イルヴァの民もわが家ごと転移した   作:ジューア農民

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嫁の少女に何故怒鳴りながら放り出されたか既に忘れてるエウダーナがウロウロしてるだけ。


閑話 彼女の足跡

 今日も信奉する女王様もとい、女神の声が聞こえずやる気が皆無で、四つの目玉がぐるりと白目になったジューアと、何だかんだ面倒見のいいイェルスが先日と同じにどことも知れない地を歩んでいる。

 

 その後ろを黒天使とアンドロイドが会話も無く追従する。

 

 自分達を遣わせた女神と神の仲は良いとは言えない。それどころか鮮烈な殺意を風の女神が機械の神に向けてはいる。が、信徒のもとに下った二人の仲は別段そこまで険悪ではない。主人二人が定期的に殺しあい、その死体を奉げ合って居るので、別に自分達まで争う必要もないだろうと言った感じだ。

 本当を言うと、それぞれの神から賜ったアーティファクトを交換して使って居たり(勿論それぞれの主人の了承を得て)するので、主人が異なるペット同士としては(同居人達も含めて)、仲のいい二人と言って良いのかもしれない。少なくとも、姿を見れば殺しにかかる間柄ではない。目の前で殺されかけている所を、助けるか、と言われれば助けないが。

 

「ぼくの敬愛する女神の罵声を浴びれずに何日経ったと思う? きみは良く平気だね?」

 

「お姉さんはマニ様に尽くして、その素晴らしさを広める事に重きを置いているんだよ。君みたいに、神様に求めるばっかりとは違うんだ」

 

 両手両足を投げ出して今日も駄々を捏ねているアーラの首根っこ掴んで引き摺りながら、アウストリーネは得意そうに笑う。

 しかし悲しいかな。世が世ならば、確かに機械の神はその威光をこれでもかと知らしめただろうに、如何せんシエラ・テール、イルヴァの神なのだ。残念ながら若すぎる機械の神に需要はそれほどなかった。ポンコツやら鉄屑などと呼ばれる始末。

 そんな機械のマニに心酔し、無宗教者が大半をしめるイェルスで育った筈が、パルミアにやって来て傍迷惑な狂信者ぶりで、周囲の残念なものを見る視線を無視して大暴れしているのが、この女だ。

 

 先日ももう一人の狂信者、ジュア信者のリッチとシェルターの中で改宗プレゼンから、わりと早い段階で直接的な殴り合いになった。

 現在、その件の殴り合いで負けたが為に、転移初日同様に二人並んで歩いていた。

 

 正確に言うと二人と、それぞれのペットが一人ずつと、配達物一人だ。

 

 アウストリーネはあまり表情の可動域がない顔を、僅かに歪ませて不機嫌を表現した。

 

 イルヴァのレベルなんて、生きて生活していれば勝手に上がっていく。強さの指標にするには些か心許ない。

 それでも確かにレベルはこれまでの経験の現れだ。

 同居人リッチとはそれなりにレベルの開きがあり、あの抱き枕抱えたクソ野郎は魔法主体で戦う。回避する術の無い魔法。別にこのマニ信者イェルスに魔法排除の思想はないが、それでもパルミアを訪れるまでは馴染みが無かった。寛容に柔軟な性質をもってしても、魔法の扱いについてはリッチに後れをとる。

 

 そんな訳で異教徒挟んでの(魔法と銃弾の)撃ち合いで敗北した。

 客人を連れて覗き込んできた人肉趣向ロリショタコンエレアのお陰で、死にはしなかったが負けは負けなので、現在こうして無給の配達という雑務を押し付けられた。日数制限はないが。

 喧嘩は負けた方が悪いのだ。

 

 正確に言えば、もう一つ要因がある。

 実は、などと言う程でも無いが、初日に二人組で方々へ様子見にうろついたおりにこのグループが見つけたネフィアこそが、昨日やって来た客人の『わが家』だったのだそうだ。うっかり攻略を試みて、人様の家を破壊する所だった。或いは更地だ。

 

『道も知ってるし、アウストリーネさんとアーラさんにお願いしますね』

 

 そんな風にカーリナににっこりと微笑まれたら行くしかない。おそろしい。

 

 自分達と同じ境遇らしきあの客人は、すっかりカーリナのお気に入りらしい。あののほほんとしたかたつむりは、大の善人好きだ。

 農村で無邪気な少女を殺しまくるくらいには、清く正しく生きているカーリナだ。同居人の中で唯一犯罪者生活をした事がない。

 

 穏やかに包容力のある気質は、アウストリーネも嫌いではないが、如何せん彼女に信奉する神を殴り殺されているので、その心情は複雑きわまりない。

 ついでにアーラも信じる女神を殴り殺されている。最早かたつむりとはなんなのか。

 一応同居人皆、塩は常備しているが投げる動作をした瞬間殴り殺さているので、あまり意味はない。

 

 はぁ、と呼気の共わない溜息を吐いて、紐の一端を引く。送り届ける人物と距離が空きすぎた。

 

「いいの? あげちゃってさ? きみ、せっかくジャスパーの隙をついてまで異教徒の脳味噌機械化してたのに」

 

 距離の縮んだ配達物を振り返ってアーラが言う。

 一応は送り届ける、方が近いのだが、生命体としてはかたつむり(勿論、カーリナ以外の普通のかたつむりだ)以下に成ってしまったので、配達物でいいだろう。

 

「…………それが、ちょっと失敗してしまったんだ。いやあ、お姉さんうっかりだよ。一応データだけのバックアップ取ってるけど、頭の中に戻せなくなってしまったよ」

 

「231 185 157 230 167 173 227 131 171 232 174 146 229 128 165 239

191 189 232 173 155 194 128 233 172 174 229 128 165 239 191 189

231 185 157 239 191 189」

 

 件の脳が不可逆的にアレになったらしい異教徒が完全にバグっているようだ。

 

 このせいでジュア信者リッチに『不正の上に信者候補を一人減らした!』と直接的な殴り合いになった。

 

 わざとらしく視線を逸らして見せる。ちっとも悪いことをしたとは思ってない顔に、アーラは少し顔を顰めた。

 

 信教どうの抜きに、彼は彼女のそういう所(イェルスらしさ)が苦手だった。

 他に大らかに寛大なのは良いが、理解を超えた不解明のモノさえ利があれば易々と手を出し、使おうとしやがる。きっと新しい技術を産むのは、こういう奴らだ。発展の過程に膨大な犠牲も産んでも、最終的に手に入れた輝かしい発展に満足して顧みない。

 

「233 172 178 227 130 133 226 134 146 233 131 162 226 136 181 239

191 189 239 191 189 239 189 146 232 156 136 239 189 168 231 184

186 239 189 166 231 184 186 239 189 174 232 174 150 230 187 147

239 189 162 239 189 176 231 184 186 239 189 171」

 

 ついでに世界を滅ぼすのも、貪欲に発展を求めるそういう連中だと思ってる。

 

「あ~~~……」

 

 雑音にしか聞こえないバグ発声をバックミュージックに、更に気分が沈み込んだジューアは敬愛する女神の存在しない空を見上げて呻いた。

 

 心底やる気が無くなったから、この鉄屑信者を殺して、配達依頼も放り投げようかと考えだした。行動を縛られるのを厭う質なのだから、仕方がない。

 それに、このジューアは罪悪感を感じないし、犯罪者生活にも慣れている。

 

 ふと、馬鹿で迂闊な行動ばかりするくせに、地味に犯罪者歴の少ない暑苦しい筋肉神の信者は今どこに居るのだろうかと気に成った。

 嫁に怒鳴られ飛び出したらしいが、なんだかんだそれが幸いして面倒ごとから逃避し、現在も遊び回っているに違いないのだ。

 

 

 

 

 

+

 

 

 

 

 

 とある鉄級の冒険者は周囲のいかにも鬱陶しそうな視線も気に留めずに、酒場のテーブルに突っ伏したまま全力の溜息をついた。一緒に卓を囲んだ連中も、もうかける言葉が無くなってしまった為、無言で酒を啜る。

 

 いい年した野郎が、所謂恋煩いを拗らせてこの様に成って居る。面倒くさいにも程がある。そして見苦しい。

 

「うぅ…ゲルマ……俺の可愛いゲルマ…ぅ゛っ」

 

 とうとう嗚咽を漏らし始めた。最早公害である。

 卓を囲んだ者達は『一回寝た程度で』や『遊ばれたんだろう』と言いたかったが、この惚れ込みよう。こうもめそめそうじうじ嘆いているので、もしそれを口にした場合、無駄に血を見る羽目になるかもしれないと、口は噤んでおく。

 まあ、確かに、美女ではあった。顔と、声はそれはもう良かった。正直一回寝てる公害振りまく男が羨ましかった。

 

 話は遡ること数日前、エ・ランテル周辺の街道沿いが、突如モンスターの血肉塗れに成って居た事に起因する。

 それの惨状を作ったらしき者(人かモンスターかは不明)は辺りには既に居ないらしく、血肉が飛び散り地面をぬかるませている以外は静かで、それを報告した連中も、凄まじく悍ましい光景に不気味さと、恐怖を感じて震えつつも、無事街道を通りエ・ランテルへ辿り着いて居た。

 そんな意味わからん現象に、日々飲んだくれている様な冒険者にまで声が掛かっての調査とあいなった。

 

 そんな中で、件の管を巻く鉄級冒険者は出会ったのだ。

 

 見た事もない魔獣に騎乗した、赤毛の女だった。自称『生まれはエウダーナ、今はパルミアの冒険者』。誰も知らない程遠い地で生きていた冒険者だと言う。

 異国情緒あふれる理知的な顔立ちのくせに、その口調は子供っぽく、知性がたりない。物怖じせずにころころ笑う。女にしては長身で、細身。胸は慎ましやかだが、色白で赤い髪がよく映えた。

 

 確かに最初は下心で、頭が軽そうだし親切にして、いっぺん抱けたらいいな、位でお節介をやいて、冒険者登録に、魔獣の登録など、本当に何も分からないと言った様子の遠い異国の女に必要な手続きを教えた。

 

 それがもうずぶずぶである。

 

 驚くことに当初の目的『抱けたらいいな』は、その日の晩には女の方か誘って来て、あっさり完遂してしまった。ついでにベッドの中ではもんのすごかった。抱いたというか、最早抱かれた。気が狂うかと思った。性癖壊されたまである。

 僅か数日で一人の男をそんな有様にした、件の『ゲルマ』は唐突に、

 

「そーだ。ここ王国ってことは王都あるの? あっち? へー! 揺り籠おいてこよーかなー」

 

 などと、ぼやぼやほわほわと良く分からないことを言った瞬間消えていたのだ。

 てっきり、自分達のチームにひょこひょこついて回り、そのまますとんと隣に収まると思って居た男には大打撃だった。

 

「いや……いやっ、ゲルマはああいう自由なとこがっ魅力なんだ……! あの子供っぽく跳ねまわる、素直な可愛い姿と夜のギャップこそが最高なんだ……!」

 

 公害撒き散らしているかと思えば、急に自身に暗示をかけるように呟き、猛然と拳を振り上げた。

 

「ぅっわ」

 

 同じ卓囲んでいた者は、如何にも『やべぇ』という呻き声を漏らした。

 失恋にやられ、酒に呑まれて公害撒き散らす、残念な成人男と化していた当人はさっぱり気づいて無かったが、数秒前に新たなにやって来た二人組に、その場の空気はガラリと変わって居た。

 

 恋で盲目になり酒で馬鹿になった男が涙目に成って居る背後で、新たなに訪れたただ者ではない二人に釘付けだった。

 なにせ入って来たのは見事意匠の漆黒の全身鎧に深紅のマントを垂らしたその背に、二本のグレートソードを背負った人物と、その圧巻の存在感に引けを取らない(つい最近見かけた赤毛の女とはまた別の)異国情緒たっぷりの、絶世の美女だ。

 そんな二人組と、周囲の空気に気づいて居ない。

 ついでに自身へ向けた暗示と共に振り上げた拳が、意図せず全身鎧の人物を激しくどついていた。

 

「ぃってえぇな!? ンなとこ突っ立てんじゃねぇよ!!」

 

 突っ立てはいない。順当に歩いて来た人物に、酔いどれの振り上げた拳が当たっただけだ。

 だがそんな事、酔いどれの公害はどうでもいい。銅のプレートに見合わない、立派に過ぎる装備とその佇まいよりも、横に絶世の美女が添えられている事に、恋煩いでだめになった男がぶちぎれていた。詰まるところ、嫉妬と八つ当たりである。

 

 ここで散々繰り返され、自分達が試されまた行って来た通過儀礼のようなものはあるが、今日のそれは完全に駄目な酔い方をしたオッサンの絡みだった。

 

 

 

 

+

 

 

 

 ブレイン・アングラウスが、目覚めて最初に飛び込んだのは静脈から噴き出た血のような赤。その色に一瞬どきりとしたが、すぐにそれが馬鹿みたいに長い女の髪だと気づく。

 髪よりも幾分か暗くなった、焦げ茶に近い目が人懐っこく細められる。胸や、女性的な丸みに乏しいが、すらりと背の高い色白の女だった。

 

「あたし、ゲルマ! おはよー」 

 

 狡猾な異国の美女、といった顔立ちからはかけ離れた口調に呆気に取られ、一瞬浮かんだ可能性に多大なる疑問符が付く。

 

「……ストロノーフの嫁さんか?」

 

 辛うじて『まさか』という言葉は飲み込んでおくが、当人からさらに失礼なもの言いで否定がされた。

 

「違うよー。全然好みじゃないし。うん。全然好みじゃない」 

 

 男はもっと駄目な感じのが好き、とあっけらかんとした顔で言い切り、くすくすと何か楽しい事でも思い出すように笑う。

 

「アングラウス、起きて……君が起こしたのか?」

 

 じゃあなんだお前、という当然の疑問は、気づけば開け放たれていた扉の前に現れたガセフ・ストロノーフによって、口にするタイミングを失う。

 

「オンジンの嫁起きてたよー」

 

 ゲルマと名乗った女は子供の様な動作で首を振り、家の主に向き直る。にこにこと細められた目を向けられた方も、困った表情になる。

 

「いや、だからどう考えても嫁ではないだろう。男同士だぞ?」

 

「まて、俺は今どういう勘違いに巻き込まれてる……?」

 

 ゲルマと名乗った赤毛の女が、ガゼフとブレインを順に指さす。

 

「オンジンと、その嫁」

 

「違うからな!?」

 

 何故彼女にそんな誤解をされているのか、さっぱり分からないし、そもそも前述の通りに男同士だ。彼女には自身が女にでも見えるのかと、凄まじい勢いで否定した。

 その勢いでぐるぐると重く蟠っていた思案が一瞬だけ吹き飛んだ。

 

「食事の前に、まず言うぞ? 俺とストロノーフは、そう言う関係じゃあ、ない」

 

 ゆっくりと、断固認めないと言った調子でブレインは言う。

 

「ふーん?」

 

 分かったのか、分かってないのか、興味が無いのか曖昧な顔でゲルマが頷きつつ、ゲルマは食卓についたブレインの前に出来立ての肉料理を置く。

 先程既に武装を整え、王城へ向かわなければならないというガゼフに、かいがいしく気遣いを受けた後、今日の食事だけはゲルマが用意するから、と味の保証と共に伝えられていた。

 

 少し強引に元気なゲルマに、出かけるんなら肉食え! 作っちゃったから! と。 

 

「……お前の言うオンジンってのは何なんだ?」

 

 今ブレインの前に置かれている肉料理も、その件の『恩』に対する礼らしいが、さっぱり事情が見えない。

 

「お金が欲しくてさ、こう、気分的にいっちょ賭博に全財産ぶっこむかー! ってして、運を上げようと思って鏡餅食べて死にかけたよね! そしたらオンジンが物凄いソフトな筋力で助けてくれた!」

 

 普通、ペットだってモチから助ける時は殺してくるのにねえ! とけらけら笑いながら、良く分からないことを言う。ただ、ブレインでも理解出来た前半部分が大分酷い。

 

「俺が言うのもなんだが、凄い生き方だな……」

 

 金が欲しい、からの有り金全部つぎ込んでの賭博という思考回路が、人間的に大分アレ。先程のやり取りでマジックアイテムの売買について行きたいとの発言をから、換金できる物も持っていただろうに、思い立っての大博打。

 

「いーから肉食えよー。好き嫌いしないで何でもたべなさい! なんでも食べて、鍛えれば強くなれるんだからね!」

 

 彼女の親か誰かの言葉の真似なのか、ぷぅ、と頬を膨らませてから、少々台詞臭く子供に言い聞かせる口調で腰に手を当てて言う。

 

「強く、ね……」

 

 ブレインは自嘲の様に笑って、肉料理に手を付け始める。

 目の前で『常識でしょう?』とでも言うように、小首を傾げじっと見つめるゲルマの、その言葉を愚直に信じているのであろう子供っぽさに、それ以上は何も言わないことにする。

 

 ただ、彼女の作った聞いた事のないこの土地には居ないらしい動物の肉料理は、ガゼフの証言通りに美味かった。

 

 

 

 

 

 

+

 

 

 

 

 

 

 重さを増して使っている大地の大槌はしまったまま、今日はいつだったかネフィアで拾った、少々面倒くさい大剣を片手にぶんぶんと、すっかり静まり返った都市内をゲルマは歩いていた。

 

 基本的におばかさんの痴呆なので、バックパック内はごちゃごちゃのぐちゃぐちゃだ。いつ拾って何で今まで保存しいていたのか謎なガードの肉(先日上手く消費した)まで居座っていたりする。

 理由や目的は既に忘却の彼方だが、何か嫁の少女に物凄く怒られて、慌てて家を飛び出て来たので、いつも以上に持ち物はぐちゃぐちゃだった。

 

 荷物を整えないままに、随分遠くまで来てしまったものだから、ゲルマは最近現地調達に勤しんでいた。今は乞食や老人、子供等を殺してこの国の金貨を雑に集めている。拾える量などたかが知れてるが、目に付いた人間を殺すだけなので時間は掛からないし、歩くついでに行える。熱心にやっているというより、習慣的に価値のない見ず知らずの他人を手癖的に殺してるだけだ。

 

 それなりの額が要るなら身売りでも良いのだが、ゲルマとしては自分の可愛さにつり合う金を出せる奴が居ないので、金にならない、好みでない奴との気持ちいことは早々に止めた。

 店主の財布を空にして、それでも足りないので殺して身ぐるみ剥ごうにも、塵ばかりで不足分の補填になりはしなかったのが悪いのだ。

 

 しかい面倒なのは、この国の人間の倫理観は少しおかしい点だ。法律がおかしいから、そこで育った人間の感覚がおかしいのかもしれない。と、ゲルマはぽやぽや考えた。

 

 時々騎乗しているティラノサウルは、この国での冒険者になった街に置いて、そこからは気ままに徒歩でうろついていた。

 気の向くままに歩き、王都につく幾つか前の街で、何となくで吟遊詩人を殺した。

 ため込んだおひねりや、楽器が欲しかったわけでなく、ただ何となく。そう言う気分だったとしか言えないし、ノースティリスの治安はそれ位が正常だ。

 

 そうでなくとも、吟遊詩人の命は儚い。特にヴェルニースの酒場で演奏に挑む奴とかは、それはもう儚い。

 

 まあ、そんな訳で、こじんまりとした酒場で演奏をする吟遊詩人を殴ってミンチにした。

 飛び散った血肉と、持っていた金がいくらか転がった。装備は嵩張るだけの塵なので、手を付けない。小金も、屈んで拾う気分に成らなかったから、放置した。

 

 今までの住み慣れた土地ならそれで終わりの筈だった。

 

 瞬間に上がった悲鳴と怒号の混合物に、ゲルマは何事かと小さく跳び上がって身を竦めた。どうして自身に縁も所縁も無く、公的に重要でもない人間を殺しただけで、その場の全員が自分に敵対してくるのか分からなかった。ミンチにした奴はこの場全員の身内でもないはずなのに、皆が皆、敵意を向けていた。

 

 敵対したので、取り敢えず全員殺した。数人程この国のガードでも呼ぶ為にか、駆けだそうとしたが、酒場を出る前に同じくミンチにした。ゲルマに比べて足が遅すぎる。

 皆殺し、という手段で敵対した人間を0にしたゲルマは、吃驚したぁ、と呑気に呟き一応遺品を漁る。が、やはり塵だったのでそのまま酒場を後にしようとし、表へ出た瞬間、再び悲鳴が上がり小さく跳んだ。

 

 てっきり『いつもの例の殺人鬼』が近くに出たのかと思ったが、周囲の視線は自分に向いていた。

 お馬鹿なゲルマでも、自分が犯罪者を見る目に晒されて居る事には気づいた。だが理由はさっぱり分からない。

 何が何だか分からないので、昔から繰り返して来た(それこそ魔法を覚えるのを放棄したように)理解できないことからの逃避を図った。足は同居人の中でもそれなりに早かったので、難なく敵対した連中の視界から逃れた。

 

 幸い、ゲルマの姿はしっかりと視認されていなかった(視認した連中は須らくミンチになっていた)為に、国中全てのガードに敵視される事には成らずにすんだ。

 そこからは、お馬鹿さんもお馬鹿さんなりに、慎重に手探りで行動した。

 

 その結果、なかなかにこの国のコツを掴めてきていた。

 殺生という行いが忌避されるのかと、サモンモンスターの杖をぶんぶんしまくり、色んな生き物を殺してみた。分かったことは、召喚した所さえ目撃されなければ、パルミアと同じに召喚したモノが誰を殺しても罪に問われないらしい、と言うこと。少々面倒だが、そこは変わりなく『やっていい事』だ。

 

 ついでに放火も、最初の火種を目撃されなければ罪に問われない事が分かった。 

 どうやら最初の発端を隠蔽するのがコツらしい。罪にカウントされる事象が、あまりにも些細で多岐で面倒くさいが、逆にそれさえ隠してしまえば知らん顔できるのだ。

 

 ノースティリスなどでは、ペットが投げた火炎瓶が延々と燃え広がれば、火元が視覚外だった者でさえ焼ければ自分達に憎悪を向けてくる。

 それどころか、犯罪者になった瞬間全ての街のガードが敵に回る。それを考えれば、むしろ楽なのかも知れない。

 

 なので最近は夜の暗がりでか、明るければイコグニートの巻物を使って放火したり、サモンモンスターの杖を振りまくって遊んでいる。

 

 ここでポイントなのは、犯罪者に成ってから変装するのでなく、犯罪をする瞬間だけ変装するのだ。そうするととても便利で、とても楽しい事が分かった。

 

 まあ、そんな事を実地で発見しても、持ち前の痴呆で忘れさってやらかしたりもする。

 そして当初の目的をほぼ忘れた状態で、今晩もゲルマは目先に飛び込んで来た興味に走り、楽しく遊びまわり、そろそろ眠気が限界に至りそうになっていた。

 

 

 




食ってる様子を首を傾げてじっと見ていたのは、人肉食っても発狂しねぇな~って考えてるだけ。カルマも下がらないな~~~~~。
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