マリア様がみてる~ジュ・スイ・ラ~   作:日月 咲

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妹オーディション宣伝

 長い歴史と伝統を誇るリリアン女学園高等部において、新たに誕生した四つ目の薔薇。他の三つの薔薇とは違い伝統を守るのではなく、改革の象徴であるその薔薇はロサ・アヴニール。

 選挙の末、その大役を私は仰せつかっているのだけれど。

「……和香子さん。活動熱心なのは感心するけれど、限度があると思うわ。休み時間のたびに私のところにやってくるのはいかがなものかと」

 先日決まった妹オーディションのことについても考えなくてはならないし、他にもそれぞれの薔薇さま主動で行っている活動についても確認しておきたいことはある。

 ようやく私の思った通りにできる環境が整ったのだ。あれこれと変えていきたい部分はある。今は少しでも考える時間が欲しい。

「私もそう思ってはいるんだけど、世論はなかなか許してくれないのよ。新しく薔薇さまになった叶絵さんのパーソナルな部分を知りたいって要望が新聞部にたくさん届いてるのよ」

 気持ちは分からなくないが、リリアンかわら版に大々的に記事にして、読者を煽った張本人である和香子さんが被害者のような発言をするのはやめてほしい。

「私は今、頭の中がものすごく忙しいの」

「まあまあ、そう言わずに」

 なかなか引き下がらない。このままだと、私のやりたい活動に支障が出るのは間違いない。何かいい手はないだろうか?

「それか、時間を取って取材を引き受けてくれるのであれば話は別だけれど?」

 和香子さんは悪戯っぽい表情を浮かべている。あまり活動の時間が割かれるのは乗り気ではないけれど、ここは乗るしかなさそうだ。

「……即答はできないけど、考えておくわ。日にちを決めて薔薇の館で取材を受け――」

 そうか。この手があったか。

「叶絵さん?」

「一つだけ条件があるわ。その条件が呑めないのなら取材には応じないわ」

「……その条件とは?」

 

 

 ‡

 

 

 薔薇の館には、私とつぼみ達四人。それに加えて和香子さんを筆頭に新聞部の生徒が数名いる。

「叶絵さんの条件が、つぼみ達も取材を一緒に受けるってこちらとしてはむしろありがたいんだけれど」

「そんなに警戒しなくても。私のことを知りたいのなら、妹の咲来のことも知りたいだろうし、改めて他のつぼみ達のことも知りたいと思うのは普通でなくて?」

 他の薔薇さまに関しては、みんな十分知っているだろうということで取材には参加させていない。上級生に任せるのはどうかとも思うが、仕事はあるから誰かにやってもらわないといけない。

 この取材で今後私と咲来に対する新聞部の追及を避けつつ、つぼみ達が妹を募集していることをアピールし、最後に妹オーディションを開催することを私が口にすればいい。

 こんな特ダネを記事にしないわけはないだろうし、和香子さんの性格上、本来の取材内容とは別に号外を出して大々的に妹オーディションのことを宣伝してくれるだろう。

 こちらから頼んでリリアンかわら版に載せてほしいとお願いするわけでもないし、この取材はそもそも新聞部の方からお願いしたものだ。これで新聞部に借りを作る必要もない。

 ちなみにこのことについては、事前に山百合会幹部で共有済みである。取材の中心は私と咲来になるだろうから、姉妹関係についても触れるだろう。そちらの話題にも誘導しやすい。

「それでは、取材をはじめます。薔薇さま方、少しお騒がせするかと思いますがよろしくお願いいたします」

「山百合会幹部の新しいメンバーを知っていただくことは、こちらとしても嬉しいわ」

 これも広報活動の一種ということで鈴さまが答えたのだろう。お三方の中でも徐々に役割分担の意識が出てきたのかもしれない。

 

 

 ‡

 

 

 取材は改めて自己紹介から始まり、趣味だとか好きな食べ物だとか当たり障りのない質問から入り、かなりコアな質問にシフトしてきた。

「叶絵さんと咲来さんは選挙で戦ったライバル同士ですが、そのお二人がスールになっていることにみんな驚いているようなんです。もし良ければ経緯を教えて欲しいのですが」

 姉妹の話になった。ここからはつぼみ達ともある程度シミュレーション済みだ。細かい軌道修正は私がすればいいだろう。

「私が中等部の頃からお姉さま、立花叶絵さまに憧れていたのがきっかけなんです」

「ええ。選挙で勝ったら私を妹にしてほしいと言われたわ」

 自身のことなのであまり言いたくはないが、今リリアンで一番注目されている姉妹だと言っても過言ではないだろう。その姉妹の馴れ初めに食いつかないはずはない。

「それで、叶絵さんはなんと?」

「それなら、私が勝ったら妹になりなさいと言ったわね」

「ええとつまり、結果に関わらず選挙が終わったら姉妹になる約束していたってこと?」

 和香子さんが少し混乱した表情を浮かべている。他の姉妹については知らないけれど、私達がかなり特殊な部類であろうことは自覚しているつもりだ。

「まあ、そういうことになるわね」

「あの時のお二人は、とても素敵でしたね」

 琴音さんが割って入る。これもシミュレーション通り。続けて他のつぼみも口を挟む。

「ええ。初対面のはずなのに既に信頼関係が出来てるように感じました」

「運命的と言うとちょっと変ですが、それに近いものをだったと思います」

 蛍さんも涼花さんもシミュレーション通りだけれど少し恥ずかしい。

「他のつぼみの方々は、同じ二年生の叶絵さんが妹をもってどう思いますか?」

 よし。待ち望んでいた質問だ。

「すごく仲が良いので微笑ましいです」

「もう少し先でも良いかと思ってましけど、間近で見てると私も妹が欲しいなって思うようになりました」

「私もすぐにでも妹が欲しいと思ってます」

 うん。順調に進んでいる。

「三人はどんな妹が欲しいですか?」

 話題はもうつぼみの妹の話にシフトしている。この質問の後にでも私が妹オーディションのことを言えばいいだろう。

 すぐにでも記事にしたいはずだから、オーディションの概要を説明すれば取材もそこで終わるだろう。

「私はお姉さまと三人で仲良くできる妹が欲しいですね」

 琴音さんが答える。白薔薇姉妹の仲の良さは有名だ。琴音さんらしい回答である。

「私は価値観の合う妹がいいですね。叶絵さんのところを見てると何も言わなくても意思疎通できてるので。阿吽の呼吸というかそういうのは理想的な関係だと思います」

 蛍さんはどちらかというと私に近い考え方の持ち主だ。仲がいいのは大前提として、ある程度の労働力として確保したい気持ちがあるのだろう。

「……等身大の私を見てくれる子がいいです」

 これも実に涼花さんらしい回答だ。上杉涼花という個人よりも、華道の名門、上杉家のお嬢様として見られることが多い。

「なるほど……。ところで、その理想の妹に当てはまりそうな妹候補はいないんですか?」

 この質問が出たのなら、言ってしまっていいだろう。

「それが、山百合会の仕事で忙しいのもあってなかなかそういった一年生との出会いもないみたいなんです。だから、今度山百合会の幹部として、つぼみの妹を大々的に募集しようと考えているんです」

「それ、本当なの!?」

 よし、食いついた。良い記事書いてね和香子さん。

「ええ。一年生の中から希望者を募るつもりよ。もし妹になったとしたら山百合会の仕事をしてもらうことになるのだけれど、やはり学生の本分は勉強でしょう? 学業に支障がないかの学力テストと、どんな人なのかっていう面接をするつもりよ。妹をオーディションするみたいですけど」

「妹オーディション……これ、記事にしても?」

「構いません。こちらからももう少ししたら開催の通知をするつもりでしたので」

「……こうしちゃいられないわ!」

 和香子さんは急に立ち上がった。

「取材、ありがとうございました。取材の内容については記事が出来たら確認していただきたいと思いますが、オーディションの件は号外で出させてもらいますので!」

 勢いよく頭を下げると、口早に言い残して薔薇の館から姿を消した。

「作戦通りですね、お姉さま」

「まあね」

 これでしばらくは妹オーディションの話題一色になることは間違いない。私と咲来に向く目線も少しは減るだろう。

 もう少し二人でゆっくりしてもバチは当たらないでしょう。

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