渡り歩く者   作:愛すべからざる光

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第七話

真由美は蒼士が第三演習室で耳元で述べた言葉を思い出していた。

 

(もしも本当に許可を貰えたら本気で付き合いたいですよ)

 

「(蒼士くんったら私のこと好きだったのね)」

 

「上機嫌ですね、七草先輩」

 

「蒼士くんと一緒に帰れてるからかな、それと運転手の人には聞こえないようになってるから名前で呼んで」

 

「そっか、ありがとう真由美、用事がなければ何時でも一緒に帰るよ」

 

「うん、そうするわ」

 

上機嫌な真由美と一緒に七草家へ向かう蒼士。車で七草家に向かっているが護衛の運転手の人と話をすると当主から聞いていたようなのですんなりと話が通った。

 

「でも父に用があるって一体なんなの? ほ、本当は交際の許可とか?」

 

「残念ながら違います、まぁその事も聞きたいところですが今回は我慢して別の話です」

 

「(別に私はいつでもいいのに)」

 

「真由美?」

 

「ううん、なんでもないのよ。このままだと夜も遅くなってしまうからご飯も食べていくといいわ」

 

「ご迷惑では?」

 

「蒼士くんはそこまで気にしなくていいわよ、お客様をおもてなしするのは当たり前じゃない?」

 

「ご当主様の許可が貰えればありがたくご一緒させてもらいますよ」

 

「うんうん、それでいいわ」

 

 

 

 

七草家に着くと蒼士は客間に通されて、真由美は制服から私服に着替えていた。そしてもう一人、十師族七草家の現当主にして真由美の父である、七草(さえぐさ) 弘一(こういち)であった。

 

護衛の方々は部屋の外で待機している。

 

「本日はお約束したとはいえ急なご対応ありがとうございます」

 

「気にしなくていい、それに君には会ってみたいと思っていた。H・S・A社の社長殿」

 

弘一がさりげなく言った言葉に弘一の隣にいた真由美は驚愕していた。口元に手を当てて非常に驚いている。

 

「そ、蒼士くんがそうだったの!?」

 

「自分は隠さなくていいと言っているんですが、取締役の四人が「学業に集中させたい」ということで表立っては名前は明かしてませんでしたから」

 

H・S・A社……半年前から急成長を遂げた民間企業であり、多岐に渡り『物作り』『商社』『商売』『金融』『サービス』『マスコミ』『ソフトウェア・通信』のあらゆる業界に進出して成功を収めている。魔法師にも役立つ商品などを出してはいるが、一般人にも人気な商品を数多く出しており瞬く間に名前が広がった理由は一般人の間での情報交換、SMSなど口コミ拡散が主であった。

 

今は『物作り』に集中しており、魔法工学部品メーカーに進出中であり、CADの部品やソフトウェアに着手している。

 

十師族である七草家であればある程度の情報も簡単に手に入るのは伺える。そして蒼士の前にいる弘一はそんな彼を個人として知ろうとしていた。

 

「第一高校の入試の成績は軒並み普通であったね、実力を隠していたのかな?」

 

第一高校の入試なんて生徒にもバレているので調べればすぐに分かる事であった。

 

「お恥ずかしながら入試前日まで魔法に興味を持っていなく、勉強をしていませんでしたので、一日で覚えるには大変でして」

 

「……だが、一日で入試に合格する順応能力は尊敬に値するよ」

 

真由美が驚いていた蒼士の入試理由に弘一は顔色一つ変えずに応えていた。

 

「恐れ入ります」

 

軽く頭を下げてお礼を述べた蒼士。

 

「では本題に入ろうか、君が持ってきてくれた交渉材料に我々も協力しよう。先ほど十文字家からこの件について協力要請も受け取ったよ」

 

弘一が端末を起動して見せてきたものは十文字克人に見せたものと同じブランシュ構成員リスト、下部組織エガリテの構成員リストであった。そして現在の職種や何処にいるのかが詳細に書いてあるものであった。

 

「え!? 蒼士くん、ブランシュとエガリテのこと知っていたの? 情報規制していたはずなの」

 

「規制していようが噂の出所を全て塞ぐのは無理でしょう」

 

蒼士の言うことは正しかった。国が情報規制しているが魔法師を目の敵にしている者たちにとっては情報規制している時点で国に不快感と不安感を抱くに違いなく、それが国の重要ポストに付いている人間だったら情報規制など無いに等しいので外部に漏れる。

 

「そうだな、この件に関しては政府の対応が悪いと私も思っている」

 

サングラスを一瞬だけ弄った弘一。

 

「七草様なら意見の一つも言えたはずではないでしょうか?」

 

「……」

 

十師族の七草家の当主なら何かしら対応ができたのでは、と蒼士は思っていたようだ。

 

「もう起こってしまった事態ですから、あとはどう解決するかですから、お気になさらず」

 

「そうか」

 

蒼士の言葉に一言だけ述べて切り替える弘一であった。

 

「君が提案してきた件には我々七草家も乗る気だが、二箇所の拠点に構成員を集めるだけでいいのか?」

 

「はい、それで構いません。制圧は私の部隊を派遣します。H・S・A社の実働部隊ですがまだ出来たばかりで実力が計りかねますので、実践に初投入です」

 

ほぅ、と興味がある雰囲気を漂わせる弘一にやっぱり乗ってきたか、と思う蒼士。

 

「それはこちらの部隊も居てもいいのかい?」

 

「構いません、十文字家の方でも実力を見たがっているようなので」

 

監視も兼ねて実力を知れるので弘一としては有難かった。

 

「ブランシュの武装などの情報も随時十文字家と共有させていただきます、アンティナイトについても」

 

相手の情報を知っていれば有利に事が運べるので蒼士は情報を隠さずに共有することにしている。

 

「二箇所に追い込むのは十文字家、七草家にお任せします。存分に采配を奮って下さい」

 

「あぁ、そこは任せてくれ」

 

一応の話は終わり、詳細は後日煮詰めるとして弘一から食事のお誘いを受けたので承諾した蒼士。真由美がこっそりと話をしておいたみたいだ。

 

「私はまだ仕事があるから行けないがゆっくりしてくれ」

 

弘一のご厚意に頭を下げてお礼を述べてる蒼士。

 

「そういえば君は真由美のことをどう思っているんだ?」

 

「お、お父様!?」

 

突然の弘一の言葉に問いかけられた蒼士ではなく真由美が慌てていた。

 

「先輩たちの中では一番仲良くさせて貰っています、信頼も信用もしています」

 

「ふむ、異性としては?」

 

「お、お、お父様!?」

 

蒼士の本音の部分を聞いてみたいと思っている弘一。自分の娘に好意を抱いているなら、彼を取り込むのにも使えるかもしれないという考えもあるようだが。

 

「好意が無いといえば嘘になります、まだ出会って日も浅いのでこれが勘違いかもしれませんが」

 

「そうか、悪かったね。真由美と一緒に食事をしてきなさい」

 

部屋から出て行く弘一を見送り、先程から動かなくなっている真由美に近づいていた蒼士。顔を真っ赤にしている真由美に呼び掛ける。

 

「七草先輩、大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫よ、お、お父様ったら何であんなことを聞いたのかしら?」

 

手を激しく動かして大丈夫なように見せているが顔がいまだに赤く、大丈夫には見えなかった。

 

「娘に悪い虫が付いていないかを確かめたかったのでは」

 

「そんな蒼士くんはそんな子じゃないのに」

 

蒼士のことで悲しそうな表情を浮かべてくれている真由美に近づいて肩に手を置く蒼士。自分のことをここまで想ってくれていることに感謝していた。

 

「ありがとう、真由美に親しく想われているだけで俺は嬉しいよ」

 

「そんな、私が蒼士くんを想っているのは当然よ、だって––」

 

意を決して真由美が蒼士に言おうとした瞬間であった。

 

「お姉ちゃん! 話し合いは終わったの––」

 

扉が勢いよく全開になったと思ったら小柄な少女が入ってきた。

 

蒼士は真由美から聞いていたから分かったが彼女が双子の妹の一人の片割れであり、扉から隠れてこちらを見ているもう一人がもう一人の片割れだと分かった。

 

「こらーーーっ! お姉ちゃんから離れろ!」

 

彼女から見たら真由美が蒼士に抱きついているように見える位置取りにいたので激昂してCADを操作して魔法を使用しながら飛び蹴りをしてきたのだ。

 

「ちょっと失礼しますね、七草先輩」

 

「ひゃ、蒼士くん!?」

 

真由美を胸元辺りまで抱き寄せ、飛び蹴りをしてきた少女に向けて手をかざしていた蒼士。

 

急に抱き寄せられて焦ってはいたが、現状を堪能をしようとする真由美は蒼士の胸元に埋もれ、これ好きかも、と顔を埋めて酔い()れていた。

 

「ちょ、何で魔法が消えたの!?」

 

蒼士が手をかざしていた先にいた少女は空中で態勢を整えて着地していた。それよりも魔法がキャンセルされて発動しなくなったことに混乱しているようだ。

 

「アンタがやったのか!? それとお姉ちゃんから離れろよ!」

 

走って近づいてきて姉の真由美を引っ張って、蒼士から離れさせようとしているが離れない。蒼士自身は真由美のことをもう抱き寄せてはいなかった。ということは真由美がしがみ付いているということに。

 

「七草先輩、離れてもいいですよ」

 

「もう少しこのままでいいでしょう」

 

蒼士から離れない真由美。蒼士の匂いを嗅ぐようにしている真由美に思わず苦笑いを浮かべる蒼士。真由美ってこんな性格だったっけ?と思ってしまう蒼士。

 

「何をやったんだよ! お姉ちゃんが変態さんになってしまったじゃないか!?」

 

妹さんに責められる蒼士であったが、俺が悪いのか?と不思議でしょうがなかった。

 

そんなやりとりをしていると扉の方にいた双子の片割れが小走りで来てくれた。瓜二つの二人に真由美から聞いていた通りの双子の妹なんだな、と実感させられた蒼士。

 

香澄(かすみ)ちゃん、落ち着いて下さい。お姉さまはきっと大丈夫なはずです、多分」

 

「多分って泉美(いずみ)! ボクの直感が叫んでる! コイツがいるとお姉ちゃんが狂ってしまうって!」

 

あれ、もう一人の妹さんが止めてくれるのでは?と思っていた蒼士はこのままでは埒が明かないと思い、胸元にいる真由美を正気に戻すことにした。

 

「––ぞ!」

 

「ひゃい、ちょ、ちょっと、それは待って! 心の準備も出来ていないし、お風呂にも入っていないから!」

 

真由美の耳元で響かれた蒼士の言葉に瞬時に彼から離れ飛び退いた真由美であった。そんな飛び退いた真由美にしがみ付く双子の妹二人。

 

 

 

 

なんとかその場を治めて、食事をすることになったが真由美の妹たちが蒼士の事を観察していて食事に集中できずにいたのだ。

 

敵意を剥き出しにしている七草(さえぐさ) 香澄(かすみ)という。癖のないショートカットのボーイッシュな少女。

 

それに対して丁寧な口調で自己紹介をしてくれ、肩に掛かるストレートボブの少女が七草(さえぐさ) 泉美(いずみ)という。

 

姉である真由美からお客様に失礼でしょう、と注意をされていたがあまり効果はないようで、二人して蒼士に視線を向けていたのだ。

 

だが、蒼士本人はそんなことを気にするたまではないので真由美と会話をしながら香澄と泉美にも話を振りながら会話していく。そんな気遣いに真由美は感謝しながら蒼士との会話を楽しんでいた。

 

「ねぇねぇ、蒼士くん、さ、さっき言ったことって本当にやるつもりだったの?(ベットに連れ込むぞ!って本当に積極的なんだから、でも実際そんなことになったら逆らえないかもな、私)」

 

「いえ、ここは七草家ですからそんなことをするはずないじゃないですか」

 

「そ、そう、そうよね」

 

「我が家だったら我慢できずにやっていたかもしれませんが」

 

「……えっ!? えぇーーーーーー!!?」

 

顔を真っ赤にさせて両手で自分の体を抱いてくねくねしている真由美。

 

「こらぁ! お姉ちゃんに何言ったんだよ!」

 

「ここまで嬉し恥ずかしそうにしているお姉さまは見たことありません」

 

大きな反応をされれば近くにいる人は気付く、それは一緒に食事をしていた香澄と泉美も然り。姉の驚愕の声に香澄はいち早く反応して、泉美も姉の動揺っぷりに驚きながらも感心していた。

 

「そ、そっ、蒼士くん、ちょ、ちょっとまだ早いというか、や、やっぱり、そ、そのぉ……」

 

頭から湯気を出して顔を真っ赤にしている真由美は指と指を合わせて恥ずかしそうにしながらもそんなことになったら実際問題、受け入れちゃうな、とさらに顔を赤くさせてしまっていた。

 

話せる状況ではなくなった真由美をそっとしていて、蒼士は妹二人に話し掛ける。

 

「そういえばさっきの香澄ちゃんの飛び蹴りはなかなか様になっていたね、でも蹴り足を伸ばして、上に蹴り上げず、前に刺すようにすると威力が上がるよ」

 

「そ、そうなの、って何でそんなことが分かるんだよ」

 

蒼士に当たる前に魔法をキャンセルさせて飛び蹴りは不発に終わったのに蒼士は一瞬見ただけで最適な飛び蹴りのやり方を教えてあげるぐらい理解していたのだ。

 

「体術は学んでいるし、体の動きは自身でも分かっているつもりだから分かるんだよ、香澄ちゃんは蹴り技も強そうだから脛を狙うのもアリだね、魔法無しの場合は」

 

「ふーん、ボクも学んでお姉ちゃんのように強くなりたいから、一応聞いてあげるよ」

 

蒼士が語る人間の体の弱点部分や最適な蹴りや膝蹴りのやり方を喋っていると香澄は興味なさそうに聞いている振りをして真剣にその話を聞いていた。

 

「泉美ちゃんは冷静で周りのことがちゃんと見えていて偉いね」

 

「そんなことはありません、それに私が香澄ちゃんの行動を見ていたのに気付いていましたよね?」

 

活発で好戦的な香澄に比べて、随分と落ち着いて視野を広く持っている泉美。お淑やかでおっとりとした空気を纏った雰囲気があるので姉の香澄よりもしっかりしている印象が持てる。

 

「七草先輩はこんなにも可愛らしい双子の妹がいらっしゃったんですね、自分は一人っ子でしたので」

 

「兄もいるけど、一番仲がいいのはやっぱり香澄と泉美なのよね」

 

姉妹仲は良好であり、香澄はお姉ちゃん大好きっ子で泉美も負けず劣らずお姉さんのことは好きなようだ。

 

気がついたら香澄と泉美とも普通に話すようになり、普通に二人の名前を呼んでいたりする。他人の家ということで丁寧な口調で話している蒼士であった。

 

三姉妹の方も普段は父や兄が居て食事などもするが基本は三人で食べているので、蒼士が加わって話が尽きることがなく、楽しく食事をして過ごせていたようだ。

 

 

 

食事も終わってゆっくりしている真由美、香澄、泉美であったが蒼士の姿はなかった。蒼士は少し席を外していて、今は三人だけだった。

 

「二人とも、蒼士くんとお話して、いい子だって分かったでしょう」

 

「うぅぅ、癪だけどアイツが良い奴っていうのは認める」

 

「お姉さまの言う通りです。まだ出会ったばかりなのにお話しやすくて、特にお姉さまや香澄ちゃんのことを褒めて下さって私は嬉しかったです」

 

まるで自分のことのように言う真由美は二人が蒼士のことを信用に値すると認めてくれたことに嬉しそうにしていた。

 

「役に立つことも教えてくれたし、ボクとしてはまだアイツから聞きたいことがあるかな」

 

「私も時間が許す限りでいいのでお話をしていたいです」

 

妹たちが蒼士に興味を持つのは別に悪いことではないし、寧ろ良いことだと理解しているはずなのに、言葉では説明できないけどイヤだと少しだけ思ってしまっている真由美がいた。

 

「でもアイツってボクが見た男の人の中で一番顔が整っているんだよね、泉美もそう思わない?」

 

「あっ、香澄ちゃんの言う通りだと思います。非常に容姿が整っていてカッコいい人だと思いますよ」

 

香澄と泉美の言葉に真由美は内心で同意した。

 

真由美の内心では、学校でも毎日女の子と話をしているし、気付くと近くに女の子がいるし、マルチスコープで遠目から見た時だって女の子とお話しているし、男の子といるよりも女の子といる方が圧倒的に多いし……

 

「ねぇ泉美、お姉ちゃんなんかイラついてない?」

 

「香澄ちゃん、完璧にイラついてますね、机に乗っている手に力が篭っています」

 

オロオロしている香澄と泉美はとりあえず早く蒼士が帰ってきて助けて欲しい、と懇願していた。

 

 

 

 

何事もなかったように部屋に戻ってきた蒼士は女性使用人と一緒に入ってきた。部屋の雰囲気が変わっていることに気付いていたがあえて無視して行動していた。

 

女性使用人は食後の飲み物を持っており、蒼士も何故だかお盆を持っていた。

 

「食後のデザートです、簡単なモノですが美味しいはずですよ、はちみつは自分の好みで入れてみてください」

 

蒼士が席を外していた理由は今日のお礼も兼ねて簡単な料理をしていたのだ。使用人が止めようとしていたが言葉巧みに誘導されて止められなかったのだ。

 

食後のデザートに簡単なキウイヨーグルトを作っただけだった。

 

「食後だけど食べやすくて美味しいわ」

 

「何コレ、美味しいんだけど!」

 

「美味しいです、蒼士さん」

 

七草三姉妹はとても美味しいそうに食べてくれているので調理した蒼士は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

 

「貴女もありがとうございます」

 

「い、いえ、私はお嬢様たちのお世話をするのがお仕事ですので」

 

一緒に入ってきた女性使用人に労いの言葉を掛けていた蒼士。女性使用人は真正面から蒼士の整った容姿から出される笑顔を直視してしまい、顔を真っ赤にさせて慌てた様子で部屋を出て行くのであった。

 

そんな女性使用人に、慌てて転ばなければいいけど、と思いながら席に戻った蒼士は異様な視線を感じていた。

 

「あのなんですか?」

 

真由美、香澄、泉美の視線であった。

 

「ねぇ、ウチの家でウチの使用人を口説くって、蒼士くんはちょっと節操がないんじゃないかしら」

 

「オマエはやっぱりダメだ、このチャラ男!」

 

「(私も真正面から見たら顔を真っ赤にしてしまうかもしれません)」

 

使用人の人にはお礼を言っただけなのになんで怒っていて、怒られているんだろう、といつもは察しがいい蒼士にしては鈍かった。

 

 

 

 

「今日は楽しい食事をありがとうね、蒼士くん」

 

「いえ、こちらもご馳走様でした」

 

「おい、お姉ちゃんからもう少し離れろ!」

 

「蒼士さん、またお食事しましょう」

 

三姉妹に見送られながら呼んだ車で帰ろうする蒼士。

 

「香澄ちゃんも泉美ちゃんも連絡先は交換したからいつでも連絡しておいでね」

 

話しているうちに連絡先を交換することになり、香澄も泉美も拒否することなく交換してくれていた。

 

「だ、誰がオマエなんかに……」

 

「はい、いつでも連絡させていただきますね」

 

香澄と泉美の反応は相変わらず正反対の反応で見ていて楽しいな、と蒼士は思っていた。容姿は似ているのに本当に性格がまるで違うのだから。

 

「勿論、七草先輩はいつでも歓迎ですからね」

 

「もう、分かっているわ。そんなに言うと甘えちゃうんだから」

 

蒼士の言葉に自身の容姿を全開に使用してウインクして可愛らしさを全面に出している真由美。普通の男性だと、俺に気があるじゃないか、と思うレベルの真由美のアピールに蒼士は動揺しない。

 

「はい、甘えて下さいね」

 

近寄っていた真由美の髪の毛に触れて、頭をポンポンと優しく触るだけのことをした。

 

「あっ」

 

蒼士の行動に、これ超好きかも、と内心ドキドキしている真由美がいる。上目遣いで蒼士のことを見ている真由美は蒼士と視線があって、彼の笑顔を見て赤面しているのであった。

 

「じゃあ、二人も元気でね」

 

顔を下に向けて動かなくてなってしまった真由美を放置して、香澄と泉美の頭もポンポンと優しく触っている蒼士。

 

「「んっ」」

 

香澄と泉美の二人して素直に蒼士の行いを受け入れていた。泉美はまだしも好戦的である香澄も素直に受け入れていたのだ。

 

そのまま迎えの車に乗って去って行く蒼士を三姉妹は見えなくなるまで見送っていた。

 

真由美は胸元に両手を合わせて、早く会いたいな、と蒼士のことを思う。

 

香澄は最後に油断して触らせてしまったことに内心ムカムカしていたが、もう一回触らせてあげてもいいかもという気持ちも芽生えていた。

 

泉美は家族構成的に兄はいるが、十師族の七草家であっても態度を変えずに接してくれたことに感謝しつつ、素敵な男性であった蒼士をお兄さまと呼んでみたいと思うのであった。

 




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