1995年 日本 東京都 総合商社 会議室
地方都市に建てられたガラス張りの高層ビルその奥にある照明が落とされた会議室、そこに数人の男女が集まって何事かを話し合っている。
一人を除いてそれぞれがスーツを着ており、服装において特徴が現れる事の無いように配慮されているらしい。
「連中が日本で活動を始めてから既に53件も此方の商売が妨害されています。迂回か対抗かはっきりさせた方がよろしいかと」
「しかしヤられたり捕まったのは何れも下部組織の末端だ。姿勢を決めるには少し早い。それぞれの場合における予想利益について計算は済んだのかね」
残った一人は今時の学生が着飾る様なちょっとした高級品でコーディネイトされており、場の空気から考えると浮いているとしか見えない。
しかしその場の誰もそれについては全く意識せず、丁寧な議論を行い議題は進行している。
もっぱらの議題は、94年中頃から日本に駐屯しだしたブラックタスク社第二中隊についてであった。
「現在の主要都市中心を外して地方・新興都市重点に活動拠点を移す案は、初期投資が軽く済みますが確実なリターンは見込めません」
「一方対決する場合他勢力も弱っているので横やりは少ないでしょう。しかし勝てるかは微妙な所です。なにせ業界で最凶の過激派PMCですから」
戦力計算を見積もっている幹部がデータをプロジェクターを介して表示させるが状況は芳しくない。
なにせ相手はアメリカに本拠地を持ち、そこを拠点に退役軍人から戦力を安定供給させている軍人集団だ。
日本に駐屯している第二中隊を迅速に制圧できたとしても、場所が悪い上にお代わり自由と来ている。分が悪い。
彼らも各先進国に拠点くらいは構えているグローバル組織で、日本は地元と中々に大きい組織だ。
しかし、彼らはどちらかと言うと営利組織としての面が強く、戦闘面で頼りになる人員は限られている。
「座して商売の邪魔を受け入れるか、接触を減らして利益を削るか、対決は・・・難しいな」
部長格といった風体の男が腕を組んで悩んだが、そこで一番の上座に座っていた女性へと話を切り出した。
「"社長"申し訳ありませんが私には判断つきかねます。判断をお願いします」
忸怩たる思いだと表情に出ている男性が頭を下げて判断を譲った。
この場における最上位であると示された、大学生くらいに見える女性は手を上げて男性の謝罪を断った。
「いえ、これは仕方が無いわ。貴方の責任でも無いし気にしないでいいわよ」
「地方と新興都市へと裏家業は移しましょう。幸い、"本業"は何の傷も無いのだから利益が出ない程度は大した問題ではないわ」
きっぱりと女性が言い切ると秘書兼進行役の女性に視線をやって、議題を進める。
「次に、今まで流されていた不良品の悪魔召喚プログラムとは完成度が段違いのモノが流れてきています。
悪魔を契約、召喚、送還するのに魔貨とエネルギーが必要ですが、これでサマナーの戦力化に目途が立ちそうです」
今まではブラックタスク社独占だった真面に使える悪魔召喚プログラムが裏業界全般に行き渡ってしまう。
それが意味する事は簡単だ、各組織が戦力増強にサマナーを取り込もうと必死になる、そしてそれが次の抗争へと行き着くきっかけになりかねない事だ。
小競り合いで済めばいいが、悪魔業界は年々過激になってきている。いつ誰が着火するかそれは誰にも分らない。
少なくとも発火すればそれを爆風で消し飛ばそうとする過激派がいる事だけは確かだが。
「他には白崎市での工作活動は順調です。土地の収得、神社の移転、結界の構築などは工程通りです。
しかし、不正確ですが連中に目を付けられた可能性があります。現在確認と進捗を急がせています。」
◇
1995年 アメリカ合衆国 ミシガン州 デトロイト市 ブラックタスク社 社長室
本日もクレイグは日課の鍛錬を終えてシャワーを浴びると、食事と身支度を整えて仕事に取り掛かっていた。
必要な書類を決裁し、業務内容を確認して、練兵状況を視察し、ステイツが平穏でいられるように力を尽くしている。
そんな中、一本の電話が社長室に届いた。
「俺だ。どうした」
クレイグが短く用件を尋ねると、電話先のカーク・マイルディ少佐も短く内容を話した。
『カークだ。白崎市にてファントムカンパニーの怪しい活動が上がって来た。現在偵察小隊を送る予定で編成しているが、どうみる』
「奴らも武闘派だ、罠である可能性も捨てきれん。中隊を送れ、後詰は本社から中隊を送ろう」
第二中隊の投入を決定する言葉にカークが否定的な意見を出す。
『待てよ、まだ相手の企みが何であるのかさえ分からないんだ。ならば偵察小隊を送るのが筋じゃないか?根拠がない』
「奴らが大都市ではなくベットタウンで態々動いたのかが既に証左だ。大都市ではない場所で人口が密集している必要があるからだろう」
「恐らくは大規模術式で生け贄を大量に必要とする何かだ。何であれ、それの現地協力組織を叩く必要がある。小隊では足りん」
クレイグが断言するとカークは諦めたように肯定した。
『分かったよ、現地での活動の為に中隊を動かそう。連中の協力組織から殴って情報を集めるわ』
「第四中隊をそちらに送る。協力して事に当たってくれ」
『アイツかよ・・・。苦手なんだよな俺』
そう言ったカークの泣き言を気にせずにクレイグは受話器を降ろし、内線用の電話を切り替えてある人物を呼び出した。
その人物は呼び出して数分と経たずに社長室へとやってくる。
「ボス、失礼します」
入室して来たのは黒髪を肩まで切りそろえている眼鏡をかけた白人の美女だ。
「ハーヴィス。第四中隊を率いて日本へ行き、第二中隊を支援しろ」
「了解であります。ボス」
ビシッとした敬礼と共に退出する第四中隊中隊長ジェラルディン・ハーヴィス。
彼女も軍でも才女として有名だったが、クレイグに付いて来て退役した組であり、現在はブラックタスク社のブレーンを担当している。
現地の情報を繋ぎ合わせれば相手の狙いと動向を把握して対応する事も可能な筈だ。
クレイグは指示を出し終わると自身の仕事に戻ってやるべき事を消化し始めた。
最近では地元デトロイトでの貧困層救済の為に奨学金用の財団を立てたり、雇用確保の為に電子インフラの更新に力を入れている。
やるべき事はまだまだたくさんあるのだ。
◇
1995年 日本 白崎市 展獄組屋敷
ブラックタスク社第二中隊が最初にターゲットとしたのは白崎市を根城にしているヤクザの展獄組だ。
ここは地元での最近無理な地上げを行った事が目に留まり、そこからの金の動きをハーヴィスに咎められファントムカンパニーとの繋がりを暴かれている。
襲撃によって記録や書類などの物的証拠が見つかれば、そこから他の協力組織や個人が発見できる可能性が高いとして即時襲撃と相成った。
襲撃の際に張られた結界によって、内部の騒動が外部に漏れなくなったら、ブラックタスク社のやりたい放題が始まる。
UH-1やCH-47でオフィサー達がヘリボーン。救援も呼べず、逃げる事も出来ない構成員達を鴨撃ちにして皆殺し。
組長と幹部だけを撃破拘束して家探しが始まる。
案の定隠し金庫にあったファントムカンパニーとの契約書を見つけると、書類などの情報から市議会議員にも有力な協力者がいる事が解った。
充分な情報を得られたら拘束していた組長と幹部を射殺し、彼らは引き上げていく。
時限式で解けるように設定された結界が無くなるまで、展獄組の凄惨な光景は周囲には伝わらないだろう。
その時間を使って、ブラックタスクは更なる死体を積み上げる筈だ。
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