とある日の夜。
リリアンの新人教員、福沢祐巳は親友に電話をかけていた。
「あ、もしもし由乃さん。原稿の調子はどう?」
「祐巳さん、聞いてよ。あの時以来、菜々に監視されるようになって。まあ、今回も締切には間に合ったし今は一段落ついてるところだけど。それより何かご用?」
「別に用ってわけじゃないけど、今度またリリアンで妹オーディションをやる予定なの」
「妹オーディションねぇ……」
前回の茶話会と称した妹オーディションは、由乃にとっては苦い思い出の一つだ。言い出しっぺであるにもかかわらず、茶話会では既に人気者となっていた祐巳ばかり注目された挙句、妹を見つけることはできなかったのだ。
そのおかげで菜々という妹と奇妙な出会いがあったのだから結果オーライなのだけれど。
「そうそう。それも言い出しっぺが黄薔薇のつぼみの上杉さん。ほら、由乃さんも会った……」
「……そんなところまで黄薔薇の遺伝子受け継がなくてもいいわよ」
「まあまあ」
「それにしても、あの時はみんな祐巳さんばかりに注目して……。ベストスールにも選ばれたことのある由乃ちゃんのことももう少し見てくれても良かったでしょうに」
「ベストスールに選ばれたのって、確か由乃さんが手術受ける前じゃない?」
「ええ、そうよ。それが何か?」
祐巳は電話越しでも伝わる由乃のプレッシャーを感じると、小声で何でもありませんと返した。
「それより、あの子はお姉さまと上手くやってるの?」
「仲良くやってるみたいだよ」
「そう。それなら良かったわ。それと新しく薔薇さまの人数増やしたんだって?」
「そうだけど……どこから情報手に入れたの?」
「菜々が教えてくれたわ」
由乃は外部の大学へ進学したのだが、妹の菜々は義父の意向に沿ってリリアン女子大に進んだ。もっとも、部活動に加えて、有馬、田中どちらの家にも顔を出し、手伝いをしていたこともあってなかなか受験勉強の時間が取れなかったという事情もあるのだけれど。
「それに、令ちゃんも別の学校だけれど体育の先生やってるんだから、いずれ伝わってたわよ」
令ちゃんこと、由乃の姉にして従姉妹である支倉令は外部の大学へ進学した。将来的に支倉の道場で指導者となる可能性を考えて体育の勉強をしていたのだが、卒業後すぐに継ぐという話には当然ならなかったため、少し離れたところにある女子高で体育教師をしている。
教師としても祐巳にとっては先輩ということになる。
「そうだ、祐巳さん。今度改めてリリアン見学させてよ」
「今さら見学? なんでまた」
「私の代表作を知らないの? 剣客姉妹シリーズ。江戸の世に蔓延る闇を美人姉妹が成敗いたすってね。ずっとリリアンだったけど、離れてもう五年目。作品のための取材じゃないけど、改めてリリアンを見てみるのもいいかなって思うわけよ」
「その割には、締切のたびに私のところに来てたじゃない」
「リリアン女子大に姉妹制度はないからノーカウントです」
数年たっても笑い合える親友を持ててよかったと、祐巳は笑った。