イルヴァの民もわが家ごと転移した   作:ジューア農民

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自分が当たり前だ、と認識している事を改めて全く前提が異なる者へ伝えるのは難しい。



しんせつにみえるエレア

「うん。あの。事故なの。この前の下落飲みまくった時のゲロゲロ投げてたら、手が滑って……うん」

 

 家を破壊しながら包丁片手に怒鳴る少女をスルーするかたつむりに唖然としつつも、途轍もなく穏便に(それはナザリック側にとってもイルヴァの民からみても)情報のやり取りが進んだ辺り、わが家の片隅で修羅場が巻き起こって居た。

 それも痴情のもつれによる修羅場だ。

 

 モモンガ的には、伴侶が居るうえで出会って即性行為と言うのはドン引きの類のものだが、ノースティリスでは珍しい事ではない。屋外で娼婦が客を引かっけ路上でおっぱじめ、冒険者だって街の住民だって酔った勢いでその場で盛りはじめ、金銭的な問題で殺人沙汰が起こる世界だ。色んな意味で修羅場な世界である。

 

 仲間の事を『ペット』と呼称する文化で、重婚も認められる世の中なのは理解したが、そこまでイルヴァの人間が爛れまくっているなんて知る由もない。

 カーリナだっていくら善良なかたつむりでも、そんなのが当たり前の世界で生きて居たのだから敢えて常識を語る事もしない。むしろ嫁が少女一人で、独占欲で重婚を認められていない彼女こそが異質だなんて事も知らない。

 

 なのでモモンガは、目の前の百合夫婦(と言って良いのか)な修羅場に引き、金髪の少女の情け容赦ない生々しいにも程がある具体的なプレイ内容への詰問からアウラとマーレの耳を守って居た。

 友人達が丹精(と欲望と性癖と浪漫とかいろいろ)込めて作り上げたNPCはまさに彼らの子供の様な者だ。友人の子供にあんな十八禁も良いところな卑猥に下品な話を聞かせる訳にはいかない。大事なお子さんをお預かりしているようなものだ。現在不在の親御さんたちに申し訳が立たない。

 最初からビッチである定を背負ったお子さんが居た気がするが、それはそれ、これはこれ。

 

 あまりにも普通の(に表面上は見える)営みを見せつけられたせいか、保護者的な意識が沸き上がってしまったのだからしようがない。そもそも、外見や設定こそ皆それぞれ年齢を自覚しているが、存在としてはやっと二桁の十歳ちょっと、或いはそれ以下。皆、実親不在のまま未知の世界へ放り出されてしまったのだ。

 それを思うと、自分がしっかりしなくては……という使命感が増すというもの。突然に子持ちに成ってしまった。童貞のままに、それはもう、沢山の子持ちになってしまった。なんだかそう言うラノベがありそうだ。だがそんなものは関係ない。パパは子供達の幸せの為に頑張るのだ。

 

 ドン引きの修羅場はさらに加速し、物騒な方向へと雪崩れ込んでいく。

 フィクションでだってなかなかお目に掛かれないヤンデレの剣幕に、おっとりと話すかたつむりの言葉が殆ど入って来ず、うっかりビッグなダディ的決意をしてしまいそうな現実逃避に精をだしてしまう。

 

 因みにモモンガの両脇にちんまり座って居た双子のダークエルフは、至高の御方に抱き寄せられ思考回路はショート寸前。僅かに漏れ聞こえる爛れた修羅場など一切届いていない。己の心臓の音でいっぱいいっぱい。

 

「……殺してきて」

 

 すん……、とばかりに急に熱の抜けた声で少女が呟く。

 イルヴァの狂気的生命体と言えば、妹が真っ先に上がるが、この少女も中々である。

 

「あの女殺して来て! 今すぐ! 早く! 心臓でも皮膚でも骨でも目玉でも体液でも! 殺してその証拠持ってきて……!」

 

「はいッ! よろこんでッ!」

 

 一度鎮火したかに見えた炎が再び吹き出し、何かが駆け抜けて行った方向を指さしヒステリーの様に金髪少女が叫ぶ。

 同居人達には見慣れた光景だ。

 たった一人の嫁に振りされてる頭の悪いエウダーナの日常だ。

 恐ろしい嫁の剣幕に、ゲルマの個人区画から、巨大な影……ティラノサウルスが駆け込んでくる。地響きのする足音と咆哮と共に、主人を背に乗せ駆け抜ける恐竜……。進行方向に有る物全てを蹴散らしながら屋外へ飛び出す恐竜……実に平和な日常だ。

 

「……いいのか!? あれは!?」

 

 まさかの普通に恐竜の登場と、当然とばかりに駆け抜けるその背に飛び乗り、先程アインズの真横をすっ飛んで行った金色毛玉を追うべく疾走していく。

 

「何か問題でもありますか……? ふふふ、あなたはとても真面目で優しい方なんですね」

 

 一体何をどう拾い上げればそういう思考になるのかさっぱり分からない。

 ついでに駆け抜けるティラノサウルスをくりくりとした可愛いおめめで見送ったアウラが『お父さん、恐竜ほしい』とおねだりした場合のシュミレート(妄想)が駆け巡った。実際は彼らが自発的に何かをねだるなんて事態は起きないのかも知れないが……。

 

 

+

 

 

 客人は周囲の情報過多にあまり内容は入って来なかったがもともと、唐突な転移に関してや周辺地理に関しての単調な情報交換は早々に済んでいた。たつむりのカーリナはもう、世間話主体でイルヴァの話をしていたので、話半分でも問題ない。ただ、さすがにマイペースが過ぎると、エレアのジェシャンが口を挟む事にした。

 

「カーリナ。世間話も程ほどにした方がいいのでは?」

 

 ちょっと名残惜しそうに、モモンガに抱き寄せられるというボーナスステージが終了した双子のダークエルフへ視線を送り、にっこりと微笑む。食べるには少々育ちすぎだが、まあ、まだ愛でられるサイズ感だ。

 

 イエス! ロリショタ。レッツ、イート。そんな文化も、イルヴァの民には当然なので、別段語って聞かせては居ない。別に人間が人間を食べる事に、何の忌避感もない世界だ。落し物のの財布を開いてしまう程度の罪悪感も湧きはしない。言うなれば、飢餓状態でなければ食いたいとは思わない、クソマズご当地ゲテモノ料理程度の感覚。稀に愛好者が居たりするが。

 

「エレアに偏見のない方のようで、何よりです。ああ、そうだ。肉料理はお好きですか?」

 

 このエレアとかがそれで、ちっとも減って居ないモモンガの前のレアチーズケーキを認めて、しれっと勧めているその肉料理も、彼の牧場で捌きたてな幼女製だ。

 ゲテモノを初手で進めるのは、エレアのお家芸とかでは、決してない。

 

「いや。結構。私に飲食は必要ないのだ」

 

 その言葉にちょっとかたつむりが驚いた表情になる。かたつむりの、ひょうじょう……? 深く考えてはいけない。

 イルヴァにおいて、食は大事だ。食事の効果は馬鹿に出来ない。ついでに亡霊とか雲とかも可食だ。それを、種族的に食べれないだなんて、どんな罰ゲームだろうか。そしておそらく、この新しい世界はそちらの常識の方が近いらしい。

 

 世間話のように話して居るだけでも、その差に愕然としてしまう。残念ながら、イルヴァの害悪毒虫的冒険者たちが気に成ったのは、神の御座します所と、深刻な健康被害を出して来るエーテルだ。基本的に己と自身のペットの事しか考えておらず、極論同居人とか挨拶感覚で殺す連中だ。新たな世界の脅威とか成り立ちとか世情とか、わりとどうでもいい。死んで覚えてきゃいい。取り返しのつかない喪失とか、わりと起こる物だから、まあそうなったらまた0から始めよう。種族関係なく、割とそんな感じで生きて居るのがイルヴァの民だ。

 

 守らなければいけないもの、大切なものが多すぎるアインズ・ウール・ゴウンとは異なる。

 

「食事をしないなんて、本当に、全く違う世界なんですねぇ……。かたつむり、これからも皆さんと平和に暮らせるか心配です」

 

 カーリナの下の黒猫が嘲笑の表情をつくり、ゴロゴロ喉を鳴らしながら蛆を撒き散らせた。

 ジェシャンは顔を引きつらせた。今まで平和だった事、一度でもあった? という顔だ。

 むしろ不明な異界に飛ばされたせいで、同居人たちが大人しくなり、いつもより静かな位だ。いや……耄碌エウダーナが爛れた修羅場を起し、狂信者二名が今、シェルターの中で改宗キャンペーン中だ。だがこれまでを思い起こすに、どうせすぐに狂信者二人の殴り合いになるのだろう。双方とも、放っておけばありない程延焼まったなし。取り敢えず異教徒の国が、マニかジュアへの改教を迫られ、聖夜祭みたいな事になる。平和主義のクミロミ信者は高みの見物を決め込むが。そして無様に飛び散る肉片を生産する愚者共に、手を叩いて嘲笑をお送りする所存だ。

 

 同居人達のまとめ役であり、ある種、台風の目的なカーリナを『エーテルや、魔法職から見た話をしますから』と言って席を譲って貰う。ゆっくりしていってくださいね、と微笑んだ彼女はきっと、のんびり釣りでも始めるのだろう。

 

「そちらも大変でしょうに、マイペースで申し訳ありません。ヌコさんも来てください」

 

 かぽかぽと蹄の音をさせて、カオスシェイプの少女が近寄る。

 

「おたがいめんどうなことになったな」「ごらんのとおりカオスシェイプだ」「そちらにはエーテルが無いから存在しない種族か」

 

 雑に接合された様なパーツの足りない四つの頭部のうち、三つの口がバラバラに喋る。本来、イルヴァでは(政治的な要因も強い)非難の的に成って居るエレアや、産まれた瞬間から既に異形であるカオスシェイプにも別段反応はない。

 

 あるいは、忌避すべき種族と向き合ってでも余す事なく情報を得たい、ということなのか。同居人のジャスパーもそうだが、基本的にアンデット系は冷静で思慮深い人物が多いのかもしれない。……件の同居人は現在己の信奉する神の関係で少々阿呆になっているが。

 

 兎も角も、情報収集に余念がない様だ。

 残念ながら、ジェシャンとヌコはエーテルの影響を調べ歩いて居たのため、エーテル病に縁のない客人にはあまり重要でないだろう。

 魔法に関しては、かなり『仕様』が違うらしいという事に双方驚いた。先日客人はこの世界の住人の前で魔法を使う機会があったそうだが、『様式』その物には違和感を抱かれなかったらしい。

 そして種族に関しても、エレア(エルフ)への反応はまだ分からないが、カオスシェイプどころか、アンデットでも反応は良くないようだ。

 

 なるほど。とジェシャンは頷く。

 それでは適当な小さな町でも探して、自分とヌコで乗り込み魔法の連射でもして、反応を見てこようか。長く生きていれば、期間は違えど犯罪者生活を送った事位あるはずだ。

 それと、魅力を損なうエーテル病の症状を発症しているアーラだろうか。

 イルヴァは基本的に不細工に厳しい。あからさまに態度が変わる。その辺も、どこかで検証してみようか。

 

「君たちの使う魔法を見せてもらうことは可能だろうか?」

 

 少し悩む様にした後に客人は尋ねる。どんなにMPが有ろうが、ストックが尽きれば詠唱出来なくなる、というのを気にしての逡巡だろうか? なる程。カーリナが好みそうな人種だ。

 

「いいぞ」「魔力制御もかんぺきだ」「メテオでも降らせようか? 使う機会がないんだ」

 

「ヌコさん、メテオは魔力制御無関係ですよね? どうぞこちらへ。……少々見苦しいかもですが、多分魔法を盛大に使って居ると思うので」

 

 そろそろ例の狂信者二人が改宗プレゼンを放り投げて、直接殴り合っている頃だろう。

 少々どころか、かなり見苦しいマジキチ同士の小競り合いだが、アレを見て貰った方が早いだろうとシェルターへ案内する事にした。

 

 

 

+ 

 

 

 全くの未知である連中の仔細を少しでも多く得るために、アインズはジェシャンというエルフ(当人はエレアと言うが、違いはないらしい)と何処をどう見ても人間には区分出来ないカオスシェイプの幼女の話に集中していた。

 

 こちらの内情を話さなくとも、先日のカルネ村で分かった程度のこの土地の事を伝えれば、勝手に自分達の情報を並べていく。

 今この対面する、自分達とは種類の異なる異邦人の危険性を探るのに集中、しようとしていた。

 

 無言で相槌と、すかさず疑問を挟まなければ意識が完全にもっていかれそうになる。再び情報過多を起している背景に。

 

 あと折に触れてアウラとマーレへも話題を振り、にこにこと微笑むエレアに何故かそわりと落ち着かなさを感じた。生成されたばかりのパパ的回路が。

 

 できるだけ見ない様にしている背景で、目玉が不揃いに四つある以外は普通の人間の男が、様式便器をどこからともなく出現させ設置しているが気にしない。

 その設置された便器に、『ルルウィ様ぁあ!』という雄たけびと共に顔面から突っ込み水をガブ飲みし始めたが……気にしてはいけない。きっと、そう、直視してはいけない類のアレだ。多分、突っ込んだら負けの現場だ。彼の身内達も誰一人として言及していない。

 正確に言えば一人、黒い羽根を持ったゴスロリの少女がその便器の水をがぶ飲みする男の背を、罵声を浴びせながら蹴って居る。

 

 イルヴァ、と呼ばれる彼らの世界の魔法を見せると案内されてるさ中、その例の変態行為に勤しむ四ツ目男の背後を通った瞬間、途轍もない魔力の動きを感じ、

 

「イツパロトル」「いつぱろとる」「我が主」

 

「うぉぉおあああああああこの人でなしぃいいいいぃいああああああ!!」

 

 通過の隙に三頭の歪な幼女が何者かの名前を唱えた瞬間、男の足元にキウイが転がり慟哭が響いた。

 

 一体何を見せられているんだ……?

 

 精神は兎も角脳が駄目になりそうだ。うちの子の教育にもよろしくない。変態と穏やかな筈なのにどこか胡乱な視線のエレアから『うちの子』を守るべく、そっと手を引いてもっと近くを歩かせる事にした。

 

 

 

+

 

 

 

 エウダーナのゲルマは痴呆気味のお馬鹿さんの移り気、気ままな、金髪娘が大好物(意味深)な冒険者だった。

 

 わりといろいろな事を忘れ、目前の気を引いた物に興味が移り、目的を忘れたりするたいそう残念な頭をしていた。

 

 数日程前……なんだっただろう? 何か、こう……嫁である少女と喧嘩をして、ティラノサウルスに跨って駆けだし……既に記憶があやふやだ。

 まあ、忘れる位なら大した事ではないのだろう。

 それでも薄ぼんやり覚えて居るのは、名前も知らない城砦を持った都市に辿り着、く? 辺りで冒険者を名乗る連中に囲まれ、何かの税金を請求されて、飲んで、寝て、何となくその辺のモンスターをミンチにし、王都の場所を教えて貰い、暇だから核でも起爆するか、と思ったはいいが眠く成り、せっかくなので王様ベッドで眠るか……と侵入し……。

 

「うぅ~ん、君は誰? あたしゲルマ!」

 

 イルヴァはノースティリス、パルミアの害悪冒険者なら当たり前。王宮に侵入し王様の寝所を拝借する行為を、新たな世界でもやってのけたゲルマが目覚めたベッドの中には、彼女の好みど真ん中ドストライクな金髪の女の子が居た。

 残念だが二人とも服を着ていたので、気持ちいい事は完遂されていないようだ。睡魔が限界だったので、大好物な子が居るのも気づかず、王様ベッドに辿り着く前に寝落ちしたらしい。

 

 頭の悪そうなふわふわとした誰何と、寝起き一番からの元気な挨拶を受けた人物からの返答はない。

 普通、目覚めて見知らぬ女と同衾していれば、取り乱すぐらいはするだろう。驚愕が上回り、思考停止している訳でもない。

 まるで子供が初めて見る生き物を、生物と認めないままに観察するような、この奇妙なものは何だろうと言ったただ無機質に探る様な視線をしていた。

 

 ただ、ゲルマはお馬鹿さんだったので、そんな視線は気づきもしなかった。

 

 

 

 

 




+
ジェシャン
『果てる調和』
エレア
男性

主な牧畜
(小さな人間の子供)
+


おまけ
イルヴァの民のレベル順(現在)

ゲルマ<ジェシャン<アーラ<アウストリーネ<ジャスパー<ヌコ<<<<カーリナ

イルヴァのレベルなんて飾りだし、レベル基準での勝てそうだ、とか、信用してはいけないよね!
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