マリア様がみてる~ジュ・スイ・ラ~   作:日月 咲

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紫薔薇フィーバー

 昼休み。

 目論見通り、取材を受けた翌日には号外がリリアン中を飛び交い、話題の中心は妹オーディションのことで持ちきりとなっていた。

 実質関係するのは一年生なのだけれど、二年生、三年生も誰がつぼみの妹になるかと噂している。

 無用な混乱を避けるためにも、山百合会として妹オーディションの詳細を発表しなければいけない。つぼみの妹になるために、現在の姉妹関係を解消しようとする一年生が現れないとは決して言えないのだから。

 勘違いがあってもいけないため、福沢先生に山百合会の幹部が一年生のホームルームの時間にお邪魔したいと提案したところ、一年生全体を集めた説明会を開くこととなった。

 確かに、姉妹制度については学外活動の範疇であるとは言い難く、ホームルームの時間を割くのは筋違いとも言えるし、興味がない生徒は参加しないで部活動なり帰宅するなりできる。

 そこで、山百合会幹部からは誰が説明会に参加するのかという問題になったのだが、現在薔薇の館は新学期のドタバタの最後の大詰めを迎えている最中だ。

 薔薇さまはもちろん、つぼみもなかなか動けない。となると当然、私と咲来に白羽の矢が立つ。

 まあ、妹を募集している当事者から説明するのはなかなかきつい部分もあるだろうし、同学年の咲来がいた方が、無用な緊張をしないで済むだろうという理由も一応はある。

 そんなことを考えながら一年生の教室へ向かっていた。明日の放課後に予定している説明会について話をするため咲来を迎えに行きつつ、一年生に不穏な様子はないか、変な噂が流れていないかを現地調査していた。

「ご、ごきげんよう。ロサ・アヴニール」

「ごきげんよう」

 歩いていれば、すれ違う一年生が挨拶してくる。それもひとりふたりではない。ほとんどの一年生が私の顔を見ては挨拶する。挨拶は礼儀の始まりであるし、それ自体はとても素晴らしいことだ。私自身、下級生に慕われるのは悪い気分ではないけれど、こうも多いと流石に疲れる。

 ただ、『ごきげんよう』という挨拶は非常に効率的だ。時間帯も相手の状況も気にする必要がない。声を掛けられたらとりあえず何も考えずに『ごきげんよう』と返すだけでいい。

 さてと。

 一年菊組。咲来のクラスである。まだ生徒の多い教室に入るのは流石に憚られたので、近くの一年生に咲来を呼んできてもらうようにお願いした。

「ごきげんよう。少しお願いがあるのだけれど、咲来を呼んでもらえないかしら?」

「ロサ・アヴニール、ごきげんよう」

「ええ、ごきげんよう」

「ああっと、咲来さんでしたよね。咲来さーん、ロサ・アヴニールがお呼びよ!」

 頭を抱えたくなった。いや、実際に抱えた。

 一年菊組の教室に放たれた大声は、咲来の耳に届き、咲来がやや慌てて私のもとへやってくる。

「お姉さま、ごきげんよう。わざわざ教室までいらっしゃらなくても良いのに……」

「いや、妹オーディションのことで変なことを考える一年生がいないかどうかも兼ねて、様子を見に来たついでだったのだけれど……」

 大声は一年菊組の教室を越えて、隣のクラスにまで届いた。一斉に廊下にいる私と咲来を見る。

「ロサ・アヴニールが咲来さんをお迎えですって」

「お厳しい方だと聞いたのだけど、本当はお優しいのね」

「優秀なのに、妹にまで心遣いできるなんて」

「私、姉妹制度にはそこまで興味がなかったのだけど、仮にお姉さまにするのなら、ロサ・アヴニールのような方がいいわ」

 ワイワイとそこかしこで話が盛り上がっている。

「……場所を変えましょうか、お姉さま」

「そうね」

 

 

 ‡

 

 

 場所を変えると言っても、私と咲来が揃っていればそれなりに目立つわけで、人目に付かない場所だとどうしても薔薇の館になる。

「咲来はお弁当?」

「ええ。お姉さまは?」

「私はこれよ」

 そう言ってミルクホールで手に入れた惣菜パンの入った袋を掲げる。

「いつも、パンなんですか?」

「紫薔薇さまになってからはいつもそうね」

 薔薇の館にはいつも通り、白薔薇姉妹がいた。

「ごきげんよう、鈴さま、琴音さん」

「ごきげんよう、白薔薇さま、琴音さま」

「ごきげんよう」

 そう言えば少し気になったことがある。

「一年生の私に対する反応が、大袈裟だったような気がするのだけど?」

「お姉さまは周りの物事がよく見えていらっしゃるのに、ご自身のこととなると急に視力が悪くなるんですね」

 咲来の話では、入学早々選挙が行われたこと、同じ一年生に咲来というつぼみがいることから紫薔薇の人気が高く、薔薇さまと言えば赤、白、黄を差し置いて紫なのだという。

「そうなのね……」

 好意的に受け止められているのは嬉しい。けれど、今までの薔薇さまに申し訳ない気持ちもあるし、評価されるのなら薔薇さまとしての仕事ぶりを見てからにしてほしい。

「……叶絵さまは私のお姉さまですからね!」

「当たり前でしょう。それよりも説明会ことなんだけど」

 ちなみに今日購入したパンの中に、マスタードタラモサラダサンドも含まれている。買うつもりはなかったけれど、残っていた商品にこれしかなかったのだ。

 食べないよりはマシと思って口にしたが、やはり私の口には合わなかった。

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