イルヴァの民もわが家ごと転移した   作:ジューア農民

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彼らは普通に冒険したり、畑や牧場の世話をして、スキルを研き生活が便利に楽しくなるように生活していた奴らです。
ただ、イルヴァの例に漏れず好き勝手にあの倫理観で数百年埋まらなかっただけの善人()です。


やさしいかたつむり

 行ける所まで真っすぐ行くも、草原が続き長閑な風景ばかりだと思って居れば、何処か荒涼した霧の深い平地へ辿り着き、それがどこまで続くのか不明だった。

 まさかダンジョンに潜り込んでしまったわけでも無いのに、アンデッドの数も増え、敵のバリエーションも無いので飽きて引き返してきたのだ。

 そんな訳で、真っすぐ突き進んで来た道をジャスパーとゲルマ、防衛者と黄金の騎士は何の収穫もないまま家路についた。

 

 ところで、ノースティリスの冒険者と言う奴らは総じて耳がいい。例え街の対極の位置に居ても誰かの断末魔を耳聡くキャッチし、誰が死んだのか確認しに行くことが出来る。そしてあわよくば剥製やカード持ち物などを漁っていく。

 友好的な街の人間を殺す事は罪でも、勝手に死んだ者を漁るのに何の抵抗も無い。例えば、ペットの地雷犬が設置した地雷で死人が出たって罪には成らない。死因が重要なのだ。地雷犬なんて、使い処の怪し過ぎるまさに地雷モンスターを可愛がってるのは、アウストリーネ位だろう……とジャスパーやヌコは呆れの表情で見て居るが、手を汚さず周囲を爆殺出来る手段ではある。

 

 まあ、そんな訳で誰かが死んだり、腹が突き破られたりするのに敏感なノースティリスの冒険者は、悲鳴や命乞いや、神に縋る声を聴き逃さなかった。

 それを察知した瞬間、敬愛する女神様に祈りが届かなく成って居たジャスパーは限界だった。自分の信仰は届かないと言うのに……という八つ当たり全開で殴り込みにすっ飛んでいく。加速の魔法を詠唱して。

 普段、マニ狂信者女を『引くわぁ』とばかりの目で見て居るが、ジャスパーも人の事が言えない。

 

 現に、普段のローテンションからは考え付かない元気なシャウトに思わずゲルマが『きもっ』と吐き捨てた。

 自分を遣わした女神の信者であり、現在の主人である男への辛辣な発言に防衛者は苦笑するだけだ。基本的に『防衛者』が遣わされる敬虔な信徒は何処かおかしい。

 

「所であれらはどういった集団なんでしょう」

 

「さあぁ……? 盗賊、とかでは無さそうですが」

 

 揃いの軽装備の集団を黄金の騎士が首を傾げて見つめ、自分の伴侶が杖で撲殺している現状にも穏やかな困り顔で首を傾げるだけの防衛者だ。

 街道から逸れたその辺で出会う集団と言えば、盗賊団か行商人か……悍ましき妹団だ。目の前の連中が妹で無いのは確かだが……。

 

 ペット達が不思議そうにしている中で、ゲルマは思考を放棄した。何でもいいや、興味ない。彼女は難しい事を考えられない質だった。

 

 だから興味は少し離れた所にいる、二人組の方へ移る。

 今まで謎の団体さんと対峙していたらしい奴ら。片方はジャスパーと同族かな? と薄ぼんやりと考える。見た目何て変異したりエーテル病(ここでも蔓延してるかは分からないが)なんかですぐ変わってしまうから分からない事が多い。それでも骸骨の顔面に、鎧っぽいものも無い軽装なら魔法使いだろうかと考える。そうすれば、ほぼジャスパーと同族だ。ちょっと後ろに下がっている、フルアーマーの重装備のひとはさっぱり中身が分からないけれど、親近感がわく(ゲルマは鏡を使い装備は見えなくしているが一応重装備の耐久お化けだ)。

 魔法使いの人のペットかな? 

 それでも何だかあの感じはもう嫁なのだろうか? うちの少女と空気感が似ている。主に穴が開きそうな感じに背後から凝視してくる感じだ。と、ゲルマはそんな風に感じた。

 向こうも、此方を値踏みする様に見て居るが何のアクションもない。

 

 相手が巨人だとすれば、自分は蟻のフン以下だ。そんな風にゲルマは此方を伺う様にしている人物達に対して思ったが、別段珍しい事ではない。すくつも奥深くに潜ればそんなのばかりだ。この感覚は正直あてにならない。問題はスキルの育ち具合なので、本当に信用成らない感覚だ。

 なので、あまり参考にはしていない。取り敢えず反応を見てから考えよう主義で生きている。そして時々死ぬ。

 既にジャスパーが戦闘行為に及んでいるのに、加わって来ないから中立的なひとたちだ。話しかけて答えてくれるなら友好的なひとだ。

 友好的で無いなら、初めて会うひと達だから、剥製が欲しいな。そんな気軽さで元気よく挨拶を飛ばした。

 

「こんにちわー! あたしゲルマ!」

 

+

 

 アインズは目の前の存在に面くらう。

 もちろん肉の無い顔では驚いた表情等作れないが……。

 そうあの、命の危機から助けた筈の姉妹さえ怯えた骸骨の顔しかそこにはないのに、底抜けに明るい声で駆け寄って来た赤毛の少女に恐怖はない。

 細身にすらりと背が高く、エキゾチックな顔立ちなのだが発せられる声がどうにも抜けている。肩に担ぐようにした大きな槌を構える事も無く、その場でゆらゆらと揺れている。

 完全に害意は無いが、不躾に駆け寄って来た珍妙な女にアルベドは前に出ようとするのを手で制すれば、矢継ぎ早に挨拶と同様にどこか抜けた声で続ける。

 

「アンデッド、の? おにーさん? とそっちは『嫁』?」

 

 くふっ、と何とも言えない吐息の様な噛み殺した笑いが聞こえ、鳥肌が立ちそうな気分を味わう。が、目の前の良く笑う少女は気にした風もなく続ける。

 自身の少し後ろに控えるまさに騎士と言った出で立ちの金髪の女を指さし、ついで少し後方からのんびりと困り顔で歩み寄って来る盾を装備した戦士風の男と、先ほどまでアインズと対峙して居た連中に杖で殴りかかっている人間には見えない男を指し示しながら告げる。

 

「こっちはあたしのペットあっちねーあの狂信者リッチの嫁なんだけど今朝ね急にこの辺に転移したんだけどね! ここってどこー? さっきあっちにいっぱいアンデッドいたんだけど地元のひと? 冒険者ー?」

 

 ぼやぼやとした口調な上、あっちこっちあっちと忙しく指し示す。いまひとつ外見と中身が一致していない。『アホの子』という言葉がしっくりと来る女の言葉は正直受け手に一切の配慮がされていないが、一息に告げられた言葉の節々に引っ掛かるモノがある。

 

「待て今何と……?」

 

 今朝転移した? 

 しかもアンデッドを普通に生活する種族の一つと認識している? そしてその上でそれを冒険者なのではないかと推察する世界?

 つい先ほど僅かに触れた、この世界の強さの基準で考える事の出来ないナニカが現れてしまった。

 

「んー? えー? エウダーナのゲルマ!」

 

 声量の調節機能でも壊れているのか、ハイテンションで手を上げてもう一度名乗る。だが違う。

 

「違う、そうじゃない」

 

 思わずテンプレートの様な突っ込みが出てしまった。

 どうしよう。関わった事ないタイプの人間だ。というか人間なのだろうか? 『エウダーナの』という言葉が追加されたが、それは帰属する国か組織か家か、その判別も出来ない。  

 はたまた会話の流れから、種族名なのだろうか……。

 

+ 

 

 正直かなり悩んだ。

 圧倒的に情報が少ない中で、ほんの少しでも輪郭が見え掛けた世界とは全くの別物の存在。何も知らないまま放置するのは恐ろしいが、全く正体も掴めないままにあちらの拠点に踏み込むのも気が引ける。かと言って、向こうをこちらに招くのも躊躇われる。

 

 正直、関わったこと無いタイプの唯のアホの子に絡まれ対応に窮しそうになって居る所、リッチだと言う男が人に伝わる様に説明しに(異教徒を教育すると言いながら、ニグンとか言った男を小脇に抱えて)来てから数日。

 

 悩みに悩んだ末、だいたいこの辺りだと教えられた彼女たちの拠点へ向かう事にした。

 終始友好的に接して居た(リッチ的に異教徒らしいスレイン法国の連中への対応は除く)とはいえ、念のためカルネ村の時同様に不可視化能力のある者を送り、アウラとマーレを同行させることにした。アンデッドに敵対的では無いが、全ての異形種に友好的に接するのかは分からない。初対面で、無条件に友好的に接して来たのだから、今後労力無く利用できる可能性がある。わざわざ敵対する必要も無い。

 ただ、全くの未知の存在が相手だ。

 

 本当に謎しかない。

 

 そんな不確定な部分をはっきりさせたいが、警戒心は山盛りの状態で訪れた。

 

「いらっしゃい。いつお客様がくるかと、楽しみにしていたんですよ」

 

 城壁を思わせる囲いの中へ足を踏み入れれば、喋る黒猫に迎えられた。……いや違った。黒猫の頭の上にちょこんと乗ったかたつむりだ。

 

 かたつむりが喋っているのだ。

 純然たるかたつむりが。

 

 様々な種族の存在するユグドラシル的基準でみても、かたつむりは何か違う……明らかになんかが……と釈然としない気分を味わう。

 同行しているアウラとマーレも、優しい女性の声で喋る数㎝のかたつむりにオッドアイの瞳をぱちくりとさせている。あの世界こそを現実として生まれたNPCにも、ヒトと同じように発声するかたつむりは奇妙に映るらしい。

 

 しかもそのかたつむりの口調が、妙に柔らかく優し気で、まるで子供が初めての友達を家に呼んで来た母親の様子で、何と言うかあまりにも普通過ぎる。

 外観やその規模こそはまるで一つに街の様な塀に、施設にと広いのに、その全てにも生活感が滲み出ている。

 あんまりにも普通に、『生活』の空気が強すぎる。

 

「見ての通り、かたつむりのカーリナです。なめくじでは無いですから、塩は掛けないでくださいね」

 

 それは何かのジョークなのか、文化の差や人種……というか最早生物種の差で何をどう返せば良いのかさっぱり分からない。笑えば良いのだろうか。おどけて塩をまく振りでもすればいいのか?

 

「私はアインズ・ウール・ゴウン。こちらの二人はアウラとマーレ」

 

 必要最低限の自己紹介に留める。先日出会ったゲルマと名乗る女とジャスパーというリッチも名前しか名乗らなかったな、と思い起こす。ファミリーネームの存在しない文化なのだろうか?

 取り敢えず、プレイヤー名の様な被りを避ける為の名前ともすこし違う。

 

「それで、君達も突然ここに転移したそうだが詳しい話を聞かせて貰えるか?」

 

 かたつむりジョークへの適切な返答が思い浮かばず、早急に本題を切り出した。

 そうですね、でもせっかくだからお茶にしましょうか。小さな子もいますし、と小さなかたつむりは猫の頭の上で首を傾げて提案する。

 まるでかたつむりと神経レベルで繋がっているのか様に黒猫は、こちらへどうぞ、と促すかたつむりに合わせてとことこと歩き出す。

 

 妙に庶民的かつ、一切の敵意もない対応に身構えていたこっちが場違いな気さえしてくる。丁寧だが柔らかく喋るかたつむりに対して、自分の硬さはむしろ恥ずかしいのでは? という異様な程周囲を気にする中の人の民族性がちょっぴり出て来た。

 

 そんな訳で、猫とかたつむりの後を追う禍々しい骸骨の魔法詠唱者と愛らしい双子のダークエルフという奇怪な絵面が完成した。

 

 ……猫の腹に裂け目が出来、触手の様なモノが揺れている気がするのだが……猫? そしておまけとばかりに腸と蛆が黒い毛皮から噴き出る。……猫!? これは人間が見たら正気が下がるタイプの生き物ではないのだろうか?

 

 若干不穏なものを見たが、そういう系統の猫っぽいモンスターだと割り切る事にする。

 

 かたつむりと黒猫は、自分達の拠点を惜しげもなく晒し案内していく。

 ここは誰々の家で、彼方は博物館、あのシェルターは今中で同居人二人がサンドバッグで燥いで居るので気を付けて下さいね? ああ、しょっぱい物がお好きなら肉料理も出せますからね。誰々が料理が上手なんです。等と仲間の存在も全て明かして行く。

 

 紹介する仲間が居る事は、酷く羨ましく感じられた。

 

 この城の住人達個々の区画は、それぞの好みや趣向が現れては居るがそれはナザリックの第九階層にあるギルドメンバーの自室(の見せて貰った事の有る範囲でだが)ほど完全な『趣味』には振られていない。少なからず生活に必要な物があり、妥協が見える。

 ある畑に囲まれた家の前を通る際には、捌きたての肉を抱えた水色の髪のエルフがアウラとマーレへ穏やかに手を振って居た。

 

 同じく拠点ごと転移したナザリックに比べ、余りにも穏やかに普通の生活が続けられている。

 

+

 

 自分達と同じく、ある日突然この地にやって来たという人たちのわが家への来訪にカーリナ内心わくわくとしていた。

 

 最初一人で暮らしていたころはそれなりに仲良く成った冒険者が遊びに来ていた。それも時間が過ぎ生きて死を繰り返す事に疲弊し、摩耗し、埋まる事を選び、知り合いは減っていった。少し寂しく思いながらも、更に過ごすうちに今の同居人たちと出会い一緒に住み始める頃にはノースティリスにおいて『ヤバイ奴ら』のレッテルを貼られて居たので気軽に遊びに来る者はいなく成って居た。ゲロゲロや火炎瓶をまき散らしに来る、元気な遊び相手や、減税対策に協力してくる乞食などばかり。

 こんな風に友好的に『いらっしゃい』と言って、迎え入れとっておきの家具を飾った客間に案内して料理等を振舞うのは久しぶりで、嬉しいのだ。

 

 目隠しして座っていても勝てる、と感じる相手なので元気に遊んで後片付けが大変になる事なく、きっと穏やかにお喋りが出来る相手だ。それはとても素敵な事の様に思う。

 

 同居人達が何と言おうが、カーリナは穏やかで優しい性格なのだ。

 

 聞いた事のない珍しい種族のアンデッドのアインズは少し堅いと感じる程真面目で、一緒に来た珍しい髪色のエレア(彼らの所ではエルフと言うらしいが、呼び名が違うだけで同じものだ)の子達も小さいのに、とてもお行儀がいい。きっとアインズのペットだろう。

 ゲルマが先程作ったレアチーズケーキ(聞いた事の無い固有名詞の卵で出来ている)をまくまくと食べる姿も可愛らしい。この家で見る小さいな子は大抵ジェシャンの主食でしかないので、珍しい光景だ(ちなみに彼的にはこのエレアの双子は『少し大きすぎる』だとか)。

 

 カーリナは素敵な友人が出来たとにこにこしている。

 

 ただ大勢での来訪に気が引けて、気を使ってくれたのかアインズが一切触れなかったが、不可視に成っている子達も紹介してくれればいいのに、と少しだけ残念に思った。

 それでもそんな他人に気を使える、ノースティリスにはなかなか居ないタイプで好感度が上がる。 

 

 さて、お互い挨拶もしておやつも食べた。それでは本題に……、としたところで叫び声が聞こえる。

 

「この泥棒猫!! ゲルマちゃんと寝たの!? 私のゲルマちゃんと気持ちいいことしたの!? 許さない許さない許さない許さない!! 死ね! ひゃっぺん死ね! ひゃっぺん殺す!」

 

 シャっ、とばかりに勢い良くアインズの横を何か、金色の毛玉……もといこの世界でのノーランドに当る一般的な人間(国に寄って人間の遺伝子に大差がないらしい)の女性が全力で逃げていく。彼女は遊びに出ていたゲルマが、新しいペットとして連れて来たのだが、最初のペットであり嫁である少女の逆鱗に触れた様だ。どごん、どごんと壁を破壊しながら首狩り付きの包丁を構えて少女が追いかけていく。

 

 巻き込みは起きないが、お話をしようという時には少しうるさい。後でお客さんがいる時は静かにして欲しいな、とお願いしよう。とカーリナは思った。

 

「……いいのか、あれは……」

 

 少し戸惑った声に、小首を傾げる。別段友好的な人物に何の迷惑もかけないのだから問題ない。ゲルマのペット同士のいざこざだ。困るのは復活させる際にお金がかかり、ペットとの関係が拗れるゲルマ自身だ。別段カーリナも他の同居人も何も困らない。それならば勝手に喧嘩でも殺し合いっこでもしていればいい。

 それとも家の破損だろうか? そんな物はハウスボードで簡単に直るし、なんならわが家を採掘しまくる事もある。更地に成った街だって三日で復興するのだから個人の家なんてすぐ修復できる。家具や持ち物だって何の傷もついて居ない。何がそんなに心配なのだろう?

 本当に真面目な人なんですね、とカーリナは微笑んで見せるだけに留めた。

 

 




次回、ノースティリスの汚ねぇ部類の民

異名は、新しデータ作って40分位例のアレを回し続けて決めてます。


+
カーリナ
『カルトジェノサイド』
かたつむり
女性

主なペット
黒猫 シュブ=ニグラス 螺旋の王
+
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