紅郎の実力も予選と準々決勝を見れたのである程度は理解できた。まだ本気を出していないことも把握している。

 

「森崎のCADは達也も調整に携わっているからな…」

 

スピード・シューティングは一日で終わる競技であり、インターバルもあるが優勝者を決めるまで一気に試合をするので消耗もそれなりにある。だから森崎も真紅郎も本気を出していなかったが、今回の両者は本気であるのが伺えた。

 

二人揃って使用していたCADを変えてきていたから。森崎が持つCADは達也も調整に関わっていたものだった。

 

 

 

 

試合後の待ち時間に達也たち一同は今までの試合を振り返っていた。

 

「蒼士さんの魔法はいったいなんなのでしょうか?」

 

「そうね、試合毎に展開するモノが違ったのは気になったわ」

 

美月とエリカが疑問に思ったことを口にしていた。事情が分かっていないレオも幹比古も頷くような動作をしている

 

「本当だぜ、球体、矢、槍、剣、様々な状態に変化してクレーを撃ち抜いていくって、なんなんだ、アレは」

 

「魔法演算力も処理能力も桁違いだね、それに試合が終わった後もピンピンしてるし、疲労していないのか、蒼士は」

 

レオと幹比古も友人の蒼士の規格外に驚愕している。元々、普通ではないと悟っていたのにその上をいくことをしてみせて認識を改める二人。

 

一試合目では球体状の魔法を展開してクレーを撃ち抜いていた。

 

二試合目では球体ではなく、矢の形状をしたモノが展開され、展開された数も増えて同じようにクレーを撃ち抜いていく。高速でクレーを撃ち抜いていく矢の軌跡が観客を魅了させていた。

 

三試合目では矢からファンタジー世界の武器のような綺麗な装飾の槍が展開され、数も倍近くに増えており、空中に展開されている槍が自由自在に動き回りながらクレーを撃ち抜いていき、時には円陣を組んで観客を目で楽しませていた。

 

四試合目では槍から西洋の剣ような形状の武器が展開されて、クレーを撃ち抜いていく。展開された剣の射出速度が上がっている中でも正確に撃ち抜いていき、他を寄せ付けない実力を示し、決勝へと進出したのだった。

 

「魔法名は『輝剣(クラウ・ソラス)』形状は自由にできるみたいだけど、剣の状態がしっくりくるみたいよ」

 

エリカたちの反応に口元を抑えて笑っている深雪。自分が初めて見た時と同じような反応だったからだ。

 

「詳細は俺も知らされてないが、今回は魅せる魔法ということだ」

 

達也の言葉に疑問を浮かべる一同。

 

「一般の人たちに魔法というものの認識を変えさせたい。魔法が危険という認識、魔法師の印象を少しでも変えたいということだ」

 

達也の話を聞いて、それぞれが蒼士の真意を知ることに。一般人からしたら魔法師は力を持った存在であるという認識になっており、危険な存在だと考える者たちもいる。世間一般の印象を少しでも変えようとする蒼士の心意気を知ることになった。

 

そして会場内でも特に一般客の方が盛り上がっていることに気づく。魔法関係者の方も蒼士の魔法について話題沸騰であり、それ以上に一般人も次々と魅せてくれる魔法に魅了されて、蒼士が登場するだけで会場のムードが上がるほどになっていた。

 

「蒼士さん、そこまで考えていたんですね……感激です!」

 

「只の女たらしじゃないとは思っていたけど、ちゃんと考えてるのねー」

 

美月は胸元で手を組んで興奮気味でおり、エリカは頬を掻く仕草をして蒼士に対しての評価を上げることに。

 

「だが、俺からしたら非効率すぎて物好きだな、としか思えない」

 

蒼士への評価が友人たちの中で上昇している時に達也が発言した。

 

「お、お兄様!? いいムードが台無しですよ!」

 

「達也、辛辣すぎだろ」

 

「うん、上げて落とすのかい、達也」

 

深雪が慌てて、レオ、幹比古が口元を引きつらせている。

 

達也の言葉は、常人ではサイオン不足や魔法処理不足で使用できない蒼士の魔法に対しての率直な感想であった。

 

「え、えっと、あ、決勝戦始まるみたいですよ!」

 

「同じ一高生(・・・)同士なのにいいのかしら?」

 

森崎(・・)くんは蒼士くんと練習を重ねていましたから、決着をつけたいんだ思うわ」

 

雰囲気を変えようとする美月、一位と二位が同じ学校で決まっているのに戦う意味があるのか疑問に思うエリカ、蒼士の練習を見ていたこともあり、事情を知っていた深雪が説明した。

 

森崎はカーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅郎に勝利していた。

 

 

 

 

「カーディナル・ジョージに勝ってやったぞ、蒼士」

 

「マジでやるとはな、凄いな」

 

「司波が調整してくれたCADのおかげでもある。僕の担当のエンジニアの先輩が、シンプルで無駄がないって褒めてたからな」

 

「そっか、じゃあ俺も手加減なしでいかせてもらいますか!」

 

「あぁ、全力で来てくれよ、自分の限界を出し切って、協力してくれた先輩や司波のためにも勝つ!」

 

入学当初に二科生である達也たちに絡み、問題を起こしかけた森崎であるが、蒼士に手玉に取られ、さらにはHSA社の一般メイドにボコボコにされて、魔法師としての誇りを砕かれた。

 

落ち込みもしたが、改めて自分を見つめ直し、視野を広げたことにより気づくことが沢山あり、見下してしまっていた二科生にも一科生に負けない実力を持つ者、才能がある者の存在にも気づけた。

 

自分が最初に絡んでしまった達也も技術者として類稀なる実力を持っていることにも気づき、達也と会話をして友好を深めつつ、自分のCADも任せられるほどの信用を達也に向けられるようにもなる。

 

そして達也に調整してもらったCADを所持して決勝戦に挑もうとしている。

 

 

 

 

一高同士の決勝戦という異例の試合になってしまったが、一位と二位をハッキリさせるために決勝進出者の蒼士と森崎の意思によって試合が決まった。

 

蒼士のすべての試合で好印象に残る魔法を使用して、観客を魅了したことにより蒼士への期待感が高まっていた。また幻想的で芸術的な視界で楽しませてくれる娯楽にも似た感覚を期待している。

 

そして蒼士と森崎は登場して決勝戦が始まる。

 

スタート台に着いた蒼士に観客は違和感を覚えていた。今までの試合はスタート台の時にはライフルの形状にしていたのに今は刀のままだと…

 

そのまま膝を少し下げて居合を放つ構えでいる蒼士。急な方針転換に観客も騒つき始めて、動揺は対戦相手の森崎にも伝染していた。

 

試合の始まりのブザーが鳴り響くが蒼士は微動だにせず居合の構えを崩していなかった。蒼士の指定の色のクレーが有効エリアに侵入した瞬間、稲妻のような黄色い閃光が走り、クレーが粉々に砕け散った。次から次へ飛来するクレーが閃光と共に砕け散る現象に、何が起こっているんだ、と観戦している観客は蒼士に視線を向けて、蒼士の刀が薄く光を発しているので蒼士の魔法であるのを理解する。

 

対する森崎の方は魔法を発動して有効エリア内でクレーを砕こうとするが全て黄色い閃光により掻き消されているのだ。魔法は発動しているのに有効エリア内で魔法が無効にされて、そんな中で蒼士は順調に得点を重ねている。

 

魔法名『疾風迅雷・雷光(らいこう)の陣』

 

蒼士の魔法は有効エリア全域に作用しており、さらに有効エリアから五メートル範囲全域に蒼士自身が探知できる結界のようなものが展開されている。侵入してきたクレーは勿論だが、森崎の魔法も蒼士の結界内に入ってきた瞬間に斬られていた。蒼士の魔法は鞘から抜刀せずに居合の構えで発動している。

 

四方八方からクレーが飛んでくるが全て粉砕し、黄色の閃光がエリアの全体で光を放つのが神秘的に感じて見惚れてしまう観客。

 

そして一つも見逃さずクレーを全て粉砕し、森崎に一点も得点させることなく、完全勝利をする蒼士であった。

 

 

 

 

ほのかのバトル・ボードも無事に予選を突破した。小細工なしのスピードを重視した作戦で後続との差をつけてゴールしており、他校に自分の手の内を明かすことなく、予選を終えていた。

 

ついでに同じ競技に出場している三高の沓子にも絡まれて少しだけ話をしたようだ。

 

優勝した蒼士は魔法関係者たちに色々と聞かれることになり、自分が開発した魔法に関して聞かれた。自分の魔法について簡単に答えはしたが詳細は教えずにその場を切り抜けてみせた。

 

第一高の天幕でも優勝したことを称賛されて、それ以上に使用した魔法について聞きたがる人が多くて、思わず苦笑いの蒼士がいたとか…

 

そして今は決勝で戦った森崎と対面していた。

 

「森崎も「やっぱり蒼士は凄かったんだな」ん?「お前ってやっぱり実力を隠していたんだな!」」

 

悔しがっているのかと思っていたが、そんなことはなく、声を上げて蒼士のことを称賛する森崎。そのことに面食らう蒼士。

 

「蒼士も司波もやっぱり実力者だったんだな、蒼士については身を以て知った。司波も技術者として類稀なる才能を持っていたし、風紀委員の時での身のこなしも一般人ではできない動きだった。二科生って見下していた少し前の自分が恥ずかしいぞ!」

 

流暢に喋る森崎に口を挟めずに聞くだけの蒼士。

 

「確かに、悔しい気持ちもあるがカーディナル・ジョージにも勝てたし、蒼士の実力を知れて良かった」

 

悔しさ、悲しさなど森崎の表情には一部もなく、笑顔で蒼士に握手を求めている。

 

「次は負けないからな!」

 

「変わったな、森崎。これから強くなるよ、お前は」

 

二人で握手をする。

 

上から目線の蒼士にムッとなる森崎だったが、達也にもCADのお礼と優勝できなかった謝罪をするために走って行った。

 

走っていく森崎を見送る蒼士は通路の角に隠れている人物達を呼び出した。

 

「森崎には気づかれていなかったけど、俺は気づいているぞ、エリカ、美月」

 

えへへ、と苦笑いのエリカと頭を下げている美月が現れた。森崎は二人がいることに気づいていなかったようで走って行ってしまった。

 

「別にわざとじゃないわよー」

 

「盗み聞きするつもりはなかったんですよ、本当に」

 

蒼士と森崎が話していた場所はホテル廊下だったので人がいるのは当然である。

 

「分かってる、森崎の声も大きかったから聞こえていたと思うけど、他の人には話すなよ」

 

「あたし達だってそれぐらい分かっているわよ、ねぇ美月?」

 

「はい、二人の男と男の熱い友情を軽々しく話せませんよ!」

 

蒼士の言葉にエリカは分かっていると返答して、美月にも同意を求めたが、美月の反応に引き気味になってしまうエリカであった。余りにも勢いがあって熱が乗った言葉であったから。

 

「そ、それよりも蒼士くん、優勝おめでとう」

 

「あ、そうでした。蒼士さん、優勝おめでとうございます」

 

エリカと美月から称賛の言葉にお礼を述べる蒼士。

 

「ありがとう、この勢いのまま明日から始まるアイス・ピラーズ・ブレイクも優勝したいな」

 

蒼士は明日から始まるアイス・ピラーズ・ブレイクにも出場する。エリカも美月もそのことを知っている。

 

「優勝するなら一条の御曹司に勝たないとね」

 

エリカからの一言に蒼士は頷いていた。

 

アイス・ピラーズ・ブレイクでは十師族の一条家の一条将輝と戦うことになる。戦う本人でもある蒼士や美月も分かっていたことだ。

 

「でも、蒼士さんが言うなら優勝しますよね」

 

戸惑うことなく述べてくれた美月の言葉にエリカも頷いて同意してみせた。二人の期待に応えるつもりでいる蒼士。

 

「うん、一条だろうが関係ない、誰であろうと倒して優勝するよ」

 

蒼士は笑顔でエリカと美月に答えた。その表情と言葉に満足気の二人は互いに顔を見合わせて笑顔を浮かべていた。

 

エリカと美月は蒼士の規格外っぷりを知っているので十師族だろうが蒼士が負ける姿が想像できなかった。だから二人は蒼士が優勝すると信じている。

 

「二人とも給仕服だけど休憩中とか?」

 

蒼士は疑問に思っていたことを聞いていた。会った時から聞きたかったことで、二人とも丈の短いドレス風味の制服を着ていたからだ。

 

「そうそう、レオとミキ達とは別で休憩を取ってるの」

 

「はい、部屋に戻る途中で、二人の会話を聞いてしまって」

 

なるほどな、と蒼士は納得していた。

 

「それは悪いことをしたな、お詫びに部屋でお茶でもご馳走しようか? ちょっとした差し入れでお菓子やスイーツが手に入ってね」

 

蒼士の誘いにエリカと美月は顔を見合わせて、既に答えが決まっていたようで誘いに乗った。

 

蒼士は森崎に会う前に一度部屋に戻っており、その時にテーブルに部下からの紙媒体のメッセージと大量の差し入れが置かれていた。一人では消費しきれない量なので困っていたので丁度良かったと思っている。

 

「それにしても二人とも給仕服似合っているね、可愛いよ、うん」

 

部屋に移動しようとしている時に蒼士が不意に述べた。エリカに関しては懇親会の時に見ていて言葉を掛けられなかったので改めて言えた。

 

「ん、ありがと、達也くんは何も言ってくれなかったけどね」

 

「あ、ありがとうございます、言われると急に恥ずかしくなってきちゃった」

 

蒼士から褒められて、エリカはフワリと広がったスカートを揺らして見せつけながら笑顔でお礼を述べた。美月はお礼を述べながらも蒼士に見られていると意識してしまい、モジモジしている。

 

「うんうん、二人とも美少女だからね、何を着ても似合うというか、素材が良いというか……もしかして二人とも他校の生徒にナンパされてたりしてない?」

 

素直に褒めてくれる蒼士に嬉しく思う二人であったが、余りにも褒めてくるので頬を赤く染めていた。そして蒼士の疑問に答える。

 

「ナンパね……そういえば、懇親会の時もあったような…あ、蒼士くんの試合の観戦前にも男の子に声を掛けられたわよ、レオとミキが追い払ってくれたけどね」

 

「私はそんなこと……あ、電話番号が書かれていた紙を渡されましたけど、これもナンパに入るんですか?」

 

エリカと美月は思い当たる節を口にしていた。二人とも美少女といえる容姿をしているので男が黙っているわけがないと蒼士が予期していたことが現実になっていたことを知る。

 

「…何……だと…お、俺のエリカと美月にナンパをした奴を懲らしめてやるぞッ!!」

 

「ちょ、ちょっとッ!? い、いつからあたしがアンタのモノになったのよ!! 第一にあたしは蒼士くんのようなチャラい男が嫌いなのよぉー、蒼士くんのような女誑しなんて嫌いよー、それにそういう台詞は付き合った時に言うもんでしょ! まだ(・・)付き合ってもいないのに俺のモノ発言するなー、バカァ!」

 

「そ、そ、そそ、そんな私なんかが、そ、蒼士さんのものなんて、蒼士さんにはほのかさんに雫さんもいらっしゃるのに、私なんかが烏滸(おこ)がましいです…そ、それは、蒼士さんのものになれたらいいな、とは思ったことがありますが、まだ(・・)私には……」

 

蒼士の発言に動揺を隠せずにいるエリカと美月。大胆すぎる蒼士の発言にいつも通りの自分を保てずにキャラ崩壊していくが、二人は気づかないところで同じ発言をしていた。

 

「まだ」というところを無意識に言っており、自分でも気づいていない。

 

エリカは蒼士より先を歩いて怒りながら蒼士の部屋へと向かい、美月は恥ずかしそうにしながら蒼士と一緒に歩いていく。

 

エリカの機嫌を直すために大量のお菓子を献上して、ご機嫌を取った蒼士。モノで釣られるようであったがエリカは上機嫌になっていた。美月も大量のお菓子を渡されて遠慮していたが、甘い食べ物の誘惑に勝てずに貰ってしまっている。

 

 

 

 

エリカと美月の休憩も終わり、二人を見送って部屋でゆっくりしていたら英美とスバルに誘われる形で女子会に招待された。

 

お菓子やスイーツがあることに英美とスバルは喜んで受け取って、持つのを手伝って貰い女子会が行われる部屋に訪れると深雪、ほのか、雫、蒼士と親しいメンバーや春日(かすが)菜々美(ななみ)など一年女子が集まっていた。

 

「蒼士くん、こんなにお菓子やスイーツ貰って良かったの?」

 

「全然いいよ、俺も十分に食べさせてもらったから、それに凄い美味しいからみんなにも美味しいものは共有したいしね」

 

英美の言葉に蒼士は小皿にケーキなどを取り分けながら述べ、蒼士の手伝いを深雪もしてくれて全員に渡るようにしていた。

 

「じゃあ、ありがたく頂くね」

 

「うん、絶対に美味しいからね、エイミィ」

 

英美が蒼士に感謝して雫が一言だけ述べていた。蒼士が作る料理を食べている雫は美味しさを知っていて、蒼士のメイド達の料理もスイーツも絶品というのも知っていたから自信を持って美味しいと言えたのだ。

 

「では、雫と蒼士くんの『早撃ち(スピード・シューティング)』優勝とほのかの『波乗り(バトル・ボード)』予選突破を祝して」

 

『かんぱーい』

 

英美の言葉に一同が飲み物を掲げて乾杯をした。男性が蒼士一人だけという状況だが、そんなことで動揺するタマではない。

 

各々が本日活躍したほのか、雫、蒼士を称賛して、蒼士が持ってきてくれたお菓子やスイーツを食べていく。同級生で仲良い女子同士での会話は気兼ねなく話せて盛り上がる。

 

異性である蒼士の存在は例外であるが、蒼士も何故か、すんなりと女子同士の会話に入っていくというコミュ力の高さをみせていた。全体的に一人一人と話していく蒼士。

 

「あ、これ、ホント、おいしーい!」

 

「うん、美味しいね、やっぱりスイーツは別腹だ」

 

「何これ!? どこのお店のー?」

 

英美、スバル、菜々美の順に蒼士が持ってきたスイーツを絶賛していく。ほのか、雫、深雪も同様で、夜食に甘い物を食べるのに罪悪感を感じているほのかを尻目に雫と深雪は美味しそうに食べていく。

 

「ほのかは明日休みだから十分に休めるね」

 

「はい、体調管理もしっかりして準決勝に挑みます」

 

蒼士とほのかが喋っているのにこの場にいる全員も耳を傾けて話に加わっていく。

 

「明日は、蒼士さん、深雪、エイミィ、雫はアイス・ピラーズ・ブレイクで、スバルと菜々美はクラウド・ボールだよね」

 

明日の予定を確認しているほのかに名前を呼ばれたそれぞれが頷いて応えていた。明日が試合の面々だが、友人と気楽に話せて緊張の面影など感じられなかった。

 

クラウド・ボールでは三高の一色愛梨が出場するので油断できない相手であるが、スバルと菜々美は気にもせず一位と二位のワンツーを目指すとテンションが高まっている。そんな様子に微笑む一同。

 

アイス・ピラーズ・ブレイクの深雪、英美、雫は自分の実力を精一杯発揮してベストを尽くそうと和やかな雰囲気を出していた。

 

菜々美が気づいたような反応で明日の深雪たち三人の技術スタッフの達也の存在を口にしていた。新たな魔法の開発でインデックスへ登録されて、スピード・シューティングの快挙に一役買った人物であったから達也の存在は大きいものになっている。

 

雫や英美は達也が調整してくれたCADを使用して一位と二位を手にしていたので、二人の口から語られる達也への称賛を羨ましいそうに菜々美は聞いて、自分たちの担当もして欲しかった、と残念そうにしていた。

 

兄が必要とされて嬉しそうにしている深雪と本人がいない場所でもちゃんと評価されて、信頼されている友人に自分のことのように頷いて喜んでいる蒼士。そんな二人はお互いに目が合うと自然に微笑んでいた。

 

達也のことを、兄のことを、と蒼士と深雪は自然と考えが分かっていたような反応をしている。

 

長い時間ではなかったが、小さなパーティは終わって、蒼士が持ってきたスイーツとお菓子は全てなくなり、女性陣が美味しく頂いてくれた。

 

「じゃあ、蒼士さん、深雪、お休みなさい」

 

「二人ともお休み」

 

蒼士がほのかと雫を部屋に送り届けて、見送られている。英美は先に送り届けていた。

 

ほのかと雫の二人は蒼士の部屋で一緒に寝ようとしていたが、深雪からの鋭い視線と蒼士と雫が二日連続で出場するのだから、ゆっくり休むことを進言したことで二人は自室で就寝することに。

 

そして最後に深雪を送り届けようとする蒼士であったが、深雪がまだ眠くないということで話し相手になって欲しい、とお願いされてしまっていた。

 

「雫と同じで俺も連続出場になるから、ゆっくり休んだ方がいいんじゃないのかな、深雪? さっきほのかと雫に言ってたしね」

 

「そ、それは、そうですね…」

 

先ほど自分が言ったことを蒼士に言われて、図星を突かれてしまい、吃る深雪。自分が蒼士に言ったことは矛盾してしまうと理解して、自分の軽率な行為に恥ずかしくなってしまっていた。

 

深雪自身は蒼士と少しでも話していたかっただけの純粋な気持ちが出てきてしまっていただけであった。

 

しょんぼりとしている深雪に蒼士は思わず笑ってしまい、言葉を述べる。

 

「実は俺もまだ眠気がきてないからさ、話し相手が欲しかったんだけど、相手になってくれないかな、深雪?」

 

蒼士は最初から深雪の申し出を受けるつもりであったが、少しだけ揶揄(からか)いたくてワザと否定的な言葉を述べていた。

 

「…えぇ、勿論です。こうゆう展開がつい最近もありましたね」

 

「そうだね、深雪と話しているとこっちも楽しいし、本当に有難いよ、眠気が来るまで宜しくな」

 

蒼士からの誘いに悲しそうな表情から一変して、笑顔を浮かべて蒼士と会話を始めた深雪。悲しげな表情も絵になるな、と思いつつも深雪を自分の部屋までエスコートをする蒼士であった。

 

蒼士の自室では、深雪から達也がインデックスに登録することになった後押しをしたことへの改めてお礼を言われていた。

 

そのことに関しては蒼士は何もしておらず、深雪と達也との関係を改善し、親しくしたいなら、と言葉を濁して真夜に発言しただけであった。決して達也のことををちゃんと評価しろ、とは言っていない。

 

蒼士の頑張りで叔母である四葉真夜を説得して兄の正当な評価をされたのだと深雪は思っていたようで、大変感謝していた。

 

蒼士と深雪は会話をしながら明日の試合の意気込みや不安なことなど色々と話して、楽しんでいたが、二人揃って眠くならずに最終的に自室で深雪の存在を認識した達也からの連絡で終わることになった。

 

「過保護な兄だね、こんなにも可愛い妹がいれば分かるけどね」

 

「お兄様に大切にして頂いて、私はとても幸せ者です。蒼士くんも私のこと大切ですか?」

 

深雪を部屋まで送り届けている蒼士は深雪に真剣な面持ちで問われていた。

 

「それは大切だよ、友人の大切な妹だしね」

 

「…一人の女性としてはどうですか?」

 

蒼士に寄り添うように上目遣いで蒼士を見つめる深雪。

 

「…大切だよ、深雪はもう俺の大事な人の一人に入っているんだからさ」

 

真剣な表情の深雪に応えるように蒼士は深雪の華奢な腰に手を回して、自分に密着するように動いた。

 

抵抗することも出来るのに深雪は蒼士に(もた)れかかるよう身を委ねている。蒼士の言葉が嬉しかったのか、顔を赤らめながらも笑顔で喜んでいた。

 

「このまま部屋までお願いしていいですか?」

 

深雪の問いに蒼士は部屋に送り届けるまで深雪に甘えさせた。

 

部屋の前で名残惜しそうに離れていくのを見守り、蒼士は自室に戻って休んだ。

 

見送られた深雪の方はベッドの中で嬉しさと恥ずかしさで悶えていたりした。

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