マリア様がみてる~ジュ・スイ・ラ~   作:日月 咲

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妹オーディション再び

「妹をオーディションしようと思います」

 薔薇の館。

 咲来以外の三人のつぼみが戻ってくると、涼花さんが大きく口を開いた。

 それにしてもオーディションとは。なかなかに大胆なことを思い付いたものだ。そう言えば何年か前のつぼみがオーディションとして茶話会を開いたって話を聞いたことがある。

「オーディションかー。懐かしいなぁ」

 ビスケット扉を開くと、福沢先生が現れた。懐かしいってことは先生だったんですか……。

「オーディションで妹を決めるの?」

 涼花さんに尋ねるのは黄薔薇さま。マリア祭の準備中に薔薇の館を飛び出していった例の一件以来、黄薔薇姉妹の関係は良好だ。

 まだ一週間も経っていないのだから、また関係がこじれても困ってしまう。生徒会活動とはいえ、少なくとも今年はあまり帰宅が遅くなることは認められていない。薔薇の館の住人は優秀かつ替えの効かない人材だ。

 それに、無縁と思っていた姉妹制度だけれど、いざ咲来という妹ができるとやはり特別な存在であり、多少は気を遣う。目の前で喧嘩している様子はあまり見たいものではない。

 咲来がどうすればいいのかと困りながら涙を浮かべる様子を見るのもできれば避けたい。

「ええ。毎年、この時期は一年生に声をかけてお手伝いを探しています。つぼみの妹候補だという噂はすぐに流れるでしょうから、むしろこちらから大々的に募集してしまった方が良いかと思いまして」

 なるほど。ゴールデンウィークが終わり、一年生も学園での生活が本格的に始まる。部活動も新入部員を獲得し、運動部は夏の大会に向けて練習が活発になるこの時期に姉妹となる生徒が多いのだと、新聞部の和香子さんが言っていたっけ。

「それに、今年の薔薇の館にいる二年生は私を除いて外部生です。私は中等部の頃から親しかった一年生が数名いますが、蛍さんも琴音さんもそうではありません」

 涼花さんは福沢先生が言うところのチャキチャキのリリアンっ子であるが、蛍さんと琴音さん、そして私も外部生。かつて薔薇の館に外部生がこんなにいること自体がなかったという。

 そして、姉妹制度は中等部からの先輩後輩関係で成立する例が多いのだという。考えてみれば当たり前のことだ。部活動での姉妹関係が成立する例が多いことは既に知られている。中等部でも部活動に参加していた生徒は、高等部でも引き続き同じ部活動に入部する生徒が多いだろう。だとすれば、中等部時代の部活の先輩後輩が、高等部でも同じように先輩後輩になる可能性は高いだろう。高等部の中だけで見れば二ヵ月程度であっても、その下地には中等部で過ごした時間があるのだ。

 白薔薇姉妹は、行っている活動の性質もあって外部生同士の姉妹が恒例となりつつあるため、あまり気にしなくてもいい。おそらく今年も外部生の「白薔薇のつぼみの妹」ができるのだろうと予想している。

 それに白薔薇姉妹は美人続きで学内での人気も高い。

 涼花さんはどうだろうか。チャキチャキのリリアンっ子であるが、家のことがあり気軽に話しかけられるような存在ではないだろう。憧れという意味では同じであっても近寄りがたい雰囲気があると言われれば否定することはできない。

 もっとも頭を悩ましそうなのが蛍さんである。紅薔薇姉妹は代々妹問題ではいろいろあるそうなので今年もかという感じではある。

 蛍さんは絢子さまに憧れて、志望校を変えたほどの人物である。入学早々、薔薇の館に呼ばれもしないのに向かい、お手伝いに立候補したのだ。蛍さんも絢子さまに劣らず優秀な人であるがゆえ、働きぶりが認められ言わば押しかけ女房的に妹の座に就いたのである。

 そんな蛍さんの妹になろうとするのは、なかなかにプレッシャーがかかる。もっとも、蛍さん以上に目立ち周囲から浮いていた私の妹になろうとする一年生がいたのだから、蛍さんに憧れている新入生がいる可能性はもちろんあるが、何かきっかけがなければ難しいだろう。

「ところで、オーディションって何をなさるんでしょうか?」

 咲来が他のつぼみ達に問いかける。

 福沢先生のとき(であると予想に過ぎないが)は茶話会であった。

「まずはお姉さまのいない一年生から広く募集します。そのうえで筆記試験と面接をします」

 蛍さんが説明する。

「……筆記試験って蛍ちゃん、何をするの?」

 史乃さまは呆気に取られ、絢子さまは予想通りといった表情で何も言わないため、鈴さまが代表して質問した。

「中学校卒業レベルの学力テストです。これから薔薇の館で活動することを考えれば、成績不振で補習を受ける、なんてことは避けた方がいいでしょう」

 まあ確かに。それにこれがきっかけで、一年生の学力が向上するのであれば学校側もいいだろう。例え動機が不純であったとしても。

 というか、良い大学、条件にあった就職先に入るために勉強している生徒がほとんどなのだから、それと大差ないだろう。

 福沢先生は何も言うつもりはない様子だけれど、さっきから私の方を見ている。

 何か言えってことですか?分かりましたよ。

「面接はどうするつもり? つぼみ三人が、ましてや薔薇さまが面接官になったとしたらほとんどの一年生は委縮してしまうわ」

「面接は、咲来ちゃんを含めたつぼみ四人と、叶絵さんの五人で行います。一年生を五人一組として交代で一対一でお話しします。当事者である私達三人はもちろん、私達と同じ二年生である叶絵さん、今後薔薇の館で活動する一年生として咲来ちゃんの意見も聞きたいと思っています」

 私、巻き込まれてるね。

「私は構いません。むしろ楽しみです!」

 咲来は目を輝かせている。同じ一年生が来るようになるのは咲来も望んでいるだろう。

「叶絵さんは?」

「……私も、可能な限り協力するわ」

 琴音さんに笑顔で頼まれたら何も言う気がなくなる。咲来のためにも本来の活動に支障がない範囲で協力するとしよう。

 となれば、立場的に私が言うべきであろう。

「絢子さま、史乃さま、鈴さま。そういうことなので、妹オーディションについては二年生以下で進めます。お三方にはご迷惑をおかけしますが、本来の活動に専念なさってください」

「……あまりこういう言い方はしたくないのだけれど」

 ゆっくりと前置きして絢子さまが口を開いた。

「三人は、妹をオーディションすると同時に、姉としての資質をオーディションされているのだと思いなさい。叶絵さん、咲来ちゃん。妹たちが迷惑かけるけれどサポートお願いするわ」

 絢子さまが言い終わると、史乃さまも鈴さまも頷いた。

「それじゃあ急ぎの仕事もないし、私達は先に帰らせてもらうわね。オーディションについて詳しいことが決まったらまた教えて頂戴」

「私も他の仕事があるから戻るね。教室とか使うなら使用許可を忘れずにとってね」

 三年生と福沢先生はそう言い残して部屋をあとにした。

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