渡り歩く者   作:愛すべからざる光

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第二話

深雪の答辞は大変素晴らしく、本人の並外れて可憐な美貌も相乗して新入生、上級生の区別なく男子たちのハートを鷲掴みにしていた。女子たちにも一部惚けて深雪を見つめていた者もいたらしい。

 

達也は立派に答辞をやり遂げて、講堂にいる人たちを魅了した深雪が誇らしく、口元が緩み笑みを浮かべそうになっていたがポーカーフェイスを貫いていた。

 

そんな達也の心情を悟った蒼士は、ぷっ、と笑いを我慢できず達也に睨まれた。

 

式が終了してIDカードを受け取る蒼士、達也、エリカ、美月は偶然にも同じE組になった。

 

「いえーい!やったな、達也、エリカ、柴田さん」

 

ハイタッチをしようとする蒼士にエリカは手を重ねて応え、美月も恥ずかしそうに応えたが、達也は理解してなかった。

 

「なんだそれは……」

 

「せっかく同じクラスになったんだから喜ばなくちゃ!」

 

そういうものなのか、と疑問に思いつつも達也は蒼士と手を重ねた。新高校一年生としてはこれが当たり前なのかもしれない、と自己完結する達也。

 

満足した蒼士は周りの二科生に話しかけて何組か、と聞きながら仲良くなろうと話しかけていく。講堂で話しをしていた人たちにも再び話しかけて仲を深めたことで、男女関係なく蒼士の周りに人が集まっていた。

 

達也はそんな光景を見ながら妹の深雪を待つことにした。エリカと美月もそんな達也に付き合うように待っていた。何よりも達也の妹の新入生総代の深雪に興味があり、話ができればいいな、と思っている。

 

三人で話しながら待っていると蒼士の話になった。

 

「梓條さんって何者なんですか……?」

 

美月が急にそんな話を達也とエリカに振る。達也とエリカは困り顔になりながら応えた。

 

「俺は昨日からの付き合いだが、いい奴だってことは言える。が、変わり者でもあるな」

 

「あー、それ分かるかも。いつの間にか蒼士くんって自分のペースに引き込んで仲良くなっちゃうんだよね」

 

二人の話を聞いて感心するように蒼士のことを見る美月。いつの間にか一科生とも話をしている蒼士にさらに美月は感心する。一科生と二科生の差別があるのは誰が見ても分かる上に、講堂でも一科生が二科生を見る目はどこか見下していると美月は肌で感じていた。それをまるで感じさせない振る舞いをしている蒼士に興味ありげな視線を向ける美月であった。

 

蒼士に視線を気付かれて手を振られ、思わず手を振り返し、恥ずかしくて頬を赤く染めることになった美月であった。

 

三人で話をして時間を潰していると、自分を囲んでいた人垣を抜け出してきた深雪が達也に声を掛けてきた。

 

待っていた深雪の背後に多くの人が付いてきていて大変そうだなと思うのと、あまり会いたくなかった人物がいるのに気付く。

 

生徒会長の七草真由美であった。

 

妹は妹で、兄の近くにいて話しをしていたエリカと美月に対して兄に問いただしていた。可愛らしく小首を傾げ、淑女の微笑みを浮かべるものの、目が笑っていない。

 

そんな深雪の対応に少し強い口調で叱る達也に深雪は申し訳なさそうな表情を浮かべ、改めて二人に自己紹介をして仲良くなろうとしていたが、そんな深雪の行動にエリカも美月も気さくに応えて仲良くなっていく。

 

達也は深雪の背後にいる生徒会長や、その後ろに控えている男子生徒のことを深雪に伝えると、真由美が遠慮気味に言う。

 

「深雪さん、式の前にもお話をしたと思いますが、詳しいお話はまた日を改めて」

 

真由美が笑顔で軽く会釈し、そのまま歩いていくのかと思ったら、背後に控えていた男子生徒が真由美を呼び止めていた。だが、真由美はそれを無視して達也の正面に移動する。

 

「司波くん、彼をお借りしてもいいかしら?」

 

何を聞かれるのだと身構えていた達也だったが、真由美が言ったことと彼女の視線の先にいた蒼士で察する。蒼士はこちらの事情など露知らず、一科生の女子と話をしている。

 

「えぇ、別に一緒に帰る約束をしたわけでもないので」

 

「ありがとう。司波くんもいずれまた、ゆっくりとお話をしましょうね」

 

人懐っこい笑顔を浮かべて蒼士の所へ歩いていく真由美。その後を付いていく男子生徒は達也のことを舌打ちが聞こえてきそうな表情で睨みつけていた。

 

「……さて、帰ろうか」

 

入学早々に上級生に目をつけられてしまったな、と思う達也であったが、これくらいで嘆くほどのメンタルではない。

 

深雪の後ろを付けていた取り巻きのような生徒たちも達也に対して怪訝な視線を送っていた。

 

そんな達也に申し訳なさそうに深雪がしょんぼりとしているのを頭を撫でて慰める達也。エリカも美月も二人の光景を見ていて兄弟とは知っているものの仲が良すぎるのでは、と勘繰ってしまう。達也に慰められて元気になる深雪。

 

「蒼士くんを呼びますか?」

 

「いや、蒼士には生徒会長の相手をお願いする」

 

「あら、お兄様ったら。蒼士くんに全部押し付けましたね」

 

「あぁ、蒼士なら容易いだろう、きっと」

 

笑顔で語り合う達也と深雪にエリカは、まぁいいか、と思い、美月は申し訳なさそうにして、四人で帰ることにした。

 

 

 

 

達也たちが帰っていることも知らずに蒼士は一科生の女子生徒二人と話をしていた。先程までは二科生の男女、一科生の男女と多く話をしていたが今は彼が顔見知りの二人に話をしていた。

 

「ねぇ、私の話聞いてる……?」

 

二科生は比較的気軽に会話ができて打ち解けやすかったが、一科生に関しては予想通り、自身が二科生だと分かると見下す視線を向けられたのを感じて骨が折れそうだと思った蒼士。

 

そんな相手とでも、何人かとは仲良くなっていた蒼士であった。

 

「あ、あの……蒼士さん、大丈夫ですか?」

 

内心、考え事に耽っていると、彼の目の前にいる少女二人が心配そうに見ていることに気付く。

 

しまった、と気付いた蒼士は目の前の少女らに謝罪した。

 

「ごめんね、ちょっと考え事をしてた」

 

謝る蒼士に対して二人の反応はそれぞれ違った。

 

「い、いえ、気にしないでください」

 

謙虚で自信なさげな口調の少女は、光井 (みつい) ほのか。ヘアゴムで二つにした長髪。かなりプロポーションが良く、胸とお尻が大きめだが、くびれがちゃんとあり、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる美少女。

 

「もしかして私たち一科生のことを思っていた?」

 

もう一人話し掛けてきた少女は冷静な口調で表情があまり変化がない。だが、顔立ちは十分に美少女の北山(きたやま) (しずく)。ほのかよりも背は小さく、子供体型にも見えるが華奢な体つきの美少女。

 

「あれ、分かっちゃう?」

 

「うん……だって表情が曇ってたよ」

 

「へぇ~、よく分かったね雫」

 

蒼士の疑問に雫がズバリ当て、ほのかが驚いていた。ほのかから見れば特に変わったところはなかったのに、雫は見抜いていたのだ。

 

「んー……そうなんだよねぇ。女子はどうにかなりそうだけど、男子がねぇ……」

 

あっ、とほのかと雫はなんとなく言葉の意味を理解していた。先程も蒼士が話しかけないと一科生の男子は話すそぶりもしなかったのに対して一科生女子は積極的に蒼士に話をしていたのだ。蒼士の容姿が非常に整っているためにお近づきになりたいという目論見が多少なりともあるのだろう。

 

「蒼士さんなら大丈夫ですよ!」

 

容姿だけはなく蒼士ならきっと仲良くなれると自信をもって思えるほのか。蒼士とはまだ短い付き合いであるがそう信じさせるだけの力があると確信していた。

 

「私もそう思う。私達とも仲良くなれたんだし、蒼士さんなら余裕だよ」

 

二人とも純粋に自分の事を信じてくれていることが嬉しくて笑顔を浮かべる蒼士。

 

「ありがとう、ほのか、雫」

 

彼の言葉と満面の笑みを真正面から受けしまうほのかと雫。何故かわからないが惹かれてしまう笑顔に心臓がドキッと動いてしまう。

 

蒼士と出会ってから雫とほのかの二人で電話をしているときも、この話を出すと顔がどうしても熱くなってしまうのを二人は感じていた。

 

「は、はい、お役に立てたなら幸いでしゅ」

 

「ん……気にしないで」

 

噛んでしまったほのか、顔の熱を冷まそうとする雫。

 

「じゃあ帰ろうか」

 

蒼士の言葉に頷いて左右に付くほのかと雫。

 

「近くに美味しいケーキ屋があるけど寄っていかないか?」

 

「ケーキ屋さんですか!? 寄りましょう!」

 

「うん、寄ろう」

 

ほのかも雫も寄る気満々である。女性はやっぱり甘いものが好きなんだな、とほくそ笑む蒼士。

 

そんな蒼士たちに声を掛ける存在がいた。

 

「蒼士くん、さっきぶりね」

 

「七草先輩、どうされたんですか?」

 

第一高校生徒会長の七草真由美が声を掛けてきたのだ。真由美の後ろには達也を睨んでいた男子生徒もいる。

 

「蒼士くんってば女の子と随分お話していたけどモテるのね」

 

笑顔を向けてくれているのに全然笑っていない真由美。少しだけ言葉に棘があるように伺える。

 

「そうですね。これからの学校生活で仲良くなって、共に切磋琢磨していきたいです」

 

真由美の言葉に怯むどころか、気にせず自分の意見を述べた蒼士。蒼士の後ろにいるほのかと雫は様子を伺っている。

 

「もぉ! モテるのは否定しないのね……」

 

「顔が良いのは自覚してるので」

 

頬を膨らませて不満な表情をする真由美に対して何ごとも無いように応えた蒼士。そんな蒼士は真由美に近づいて小声で話す。

 

「一科生と二科生の溝、自分の方でもどうにか頑張ってみます」

 

蒼士の言った言葉に驚く真由美。真由美自身も生徒会長としてどうにかしたい問題であり、頭を悩ませていたことでもあった。真由美の周りにもこの問題に協力してくれる人材はいるのだが、思ったように上手くいっていない。

 

そのことだけ言うと真由美から離れて帰ろうとする蒼士。だが、その前に真由美の後ろにいる男子生徒に一言。

 

「すいません、彼女さんに気安く近づいてしまって」

 

えっ、と真由美と男子生徒が固まってしまった。思いがけない言葉に反応できずにいる。

 

帰ろうとする蒼士に真由美の後ろに控えていた彼氏?が勢いよく話そうとする前に真由美がそれ以上の勢いで割って入る。

 

「はんぞーくんは副会長だから!私に付いて来ているだけだから! 彼氏とか全然違うからね!!」

 

蒼士に詰め寄ってハッキリと大きな声で強く否定する真由美。想定外の気迫に冷や汗を流す蒼士は苦笑いを浮かべていた。何もそこまで言わなくても、と。

 

そんな真由美のハッキリとした言葉に、後ろに控えていた男子生徒は明らかに沈んでいた。誰が見ても分かるぐらいに。

 

「あはは、そうなんですか。じゃあ今は誰もいないんですね?」

 

「えぇ、そうよ」

 

蒼士の方が背が高いので自然と見上げる形になる真由美。

 

「––しました」

 

「へっ?」

 

小さな声が蒼士から発せられ、近くにいた真由美の耳には聞こえていた。でもその言葉を理解はしたものの思考が固まってしまう。

 

「えっ……(安心しましたってもしかして蒼士くんって私のことを––)」

 

急に顔を真っ赤にして両手を頬に当て、動揺を隠せずにいる真由美。

 

「蒼士さん行こう!」

 

「うん、蒼士さん行こうよ!」

 

ほのかと雫に両腕を引っ張られる形で学校から去っていく蒼士。そして落ち込む生徒会副会長と顔を真っ赤にしてその場で立ちすくむ生徒会長が残っていた。

 

 

 

 

「ねぇ、蒼士さんって会長と仲良いの?」

 

「いや、今日初めて会ったけど」

 

「えぇぇぇ!う、嘘ですよ~」

 

「本当だって、ほのか」

 

「いくら蒼士さんが話しやすくて優しい人でも会長のあの態度は異常だよ」

 

「信用されているってことじゃないかな、雫」

 

「七草会長って綺麗な人だもんね」

 

「そうだね、あんな美人は男子が放っておかないよね」

 

「蒼士さんは……?」

 

「うーん、様子見」

 

「女の子をその気にさせておいて酷いです……蒼士さんは。そう思わない?雫」

 

「うん、蒼士さんは酷い人」

 

「まぁ、ほのかや雫たちの方が今は気になっているからさぁ」

 

「うへぇ!? 何を言うのですか、蒼士しゃん!」

 

「落ち着いてほのか、これは蒼士さんの罠だよ」

 

「はぁー、雫と手を繋ぎたいなー」

 

「そ、そんな言葉には、この雫軍師は騙されないよ……」

 

「はぁー、雫を抱きしめたいなー」

 

「うくっ、て、手を繋ぐぐらいなら」

 

「しずくぅぅぅ!」

 

「ほ、ほのか、これには深いわけが」

 

「あ、此処がオススメのケーキ屋だよ」

 

「「ちょっと蒼士さん!?」」

 

 

 

 

蒼士にからかわれて彼のペースに持ってかれる形になったほのかと雫は怒っていたが、目の前の美味しそうなケーキに目を輝かせ上機嫌になっていた。そんな二人を笑顔で眺める蒼士は相席した人物たちに話しかけた。

 

「で、達也たちは何で此処に?」

 

「せっかくだからお茶でも、と私がお誘いしました」

 

「で、あたしが此処に誘ったのよ」

 

なるほど、と頷きながら納得する蒼士。達也は優雅にコーヒー、深雪も紅茶を飲んでゆったりとしていた。

 

当初は達也たちを見つけて深雪の存在にほのかが慌てて、雫は冷静で、そんな二人の存在に深雪は自分から自己紹介をして仲良くなっていた。同じA組ということで深雪も気軽に話せる相手が欲しかったようなので二人の存在はありがたかったようだ。

 

そのまま達也、エリカ、美月とも自己紹介をして同じテーブルに座ることになり、親交を深めようとスイーツを食べているのであった。

 

ほのかが自分のことをチラチラと見ているのを達也は気付いていたがあえて相手にせず、深雪は少し警戒していた。お兄様に害をなすつもりなのか、と。でも、そんな心配はなかった。深雪にはほのかが達也を尊敬の目で見ていることを感じ取ったのだった。

 

ほのかや雫に気さくに話そうとする自分に雫はいつも通りの態度で話をするが、ほのかは緊張気味で話をしているのを深雪は笑顔で見ていた。

 

その勢いで蒼士は美月に名前で呼んでもらい、蒼士の方も美月とお互い名前を呼びあう事に成功していた。美月は異性から名前で呼ばれるのに慣れていないようで、顔を赤くさせていた。

 

そんなこんなで交流を深めていく中で達也は疑問を蒼士に問う。

 

「蒼士は二人とどう知り合ったんだ?」

 

一緒にケーキ屋に来るということはある程度は知っている仲なのでは、と推測していた達也。

 

「雫とは雫の親経由で知り合ったよね」

 

「うん、そうだったね」

 

ピースして応える雫。

 

雫の父は実業家で、財界や政界に強い影響力を持つ人物である。そんな二人は北山家主催のパーティで初めて出会い、同い年ということで話すうちに仲良くなって、連絡先も交換。電話でも話すようになってからはほのかと一緒に蒼士と出会っており、ほのかも蒼士のことを知っていたことに驚きつつも時々ほのか、雫、蒼士で出掛けるようになっていたのだ。

 

「何で蒼士くんが大物実業家と知り合いなの?」

 

エリカは疑問に思ったことを聞いた。美月も思っていたことである。

 

「俺ってこういう者なんですよね。このことは秘密でよろしく」

 

蒼士が名刺を取り出してエリカと美月に見せた。その名刺を見た二人は驚いているが達也、深雪、ほのか、雫は知っていたので驚いてはいなかった。

 

「アンタがそうだったのね!」

 

「まさか蒼士くんがそうだったんですね!」

 

半年前から名前が聞かれるようになり、最近では誰もが知っている企業の関係者だということを知ってしまい、声を出さずにはいられなかったらエリカと美月である。

 

ほのかと雫もエリカと美月の反応に自分らと同じ反応だったな、と笑っていた。

 

徐々に落ち着いてきた一同。雫との出逢いは分かったので、次に全員の視線がほのかに注がれる。一瞬だけビクッとするほのかであったが一息して語り出す。

 

「私はストーカーに襲われそうになった時に助けてもらって」

 

ほのかの言葉に雫と蒼士以外は驚いていた。

 

「相手も魔法師だったから私怖くて上手く動けなくて」

 

「俺も偶然通っただけだったけど、ほのかみたいな美少女が襲われてるのは見過ごせるわけないしね」

 

当時のことを思い出してしまったようで震えるほのかにそっと肩に触れる蒼士。彼が触れると震えも止まって落ち着きをみせるほのか。

 

「何事もなく撃退できたから」

 

「う、嘘です! 蒼士さんは銃で肩を撃たれてしまったんです……」

 

蒼士の発言にほのかが真実を述べる。

 

動くことができなかったほのかを守りながら難なく撃退したものの、最後の悪足掻きと懐から取り出した銃を蒼士に向けるのではなく、ほのかの方に向けられてしまい、彼女を助けるために抱きあげて移動する際、肩に当たってしまったのだ。幸い擦り傷程度であったが、ほのかはずっと気にしていたのだ。

 

そんなほのかの気持ちを理解している蒼士はネクタイを緩めて傷がある部分を見せてみた。突如の蒼士の行動に達也は勿論のこと深雪、エリカ、美月、雫も驚きを禁じ得なかった。

 

「ほら、もう傷もないから気にするなよ」

 

「うぅ、だって––」

 

確かに傷は残っていないのをほのかは見た。そして赤面する。

 

「俺が好きでやっただけなんだし、何よりもほのかを守れて良かったよ」

 

蒼士の言葉が余程嬉しかったのか、瞳が揺れて今にも涙を流しそうになっているほのか。彼女は蒼士の瞳を見ながら、彼の暖かな言葉が胸で渦巻いていた悲しい気持ちを消し去ってくれたのを感じた。

 

「ありがとう、蒼士さん……」

 

「あぁ、いつでも守ってやるよ」

 

ほのかの頭を優しく撫でて落ち着かせる蒼士。その行為を素直に、嬉しそうに、恍惚な表情で受け入れるほのか。

 

「じ、事情は分かったけど、蒼士くん……急に脱ぐのはやめてよね」

 

エリカが二人の空間に割って入ってくる。嬉しそうに喜んでいるほのかはエリカの言葉で正気に戻って恥ずかしそうに顔を伏せた。

 

「別にエリカは道場とかで男の裸は見慣れてるだろう? 深雪も達也の裸は見慣れてるだろうし、雫は弟?のを見慣れてるだろう、美月さんはごめんね」

 

思ったことを口にしてしまった蒼士。そして反応する者たちがいる。

 

「ちょ、ちょっと確かに道場連中で見慣れてはいるけど、なんかムカつく!」

 

「わ、わたしが、お、お兄様の裸をですか!?」

 

「弟と蒼士さんの体は全然違うよ!?」

 

「蒼士さんの鎖骨ってとても綺麗ですね、ご馳走様です」

 

女性陣の反応はそれぞれであり、誰もが頬を薄く赤く染めているが、美月は惚けた表情でいた。一人だけ何故だか違う解釈している人物がいるようだが。

 

「さてと、そろそろ暗くなってきたから帰ろうか、今日は俺の奢りだ」

 

伝票を持ってそそくさと会計に行く蒼士。

 

「蒼士さん、私も払うよ」

 

「ちょっと待ってください、蒼士さんっ」

 

雫とほのかが慌てたように彼を追う。

 

「蒼士くん、まだ話は終わってないわよ……って美月はうっとりしてないで行くわよ」

 

「エ、エリカちゃん、べ、別にうっとりなんてしてないよ」

 

鞄を持って蒼士の後を追おうとするエリカ、まだ頬が多少赤くなっている美月も出ようと準備している。尚、この後も美月は上手く誤魔化せずにいた模様。

 

「うふふ、とても楽しい高校生活になりそうですね、お兄様」

 

「はぁ、騒がしいの間違いだろう、深雪」

 

いつまでも二人のペースでいる司波兄妹を深雪は楽しそうに笑みを浮かべ、帰ろうとする蒼士たちを見ていた。達也は軽く溜め息を吐いているが気疲れや失望などではなく、単に深雪と二人で蒼士と付き合っていたら退屈な学生生活を送れずに済みそうだ、とこれから先のことを思ったまでだった。

 

それから自分の奢りで会計も済み、ついでにお持ち帰りで全員にケーキを買ってあげていた蒼士であった。

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