渡り歩く者   作:愛すべからざる光

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第五話

翌朝、蒼士は昨日と同じように真由美と喫茶店で朝食をとりながら楽しく会話している。多少早く家を出ているのに二人とも眠そうな表情などしておらず笑顔で話をしていく。

 

「今日は家の人からは何も言われなかったんですか?」

 

二日連続で朝早くから家を出ているので、何かしら注意されているのでは、と蒼士は思っていた。

 

「昨日と一緒で妹たちから言われたけど、友達と外で食べるからって言ったら納得してくれたわ」

 

何事もないように食後のお茶を飲みながら述べる真由美。

 

「それが男友達って知ったら絶対に怒りますよ」

 

蒼士の言葉にむせる真由美。

 

真由美は考えた。妹たちには相手の名前を出さずにいたから女子同士だと思われているに違いない、だが実際は自分よりも年下の男子と食事をしているのだと。

 

「大丈夫ですか、真由美」

 

むせたことに心配する蒼士であったが真由美の耳には蒼士の言葉は入っていなかった。

 

真由美は思った。今更だが、私って男子と二人っきりじゃん、ということに。

 

「ん、うん、だ、大丈夫よ」

 

むせた影響なのか顔が赤くなっているが手振りで大丈夫ということを示す真由美。内心では今更思ったことに恥ずかしさが溢れ出していたのだ。

 

私って男子とお話する時に普段はこんな気持ちにならないのに、と内心で思っている真由美である。

 

「無理はしないで下さいね」

 

蒼士が心配してくれていることは嬉しいし、異様に心臓が動いており、彼に名前を呼ばれるとどうにもテンションが上がってしまう気持ちになる真由美であった。

 

それから蒼士から話を振って、真由美が相槌を打ったりして通学時間になり、喫茶店を後にした。

 

顔を赤らめている真由美を心配して声を掛ける蒼士に対して深呼吸を五回程して落ち着きを取り戻した真由美。

 

学校の正門まで来ると達也、深雪、エリカ、美月、レオたちと合流して学校の中に入っていく。歩きながら真由美が達也と深雪を生徒会室でのランチに招待していた。達也が行くなら深雪は行くので、深雪がお願いすれば達也は付いていくので、二人とも特に拒否することなく了承していた。

 

「あっ、蒼士くんは強制ね」

 

ウインクを添えて当然のように蒼士を誘った。蒼士も断る理由もないので了承した。

 

 

 

 

お昼になり蒼士と達也はA組に深雪を迎えに行くと案の定、森崎とその取り巻きたちに会ってしまったが明らかに取り巻きメンバーは蒼士を見た瞬間に体をビクつかせて畏怖していた。森崎本人は睨みつけるだけで特に何もしてこなかったのが幸いであった。

 

深雪と合流して約束の通りに生徒会室に向かう三人。

 

「あっ、忘れ物したから先に行っていてくれ」

 

突如、蒼士は何かを思い出したように声を上げて達也たちと別れた。

 

「生徒会室に入ったら四人いると思うけど特徴は––」

 

達也たちに何か言ってから歩いてきた方向を引き返して行く蒼士。そんな蒼士の後ろ姿を見ていた達也と深雪は先ほどの蒼士の発言に疑問を感じていた。

 

「さっきのは一体?」

 

「見れば分かるって、何でしょうかね?」

 

顔を見合わせる司波兄妹。疑問に思いつつも歩き始める。深雪は生徒会の何人かとは顔を合わせているので分かっている人もいるが全員は知らなかった。

 

そして知ることになった。蒼士の言っていた意味を。

 

「ようこそ、生徒会室へ、遠慮しないで入って」

 

ホスト席に座る生徒会長の七草真由美のことは前から知っていたので達也たちは納得。

 

「あれ、蒼士くんは?」

 

三人を誘ったはずが二人しか来ていないのを二人に問う真由美。達也たちは蒼士のことを説明して、後から来ることを伝えて席に着いた。真由美の正面右隣に深雪、その隣に達也が座り、達也の隣に蒼士が座る予定。

 

達也と深雪が座ると正面には生徒会役員である人物たちがおり、蒼士の言った通りだった、と達也は納得して、深雪は顔を知っている人物に会釈して、知らない人を見て、蒼士の言った通りだと、達也と同じく納得していた。

 

真由美が生徒会の面々を自己紹介をしてくれて、ちゃんと全員のことを知れた二人は思わず苦笑していた。

 

「ん、何か変なところあったかしら?」

 

流石に真由美や他の面々に気づかれてしまい、謝る二人であった。

 

「すいません、先ほど蒼士が言っていたことを思い出しまして」

 

「失礼しました、私も先ほど蒼士くんが言っていたことを」

 

一体なにを言ったんだ、と生徒会の面々は一緒のことを思い、二人に聞いてみた。

 

「七草先輩のことを『お姉さん的な存在に見えて可愛らしい美少女』と」

 

「なぁ!? お姉さん的なって、私の方が年上なんだからね」

 

達也の言葉にこの場にいない蒼士に怒る真由美。本気で怒っているわけでない。

 

「渡辺先輩のことは『クールな見た目に反して乙女で彼氏持ちの勝ち組』と」

 

「おい!? あいつの中での私のイメージはどうなってるんだ!」

 

深雪の言葉に真由美と同じく声を上げて怒る摩利。勿論、本気で怒っているわけでない。

 

「市原先輩のことは『生徒会の頭脳であり、冷静沈着な美女』と」

 

「そうですか、有難い評価ですね」

 

達也の言葉に何事もなかったように答える鈴音であったが、頬が少しだけ赤らめて、口元が緩んでいるが手で隠していた。

 

「中条先輩のことは『去年の主席入学者で生徒会の可愛らしいマスコット的な存在』と」

 

「あ、あれ、私って褒められてます? 馬鹿にされてます?」

 

深雪の言葉に疑問を浮かべるあずさであったが、一つ上の先輩としてマスコットと思われていることに腕を振り上げて怒っているあずさ。勿論、本気で怒っているわけでない。

 

そしてこのなんとも言えない雰囲気を作った張本人が登場した。達也たちを見ると言葉を述べた。

 

「おっ、その様子だと予想通りだっただろう?」

 

何事もないように言う蒼士に詰め寄る人物たちが居た。

 

「ちょっと、お姉さん的なって酷いわよ!」

 

「お前な、このことをペラペラと喋るなよ! 私は良いが、しゅ、シュウの方に迷惑が掛かるだろう」

 

「蒼士くん、私のことをマスコットと思わないで下さい! 上級生として敬って下さい!」

 

三人から怒涛の言葉責めを喰らう蒼士。

 

「まぁまぁ、落ち着いてください」

 

落ち着かせようとするものの蒼士に詰め寄って、次々と言葉を述べていく真由美、摩利、あずさ。

 

「お二人は何にしますか?」

 

騒いでいる面々を無視して鈴音は食事の用意をしていく。一人だけ褒め言葉しか貰わなかったので別段怒る理由がないので冷静に下級生の面倒を見ていく鈴音であった。

 

達也と深雪はそんな鈴音を見て、確かに冷静沈着だ、と心から思っていた。

 

 

 

 

「お兄様、私たちも明日からお弁当にしましょうか」

 

「深雪の弁当はとても魅力的だけど、二人になれる場所がね」

 

「兄弟というより恋人同士の会話ですね」

 

「市原先輩、この二人は血の繋がりがなければ恋人になって結婚している領域ですよ」

 

「蒼士、確かに俺は血の繋がりがなければ恋人にしたいと考えたことはあるが」

 

「あるが?」

 

「もちろん、冗談ですよ」

 

「「えっ!?」」

 

「中条先輩の反応はまだしも、深雪が反応するのはどうなんだろうな? 深雪さん?」

 

「え、いえ、あの、蒼士くん、何を言うのよ」

 

「そんな達也と深雪にオススメの情報が」

 

蒼士は情報端末を机の真ん中に置き、全員に見えるように表示した。

 

「日本ではダメみたいだが、海外なら近親婚出来るところもあるみたいだぞ」

 

「え、ちょっ、蒼士くん!? 何を言い出すの!?」

 

「二人の応援をしようとね」

 

「だからあれは冗談だと言っているだろう」

 

「達也……まぁ、頭の片隅にでも入れておくといいかもね、あとで深雪にこの情報を送っておくね」

 

「は、はい! じゃ、じゃなくてですね!」

 

「蒼士くん、二人を揶揄うのもそれくらいにしてあげなさい、これは二人の問題なんだから!」

 

「そうだぞ、愛の前では何人(なんぴと)たりとも止められないものだぞ!」

 

「流石は彼氏持ちの人は余裕がありますね」

 

「おい、蒼士くん! 余計なことは言わなくていい」

 

賑やかなお昼を過ごす生徒会室であった。

 

 

 

 

食事も終わり、一息しているところで真由美が生徒会の役割の説明をして、深雪を生徒会の役員に勧誘していた。

 

隣で聞いていた達也には妹の深雪がちゃんと評価されているのに兄として嬉しくしていた。そんな穏やかな状態は長く続かなかったが。

 

深雪が兄の達也も生徒会に入れてはくれないか、と申し込んだのだ。兄の入試成績の話を持ち出し、有能な人材を迎え入れる、という生徒会の方針に深雪は自分よりも優れている達也が相応しいと語る。

 

隣で聞いている達也は気が気ではなかった。止めることもできず深雪が語ってしまい、身贔屓(みびいき)な発言に焦る達也。

 

「––––ふふ」

 

必死に懇願する深雪に焦る達也であったが、真由美、摩利、鈴音、あずさは口元に手を当てて肩を震わせていた。

 

「ほら、言った通りになりましたよね!」

 

達也の隣に座っている蒼士が声を出した。深雪と達也は何が起きているのか分かっていない。

 

「えぇ、本当にその通りね」

 

笑いながら応える真由美。

 

「絶対になりますって言うから期待はしていたが本当になるとはな」

 

笑っていたのが落ち着いたのか摩利が述べた。

 

「特に冷静な司波くんが唖然としたのは少し面白かったです」

 

いつもの冷静な表情に戻っている鈴音。先程まで控えめに笑っていた。

 

「ふふ、でも蒼士くんもよく予想できましたね?」

 

まだ少し笑っているあずさが蒼士に聞いてみた。

 

「自分もまだ司波兄弟と仲良くなってから日は短いですが、二人の兄弟愛は相当なものだと分かっていましたから」

 

してやったり、とドヤ顏をする蒼士に、イラッとするのを我慢する達也と深雪。

 

「ごめんなさいね、達也くん、深雪さん、蒼士くんが深雪さんを生徒会に勧誘するなら兄の達也も居た方が面白いですよって言うからね」

 

真由美の言葉に再度イラッとする二人。

 

「蒼士くんから達也を風紀委員に入れてはどうか、と言われてね、生徒会の推薦枠で入れるつもりだ。そして風紀委員は二科の生徒を選んでも規定違反にならない」

 

摩利の発言にイライラが一瞬で晴れた深雪は笑顔になり、そして達也は困惑。

 

「ちょっと待ってください! 風紀委員が何をする委員会か、分かっているでしょう!」

 

「勿論だとも、そこで二つほど試させてもらうよ、蒼士くん」

 

達也が焦った声色で言うが、すぐに摩利の言葉に反撃された。摩利に呼ばれて蒼士は足元からケースを机の上に置き、中からCADを二つ取り出した。

 

そのCADに関してはこの場にいる全員が興味を持っていた。一般的に普及されているCADではなく、半年前から急に市場に参入し、瞬く間に全世界に知られることになったCADであった。

 

「中条先輩に見せるのも兼ねて持参したCADです、もう一つはCADではないですがね」

 

蒼士の手にあるCADに注目していた。形は一緒のCADが二つあるように見えるが一つは別物。

 

魔法師にとって魔法を起動するために必要な道具であるため現代魔法師が現代魔法を使うために必須のツールである。

 

H(ヒロイック)S(スカイ)A(オールマイティ)社のCAD『加護(プロテクション)()指輪(リング)』と呼ばれています」

 

加護(プロテクション)()指輪(リング)と呼ばれた物は指輪型のCADで普通の指輪となんら変わらない形をしており、赤の宝石が付いている。普通の指輪にも見え、魔法師が使うような代物には到底見えない。

 

「そしてもう一つの青の宝石が付いている指輪が一般人でも使える代物の加護(プロテクション)()指輪(リング)です」

 

形状はまるっきり同じであるが嵌っている宝石が赤か、青かの違いしかない。

 

「赤の加護(プロテクション)()指輪(リング)はCADであり、攻撃魔法系も勿論起動できますが、あくまでこれはCADの補助をメインに作られています」

 

蒼士が達也に渡してそれを興味深そうに観察しており、深雪に渡してどんどん流れて渡していっている。

 

「装着者の魔法の起動式立ち上げ、取り込みを通常の二倍の速さで実現させる」

 

蒼士が説明しながら指輪型のCADは真由美から摩利に渡っていた。

 

「この指輪型のCADはサイオンを流して起動するがサイオン波の干渉を受けないので実質両手にCADを持てることになります。その場合は使用しているCADの補助をしているために攻撃魔法などの起動はできず、ただの装備品になります」

 

片手に汎用型、特化型のCADを持ち、もう片手には加護の指輪を付けている場合は加護の指輪は攻撃系の魔法は起動できずに片手に持つCADの補助にまわる仕組みになっている。

 

「そして青の加護(プロテクション)()指輪(リング)は一般人向けに作られた物です。動力源は電気であり、健康管理をメインで作られ、装着するだけで本人のコンディション状態、一日前との体調の比較、自分にあったダイエットのオススメの料理などのサポート機能、などなど、まだあるのと、オマケにスタンガンのような護身機能も付いている」

 

蒼士の説明の途中から真剣に聞いている女性陣。魔法師しかいないこの場にも関わらず明らかにこちらの指輪に興味津々な女性陣。約一人はCADに夢中になっているが。

 

「そのCADの中にある魔法式を構築するためのデータの塊、起動式を達也に当てて欲しい」

 

あずさの手に渡った瞬間に飛び上がるように嬉しそうに眺めて、頬ズリして瞳を輝かせてうっとりしている。

 

「蒼士くんから聞いているが、君は起動式が読み取れるようだから、この場で証明して欲しい」

 

起動式の情報量は膨大すぎて展開する本人も処理するだけで精一杯なことなのに達也はそのデータの塊を理解できるのだ。

 

「お兄様……」

 

不安そうな表情を浮かべる深雪を見た達也は決意していた。

 

「蒼士、さっそくやってくれ、分析は得意分野だ」

 

深雪に悲しい表情は似合わない、そう思っている達也は行動していた。

 

達也の言葉には動揺や不安などなく、ハッキリとした声であったのに生徒会メンバーは驚いており、蒼士は笑顔を浮かべていた。

 

「それでこそ司波達也だな、じゃあ、さっそくやります」

 

あずさから渡して貰い、蒼士は魔法をいくつか起動させた。その起動式を見て、何の魔法を展開したか、迷うことなく答える達也。それが続いて十回目の起動式もハッキリと答えた達也。

 

起動式を展開した本人である蒼士は達也の答えが全部合っていることを言葉にしてハッキリと伝えると達也の事情を知らない面々は驚愕する。本当に理解しているとは思えなかったからだ。

 

深雪は分かっていたように満面の笑みで達也を見ると達也も笑みを浮かべて返していた。

 

「凄いな、君は」

 

達也のことを再評価した摩利。摩利の言葉に会釈して感謝の言葉を述べた達也。

 

「ありがとうございます、で二つ目は何ですか?」

 

一つ目は満点レベルの評価を生徒会メンバーと摩利から貰い、二つ目に挑む。

 

「力比べだ、喧嘩が起こった場合に力ずくで止めれるか知っておきたいから模擬戦をしてもらう、相手は私がやろう」

 

摩利が述べた。第一高校の警察の役割を担う風紀委員は魔法使用に関する校則違反者の摘発と魔法を使用した騒乱行為の取り締まりである。

 

「無論、私は起動式を読み取る分析力でも風紀委員に入れたいが一応実力も知っておきたいからね」

 

摩利の発言に真由美も鈴音もあずさも頷いていた。達也の分析力だけでも評価に値するレベルであるのを実感しているからだ。

 

「そういうことだから、放課後は摩利と模擬戦をしてもらうからね、今はここまでね」

 

真由美は昼休みの終わりが近づいていたので一旦終わらせることにした。達也はまだ話したいことがあったが諦めた。

 

実技が優秀じゃないから二科になったのに実力を見せてもらおうって言われてもな、と内心で愚痴っていた達也。

 

深雪は達也が生徒会の面々に評価されて嬉しそうにしていた。そして放課後も待ち遠しそうにしている。達也の本当の実力を知っているので確実に勝てると信じて疑っていないからだ。

 

 

 

 

「そういえばプロテクション・リング以外にもケースの中に入っていたようだが?」

 

「見られていたか、あれは俺のCADだよ」

 

「蒼士くんのCADはどういうのなんですか?」

 

「うーん、近々見せるよ、別に大したものではないしね」

 

「嘘をつくな、お前のCADが大したものではないはずがないだろう」

 

「深雪もお兄様と同じ意見です、あのプロテクション・リングだって現在のCADの中で最小だと聞いておりますが?」

 

「そうだ、ハードが指輪型で小さいのに一般で購入できる汎用型CADのハードを凌駕し、特化型に迫る性能を持っているのがか?」

 

「ははは、そこまで評価されているのは嬉しいものだね、じゃあ休みの日に我が家に招待してそこで教えるよ、二人とも予定を空けといてね」

 

「あぁ、よろしく頼むぞ」

 

「はい、楽しみにしていますね」

 

蒼士の家に招待された達也と深雪であった。だが深雪がエリカたちの前でこのことを言うとエリカ、美月、レオ、ほのか、雫も来ることになったのだった。

 

 

 

 

放課後になって達也と深雪は生徒会室に移動していた。約束通り摩利と模擬戦をすることになっているので事務室にCADを取りにいってきたので、達也の手にはCADの入ったケースがある。

 

「蒼士くんは後から合流するみたいです」

 

「あぁ、そうみたいだな、それにしても蒼士のあの言葉はなんだと思う、深雪」

 

隣を歩く深雪に達也は聞いていた。

 

蒼士とも生徒会室に向かう予定だったのだが、先に行くところがある、という事で蒼士とは一緒にいないのだ。

 

「私にも分かりません」

 

「そうだな、模擬戦は早く終わると思うから俺とも戦ってくれ、か」

 

まるで予言みたいに言う蒼士の言葉に達也も深雪も理解できていなかった。

 

生徒会室に着くまでは––––

 

「司波深雪さん、生徒会へようこそ、副会長の服部(はっとり) 刑部(ぎょうぶ)です」

 

深雪には挨拶をして、隣の達也のことは睨みつけていた。

 

そんな様子に真由美は申し訳なさそうな表情を浮かべ、鈴音は知らない顔でおり、あずさはあわあわ慌てていた。摩利に関しては片目を瞑り、両手を合わせて声をあげずに謝ってきている。

 

 

なるほど、蒼士が言っていたことはそういうことか、渡辺先輩よりも格下(・・)を相手にするから、だから早く(・・)終わるか……

 

 

 

 

「お前はこれを何処で入手したんだ?」

 

ズシリと頭に残る威厳がある声、分厚い胸板と広い肩幅、制服越しでも分かる、くっきりと隆起した筋肉。

 

そんな存在が蒼士の目の前にいる。

 

「情報を集めるのは得意なので十文字(じゅうもんじ)先輩」

 

蒼士と対談していた人物は十文字(じゅうもんじ) 克人(かつと)という。十師族の十文字家の次期当主であり、第一高校の部活連会頭でもある人物。

 

「そうか、この情報を渡したからには何かして欲しいのだろう?」

 

今は二人だけでの話し合いをしているが、この案件は自身の父親も混ぜるべきだと思っている克人。

 

「勿論、十師族の十文字家の力で関東内に散らばっている反魔法国際政治団体『ブランシュ』を二箇所に集めるように工作して欲しいんです」

 

蒼士のこの発言に声は出さないが驚く克人。第一高校内でも情報規制されており、政府も規制しているので知っている人もごく僅かなはずが。

 

ブランシュ……魔法能力による社会差別を根絶することを目的とした組織である。だが、それは建前で強行手段に訴え、テロのような行動も起こしている危険な組織。その中には若年層が中心の『エガリテ』という下部組織もある。

 

「二箇所? 一箇所では無くてか? それと集めるだけでいいのか?」

 

「もう一箇所は七草家にやってもらいたく、試したいことがありますので集めるだけで結構です」

 

蒼士の口から出た言葉に再度驚く克人。十文字家だけでなく、十師族の七草家まで動かすつもりなのだと。

 

「関東一帯の守護と監視は七草家と十文字家の両家です。どちらかに加担することはしたくありませんので」

 

克人の警戒度は上がっていた。蒼士が持ってきた情報は有用であり、ブランシュを壊滅に追い込むには十分なものであった。

 

「二箇所というのは監視がしやすくなりますし、それと勘付かれて逃走された時にゲリラ的な行動にならずもう一つの拠点に逃げ込むはずですので、ただの逃げ場です」

 

ちゃんと考えているんだな、と克人は蒼士を評価する。テロリストが散り散りに逃げ、ゲリラ的な行動をされるのは非常に面倒になるのを頭で理解していた克人。

 

「魔法師の非難的な世論を拡大させるのは十師族としては不快であり目障りなはずです。悪い話ではないと思いますが?」

 

日本の魔法師のトップに君臨する十師族としても魔法を非難される、魔法師を非難されるのも立場的に社会的にも嫌う。

 

「……梓條、この件を承諾したとしてだ、お前は何を得る」

 

「両家の当主に顔を知っていただけます」

 

地位が上がっていけば、それだけ人と会い、顔を知ることになる。その中でどれだけ地位の高い者に顔を覚えてもらうかが出世の近道だと蒼士は思っていた。

 

「ふははは、面白いな、お前は」

 

思わず笑ってしまった克人。表情が乏しそうにも思えたがそうではなかった。

 

「十文字先輩、あともう一つ得たいモノがあります」

 

「聞こう」

 

ある程度笑って落ち着くと蒼士の言葉に耳を傾ける。

 

「ブランシュが持つ組織金、お金を頂きたい」

 

なるほどな、と克人は一人納得していた。組織というのは、人、モノ、金で動くものだ。金があればある程度のことは出来る、それに組織のお金というと大量であろう。

 

「すまないが理由を聞いてもいいか?」

 

大量のお金を手に入れて何をするのか、気になる克人。

 

「……借金の返済です!」

 

「……」

 

予想していたことではなく驚きもするがそれよりも何とも言えない気持ちが込み上げてくるのを克人は感じていた。若いのに大変だな、とも思えてきた克人。

 

「この件は当主である父には俺から言っておく、お金のこともな。強く生きろよ」

 

「……はい、宜しくお願いします」

 

蒼士は話していないが自分が会社を持つために資金提供してくれた人物に返すためである。冗談で高額な金額を要求してみたところ、ポンッとくれたのでその資金で会社を建てたのだ。

 

資金提供者からは別に返さなくていい、と言われたが自分自身が納得できないので蒼士は返す気でいるのだ。

 

「話が変わるが梓條、風紀委員に入るのだろう、期待しているぞ」

 

克人も一科生、二科生の差別意識的なのは持ってはいないので二科生だろうと実力があれば文句はなかった。

 

「十文字先輩がこの後お暇なら、自分と同じ二科生の生徒と服部副会長の模擬戦を見に行きませんか?」

 

「なんだと、服部がやるのか!?」

 

克人は服部の実力を知っているので驚いていた。二年生の中でもトップレベルの実力を持つからだ。

 

「本当は渡辺先輩が司波達也の相手をするはずだったのですが、服部副会長に変わったみたいです」

 

「七草が言っていた司波兄の方か」

 

三年同士でもあり、真由美、摩利、克人は三人で三巨頭と呼ばれているのでお互いに話をしたり情報を共有していたので司波達也のことを克人は知っていたのだ。

 

「先ほど七草先輩から連絡を貰いましたので、どうですか?」

 

「面白そうだな、では俺も行こう」

 

二人で達也と服部が模擬戦を行う第三演習室に移動した。

 

歩きながら蒼士が話を振ったが冷たくされることもなく、気さくに返答してくれる克人だった。克人の方も梓條蒼士という人間を知ろうと話をしていく。

 

そして第三演習室について克人は驚愕する。

 

「……勝者、司波達也」

 

達也が向けるCADの銃口の先で、服部の体が崩れ落ちて倒れていた。摩利による勝ち名乗りを二人はちゃんと聞いた。

 

克人は服部が倒されたことに驚きもしたが、それよりも今年の一年生には面白い人材が入ってきたな、と隣にいる梓條蒼士と服部を倒した司波達也の事を見るのであった。




赤の加護(プロテクション)()指輪(リング)……魔法師用に作られた指輪型のCAD。魔法陣の起動式の立ち上げ、取り込みを通常の二倍にする。

青の加護(プロテクション)()指輪(リング)……一般人向けに作られた指輪型サポートアイテム。装着者の健康管理をメイン。本人の体調状態、前日との体調比較、本人に合った最適なダイエット方法、食事管理のサポート、護身にスタンガン機能付き。


本当は寵愛と加護の指輪(ダクソ)とかにしたかった(^ω^)
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