クラッシュ・バンディクー&エキドナ・デビル 作:いろはにぼうし
駆け足ですがクラッシュ1のお話もボチボチ終わりです。
「なにッ、失敗したじゃと!? この役立たずめが!!」
「グルアアア!?」
コルテックスの怒りが爆発し、エキドナの首輪に電流が流される。耐えきれずエキドナは研究所の床に倒れ込んだ。
「まったくがっかりさせてくれるわい。お前はパワー、スピード、ディフェンス、それにオツムの出来まで完全にバンディクーより上のはずだろうが。何を間違えたら負けることになるんだ!? まったく役立たずのフクロモグラめが!」
「ガ‥テメェが、余計な横やり入れなきゃ勝ってたんだよ‥」
「横やり? 一体何のことだ?」
「研究員だ‥アイツが俺様の食事を邪魔した‥。テーブルマナーもプログラムに入れとけェ‥」
「ふん。お前みたいな野生児からテーブルマナーなんて言葉がでるとはな。手づかみしか知らん癖によく言う」
それじゃとうもろこししか食えんわい。とコルテックスはクックと笑いながら続けた。
「お前に中途半端に自我があるのは問題なのやもしれんな。ボルテックスが完成した暁には記念すべき被験者第一号としてやろう。さぁ、さっさとバンディクーと再戦してこい。そして今度こそ確実に始末するのだ。できなければ…わかっておるな?」
コルテックスは手元の装置のメーターを、わざとエキドナに見せるようにしながら、100%の位置まで調整する。
「…チッ」
エキドナは舌打ちをしながら重い体を引きづって研究室を出て行った。
ようやく体のしびれが取れてきた。
エキドナは研究室から出て、コルテックスの居城の廊下を進んでいく。
落雷の音が窓を叩く。
口の中の牙を、悔しさと情けなさからギリギリとならす。
と、廊下の先からコツコツ、と足音が聞こえてきた。
エキドナが顔をあげると赤いストライプ柄スーツに革靴を履いた姿が目に入った。
「おやおや。誰かと思ったら最高傑作殿のお出ましか」
「…ピンストライプ」
エキドナの前に現れたのは改造ポトルー、ピンストライプ。
エキドナが生まれるまではコルテックスの最高傑作と目されていた生物兵器だ。
「どうしたよそのざまは。噂のバンディクーにやられちまったのか?」
「うるせぇ。貴様には関係ない」
いやいや、とピンストライプは大仰に頭を振った。
「それが関係大有りなのさ。いせきの島の港を見張ってたコアラコングから報告が来なくなった。お前さんの話と合わせると、例のバンディクーがコングをやっちまったらしい」
なかなかやるねぇ、とピンストライプはニヒルに笑った。
「それで、次は貴様にお鉢が回ったと言う訳か、ピンストライプ」
「まぁ、そんなとこだ。うれしいねぇ、これでオレの可愛いトンプソン・マシンガンちゃんを錆びさせないで済むってもんだ」
ピンストライプは愉快そうに笑った。
「オレはこれからファクトリーの出口で奴を待ち構える。手下どもも配置した。バンディクーの奴は薬液漬けになっちまうか、もしくはオレの手で蜂の巣だ。獲物を奪っちまって悪いな、エキドナ・デビル」
「…ならさっさと行けばいい。いつまでもこんなところで油を売ってると、バンディクーがお前の部屋のチャイムを押さずに通り過ぎちまうぞ」
「ちっちっち。わかってねぇなぁ。こんな時こそ余裕をもって挑むもんさ。それにオレとしても美しい花がただ萎れていくさまを見たいとは思わないんでね」
「花?」
エキドナの問いにピンストライプはククク、と笑った。
「この先にいる囚われのお嬢さんさ。バンディクーの連れらしいが‥。ありゃあフクロネズミにはもったいないね。最高にいい女だ。そう思わねぇか?」
「…ああ、コルテックスが実験に使おうとしているアレか。あいにく興味がないな。ピロートークなら他を当たれ」
「まぁそう言うなよ。お前も見てくるがいい。コルテックスの野郎がいじくっちまう前に、すこしでも楽しんでおいた方がいいだろ」
「下卑た野郎だ」
「アンタ程、ひねくれ者じゃないだけさ。なぁに、あんたもお気に入りのカワイコちゃんに出会えばオレの気持ちがわかる」
「そんな日は来ないし、来たところで貴様になんぞ教えるものか」
つれないねぇ、といいながらピンストライプは鼻歌交じりに去って行った。
「…、バンディクーの連れの女、ねぇ‥」
エキドナは牢獄につながる廊下を見つめていた。
クラッシュの恋人、タウナは牢の中で膝を腕を組んで鉄格子に寄りかかっていた。
改造を強引に受けさせられたクラッシュは、タウナを残して研究所から逃げ出した。
最初は失望もしたが、さきほど牢にやってきたピンストライプの話では彼は着実にこの島に向かってやってきているらしい。
一度は逃げ出したが、わざわざタウナの為に危険を冒して戻ってこようとしているのだ。
その事を考えると胸が熱くなるけれど、ピンストライプも、それにコルテックスも本気だ。あらゆる作戦でクラッシュを消しにかかるだろう。
心配だ。心配でたまらなかった。
けれど今まで彼女は怯えた表情を一度だって見せなかった。
心を折られれば負けだ。
だから先程ピンストライプにも言ってやったのだ。
「もしクラッシュがアンタに負けたら、アンタの女になってあげてもいいわよ」
それを聞いたピンストライプは楽しそうに「OK、それでいいぜベイビー」なんて気取っていた。
こわくないわけじゃない。
タウナはこの島で何匹もの生き物が改造されていくのを間近で見てきた。
カンガルーが洗脳光線の浴び過ぎで狂ったように笑いだした時も、怖くて逃げ出したかった。
けれど、そこで怯えて泣き叫んだところで、何が変わる訳ではない。
それなら最後まで抵抗してやることにしたのだ。
「けど‥どうやって逃げ出したものかしらね」
目の前には鋼鉄の檻。殴っても蹴ってもびくともしない。
誘惑作戦も試してみたが、研究員が全員ロボットの為意味をなさなかった。
ピンストライプ辺りなら効果も期待できたが、彼はどうやら公私をはっきりと分けるタイプのようだ。
「…はぁ」
タウナは憂鬱になって、溜息をついた。
「おい、貴様がバンディクーの女か?」
ふと、声をかけられる。
顔をあげると、目の前には黒い体毛と赤い針に覆われた姿。
コルテックスの作った改造アニマルだ。
「…アタシってどうやら人気者みたいね。またデートのお誘い?」
タウナは突然目の前に現れた男に対して軽口をたたいた。
「…デート。ピンストライプの野郎だな。だが、おかげではっきりした。俺様はエキドナ・デビル。バンディクーの女」
「貴様をここから出してやる。下がってろ」
「・・・はぁ?」
タウナは耳を疑った。ここから出すと言ったのか? この男は。
「二度は言わんぞ。真っ二つになりたくなければ、格子から離れて伏せていろ」
そう言うとエキドナは爪をジャキリ、と尖らせた。
何をしようとしているか理解したタウナは慌てて牢屋の隅まで逃げる。
「フンッ!!」
ズバン、という大きな音と共に、タウナの牢の鉄格子が斬りおとされた。
ガタン、という音を立てて格子が外れる。
「ふん。さっさと出ろ」
「あ、アナタ、どうして…」
タウナは信じられない物を見るような目でエキドナを見つめる。
エキドナはタウナを睨みつけながらぼそりと呟いた。
「理由は三つだ」
「一つ、俺様はコルテックスの野郎が気に入らない」
「二つ、俺様はピンストライプの野郎も嫌いだ」
「三つ」
「バンディクーへの借りを返す。これでチャラだ」
エキドナはタウナを気付かれないようにコルテックスの居城の中腹の部屋まで連れて行った。周囲にダイヤの浮いた不思議な部屋だ。
エキドナは周囲を見回して敵の姿が無いことを確認し、タウナに告げた。
「…ここならとりあえず危険はないだろう。あとはバンディクーを待つなり逃げ出すなり好きにしろ」
そう言ってエキドナはタウナに背を向けた。
「待って! 何処に行くつもり!?」
「これで借りは返した。あとはコルテックスにけじめをつけさせる」
グルル、と唸りながらエキドナは部屋を出て行こうとする。
「待って、待ちなさい!」
タウナが声をかけるものの、エキドナは無視して部屋を出る。
今来た道を戻る。と、階下でドオン、と爆音が聞こえた。それと同時に研究所内に音声が響く。コルテックスの無線だ。
『手下どもに告ぐ! あの忌々しいバンディクーがワシの研究所までたどり着いた!ピンストライプの奴は情けなくも敗北した! 何としてでも奴を始末するのだ!!』
「来たか。バンディクー」
エキドナはにやりと笑った。
「がんばるのじゃぞクラッシュ! もうひと踏ん張りじゃ!」
「う、ウィイ」
クラッシュとアクアクはコルテックスが機械化を推し進めた島の施設を越え、何とかアクの居城まで登って来た。機関銃を乱射してきたとんでもない男、ピンストライプを退け、コルテックスの手が入れられた施設を潜り抜け、なんとかここまでやってきた。
さすがのクラッシュも体力の限界のようでぜぇぜぇと息を切らしている。
けれどその努力の甲斐あって、本当にあと少しの所まで来たのだ。
「なんとかここまで来れたの。ここはコルテックスのアジトの内部じゃ。先に進めば奴らが待ち構えておるじゃろう。気を抜くでないぞ」
「ウェ~イ」
ゼェハァと息を切らしながらもクラッシュは親指を立ててアクアクに応える。
「ふん、ここまで来るとはな。すこしは認めてやってもいい」
「ウェイ!?」
「その声‥エキドナか!?」
クラッシュとアクアクが振り返るとそこにはニヤニヤと笑うエキドナの姿が。
「よぉバンディクー。随分とお疲れみたいじゃねぇか」
「ウゥウウ~」
好戦的な笑みを浮かべるエキドナに対し、クラッシュは苦笑いで手を振る。
すっかり気を抜いたその姿に、エキドナはチッと舌打ちをした。
そして体を逸らし、道を開ける。
「行けよ。この先はブリオの野郎の部屋だ。貴様の大事な女はその先さ」
「な、なんじゃと!?」
エキドナの行動に驚くアクアク。攻撃してくるそぶりも見せないその態度に、言葉を失う。
「言ったはずだぞ仮面。俺様は貴様らに借りを返す。それだけだ」
「お主‥」
「ウゥ‥」
驚くばかりでなかなか先に進もうとしない二人に、エキドナはややいらだった様子で声を荒げた。
「さっさと行け! それとものんびり観光でもしに来たのか!?」
「う、うむ! クラッシュ、行くぞよ!」
「う、ウェ!」
二人は慌てたように先に進んでいく。
「全く、とろい奴らだ‥」
ブリオの部屋に向けて消えて行った二人を見送った後、エキドナはその場を後にする。
エキドナがクラッシュたちをブリオの部屋に導いたのは、単なる親切心ではなかった。
ブリオを倒し、あらかじめ救出しておいたタウナを見つければクラッシュは島を出て行くだろう。
クラッシュはもう、自分がもっとも食い殺したい相手の所まではやってこない。
「よぉ、コルテックス。次はテメェが地面に這い蹲う番だぜ」
エキドナは牙と爪を鳴らしながら、獰猛に笑った。
エキドナのヒロインはタウナではありません。
ところでタウナは最終的にピンストライプを追っかけて行きますが、もしかして悪い男が好きなんでしょうか。昔はクラッシュも悪かったらしいし‥。